この素晴らしい過負荷に祝福を!   作:いたまえ

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三十四話 消えた主人公 前編

  サトウ カズマの墓。

 

「わあぁぁぁあっ!カズマさん!カズマさんがぁぁぁ!」

「くっ…!なんてことだ。我々がブレンダンにいる間に、カズマが死んでしまうなんて」

「彼とはあまり話せませんでしたが、こうなるとやはり寂しいものですね…」

 

  青、黄、赤。信号機を連想させるイメージカラーの女子達が、カズマの墓前で合掌。アクアが一番思い出も多い分、他の二人よりも悲しみが深いらしく、生半可なアンデットならば浄化しかねない涙を延々と溢れさせる。正真正銘の女神であっても、死体が墓の中では蘇生も不可能。

 

『なんという出オチ。ときに君たち、カズマちゃんが死んだからどうしたっていうの?なにも、二度と会えないわけでもあるまいし!』

 

  あの安心院さんでさえ、死者を蘇らせるスキルは所持していない。とはいえ、【死】そのものを【なかったことにする】スキルはある。だから実際、【大嘘憑き】の使い手たる球磨川は、そこまで焦ってはいなかった。彼の前では、生者と死者は等しい。

 

  ブレンダンへの旅行後、長らくスルーしていたカズマのその後。球磨川達がようやくカズマの死を知ったのは、墓前で皆が悲しみにうちひしがれる現在より、数時間前。早朝、球磨川が寝床の馬小屋を出発した頃まで遡る。

 

 …………………

 ……………

 ………

 

  魔王軍幹部討伐、クソ領主討伐(?)、タダオ救出。これまでの功績からすると、球磨川さんにしては順調な異世界ライフだ。が、人生良いことばかりとはいかないもので。…いや、球磨川に言わせればむしろ人生谷あり谷あり。

 

  先日、球磨川達がブレンダンへ向かう道すがら、用心棒が乗る馬車がグレート・チキンに襲われてしまう事件があった。不運なことに、なんとそれにはカズマさんが乗っていたのだ。ブレンダンからアクセルに帰ってきたアクアは、カズマの安否を確認しに向かった。対して球磨川達だが、ブレンダンからの帰還直後といえば、アルダープがダクネスにちょっかいをかけてくる事案が発生する等、対処に奔走する羽目に。カズマの安否を自ら確認できない自責の念に堪えつつ、パーティーメンバーでもあるアクアに一任することに。

 

  アルダープ討伐後。夢のマイホーム相談では、家の外観をタダオのデザイン案から一つ選び終え、なんとか設計へこぎつけた。

 タダオによると、球磨川らの家が出来るまではそこそこ時間を要するとのこと。

  打ち合わせを終えたタダオは、家づくりの準備をする為、解散後ブレンダンへと一時戻った。家を建てるおおよその費用は見当がついたけれど、作業途中で更にお金がかかる可能性もある。「貯金を極力使わないように、生活費を確保する程度にはクエストをこなそう」とは、ダクネスの言。

 

  そんなわけで、いつものようにギルドで依頼を受け、その日暮らしをしようと馬小屋を発つ球磨川は…馬小屋から出て数秒。水の女神様と鉢合わせた。

 

『あれー?アクアちゃん。おはよー』

「球磨川さん!今日もいい朝ね!」

 

  自前の、神聖な物であろう杖を物干し竿代わりに洗濯物を干すアクア。

 

「ほんとはね、今日の洗濯係はカズマさんだったの。けど、いないんじゃしょうがないわよねってことで、私が洗濯してあげてるわけ!係をサボタージュしちゃうだなんて、カズマさんは、これで今後3回は私の分の当番を代わる義務があるわね」

 

  カズマのシャツを叩き、丁寧にシワ伸ばしする姿は、そこはかとなく哀愁を感じる。

 

『…ブレンダンから戻ってすぐ、アクアちゃんはカズマちゃんの捜索をしたんだよね?昨日一日じゃ見つからなかったのかな。…ううん、というよりも今日もまだ見つかっていないようだね。その言い方だと』

 

  アクアは洗濯の手を止めて

 

「そうなの。ブレンダンから帰ってきて、私はまず手始めにギルドで馬車の乗組員の安否について尋ねたのよ。そしたら、『死亡者は確認されておりません』なんて言うのね」

 

『…死亡者が確認されてないって、ようするにカズマちゃんはどうあれ生きてたわけだ。グレート・チキンに袋にされて生きてるなんて、やるじゃない』

 

  曲がりなりにも護衛を名乗り出た者達が乗った馬車。カズマ以外にも数人の乗員がおり、はじまりの街付近に住み着くモンスターであればどうにかなったようだ。

 

「死んでなくても、怪我くらいはしてるんじゃないかって考えて、一応病院にだって足を運んだんだけどね。そんな名前の患者はいないって言われて…」

『へえ?』

「そういうことだから、いずれ帰ってくると思って、おうちで待っていたの。それが…」

『…帰って来なかったと』

 

  アクアの手から、スルリと洗濯物が落ちた。カズマの行方不明に、何か思うところがあるみたいだ。アクアよりも先にしゃがみこんだ球磨川が洗濯物を取ってあげ、それを手渡す。

 

