この素晴らしい過負荷に祝福を!   作:いたまえ

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二十三話 過負荷流、情報収集

 ー職人の街ブレンダンー

  昔から石や砂、木材といった建築に適した材料が豊富にとれることで発展してきた街。男性は子供の頃から親や親戚の大工仕事を手伝い、建築系のスキルを身につける。やがて他の街へ仕事を求め出て行く者も多く、カズマの親方もその内の一人だ。親方は今、アクセルで働きながら日々後進にブレンダンの技術を教えている。

「すっごーい!見なさい皆。アクセルよりも高い建物が多いわ!」

  馬車からいの一番に飛び出したアクアが、高い建造物を見上げる。続くめぐみんも感嘆の声を漏らす。

「私、ブレンダンは来たことありませんでしたが、さすがは職人の街。技術力は世界一ですね」

  アクセルでは木材をメインに使用した家屋が多いが、ここブレンダンではコンクリートで造られた家もある。4階くらいの家をコンクリートで造るのは、この世界だと建築スキルを覚えた職人が必要だ。

『職人技が光るってやつ?家が凄いのは認めるよ。けどここは早いとこタディオさんの捜索を始めないと』

  球磨川は手近な民家の外壁を叩いたりしつつ、アクアらに先を促す。馬車で相当時間をくったので、間も無く日没といった時刻。

「ノーヒントで捜すのは非効率だ。ブレンダンはアクセルと比較すると狭いが、あてもなく捜索してもタディオ氏は見つからないぞ」

  一番最後に馬車から降り立ったダクネスは、建築物には目もくれず。一度訪れた経験があるような反応。ベルディア討伐の報酬額を耳にした際も、あまり驚かなかったダクネス。どこか一般人とは感性が違うようだ。

「どいたどいた!」

『おっと』

  角材を運ぶ職人達が続々と道を通り、球磨川一行は邪魔にならないよう隅に避ける。石畳は日本と同様、馬車が通る車道と、歩道に分けられていた。

『アクセルの冒険者も荒くれ者ってイメージだけど、ここの職人さん方も別のタイプの荒くれ者のようだね』

「タディオ氏は、業界だとかなりの有名人なんですよね?なら、そのへんの人にでも聞いてみましょう」

 

  アクセルより人口も少なければ、街を出歩いてる人の年齢層も幾分高い。

  子供達がどんどん他の街に出て行ってしまう為、若者が減少傾向にある。せっかくの技術力だ。後継者を育てていかねば、まさに世界の損失。技術者じゃなければブレンダン在住でもない球磨川が心配しても、どうにもならないが。

「あの人なんかいいですね」

『ん、頼んだよ』

  街の入り口で警備を行うおじさんに、タディオ氏の居場所を聞いてみるめぐみん。

「すみません、少しお聞きしたいのですが」

「おう、どうしたんだい。観光かな?お嬢さん」

  安っぽい鎧と兜が印象的な、どこにでもいそうな中年だ。

「この街に、エンドゥ・タディオ氏がいると聞いたんですが、今どちらにいるかご存知ですか?」

「…なんだと?」

 

  にこやかだった警備のおじさんは、タディオの名前で途端に不機嫌そうな顔をした。めぐみん達が馬車から降りてきたところを見ていたので、部外者と推測する

「お前達、タディオの野郎を捜しに来たわけか。あの裏切り者を…!」

「う、裏切り者?」

「名前を聞くだけで(はらわた)が煮えくりかえるぜ。失せな!!さもないと承知しねーぞ」

「ひっ!」

「めぐみん。こっちへ来るんだ」

 

  穏やかじゃない空気に、ダクネスがめぐみんを抱き寄せて守り、球磨川がかわりにおじさんと相対する。

『裏切り者とはどういう意味ですか?名前も聞きたくないほど恨みに思うなんて、尋常じゃないですよね?』

「聞こえなかったか?この街から消えろって言ったんだよ。アイツの関係者は出入り禁止しろって命令されてんだ」

『命令ですか。けど、たっかーい交通費をかけて来たからね。はいそうですか、とはいかないよ。理由くらいは教えて貰わなきゃ』

「ちっ、最近のガキは…」

  おじさんが腰の剣に手をかけた。

  何がそこまでおじさんを駆り立てるのか。そのような命令を下した人物はどこの誰なのだろう。

「ね、ねえ球磨川さん…。周りの人達もタディオさんの名前が出てから、こっちを睨んできてるんですけど。ちょっと怖いんですけど!どうしよう!」

  学ランの裾を引っ張るアクアは、周囲の視線で青ざめている。

 

『どうにも、言葉が通じないみたいだね。技術はあるのに知能は低い。そう、物語に出てくるドワーフみたいな人達なのかもしれないね』

「痛い目みないとわかんねーか!!」

  おじさんが剣の柄を握る。

『おやおや。僕の発言が正しいから怒ったの?的外れだったなら、そんなに怒らないはずだ。加えて、暴力でしか物事を解決出来ないから自慢の剣で脅そうと思ったわけ?頭の悪さを自ら露呈するだなんて、お茶目なおじさんだ』

「なっ…!」

  普通の観光客ならこの段階で逃げ帰る。現にこれまでは剣の脅しで沢山の部外者を追い返してきた。…剣で斬られる可能性も考えずに挑発してきた人間は、球磨川が初。とんだ命知らずがいたものだ。

  おじさんはどう球磨川を追い返したものか、次なる手を考える。

『あは!なーに吃驚してんのさ。剣をちらつかせただけで怖がるとでも?善良な旅行客に武器を突きつけて追い返す仕事なんだね、おじさんの職業は。タディオさんって有名人なんでしょ?僕達以外にも訪ねてくる人はいたと思うんだけど、全員追い返してるんだ!ご苦労様。』

