この素晴らしい過負荷に祝福を!   作:いたまえ

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さすがに題名をミツルギ死すには出来ませんでしたw


十七話 仲直り

  アクアを女神様と呼んだ。いきなり不躾に絡んできたこのイケメンも、なるほど転生者のようだ。彼の腰にこれでもかと存在感を放ちながらぶら下がる剣は、もしかすると転生の特典か。あるいは一見高級そうな鎧の方だろうか。

 

  どちらにしても、彼は苦労も努力もしないまま、与えられた特典と立場にあぐらをかいて生きてきたわけだ。

 

『…とんだ勝ち組じゃないか』

  このイケメンのような唾棄すべきエリート達が、格差を生む。球磨川が求める理想の世界を実現させるには不要な塵芥。

 

  そんなイケメンの手によって首輪から解放されたのに、アクアはそこまで喜ばず、不思議そうにイケメンを見つめていた。

  その視線に照れて、イケメンが口を開く。

「ご無沙汰しております、女神アクア様。不肖、御剣響夜。貴女を助けに馳せ参じました」

  片膝ついて、深々と頭を垂れるイケメン。そんなミツルギを見ても、アクアは何かピンと来てない。もしかして忘れてる?アクアがミツルギをこの世界に転生させたのは事実なのだが。

 

「助けに?どういう意味?」

  顎に指をあててたずねる。ミツルギは立ち上がり、

  「どうもこうも、そのままの意味です!そこの男に首輪をつけられ、強引に連れて行かれそうになってたではありませんかっ!」

「え?私がっ!?」

 

  球磨川を睨みつけ、ついでに舌打ちまでするミツルギくん。

『誤解をしてるようだから教えてあげるよ。アクアちゃんは…』

「キサマは黙っていろ!…すぐに相手してやる」

『えー?』

 

  愛しの女神様を誘拐するような奴の言葉は聞く耳持たないと、ミツルギは怒声で弁明をシャットアウト。

  ロクな事実確認もせず球磨川を誘拐犯と決めつけた。こんな理不尽な目にあっても、球磨川は楽しげに笑っている。

 

「学ラン…?そうか。キサマもしや、転生者だな?なら話が早い。誘拐でないのなら、どうしてアクア様がここにいる」

 

  ようやく球磨川の制服に気づき、ミツルギはつまらなそうに吐き捨てた。

『…』

「答えろっ!!」

『やーれやれ。黙っていろと言ったかと思えば、今度は答えろときた。気が長い僕はその程度じゃ怒らないけど』

  球磨川の、肩をすくめて首を横に振る仕草。これもミツルギをイラつかせる。

『いかにも僕は転生者。名前は球磨川 禊だよ。で、君も何か特典を貰って転生したくちだろ?君が武器やらなんやらを選んだのに対して。アクアちゃんを特典として選んでこの世界に連れてきたってだけのことさ。故に彼女はここにいる』

  連れてきたのはカズマだが。

「そんな手があったか…!」

  一生の不覚とばかりにミツルギが歯ぎしりし、彼のパーティーらしき女性二人が慌ててそれを宥める。やがて、ワナワナと肩を震わせて

「球磨川とやら!アクア様をかけて勝負しろ!!このお方は、僕たちのパーティーにこそ相応しい」

『勝負、ねえ』

「僕が勝てば、アクア様をこちらに引き渡してもらう!」

  子供か。好きな女の子をとりあう幼稚園児か。アクアの気持ちなんかは考えないミツルギの幼児性と傍若無人ぶりが垣間見え、女子一同がドン引きする。ミツルギの取り巻きは何故かはわからないが勝ち誇った顔で球磨川をあざ笑う。

「キョウヤなら絶対勝てるわよね!あの生意気そうなもやし、コテンパンにしちゃって!!」

  あざ笑っていた片方が、ニヤニヤしながらミツルギに耳打ちした。

「ああ。僕は負けない。もしあいつが何かしてきても、君達のことは必ず守る」

「キョウヤ…!」

  発泡スチロールよりもカッスカスで中身のない言葉であっても、取り巻き女子達は顔を赤らめてキャーキャーわめき出す。球磨川はよく、人生に意味なんてないと語るが、この女子達に限ってはミツルギをよいしょする為に生まれてきたのかもしれない。

 

  アクアの意思が介在しない賭け事を持ちかけてきたものの、球磨川が勝った時の条件は出さなかった。最初から負ける事など想定していないのだ。

  であれば、球磨川が条件をつけても文句はあるまい。

『いいよ。それじゃあ、僕が勝ったあかつきにはミツルギくんから何かひとつ貰うことにするよ』

「なんだと!?」

『君の一番大切なものは何かな?』

「ぬ…!」

  球磨川が提示した条件は、すぐには承諾出来ない内容だった。

  ミツルギがこの異世界において今日まで生き残れたのは、ひとえに魔剣グラムがあったからだ。アクアから転生の特典で貰ったそれを手放せと?もしもそんな事になってしまえば、ミツルギの冒険はそこで終わる。魔王討伐は夢のまた夢。

