この素晴らしい過負荷に祝福を!   作:いたまえ

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円盤1巻の特典ゲームをやってたら、昨日の休みは終わってました。
なんということだっ!今日もやりますが!!


十九話 みんなトラブルメーカー

「アルダープ様!?クマガワさんが何かしたんでしょうか??」

  ギルド職員の1人、細身の男性がアルダープに詰め寄る。救国の英雄候補の球磨川に突然の武力行使。いかに大領主様の行いでも、正当な理由が無ければギルドとしても球磨川を守らなくては。

  アルダープはまだ球磨川を警戒しており、ギルド職員の声が届いてない。

「よし!いいぞお前たち。その者を放してはならんぞ。決してワシに近寄らせるでない」

  球磨川の上にはアルダープのボディーガードが3人のしかかっている。いずれも屈強なゴリマッチョだ。

『ふうん。アルダープさんってば、鼻水垂れそうな小童に怯えちゃってるの?案外かわいーね。エリートではなく、愚か者のほうに入れといてあげよう』

  床に押さえ付けられた際口を切ったようで、血を流しつつ微笑みかける。

  人間、権力者に突然暴力を振るわれた場合、ここまで飄々としていられるのか。【普通】は出来ない。

  アルダープには球磨川が正体不明のおぞましい物体に見え、すぐさま逃げ出したくなる。ダクネスの手前実行はしないものの、精神的な疲労が一気に溜まった。

「クマガワ…だったか。何者なのだ?お前は」

  アルダープの掠れた声。この気持ちの悪さを、彼は何処かで感じた覚えがある。アルダープが大領主にまで上り詰めるに至った上で欠かせない存在と近いものを。

『さあ。最弱職の冒険者にして、魔王軍幹部を討伐した勇者ってことじゃ駄目かな?』

「ちぃっ。お前が幹部討伐の功労者でなければ、このまま難癖付けて屋敷の牢にぶち込んでやる者を…!」

 

  悔しそうに歯軋りするアルダープの言は球磨川が少なくとも今牢屋に入れられるような事はしていない証明になった。以前からアルダープは自分に刃向かったり従わない人間を強引に罪人として裁いたりしていた。球磨川もターゲットにされたのだと、ギルド職員がアイコンタクトで意思を疎通して武器を構える。

 

「非礼をお詫び致します、アルダープ様。ですが我々にも無実の罪で不条理な目に会う冒険者を助ける使命がございます。」

  最初にアルダープへ詰め寄った細身の男性は、レイピアをアルダープの部下へ突き付けた。部下はアルダープから、「球磨川を離すな」と命を受けており困った顔で主人を振り返る。

「ぬぅ…!?たかだかギルド職員風情がこのワシにたてつくとは!不敬な」

  信じられないと、アルダープ。

「お言葉ですが私達ギルドの総本山は王都にございますゆえ、いかな領主様といえど正式な手続き無くしてその行動を阻害することは出来ません。」

  可能な限りギルド側も領主と問題を起こしたくはなかった。

 

  大領主様は武器を向けられた部下などおかまいなしに自分だけギルド職員から遠ざかる。部下の代わりはいくらでもいる。

  職員が球磨川についたことを好機と見て、ダクネスがアルダープのそばまで行き、優しく微笑む。

「私からもお願い致しますわ、アルダープ様。クマガワ殿は私の大切なパーティーメンバーです。これ以上手荒な真似をされては、いくら私とアルダープ様の間柄でも、父に報告しなくてはなりません。」

  いつになく真剣な面持ちのダクネスは、平生とは違う言葉遣い。気品のあるもの言いには凄みがある。ダクネスが長身で美人なことも一役買っていた。

  アルダープとて球磨川が『直接的』に罰するべきことをしていないのは理解している。ギルドやダクネスの父と関係性を悪化してまで球磨川を連行するのは、少し割に合わない。

  あと、ダクネスが自分とただならぬ関係にあるとも受け取れる発言をしてくれて嬉しくなったらしい。

 

「わかりました。貴女がそこまでおっしゃるのなら。ええ、これは戯れです。魔王軍幹部討伐を成し遂げた冒険者の、お手並み拝見をしたかっただけなのです」

  手で部下に合図すると、球磨川がやっと解放された。やれやれと立ち上がり学ランを払う。

「さようでしたか。しかし次からはこの様に唐突ではなく、正式な手順を踏んでからにして下さいね?」

  狙って、ダクネスが腕を組みながら頬を膨らませる。さながら恋人の悪戯に拗ねた女の子のように。反吐がでる思いだが、アルダープにはこれが効果的なのだ。目上の人に腕組みで話すのは反感を買うこともあるが、領主的にはオッケー。

「ん、んむ。すみませんでした。貴女の頼みであればもう致しません」

  アルダープはゲヒゲヒ笑って、可愛すぎるダクネスから目を離せなくなっていた。なんとか場は収まったと、ギルド職員らも汗を拭い武器をしまう。命令されてやりたくもないことをやらされた領主の部下達は、観客達の視線に耐え難い。

