この素晴らしい過負荷に祝福を!   作:いたまえ

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友人とこのすばの話をしていた。どうにも会話が噛み合わないと思ったら、私はずっと「このすば」を「すばせか」と言い間違えていました。それじゃ、渋谷での生き返りゲームですね


四十一話 安心院さんのありがたいお言葉

  球磨川の言う【プランB】が単なる特攻だったことについては、一同呆れるしかなく(ご大層にプランだの名付けるのは今後控えて頂きたい)。一人で突っ走るのをやめるように幾度となく注意してきたダクネスは、今回もまた繰り返された球磨川の独断先行に対して軽い殺意すら覚えるほど。

  そのおかげで、デストロイヤーは足の機能を失ったのだが。

 

  爆裂魔法の余波だけでも、8本の内4本を破壊出来たのだ。デストロイヤーは身体の左右に4本ずつ足を持ち、片側の4本を失ったことで、自立すら今は出来ない。

 

  もっとも。終わり良ければすべて良しな考え方を、彼女達はしない。

 

『ふう、やれやれ。学ランが焦げ付いちゃうぜ』

 

「ミーソーギー…」

 

  球磨川は爆裂魔法から平然と再登場したが、もう慣れたもの。皆【またスキルで生き返ったのだ】としか思わなかった。

 

  のほほんと帰ってきた球磨川を笑顔で出迎えたダクネス。彼女が抜刀してさえいなければ、死地へ赴いた仲間との感動的再開シーンだったかもしれない。

 

『やあやあダクネスちゃん、さっき振りじゃん!どうしたのさ、剣を僕に振りかぶったりして』

 

「口で言っても無駄だと、ようやく悟ったのだ。無鉄砲なお前には。お前の奇行を矯正するには、身体に直接教え込まないといけないらしい」

 

『いきなり何!?命をかけて…いや、命を一回捨ててデストロイヤーに致命傷を与えてきた仲間を斬り殺すつもり!?』

 

  クネクネと、人をイラつかせる動作でダクネスから逃れようと試みる球磨川。

  二人の様子を、もう一人のパーティーメンバーであるめぐみんは、地面に這いつくばって見守っている。

 

「ダクネスー!動けない私の分も、しっかりお願いしますねー!」

 

『めぐみんちゃんまで僕の敵なの!?』

 

  仲間を思いやるめぐみんなら、当然ダクネスを宥めると、球磨川はふんだわけだが…こうも取り付く島がないとは。

 

「斬り殺すなんて物騒だなぁ。安心しろ、峰打ちにしてやるさ」

『ダクネスちゃんの剣、峰とかあるの?ないよね!?流浪人じゃあるまいし』

「案ずるな。仮に死んでも、スキルがあるのだろう?」

 

  とりあえず。サラリーマンが居酒屋でビールを頼むくらいに気楽に。ダクネスはゴチャゴチャと弁解する球磨川に、振りかぶっていた剣を下ろす!

 

『あーそうそう。僕、もう【大嘘憑き】は使えなくなっちゃったから。しくよろー!』

 

「なーっ!?」

 

  初めから、本当に攻撃するつもりは毛ほども無かった。加えて、もともとノーコン(?)のダクネスが斬撃を当てられる筈もないのだが…球磨川から聞かされた衝撃の事実は、当たらない攻撃をするのも躊躇わせた。

 

  空中で行き場を失った剣は、ただフラフラとさまよう。

 

  「球磨川さん…スキルを失ったのかしら?その言い方だと」

 

  アクアは「ふむ」と唸る。

 

『うん。失った…いや、この場合は【得た】って言うべきなんだけれど。やっぱり、わかりやすくは【失った】で合ってるかな』

 

  球磨川が日本から転生する時に、つまり生前から既に所持していた正体不明のスキル【大嘘憑き】。天界の評価では、転生特典に匹敵するレベルには強力なもの。

 

  球磨川は【大嘘憑き】を所有しているが故に、転生特典はもらえなかった。

  それを失ったのなら、すなわち…

 

「つまり。今の球磨川さんを言い表すとしたら、魔剣グラムを失ったマツルギみたいなものね!」

『その例えは、思った以上に心外だ!!』

 

  ビシッとアクアに指差され、球磨川は両腕で頭を抱え込む。

  魔剣グラムを失ったマツルギ=四次元ポケットを失ったドラ○もん。

 人それを役立たずと呼ぶ。

 

「トンデモないスキルだったが…命も救ってもらい、頼った場面も多かった。アレが無いとなると、やや心許ないな…」

 

