この素晴らしい過負荷に祝福を!   作:いたまえ

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ちょっとした幕間です。

お待たせしました、油ギッシュファンの皆様。


十八話 その領主、油ギッシュにつき

 ーアクセルー

  長い長い1日だった。魔王軍幹部のベルディアとの死闘に続き、勘違いナルシストの相手までさせられるとは。【大嘘憑き】でも、このなんとも表現し辛い曖昧な疲労感だけは如何ともしがたい。

「最後の一仕事ですよ、ミソギ」

『僕もう眠いんだけど』

  アクア、カズマとは街の入り口で別れ、今は球磨川、ダクネス、めぐみんの3人しかいない。段々歩くペースが落ちてきた球磨川を、めぐみんが引っ張り、ダクネスが背中を押す。目的地は冒険者ギルド。そう、魔王軍幹部ベルディア討伐の報告をする為に。

  ギルドは時間帯が夜だからか、お酒の入った荒くれ冒険者達でかなりの喧騒だ。

「あら、めぐみんさん。今日はどうされました?」

  受付のお姉さんが営業スマイルを携え、用件を聞き出す。

「いまこの街付近に魔王軍幹部が住み着いていることはご存知ですよね?」

「はい」

「…その魔王軍幹部、デュラハンのベルディアを、私たちが討伐してきました!」

 

  めぐみんが魔王軍幹部と口にした時点で目ざとい、ならぬ耳ざとい冒険者の何人かが、会話を盗み聞きし始めていた。そこでめぐみんの幹部討伐の報告が重なり、盗聴者全員が驚いた。中には椅子が倒れるくらいの勢いで立ち上がったものもいる。

  直に報告を受けたお姉さんでさえ、反応に困ってしまう。

  球磨川達のパーティーは出来たばかりで実績も皆無、すぐに信じてもらえるとは思っていなかった。であるならば、確たる証拠。冒険者カードをお姉さんに見てもらう他、方法はないだろう。懐からカードを取り出し、カウンターに載せるめぐみん。お姉さんが「失礼します」とことわって、手に取った。

 

「!!魔王軍…幹部ベルディア。確かに記載されています…!」

 

 ざわ…ざわ…

 

  お酒の効果で盛り上がっていたギルド内に、新たな燃料が加わる。無名の3人が魔王軍幹部を倒す。これはビギナーズラックとか、たまたま相性が良かったとか、そんなものでは済まされない話だ。なにせアクセルにはベルディアに対抗出来る冒険者がおらず、王都から騎士団が応援に駆けつけるのを待つしか無かったくらいなのだから。偉業を成し遂げた球磨川達には、王様からなんらかの特別報酬や位を与えられる可能性もある。

 

『君達の驚いた顔なんてどーでもいいからさ、早いとこ報酬頂戴よ』

「も、申し訳ありません!幹部討伐には莫大な報酬が設けられていまして、今すぐには用意出来ないんです」

『莫大な報酬って?』

  そこはめぐみん、ダクネスも気になるところ。球磨川の両隣から鼻息を荒くしてお姉さんの返答を待つ。

「金額にして、4億エリスです」

 

  4億。1エリス=1円だとすれば、まあそういうことだ。

  3人で割っても、当分は働かなくても生きていける額。今この場で用意出来ないのも頷ける。

 

『ははは…それは凄いね』

  汗がダラダラ球磨川の顔を流れ落ち、隣ではめぐみんは目を爛々と輝かせながら「4億…4億!?4億…」と延々呟くようになってしまった。

  唯一ダクネスだけは冷静な顔。

 

「3日後のお昼までには、なんとか用意致しますので。また足を運んで下さい」

『用意されても運べるかわからないけれど、ま、いいよ。ダクネスちゃん、めぐみんちゃん。また3日後こよっか!』

「わかりました!…4億…4億」

「ああ、ではまた昼くらいに集まるとしよう」

 