  レベルは37とそこそこ高いから、中級モンスターくらいなら倒せるかもしれないが…。もし桁外れに強いモンスターが犇めくようになってしまったら。

 

(いや、ようは負けなければいいんだ。そうだ!僕が負けるはずないじゃないか。)

  頭の中で魔剣グラムを失ったその後をシュミレートするミツルギ。

  こんな異世界で日雇いの仕事をこなしながら暮らしていくなんて、想像もできない。実際にはそうやって生活している人も大勢いるのに(カズマとかアクアとか)、楽に楽に生きてきたことで変にプライドが高くなってしまったようだ。

 

『随分と悩むね。そりゃそうだ。二人もいるんだから、どっちにするかなんて決められないよね?』

「え、…なにが?二人??」

  素っ頓狂なミツルギの声。

  言うまでも無いことだが、魔剣グラムはこの世界にただ一本。『二人』などと。数もおかしければ単位もおかしい。何を言ってるんだと、ミツルギが訝しむ。

『君が負けた時に僕に差し出す、君の一番大切なものの話だけど。僕、変なこと言ってる?』

「…ぁ」

 

  ようやく理解したミツルギが、反射的に仲間の二人を振り返る。よいしょ女子達は不安そうに眉を寄せていた。

  危なかった。ミツルギは冷や汗を拭う。この女子達を差し置いて魔剣グラムの名を出していたら、二人はおろか、アクアにさえ幻滅されていたかもしれない。所詮ミツルギは魔剣がなによりも大事なんだ。魔剣の為なら苦楽を共にした仲間を平気で切り捨てる可能性がある男なのだと。

 

  勝負に勝って何一つ失わなかったとしても、彼女らと溝が出来るのは痛い。

 

『あれあれ?もしかしてもしかすると、ミツルギくん、全然違うものでもあげようとしてた?今まで懸命に献身的に君を支えてきてくれた、こんなに可愛い女の子達よりも!…大切なものがあるのかい?』

「ば、馬鹿を言え!二人のうちどちらにするか、迷っていたに決まってるだろう」

『安心したよ。ここでその大事そうな剣とか言われたらどうしようかとヒヤヒヤしたぜ。今の君の発言も、それはそれで終わってる気がしなくもないけどね。女の子を天秤にかけるなんて、失礼だと思わない?魔剣ありきのハリボテ勇者はそんなに偉いわけ?』

「くっ!」

  言い返せない。図星をつかれて心を読まれている気がしてくる。

『黙ってちゃわからないよ。話が進まないのも嫌だし、ミツルギくんが一番大切なのは、そこの女の子達ってことにしておこうか。選ばれなかったほうが可哀想だしね』

(た、助かった…!)

  率直にいって、ミツルギは喜んだ。どちらかを選んでいたら、もう一人との関係は終わる。そして、魔剣から球磨川の気をそらせたのは大きい。仲間二人をかけるのは確かに辛い。異世界で出会って、これまで一緒に過ごしてきたかけがえのない存在だから。でも、魔剣を失うことと比較すれば…被害は軽すぎる。あらゆる面で。

「…ああ。賭けの条件として、万が一キサマが僕に勝てば、非常に不本意だが、この二人にはキサマのパーティーに…」

  入ってもらう。と、ミツルギが言い終わる前に

『いやいや、よしてくれよミツルギくん。僕はそこまで非道い人間じゃない。人の一番大切なものを奪うだなんて、心が痛む』

「き、キサマがそう言ったんじゃないか!」

『ん?僕はただ、君からものを貰うって言っただけさ。参考ついでに、一番大切なものを聞いてみただけだよ』

『情け深い僕は、君が一番取られたくないものは取らない。誤解から始まった喧嘩とはいえ、この後ちゃんと仲直りできるようにね。そうだなぁ…。なら消去法でその剣でいいや。どうせあんま大切じゃないんでしょ?』

「ふ、ふざけやがって…!」

 

  ミツルギは魔剣を引き抜いた。話し合いはもう終わり。後は剣を交えるのみだと。

『ちょっと。僕は今からその剣をモチベーションに戦うんだぜ?もしこの戦いで壊れたらどうするんだよ。それに見てよ。僕は丸腰だし』

「次から次へと…!いいだろう!キサマ程度、素手で倒してやる!」

 

  魔剣を鞘に納めて地面に置く。

  ミツルギは拳を握り、小声で「シュッ!…シュッ!」と呟きながら軽くシャドーを開始しだした。ボクサーがやれば様になってカッコいい仕草も、鎧に身を包んだ優男が素人感満載で形だけ真似ても滑稽だ。

 

「おいミソギ。相手はレベルだけならお前の遥か上だ。気をつけろよ」

  いつの間にか遠くまで離れていた女性陣達の中から、ダクネスが激をとばしてきた。

『こっちはベルディアちゃんと戦ってクタクタでね。悪いけど、バトルを長引かせるつもりは無いから』

「ベルディア?誰だそれは。ともあれ、俺も同意見だ。いくぞ!」

  アウトボクシングスタイルなのか。リズムに合わせて身体を揺するイケメン。武器を持たないのは球磨川も同じ。反撃に備えられるよう、球磨川の拳と足に神経を集中させて接近したイケメン!