  事実。ダクネスは一回、魔王軍幹部のベルディアに殺されており、球磨川のおかげで今再び現世に存在できている。

 

「とはいえ、失ってしまったのならしょうがない。ミソギ、お前はもうめぐみんと一緒に退がっていろ」

『ほう?ま、退がるのも逃げるのも僕の得意分野だけれど…まずはアレをご覧よ』

「ん?」

 

  球磨川が【大嘘憑き】を使えなくなった衝撃は、ダクネスも目玉が飛び出る思いだったが…いつまでも驚いてもいられない。足が機能しなくなったデストロイヤーから、何やら巨大な石が数個落ちてきた。

 

「なによ、アレ…!」

 

  着地したそれらは、ゆっくりと姿を変えてみせる。腕が生え、足が生え。最後に頭部が生えて完成。石造りのゴーレムとなって先頭のダクネス目掛けて突進を開始した。

 

『あんなものまで備わっているとはね。用意周到なことで』

 

  元々は侵入者撃退用の戦闘ゴーレム。デストロイヤーが移動不可となり、外敵排除へと用途が変更されたのだ。数は5体。全長約2メートルはある。材質が石なので、ダクネスの剣もダメージを通せまい。

 

「全てを蹂躙する、巨大なデストロイヤー。そして、細かい動きも可能なゴーレム。弱点を補って、隙がないですね。さあミソギ!早くおんぶして逃げて下さい!さあ!」

 

  依然として地面に溶け込んだままのめぐみんが、最後の力で全身をピクピクと動かしアピールしてくる。

  釣り上げられた魚のように見えなくもない。

 

『弱点がない、という点だけは聞き流せないけれど、それでも、どのみち倒れためぐみんちゃんを放置してはおけないか。ダクネスちゃん、アクアちゃん。しばらくの間、時間をかせいでおいてくれ!すぐに戻るからさ』

 

  言うや、球磨川はめぐみんを担いで街の方へと避難を開始した。

  いつもながら、小柄なめぐみんの体重は軽い。

 

「ああ、任された」

 

  ゴーレム達にめぐみんを狙われては堪らない。

  ダクネスは剣を構え直し、壁役におあつらえ向きのスキルを発動する。

 

「【デコイ】!ゴーレム共、お前らの相手はこの私だ!」

 

  5体のゴーレムの中には球磨川を狙う個体もいたが、スキルによってダクネスに引きつけられる。

 

  簡単に引き受けた役割だが、多勢に無勢。防御に秀でたクルセイダーでも、ゴーレム5体を相手にすれば数分ともたない。

  しかし、ダクネスが傷ついたなら、アクアが癒す。球磨川はスキルを失った。ここにきてようやく、回復がアクアの専売特許となったのだ。

 

「ついに、私の出番が来たってわけね!ダクネス、じゃんじゃん傷ついていいわよ。この私がついてるんだからっ!」

「ありがたい!」

 

  ダクネスの新調したばかりのプレートが、ゴーレムの鉄拳をはじき返す。顔面を狙った一撃は、剣でいなすか回避に徹する。数の不利は確かにあるが、一度に5体全てが攻撃出来るわけがない。せいぜい3体まで。ダクネスは残り2体を意識外に置き、隣接する3体からの攻撃のみに集中した。防御に限っては、ダクネスの右に出る冒険者はそういない。

  身体が軽い。アクセル、すなわち領地を守る為の戦いが、こうも自分を高みに誘うとは。3分くらいはゴーレム達を軽快にあしらっただろうか。不意に…

 

「ちょっと…2体こっちにきたんですけど!ダクネスのスキルが効いてないんですけど!!」

 

  回復してくれていた頼もしい存在、アクアが背後で声を荒げる。ダクネスは疲労が取り除かれなくなり、異変に気がついた。

  敵を惹きつけるはずのスキルが、ゴーレムには効いていない。手持ち無沙汰だった2体のゴーレムが、アクアを取り囲んでいた。

 

「理由はわからないが…デストロイヤーは対魔法結界を備えていた。このゴーレム達も、なんらかの耐性を持っていても不思議はないな」

 

「えええ!?そんなの反則よ!球磨川さんは?球磨川さんはまだ戻ってこないのかしら?私に2体もゴーレムを相手しろなんて、無理無理無理!無理だからぁあ」

 