『なるほど…ね!大体わかったよ』

「えっ?」

『カズマちゃんを見つけてきてあげよう。この、【高校生探偵】と呼ばれてみたい願望を持つ僕がね!』

 

  胸を拳で軽く叩き、不敵に微笑む球磨川さん。

 

『僕が捜索に行ってる間、ひょっこりここに帰ってくるかもだし、アクアちゃんは待っててよ』

「…うん!わかったわ。ありがとうね、球磨川さん!」

 

 こうして。高校生探偵と呼ばれてみたいらしい少年球磨川の、カズマ捜しがスタートした。

 

 …………………………

 ……………

 ……

 

『カズマちゃん、どこ行っちゃったんだろうねー』

 

  カズマの性格上、無事なら無事とアクアへ連絡を入れるはず。

  死んでおらず、怪我もしていない。ギルドに行っても手がかりなし。始まったばかりの捜査は早くも難航を極めた。高校生探偵と呼ばれるまでの道のりは長そうだ。

 

『んー、万策尽きた感があるよ。大体、僕のような一般人に捜索をしてくれなんて、アクアちゃんも無茶振りし過ぎなんだぜ』

 

  万策尽きるのが早いとか、アクアに罪をなすりつけないであげて欲しいとか、そんなものを聞き入れる球磨川さんではない。

 

「おはようございます、ミソギ。今日の天気は快晴ですよ、絶好の爆裂デーですよ!!」

『めぐみんちゃんだ』

 

  球磨川がギルドでの情報収集を空振りしたところで、爆裂ロリータが近寄ってきた。

 

『なにしてるの?』

「いやいや!なにしてるの?ではありませんよ!タダオ氏が我々の家を完成させるまでは、クエストでお金を稼ごうと決めたじゃないですか」

『そんなこと…言ってたような言ってなかったような』

「言ってました。というか、だからミソギもギルドに来たのでは?」

 

  すっとぼける球磨川をめぐみんは杖で軽く小突く。

 

『それがさぁ、僕ときたら、カズマちゃんを見つけなくっちゃいけなくなったようでね』

「カズマ?そう言われれば、アクアが捜していたようですが…まさかまだ見つかってないのですか?」

『そのまさかだよ。命に別状は無いらしいけれど、アクアちゃんのところへは戻ってないみたいでね』

「そうでしたか…。アクアも不安でしょうね」

 

  爆裂しか頭に無いようで、その実仲間想いのめぐみん。カズマが行方不明となり、残されたアクアの気持ちを想像すると、何か力にはなれないかと考えてしまう。

 

「今日はクエストを休みましょう。一人より、二人。二人よりも三人。ここは広い街ですし、ミソギ一人で捜すよりも効率が上がります」

『なるほどねっ!確かに、そっちの方がいい気がしなくもないけど』

『…なくなくなくなくないけど!』

「ふっふっふ。紅魔の里にて神童と謳われたこの私が、快刀乱麻を断ってみせましょう」

 

  やる気まんまんのめぐみんさん。今日のご飯代から、いきなり貯金を切り崩すかもと球磨川が懸念する。

 

『どーせ、僕一人でいいと説得しても無駄なんだろうね!』

 

  ガシガシ。球磨川が頭を掻く。

 

「探偵ごっこなんて面白…ではなく、大変なことをミソギ一人にやらせるのはしのびないのです!」

『今!今「面白い」って言いかけた!』

「…イッテナイデス」

 

  顔を背けためぐみんを球磨川が細い目で見つめ続けると、観念したのか大きく息を吐く。

 

「ふーっ。アクアからしたら、笑い事ではないかもしれませんね。ちょっと不適切な発言だったことは謝罪します」

『その通りだよ!唯一無二の存在であるカズマちゃんを、アクアちゃんがどんな想いで待っているのか…考えただけで僕のガラス細工並みに繊細な心は砕けてしまいそうだ…!』

 

  今度はめぐみんが白い目を向ける番。女の子に見つめられ恥じらう素振りの球磨川に、めぐみんが苛立ちを覚えたところで。

 

「入り口まで聞こえる声量で騒ぐような、迷惑な奴らもいたものだと思えば…まさか自分のパーティーメンバーだったとはな」

 

  ダクネスが姿を見せた。

 

『ダクネスちゃん!悪いが、今日のクエストは中止だよ』

「クエストを中止…だと?それは、まあ構わないが。どうしたというんだ?」

 

  今日はどんなモンスターに蹂躙されてしまうのだろう—とか考えつつギルドまでやって来たダクネス。楽しみがキャンセルになったその理由は教えて貰いたい。

 

「結構、大変な事態でして。我々がブレンダンへタダオ氏を捜索しに行ってる間、カズマが行方不明になってしまったそうなのです。アクアはアクセルに戻ってから、一回もカズマと会ってないらしく」

『そう!だから今日はカズマちゃん捜しの日としたわけ。クエストを受けられないのは至極残念さ。でもでも、友達が困っていたら助けるのが僕だよ』

 

  二人からの説明を受けて、ダクネスは半ば納得。けれど、とても重大な情報を彼女は持っていた。

 

「いや、カズマなら昨晩、街で私と偶然会っているんだが…」

『…はい?』

 

  カズマ捜索が、一気に進んだ瞬間だった。

 

 

 続




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