この素晴らしい過負荷に祝福を!   作:いたまえ

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原作のバニルさん最高っすなー!


二十一話 職人の街へ

  日本でも異世界でも、常識はそうそう変わらないようだ。家を新たに建てる際の順序も。

 

『へー!家を建てる時ってまず土地から決めるんだ。まてよ、だとしたら後々になって、土地より大きい家が欲しくなってきた場合どうなっちゃうの?』

「いや、土地も無いのにどこに家を広げるつもりだよ!」

『隣の家の人にどいてもらうしかないか。幸いお金はあるしね』

「地上げ屋かよ!横暴すぎるだろ!」

 

  球磨川達は現時点で土地を持っていないわけで。カズマはマニュアルに従ってアクセル内の空き地がピックアップされている書類と地図を机に広げた。

 

「オッホン!えーと、ですねお客様。こちらはウチの会社が持っている土地でごさいまして、初めにどこに家を持ちたいのかを選択して頂きます」

  ダクネスが選んだこの不動産屋はアクセルでも大手で、卓上の書類には膨大な情報が記されている。土地の値段、場所、引渡条件、最適用途、周囲の施設、等々…

 

「なんなんですか!これっ!」

『どしたのさ、めぐみんちゃん。大きい声を出して。もう目星つけちゃった?』

「カズマっ!!資料を、他の資料を見せてはくれませんか!」

  めぐみんが資料をバラバラと捲り、カズマに更に多くの情報を求める。

「まさか、もう全部に目を通したってのか!?俺が徹夜した大量の土地情報を一瞬で!?」

  「私にとっては造作もないです。そんなことよりも!信じられません!この中には、爆裂魔法に耐えうる特別ルームを作れるような広さの土地が一つもないのです…!」

  絶望に染まりきった表情。

  めぐみん唯一の希望、自宅でお手軽に爆裂魔法を放つ夢、実現ならず。

 

「これ以外で売りに出してる土地なんかないよ。街の外ならともかく」

  カズマがどうしたものか頭を掻き毟り、同じく頭を掻き毟るめぐみんを眺め

「そうだ!このへんの領主なら、もっと自分だけの土地みたいなのを持ってるんじゃないか?我ながら冴えてるな。球磨川、ちょっと領主に事情を説明してさ、」

「却下だ!却下。絶対ありえない!」

「お、おう…?」

  にべもなく、ダクネスにより却下。昨日の今日で再びアルダープに会い、あまつさえ頭を下げることは耐え難い。

『少し理由があってね。今は領主様に会ったりしたくないんだよ。カズマちゃん、この中でオススメの土地はある?』

「オススメかー。俺だって名ばかりの研修を受けたばかりで、あんまり詳しくは…。だけど、街外れの閑静な場所はやっぱ人気あるし高いかも」

 

  素人にうぶ毛が生えた程度のカズマは、恥じることなく球磨川達と仲良く資料をあさりだす。

  みんなで協力して調べても、やはりめぐみんの言ったように広大な土地はなかった。

 

『…ふー。でも結局、広大な土地があったところでね。爆裂魔法の衝撃をものともせず、防音も完璧な建築物なんか造れない気はするよ。日本ならともかく。日本でも4億とかじゃキツイかな』

  資料の山から顔をあげた球磨川。

 

  球磨川の方針がめぐみんを説得する方向になりかけた。

  気落ちしてるめぐみんに、どう声をかけたものか迷っていると

 

「よおカズマ!中々面白そうな話をしてるじゃねーか!」

「お、親方!?なんでここに?」

 

  応接間に、カズマを不動産屋に紹介した張本人。土木作業の親方があらわれた。褐色の肌に金髪ヒゲ面は、結構な存在感。親方は鍛え抜いたたくましい腕で、カズマの頭を揺する。

「ハッハッハ!オレの紹介で入ったお前がしっかりやってるか、気になっちまってよ。受付の辺りでコッソリ話を聞かせてもらってたんだが…。屋内で爆裂魔法を放ちたいとか、とんでもねー希望を出す女の子がいたもんだ!」

 

  親方の豪快な笑い声は店内に響き渡る。一見怖そうな外見をしているものの、性格は良さそうだ。

 

「はは…。困ってたんですよ。いくら親方でも、そんな家は造れないですよね?」

  頭を揺すられすぎて若干平衡感覚を失ったカズマが、焦点の定まらない目をして聞く。

「それなんだがな…」

  親方は球磨川の隣にどかっと座り、思わせぶりに微笑む。

「オレの出身地に、ある建築家がいるんだ。【エンドゥ・タディオ】って名前の、巨匠がな。知ってるか?」

 

「エンドゥ・タディオ…。その名前、聞き覚えがある。確か稀代の建築家にして、【空間の魔術師】と呼ばれた、冒険者としても名高い人物だな」

  親方の正面に座るダクネスが。幼い頃に父親から聞かされた人物が、確かそのような名前だった。冒険者として名を馳せていたが、ある日急に引退し、以降は建築家として様々な功績を残している。

