この素晴らしい過負荷に祝福を!   作:いたまえ

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エンドゥタディオとか
モーデュロルとか、そのまんま過ぎましたかね。
名前。


二十二話 満員馬車

 ーアクセル南門ー

  カズマの働く不動産屋から三十分ほど歩いた南門のある広場には、飲食店や雑貨屋が多く、住人達が家族連れで食事やショッピングを楽しむ姿が見られる。噴水の横に設置されたベンチでめぐみん達がやって来るのを待つ中、球磨川が幸せそうな家族を遠い目で眺める。世界が違えど、幸せは斯くあるべきだと見せつけられているようで気に入らない。

『カズマちゃん、僕帰ってもいい?怠くなってきちゃった』

「駄目だろ。アンタの住む家を建てる為に遠出するんだからな?俺も巻き込んで」

  カズマは母親と手を繋いではしゃぐ幼女を目で追いながら、球磨川に生返事を返した。弛みきった顔は事案レベルで危険だ。

『…ブレンダン行きの馬車は二種類あるみたいだけど、どっちに乗る?』

  先ほど広場に着いて、とりあえず馬車の金額やシステムを馭者に教えてもらった二人。

  原則、馬車は二台か三台同時に走らせる。乗り方は二種類存在し、一つは普通の乗客としてお金を支払い、一番良い馬車に乗るもの。

  もう一つは別の馬車に半額又は無料で乗れるが、モンスター出現時には全馬車を守り戦う必要があるもの。いわゆる用心棒的役割と引き換えに料金割引してもらえるのだ。ブレンダンまでは距離こそ近いが道は悪く、普通に乗ると一人片道1万エリスはかかる。

 

「そりゃ…普通の乗客として乗るに決まってるさ。迷う必要もない」

『気が合うねぇ。選択の余地が無い選択肢だ。僕らが用心棒になっても、たかが知れてるし』

 

  球磨川とカズマ。最弱職の冒険者達は身の安全を優先すべく、高い料金を支払うつもりでいる。

  実際問題、道中毎回モンスターに襲われる事はなく。中にはどうせ襲われ無いだろうとたかをくくり、用心棒として無料の移動を行う一般人もいる。であれば、逆に冒険者だろうと、お金を払うのだし安全な旅をしても良いはずだ。

 

『…パーティメンバーではないカズマちゃんとアクアちゃんの料金は、僕は払わないけどね』

「じぇ!?」

  カズマの財布には8千エリスが入ってるかどうか。とても、アクアと二人分の料金は払えない。不動産屋を出発前に、親方が現場に戻りアクアに声をかけると言ってたが…突然旅行に行くと言われたアクアは、果たしてお金の補充をしてくるだろうか。

「してこないだろうなぁ…。俺の分は経費で落とせっかな…」

『あとさ、急かすわけじゃないんだけど。君たち二人の冒険者登録料と入浴料、早めに返してね。利子はトイチだぜ!』

「くれたんじゃないのかよアレ!エリス教徒として施してくれたんじゃなかったか!?」

『あはは、冗談、冗談!』

 

 …………

 ……

 

「急に親方が、旅行にでも行ってリフレッシュしろって言ってきたんだけど、どういうこと?」

 

  南門に最初に来たのはアクアだった。大きめの手提げ鞄だけ持って、大急ぎで来た風だ。

  軽く息を切らしてるのは、ここまで走ってきたのか。

「よおアクア。突然で悪かったな」

  手を振るカズマ。

「全くだわ。今度から事前に相談してよね!…あら?球磨川さんも行くの?」

  カズマがベンチから退いて、アクアに勧める。感謝の言葉もなく腰を落ち着けたアクアは、球磨川が気になっているみたいだ。

『うん。ついでに、ダクネスちゃんとめぐみんちゃんも来るよ。実は僕達、新しくマイホームを建てるんだけど。それの関係でちょっとブレンダンまで行くことになったんだ』

「そうなんだよ。で、俺は不動産屋として付き添うわけ。球磨川達が第1号のお客さんでさ」

  補足するカズマ。

「そうだったの。私てっきりカズマさんが初日でクビになって、傷心旅行かと思っちゃったわよ」

「失礼だ!お前マジで失礼!ベンチ返せや!」

「にしてもマイホームかぁ。羨ましいなぁ。住んでみたいなぁ」

  チラ…チラ。球磨川へ、駄女神の意味深な視線攻撃!