  ギルド内の冒険者全員が奇異と好奇の視線を寄せてくるのも気にせずに、球磨川はさっさと外へ出て行く。

『いつもの馬小屋へ向かう前に、まずはお風呂屋さんで疲れを癒そう』

  月明かりが照らす細い道を進むと、1人少女が待ち構えていた。

「やっ!ミソギくん」

  盗賊風の衣装に身を包んだ短髪の女の子は、ご存知クリス。ニコニコしながら球磨川に近づいてきた。

『奇遇だね、エクリスちゃん。僕が螺子突き刺した報復に来たの?』

「ちょ、名前が混じってるよ!別にあの件はもう怒ってないし。」

『駄目?神コロ様みたいで良いかなって思ったんだけど』

「もう!君と話すと心臓に悪いんだから。人に聞かれたらどうするの?」

 

  球磨川は【大嘘憑き】の秘匿を条件にクリスの正体を隠していた。だが、めぐみん、ダクネスは【大嘘憑き】のことを既に知っているので、今後その約束を守り続ける理由は無い。さりげなくそうした意味を込めて名前を混ぜてみたが、クリスには伝わらなかった。次の条件に少年ジャンプの差し入れを要求するつもりだった球磨川は、遠回し過ぎたかと反省。

「せっかく幹部討伐を褒めてあげにきたのにさぁ。でも、よくやったね!ダクネスがピンチの時は流石に焦ったよー」

  肘で球磨川の胸あたりを小突いてくるクリスは、間違いなく上機嫌だ。ダクネスはピンチというかアウトだった気もする。

『それだけど。4億も手に入ったから魔王討伐はやめたいって言ったら…どうする?』

  顎に手をあてて球磨川がからかうように聞く。

「ふっふっふ。実は君のやる気を出す為に会いに来たんだよ。この世界の平和には、魔王討伐が必要不可欠だからね」

  そう言うと思ったと、クリスがニヤッと白い歯を見せる。

「実は僕のところに安心院さんが遊びに来たりしてね。ミソギくんの弱点を教えてもらったのさ。それと、転生の間でミソギくんがあたし達を串刺しにした理由も」

『ふーん?』

  あの人外、そんなことしてたのか。球磨川はクリスが何を吹き込まれたのかちょっぴり不安を覚えた。てゆーかエリスに会いに行けるのであれば、球磨川に伝言など頼まなくてもいいだろうに。安心院さんも人が悪い。

「もしも、もしもミソギくんが魔王を倒せたなら…。裸エプロン、手ブラジーンズ、全開パーカー、全部やってあげるよ!!!」

  目を閉じて、恥ずかしさを最小限に抑えた上で、クリスは叫んだ。

『なにっ!?』

「あははー、効果覿面!かな。安心院さんが言うからもしやと思い、試した甲斐があったよ」

  球磨川の声で目を開き、狼狽する球磨川なんてレアなものを見れたことでクリスは拳を握った。

『いや、実際、すごくやる気が出たよ。いいぜ、クリスちゃん。僕は絶対に君をあられもない姿にしてみせよう』

  「自分で言っといてアレだけど、ひょっとして取り返しのつかないことをしちゃったかな?」

『この僕の感情をここまで揺さぶられる人物はそう多くない。流石は神。恐れ入ったぜ』

『そこまでサービスしてくれなくても魔王は倒そうとは思ってたんだけど、より本格的に取り組むしかないようだね』

 

  上機嫌の球磨川は軽くクリスに手を振り、お風呂屋さんを目指した。

「あ!ミソギくーん!機会があったら王都に行ってみてよ!!あたしからの数少ないヒントだよ!これ。」

 ……………

 ………

 