 

 ズズズズズズ…!

「ごぉあっ!?」

 

 …そのイケメンを、地面から大量に突き出してきた螺子が貫く。

  腹、太もも、腕、etc、etc。

  全体的に螺子で突き破られ、3メートルくらいミツルギの身体が持ち上がる。鎧は全然防具として機能しない。

  螺子をつたう真っ赤な血。螺子が生えてきたポイントにはすぐに血だまりが出来た。

 

「なん…だ…。これ…」

 

『螺子だよ。見たことない?』

 

  ミツルギは出血により、意識を手放した。

 …………

 ……

 ー数分後ー

 

「どうか、許して下さい」

  世界を救うはずだった勇者様はみんなに囲まれる中、球磨川に土下座している。全身の傷は球磨川が治療済み。

  鞘に収まった状態の魔剣グラムを足蹴にしながら、満足そうにミツルギを見下す裸エプロン先輩。

『過負荷相手に、まともにルールも定めず戦いを挑んだのは愚か極まりない行為だよ。僕が手ぶらだから殴り合いになるとか甘く考えちゃった?やーだー、ミツルギくんってば。あ、でもあれがボクシングだったなら、僕の反則負けだね』

 

「このとおりです…どうか…!!」

  地面に額まで擦り付ける。そんなに労働は嫌なのかミツルギくん。

 

「俺がクソしてる間に一体なにがあったんだ…?」蚊帳の外だったカズマは全くもって状況がわからない。

「カズマさんてば、大きいほうだったの?だから言ったじゃない。朝ご飯は腹八分にしておいてって」

  アクアが、この状況を招いた経緯をカズマに語る。ミツルギがいかにアクアに心酔しているか。又、どれだけアクアが敬われるべき存在か。そのへんに重きを置いてるのはご愛嬌。

 

「ミソギ、そろそろ返してあげてはどうですか?謝っていることですし」

 歩けるまでに回復していためぐみんが。

『めぐみんちゃん…!』

 

「君は…!アークウィザードだね?ありがとう、味方してくれて」

「私はただ、早く街に帰りたいだけです」

 ミツルギ渾身の爽やかスマイルは、めぐみんには効果がないようだ…

 

「私からもお願いします!キョウヤを許してあげてっ!」

「私も!お願いっ!」

  モブ女らの懇願。

  過負荷としては。無抵抗な姿で謝罪されるのが一番心にくる。いくら球磨川でも、ここまでされたら許しても良い気になってきた。

『わかった。許すよ』

「本当かっ!?」

  ミツルギはガバッと顔を上げる。

『うん。君は悪くない』

 

  アクア欲しさに、自分から球磨川に喧嘩を仕掛けたのは間違いだった。一方的に喧嘩をふっかけられたのに、それでも許してくれるとは。意外に器の大きい男なのかもと、ミツルギが改めて球磨川の顔を見る。

「ーっ!」

  見ると、球磨川の目からは大粒の涙がポタポタ流れ落ちていた。

『同じ転生者同士、これからは仲良く協力していかないとね!』

「球磨川…。いや、球磨川くん…!」

 

  ガシッ。二人は熱い握手をかわした。

 

『ほら、魔剣グラムを返すよ。やっぱりミツルギくんが持ってるのが一番だ』

「ありがとう。…これからは、この剣で君たちを守ることを約束する」

 

  今までずっと、当たり前に手中にあった魔剣グラム。この騒動で、唐突に【当たり前】は当たり前じゃなくなることもあるとわかった。

  急に日本で暮らしていた頃の記憶がフラッシュバックし、ミツルギは目頭を熱くする。

 

『今回は誰が悪かったわけでもない。強いて言えば、その魔剣グラムが原因かもだけど』

「…あくまで僕のせいにはしないんだな」

『だって悪いのは、その剣だから!』

 

  球磨川は勢いよく魔剣を指差す。

「はは。そう、だな」

『こうして仲良しになれたんだし、僕はもう二度とミツルギくんと仲違いしたくないなぁ』

「…僕もだ。」

 

『だから、二度と喧嘩が起きないようにしないとね。ミツルギくんにとってグラムは思い出の品だろうから…』

「…だろうから??」

 

 

 

『…そうだね。鞘に入った姿形は残してあげるとして。魔剣グラムの能力や危険性。これさえなければ、悲しいいさかいも起こらないよね』

「はあ?」

  ふと、前よりグラムが軽く感じる。丁度、刀身分の重量がなくなったような…

 

「………まさかっ!??」

 

  ミツルギがグラムを抜刀!本来あるはずの、輝く刀身は跡形も無く。

 

『魔剣グラムの刀身を、なかったことにした!』

 

「んほはああぁぁぁ!!?」

 

  アクセルの街に、新たな労働力が加わった!

 

 




仲直りできた!よかったと思います。(粉みかん)
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