『僕の顔に何かついてるかい?』

 こうかはいまひとつのようだ。

  とぼけてみても、球磨川にはアクアの思惑が手に取るようにわかる。あわよくばマイホームに転がり込むつもりだろう。未だに馬小屋で寝起きする生活から脱していないのだから。

 

「どうして球磨川さん達はマイホームを建てられる資金があるの?カズマさんの一人分前に転生してきたばかりよね?」

『こないだの、幹部討伐の報酬でね』

「…あー、アレね。それで、たかが幹部一匹の報酬はおいくら万円だったわけ?」

『4億エリスだよ』

「…4億!?」

 

  幹部討伐。先日珍しくカズマがやる気を出して、アクアに首輪まで付けた一件は記憶に新しい。アクアがごねずに球磨川達と協力していれば、報酬の山分けに与れていた。自分の所為で大金を逃したことが判明し、アクアはカズマの腹に頭突きを繰り返しだす。

 

「うわぁーん!あの時カズマさんがもっと早くに私のやる気を出してくれていれば!いれば!!」

「やめろ駄女神!痛い、痛いから!そしてお前は最後までやる気を出してはいなかったぞ!」

『カズマちゃん。君たちも良いパーティーじゃないか』

 

  めぐみんが武装したダクネスを引き連れて到着したのは、更に十五分程経ってからだった。

 

 ー馬車のりばー

 

「ツケで!ツケでなんとかなりませんか?会社に請求書を送って貰えれば…」

「すまんがの、ワシらは小難しい制度を設けてはおらんのだわ。現金一括これ一本。お金がないなら、用心棒枠で乗るしかないのう。じゃあの」

 

  すげなく、馭者のおじいさんに振りはらわれるカズマさん。おじいさんがいた空間に差し出されたままの、会社名や住所の書いた名刺を持つ手が哀愁漂う。

「カズマさん?私たち、普通のお客さんとしては乗れないの…?」

「アクア。お前さ、その鞄を準備した時にお金も多めに持ってきてたりしないか?」

 

  カズマがアクアの持つ鞄を凝視する。最後の頼みだ。

「いつもの財布だけよ、お金は。一応1万エリスはあるけど」

「でかした!!アクア、それだけあればチケットが買える。お前は先に馭者からチケット買ってろ!」

 

  一人分の料金は揃った。これにあと2千エリス。球磨川に2千エリスだけ借りれば…。背に腹は変えられない。

  カズマが全力ダッシュで、馬車に乗り込みかけていた球磨川の所へ。

『カズマちゃん、何かな』

「2千エリス貸してください」

  流麗なDOGEZAが炸裂。

  馬車の入り口から一旦降りてきた球磨川が、カズマの上半身を丁寧に起こす。

『カズマちゃん…君は常に極貧だね。大丈夫。僕は貧しいものの味方でもあるんだから。』

  弱い者を見る時の球磨川の表情はとても穏やかで、見る者を安心させる笑みだ。この笑みで何人の人間を駄目にしてきたことか。カズマにも、球磨川の微笑みは教会の神父を彷彿とさせた。

「ごめん、ごめんよ…。この借りは返すから」

『うん、楽しみにしてるよ』

  球磨川から大切な2千エリスを受け取って、馭者の元へ。手持ちと合わせて1万エリス、チケットの金額にも手が届いた。

 

「おじいさん!これでチケットを!」

 

「んお。さっきの青い髪のお嬢ちゃんで満席になっちゃったわい」

 

  球磨川はカズマが乗ってくることなく出発した馬車を不思議に思いながらも、新鮮な体験に心を躍らせた。

  心地いい揺れとリズミカルな音。人生初の馬車。車窓に流れて行く大自然は日本ではお目にかかれないスケールだ。

「車窓の景色は面白いか?ミソギ」

『まあね!僕、馬車とか乗ったことないから。結構楽しいもんだね!』

 

  はしゃぐ球磨川。ダクネスはそんな球磨川が面白いらしく、しばらく見つめたままだった。

 

「カズマさん、結局チケット買えたのかしら?もう気にしても遅いけど」

  アクアは持参したオヤツを開けて、早くもくつろいでいる。

「カズマならきっと、後ろの馬車に乗ってるはずですよ。お金がない冒険者の常套手段、用心棒枠ってヤツですね」

  アクアのオヤツをめぐみんが横から摘む。

「買えなかったってことね。まあいいわ、ブレンダンで会えるでしょ!」

 

  馬車の後方には、ついてくるもう一台の馬車。

 

『あ。』

 

  後方の用心棒馬車は、真横からぶつかってきたグレート・チキンの群れによって横転してしまった!

「お客様!後ろの馬車がモンスターに襲われたようじゃ。少しとばして逃げますぞ!しっかり捕まっててくだされ!」

  馭者の真剣な声が響き、二頭の馬に鞭が叩き込まれた。

 

『カズマちゃん、運が悪いなー』

 

  あっという間に小さくなった後方の馬車がその後どうなったのかは、カズマのみぞ知る。

 

 

 




三話で終わると思った時期が私にもありました。
出発でまさか一話使うとは。
プロット直します。
読むのしんどいかもですが、次話から2、3倍の文字数にするかもです。

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