  一応は杖で威嚇しても、ゴーレム達は怯みもしない。兵器は兵器らしく。ただ、目の前の対象を駆逐するだけの存在。

  ジリジリとアクアへ距離を詰めていく。

 

「くっ。私も3体で手がいっぱいだな。…アクア、どうにか逃げるんだ!」

 

  パンチを掻い潜っても、2体目が体当たりをしかけてくる。2体目の体当たりをいなせば、3体目が蹴りを放ってくる。精一杯アクアの元へ向かっても、阻まれてしまう。

 

  球磨川の助けを期待してはいるものの、スキルの無い彼がそれほど頼りになるものだろうか…。ダクネスは疲労で機能しなくなってきた脳をフルで回転させ、先の展開を読む。

  ゴーレムだけでも厳しいのに、デストロイヤーもまだ完全には停止しておらず。

  兎にも角にも、まずはこの防衛戦に活路を見出さなくてはお話にならない。

 

「!…しまっ」

 

  しまった。思考の海に溺れていたダクネスが、ゴーレムがこの戦闘中初めて行った変則攻撃を認識したのは、回避が間に合わないタイミングになってからだった。たった4文字を口にすることも許されず、鞭のようにしなるゴーレムの振り払いによって宙を舞う。

 

「…!」

 

  剣だけは離さなかったものの、無様に地面に叩きつけられる。意図せず肺の中の空気が吐き出され、視界は暗く点滅する。

  口の端が生暖かく感じるのは、血が漏れ出しているからだろうか。

 

「ダクネス!大丈夫!?返事をしてちょうだい!」

 

  ステータスの高さで、なんとかゴーレム2体を相手にしながらアクアが呼びかけるも、返答は無い。

  無慈悲にも、ゴーレムは動かなくなったダクネスの、それも頭部を踏みつける。

 

「なにあのゴーレム!?容赦なさ過ぎるわ!ダクネス、ダクネスー!寝てたら死んじゃうわよ!起きなさい!」

 

  ゴーレムの踏みつけは次第に力を増し、ダクネスの頭蓋骨に致命的なダメージを与え続けていく。

 

  アクアも一方で必死に応戦しながら回復魔法をかけようと詠唱するが、寸前で防御に意識をとられ中断してしまう。

 

「この、邪魔しないで!」

 

  ゴーレムが攻撃に移る前に生じる僅かな隙。アクアは渾身の力で杖を突き刺す。ゴーレムの関節部に深々と侵入し、かろうじて1体は仕留めた。

  運良く活動に必要な回路か何かを切断出来たらしい。

 

  それでも。ダクネスまでの道のりは険しい。

 

  ダクネスについていた3体の内2体は、アクアにターゲットを変更してきたのだ。

  今仕留めたのを差し引いても残り3体。最初よりもむしろ増えている。

  残りの1体は、変わらずダクネスの頭部破壊を試みている。

 

  楽観視していた。

  アクアは素直に思った。

 

  起動要塞デストロイヤーが相手とはいえ、自分は女神。仲間には上級職が二人もいる。

  通常、ギルドに登録した冒険者が総出で戦うべき相手でも、自分たちならどうにか出来るといった根拠ない自信。

 

  何が「お灸をすえてあげよう」だ。

  戦闘前の自分を殴りたい。

  デストロイヤーに応戦するよう球磨川やダクネスに丸め込まれてしまったけれど、逆だった。

  アクアが二人に逃走を納得させなければならなかったのだ。

 

「甘かったわ…ごめんね、ダクネス」

 

  エリス教徒の聖騎士ならば、死後の安息は約束されている。

  魔王討伐後、あるいはこの戦いの直後か。アクアもダクネスの後を追う。天界で巡り会えたなら、ちゃんと目を見て謝罪しようと決めた。

 

『甘いね。過負荷の言葉に踊らされたアクアちゃんは、確実に甘い。』

 

「球磨川さん…!」

 

  仲間が殺される瞬間は見たくない。アクアがダクネスから目を背けると、学ランの少年が戻ってきていた。

 

『が、その甘さ、嫌いじゃないぜ』

 

  球磨川はダクネスの頭部を踏んでいたゴーレムに手を差し出す。すると。ゴーレムの軸足が置かれている地面は、一瞬で螺子の山に変化した。地中から、大量の螺子が突き出してきたのだ。

  地面から生えてきた螺子で軸足をすくわれたゴーレムは、バランスがとれず転倒。巨躯は重力の赴くまま、背中から螺子に八つ裂きにされた。

 