「では私はこれにて。おい!いくぞお前達」

 アルダープが部下を連れてギルドを後にした。

 

『僕の強さ(弱さ)を知りたかったの?最初から言ってくれればいいのに。』

 

「おいミソギ、待て!待つんだ!!気持ちはわかるが待ってくれええ!!」

 

  声で振り返る。聞き取れはしなかったが、ダクネスが大声を出すのは珍しい。突然球磨川に抱きついていたダクネスに、アルダープがギョッとした。

  球磨川がアルダープらの背後から螺子をブチ込もうとしたのを、どうにか未然に防げたダクネス。が、領主視点ではパーティーメンバーの無事に歓喜しダクネスが抱きついたともとれる。

 

「ら、ララティーナ…!!」

 

  ワシというものがありながら。何処の馬の骨とも知らない小僧に抱きつくなんて。球磨川への憎悪は殺意に成り替わる。切って捨てたい衝動にかられるが、後々ダクネスの父が厄介だ。

 

(覚えておれ、小童。まず邪魔な奴を排除して、お前はそれからだ。ワシのララティーナをよくも…!)

 

  よからぬことを企てていたアルダープは、企てを実行に移すことを決めたらしい。

 ………………

 ………

 

「ミソギは毎回毎回、問題を起こさなくては気が済まないんですか?」

 

  ずっと蚊帳の外にいためぐみん。

 

  3人はあの後、ギルドから離れた喫茶店に来ていた。いつか球磨川とクリスが利用したのと同じ店だ。大金も入り、ゴージャスなスイーツを頼んだめぐみんは、口を尖らせる。

 

『あはは。気が済むとか済まないとか、関係無いよ。アルダープさんから売られた喧嘩を買っただけさ僕は。だから、僕は悪くない』

 

「はあ。私たちパーティーメンバーに迷惑がかかることも知っておいて下さいね?ミソギがいなくなったら、誰が私をおんぶするんですか。もうどこのパーティーも私を入れてくれないんですよ?」

 

  モソモソと、クリームやフルーツがたっぷりのったパンケーキを頬張るめぐみんは、球磨川のトラブルメーカーぶりを弁えてきた。ダクネスも同様に。あの場で球磨川を止められたのは経験があったからだ。

『ときにダクネスちゃん。アルダープさんとは知り合いだったわけ?あんなに仲よさそうにしちゃって』

「ぶっ!?」

  コーヒーを飲んでいたダクネスが間一髪で吹き出すのをこらえる。

「ちがーうっ!!いや。知り合いは知り合いなのだが、仲が良いわけではないぞ!!」

  「そうなんですか?にしても、あのアルダープとかいう領主の目つき…。女性の敵な気がします。ダクネスを見る目、かなり不愉快です。」

『確かにね。めぐみんちゃんもわかったんだ。僕達の大切なダクネスちゃんに、あんな目を向けるだなんて。とてもじゃないけど許せないよ』

 

  球磨川とめぐみん、2人の視線にどう返したものかダクネスが考える。

「奴は…私を嫁にしたがっているんだ。昔から私の父親に縁談を持ちかけてきててな」

『ああ、それであんな視線を。どうやらあの領主とは近い内に会う運命にありそうだね。今日受けた痛みの借りはその時にでも返すとするよ』

  螺子を懐から取り出して、怪しげに目を細める球磨川。

「頼むからあの男の機嫌は損ねないでくれっ!お願い致しますうぅ…!」

  テーブルにゴンと額をぶつけお願いするダクネス。

 

  ダクネスがアルダープに惚れられていたおかげで球磨川は牢に入らずすんだ。事態をややこしくしないでくれというダクネスの頼みを聞きたいのは山々だ。でも、個人的にはやられた分はやりかえさないと気が収まらない。

『やられてなくてもやり返す。身に覚えのない奴にもやり返す。誰彼かまわず、八つ当たりさっ!』

「ミソギいいい!お前はもうっ!本当にもうっ!!」

 

  ダクネスが領主に目をつけられているのは嫌だが、今すぐに解決するものでもない。めぐみんは話題を変えることに。

 

「ところでなんですが、2人とも。お金も入ったことですし、みんなで家でも建てませんか?部屋を人数分作ればプライバシーも確保出来ますし、同じ家のほうがパーティー的に都合も良いと思うのです」

  なにせ4億エリスも手に入った。一等地に豪邸も建てられる。

「良いアイディアだと思うぞ、めぐみん!なら明日早速、不動産屋に行ってみよう」

『不動産屋、ねえ』

 

  アルダープがこの街を含む一帯の領主であるならば、なんとなく不動産業に絡んできても不思議はない。女子2人も大概トラブルあるところに自分から突っ込んでいくきらいがあると、球磨川は思った。

 

 




球磨川にマイホームとか。ダンボールでも涙を流して喜びそうですが

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