 ー3日後ー

  ギルド内には前よりも多くの冒険者が集まっていた。球磨川らが幹部を討伐した話は瞬く間に町中に広がり、一般市民までもが野次馬に駆けつけている。

「私達のリーダーは一応ミソギってことにしておこう。代表して報酬を受け取ってきてくれ。」と、ダクネスが。

  どうやら壇上で感謝状も読み上げられるらしく、無駄に衆目に晒されたくないらしい。

  めぐみんを見ると、無言で親指を立てた。ようは面倒くさい役目を球磨川に押し付けてきたわけだ。

『仕方ないね。サクッと終わらせよう。』

  球磨川が壇に向かうと、周囲から拍手がわき起こる。

  壇上にはギルド職員の他に、なにやら小太りの油ギッシュなオジさんが立っていた。

  オジさんは下卑た視線で球磨川のつま先から頭まで一通り見やると、

「ふんっ…。魔王軍幹部を討伐した猛者がいると聞いてわざわざ出向いてやったというのに。鼻水垂れそうな小童とはな」

  功労者に向かって失礼な口を利くこのオジさんは誰だろう。目には目を。喧嘩腰には喧嘩腰で。特にオジさんの偉そうな態度が球磨川のカンに障った。

『僕はオジさんに褒められても、微塵も嬉しくないし、そもそも褒められたくもない。ハリーアップ。とっととお金だけよこせ』

「こ、このガキ…!?」

 

  オジさんは油ギッシュな顔を球磨川に近づけて、唾を飛ばしながら懸命にまくしたてる。

「ワシはこの辺り一帯の領主、アルダープ!お前のような小童、ワシの一言で一家路頭に迷わせてやることも出来るのだぞ!口には気をつけよ!!」

『…』

 

  なおも球磨川が無礼を働く前に。人垣からダクネスがダッシュで壇上に上がり、球磨川の頭を掴んで強引に下げさせた。

「申し訳ありません、アルダープ様。この男は私のパーティーメンバーなのですが、異国から来たばかりで言葉が不自由なのです」

「ほっ!?まさかこんなむさ苦しいところで貴女にお会いするとは。成る程、貴女がいたのならば幹部討伐も納得です」

 

  ダクネスを見た途端、コロッと態度を変えたアルダープ。ダクネスの肢体を舐め回すような視線を、球磨川は見逃さなかった。とはいえここはダクネスに免じて面倒事は控えるよう努める。

  4億だとかさばるので、特別に小切手で用意され、球磨川に手渡された。これなら事前に小切手を作っておくくらいの気は利かせてほしいものだ。おかげで知り合いたくもなかった領主と面識を持ってしまったのだから。

  その後は長々とアルダープから感謝状の内容を述べられ、最後に握手でイベントが終わる。はずだった。

 

「今後益々の活躍をお祈りしておりますぞ」

  アルダープの形式的な言葉。視線はダクネスをロックオンしたまま。

  差し出された右手をとりあえずは握り返そうと、球磨川も手を伸ばした。

 

 刹那。

 

「むおっ!!?」

 

  アルダープが手を引っ込めた。

  球磨川の手から逃げるように。

 

『…なにか?』

 

  アルダープが大領主になったのはちょっとしたネタがあるものの、とはいえ彼自身の人の本質を見る目はそこそこ。球磨川の『本質』を僅かに感じ取った。

 

「なん、なな、ななな」

『どうしました、アルダープさん』

  球磨川の放つ圧倒的な負のオーラに、領主は後ずさり顔を真っ青にする。

「こ、この男を捕らえよ!捕らえよー!!!」

  アルダープは負の想念にあてられ、それから逃れる為に部下へ球磨川の捕獲を命令した。

「ミソギ!お前、アルダープ様に何をしたんだっ!?」

  ダクネスもまた、真っ青にした顔で球磨川を見やる。

『そんなの僕が知りたいよ!!マジで』

  数名の部下らしき人物が球磨川を捕らえた。彼らの目にも、球磨川は特に罪を犯したりしていないのは明らかで、困惑している。

 

「なにこれ…?」

  人垣に埋もれていためぐみんは、ただただ目を点にするばかりだった。

 

 

 

 

 

 




アルダープ?キモいよね。
序盤中盤終盤、隙がないと思うよ。
だけど、オイラ負けないよ。
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