  球磨川の登場で、ゴーレム達の戦況判断が変更されたようで、新たに1体がダクネスに向かう。

  しかし…

 

  空から無数の螺子が降り注ぎ、狙い澄ましたようにゴーレムの関節部を破壊していく。

 

  もしも関節部でさえなかったら、螺子はゴーレムの頑丈な皮膚に弾かれていただろう。

 

「強い…!球磨川さん、こんなに強かったっけ??」

『僕が強い?おいおい、寝言は寝てから頼むよアクアちゃん。僕は弱いさ。そんな僕に倒されてしまうってことは…』

 

  球磨川が腕を上げて振り下ろすと。

  再度螺子が降りかかり、残るゴーレム達を全滅させるに至った。

 

『こいつらが弱点を晒したってだけさ』

 

  壊れたゴーレムを、細めた目で一瞥し、球磨川はまっすぐダクネスの元へ。

 

『だけど、ダクネスちゃんが引きつけてくれたから、めぐみんちゃんを安全な場所に連れて行けたんだ。めぐみんちゃんを守りながらは流石に闘えないし。ゴーレムの弱点も、アクアちゃんが杖を突き刺してくれから判明したわけだしね。僕一人だったら、ごく自然に負けていたさ。これは、みんなで得た勝利だよ』

 

  球磨川の言はどこまでが真実か。最初からゴーレムの弱点がわかっていたなら、好き好んでこんなピンチを演出したことになる。言葉通り、アクアのおかげで弱点がわかったのだろう。そうであって欲しい。

 

「【ヒール】!…これでダクネスは大丈夫。目を覚ますまでは安静にしないとだけどね」

 

  アクアの回復魔法で、ダクネスの苦悶の表情が幾らか和らいだ。

 

『そう、よかった。そんじゃあ、ダクネスちゃんが起きたら帰りますか』

「帰るって…え?デストロイヤーは放置するのかしら?」

『うん、しかたないよ。めぐみんちゃんの爆裂魔法は最早使用不可能だし。逆に考えてもみてくれよ。4人だけでデストロイヤーを移動不可能にしたのは充分過ぎる働きだよね』

 

  学ランを脱ぎ、焦げた部分をパンパンとはたきつつ。

  アクアは納得していない。

 

「いいのかしら、これで…」

『いいんだよ、これで。街のアナウンスで、僕ら以外の冒険者も集まってると思うし。後は彼らに任せようよ』

 

  せっかくだから、めぐみんを非難させたポイントまで行こうと、球磨川はダクネスをおんぶして歩き出した。

 

  納得はあまりいってないが、そう言われてしまえば球磨川の後をアクアも付いていくしかなかった。

 

 …

 

  球磨川達が立ち去った後で。

  歩行機能を失い、熱排出が出来なくなったデストロイヤーから不穏なアナウンスが流れ始めた。

 

  機体の冷却が滞ったデストロイヤーは、遅れて駆けつけた冒険者達を巻き込む形で盛大に自爆することになる。

  アクセルの街までは被害が及ばなかったものの、死者も多数出る痛ましい事件が起きてしまった。

 

 ……………………

 ……………

 ………

 

 

 数日が経ち。

 

 朝から雨模様のアクセル。戦死者を街中で追悼する雰囲気の中、球磨川の寝泊まりする馬小屋に、一通の便りが届いた。

 

『なんだろ、この手紙は』

 

  無造作に手にとって裏面を確認。

  封蝋とは。現代日本ではすっかり珍しくなった代物に、いっそ新鮮味すら感じながら中身を拝見。

 

『ん〜、成る程ね。これはまた、素晴らしい言いがかりだ。理不尽で不条理極まる』

 

  どんな理不尽でも不条理でも、それらを恋人のように愛するのが球磨川禊。まるで恋文を読むように、愛しそうな表情を浮かべる。

 

  真実が必ずしも正しく伝わるとは限らない。あろうことか。デストロイヤーを巧みに操り、爆破テロを企てた容疑で、球磨川は裁判所から出頭命令を受けてしまった。言いがかりにもほどがある。

 

  デストロイヤーの結界を破る過程で安心院さんに会った球磨川。あの時、確かに伝えられた言葉を思い返す。

「デストロイヤーの【完全破壊】を頑張ってくれ」と。

  中途半端に破壊した結果を見越して、悪平等らしくなくアドバイスをくれていたわけだ。

  …もしも次があるとすれば、安心院さんのありがたい言葉をもっとしっかり聞こうと思う球磨川だった。




『それは違うよ…(ネットリ』

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