「…!ち、ちがう…。そんなことは」

  お互いの吐息がかかる距離まで顔を接近させた球磨川に、まともに返答出来ない。球磨川の過負荷(ボイス)は耳にするだけで心を抉られる。

 

『違わないよ。』

『ちっとも違わない。お前がやってることは野蛮極まる、愚かで劣悪な行為だよ。剣で斬っていいのは、斬られる覚悟があるものだけだって。…何のセリフだったっけ。』

 

「ちが、俺は命令されただけで…」

 

『何、人のせいにするの?お前の脳みそは何のためにあるんだよ。…タディオって単語を聞くと腸が煮えくりかえるって言ったよね。実際に煮えくりかえってるかどうか、いっそその臓物(ハラワタ)をブチ撒けてみる?』

「う…う。」

  謎の正義感に突き動かされていたおじさんに、球磨川の容赦ない口撃がクリティカルヒット。

『タディオさんは…まあ街の人達に嫌われるなんらかの理由があるのかもしれない。けど、タディオさんを訪ねに来た人たちはどうだい?全員が全員、悪人だと断定できたの?旅行先で唐突に剣で脅された人が人間不審にならないことを願うばかりだよ、僕は』

「あ…!」

  家族ぐるみの観光客には小さな少年少女もいた。生まれて初めてだったかもしれない旅行で殺されかけた恐怖はどれだけの衝撃か。

「あああ…!」

  このままだと、おじさんは精神に異常をきたしそうだ。膝をガクガク震わせ立っているのもやっと。人生で初めて遭遇した【過負荷】はおじさんの心にトラウマを何重にも植え付けた。

「俺は…なんてことを…」

  遠路はるばるブレンダンの観光に訪れた人々を、剣で怯えさせてしまった過去は変えられない。

『でも良かったね!不幸になった人間達のことなんて頭の片隅にすら残さず、さながら街を外敵から守る英雄を気取れていたわけだろ?おじさんが幸せそうで何よりじゃない!』

「ちが、ちがう、ちがう…」

  心が死んだ中年が、膝から地面に落ちた。

 

「それくらいにしておけ、ミソギ」

  ダクネスに背中を小突かれ、球磨川から放たれていた恐ろしい雰囲気は霧散する。もっと早く止めてやれよと、ダクネスを責める人はいない。例え身内であっても、過負荷を抑えるつもりがない球磨川の言葉は、精神を削り、破壊しそうなくらい性質が悪かった。

  むしろ声をかけられただけで大金星なのだ。

『あちゃー』

  振り向いた球磨川は、ダクネス、めぐみんが不安げに自分を見ていたことに気がついた。

『…てへっ!僕としたことが、ついつい暴走しちゃったよ。警備のおじさん、ごめんなさーい』

  いつもと同じひょうきんな球磨川に戻って、女性陣がホッと息を吐く。

「ダクネス、ミソギってたまに怖くなりませんか…?優しく爆裂魔法を褒めてくれるミソギとは全然違う人格が現れるかのように」

「そうだな。もしもあんな風に罵声を浴びされたらと思うと…。…くっ!たまらん…!」

「あ、聞く相手を間違えました」

「そんなに怖かったかしら?私は逆にスカッとしちゃったんだけど、ダメ?」

 

  球磨川とおじさんのやり取りを見物していた住民達は、おじさんよりはダメージが少なくて済む。それでも、過去観光客達にどれだけ可哀想なことをしてしまったのか、多かれ少なかれ心は抉られた。皆バツが悪そうにそれぞれ散って行く。

  人垣があった付近には、一人の少年が残る。

 

「パパがひどいことして、ごめんなさい!でも、パパもやりたくないっていってたんです!」

 

  5歳前後の少年は警備のおじさんと球磨川の間に割って入る。

「パパ?この子、おじさんの息子さんでしょうか?」

『そのようだね。君のパパはやりたくないって言ってたの?坊や』

  球磨川はかがんで、男の子と目が会う位置まで顔を下げた。

「うん…。【りょうしゅさまのめいれい】っていってたよ!」

「領主様の命令!?」

  驚きはダクネスのもの。最近随分と話題になる脂ギッシュな領主。もう関わりたくもない。後生だから。

『…つまりアルダープさんが、タディオさんに会いたがる人をブレンダンに入れないように命令した、と。』

「タディオ氏とアルダープ氏の間に何があったのでしょう?」

  球磨川とめぐみんは二人して腕を組む。タディオがアルダープの機嫌を損ねたのは間違いない。が、直接本人に事情を伺わないと真相はわからないまま。やはりタディオの所在が鍵となる。

『仮にも子持ちなら、我が子を愛する親の気持ちとやらがわかるはずなのに。観光客を追い返していたんだねぇ。もう笑えるよ、ここまでアホだと』

『おじさん、起きて!』

  【大嘘憑き】を使用して、おじさんの精神崩壊を無かったことに。

「はっ!?俺は…?頭が…!」

「パパー!」

  少年が駆け寄る。

「レイ!?どうしたんだい、パパの仕事場まできて」

  仕事場に突然現れた息子。ひとまず抱き留めて視線を移すと、

「…!!!」

『おかえり。早速だけど、改めてタディオさんの所在を教えてもらえる?』

  おじさんの頭上から、親子の抱擁を見下ろす球磨川。さっきまでの記憶がいっぺんに蘇った。

 

「ひぃっ!教えますから、何卒!」

 

  精神崩壊を無くそうとも、トラウマは消えないらしい。

 

 




めぐみん、ダクネスとかには過負荷を極力抑えてるみたいですね、裸エプロンさんは。原作で中学生相手に手加減したようなもんですかね。

臓物をブチ撒けろ!
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