 

「よく知ってるじゃねーかお嬢ちゃん!ポイントはそこ。【空間の魔術師】って呼ばれた男が建築家になったらどうなるか」

『また、大層な二つ名だこと。どうなるわけ?』

「…オレがまだガキだったときに、一度だけタディオさんが空間を広げたところを見させてもらってな。拡張工事かなんかをしてたようだが、平凡な家の一室を、杖を振っただけで広げちまってよ。あの時は驚きを通り越したぜ。壁や床も、天井も。空間の大きさに従って増えちまったんだから」

 

「なんすかそれ!?色々おかしいですよ、親方!」

 

「カズマがすぐ信じられないのは当然だ。この目で見たオレだって夢かと思ったんだからな。けど、アレは現実に起こったことだ」

  親方は目の当たりにした奇跡を思い返す。子供の時分に見た衝撃的な光景は、今でも色あせず。

「突拍子もない話ではありますが、なるほど、その人ならば爆裂魔法を放てる広大な部屋を造れると親方は言いたいのですね」

 

  ほんの少し光明が見え始めたことで、めぐみんはテンションを戻した。

  球磨川が親方の話を聞き、疑問に感じた事を尋ねる。

『でもさ、やはり拡張には拡張分の土地を要するんでしょ?根本的な解決にはなってないよね』

「まあ話は最後まで聞くもんだ、坊主!」

  ガハハと笑い、親方は球磨川の肩に手を回した。硬くて立派な親方の胸筋に顔を押し付けられた球磨川はどうにか逃れようとしたが、ビクともしない。

「タディオさんの空間を広げる能力は、ある神器に依存しているようでな。【魔杖モーデュロル】の力が、不可能を可能にすると、彼の弟子は語っている」

『神器、【魔杖モーデュロル】か。ふうん?』

 

  神器。親方がその単語を口にした瞬間、球磨川とカズマが目を合わせる。

  確証は無いが、確かめなくてはならないだろう。

  魔杖モーデュロルと、持ち主の正体を。この世界の人には不可能なことでも、神から特典を貰った人間ならば…

 

「一説によると。半畳の物置を、タディオさんが杖を振って100倍の面積にしたこともあるって話だ。もっと不思議なのが、外観は半畳の物置のまま、中に入ると50畳になってたそうな。これは人から聞いただけだから、真偽はわからんがな」

『未来の世界の猫型ロボットかな?』

 

「そんなことが出来るのであれば、限られた土地でも、めぐみんの希望を叶えられるな」

  エンドゥ・タディオ。まだ見ぬ建築家に、ダクネスも会ってみたくなってきた。

 

「親方、情報感謝しますっ!さあ、ミソギ、ダクネス!エンドゥ氏を捜しに行きましょう!!今すぐに」

  マントを翻しためぐみんは、もう誰にも止められまい。彼女は自宅で爆裂魔法が撃てる家を持つまで、決してあきらめないだろう。

 

「エンドゥ氏は、職人の街【ブレンダン】にいるはずだ。オレの故郷でもある。アクセルの南から、ブレンダン行きの馬車が出てるぜ」

「かさねがさね、お世話になりました。親方には今度お礼に私の爆裂魔法を見せて差し上げましょう!!」

「ひゅうっ!そいつは楽しみだ」

  めぐみんはダクネスの腕を引っ張って、お店から飛び出していく。

「ミソギ!南門で待っていて下さい!ダクネスがこの通り休日スタイルなので、剣と防具を用意させてから行きますから!」

「ぼ、冒険に行くとは思ってなかったんだ。仕方がないだろう」

『え、これ行く感じ??ブレンダン?家造るだけなのに、冒険しなきゃいけないの?ええー…』

 

  親方が球磨川の背中をバシッと叩いて励ました。

「カズマ!テメーもついてってやんな。アクアちゃんと一緒にな!」

「はい!?」

「店長には、オレから話しておくからよ。お客様に付き添うのも、立派な不動産屋の務めだろーが!」

「…はぁ」

 

  やる気なさげな男2人は親方に叩き出されるようにして、アクセルの南門へと向かう。余談だが、カズマの装備はお店の更衣室に置いてあったようだ。

 

『ドラクエでもこういうイベントあるよね、カズマちゃん』

「まあな。命の危険が無ければまだ良いんだがなあ…」

『魔杖モーデュロル、実に興味深い。クリスちゃんは王都がどうのとか言ってたけど、少しの寄り道なら問題ないはずだよね!』

 

  自分達の先駆者がいるかもしれない。先駆者だったとしたら、魔王討伐に協力してはもらえないか。男子2人はめぐみんの夢をオマケくらいにしか思わなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 




ちょっと、マイホーム編入っちゃいました…
三話くらいで終わるので、おヒマな方はお付き合い下さい

忙しい方も、出来たらお付き合い下さい

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