この素晴らしい過負荷に祝福を!   作:いたまえ

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四十五話 裸エプロン先輩

  ダスティネス邸を出発した球磨川が目指した先は、バルターの住むアレクセイ邸。一度訪れた事もあり、場所も迷わずにたどり着けた。ダクネスの家には劣るが、人が住むには広すぎる大邸宅。

 

『やっぱり、バルターさんの情報を集めるのなら、直接訪問したほうが手っ取り早いよね。…でもまぁ、思ったとおり見張りがいるか』

 

  アレクセイ邸には至る所に衛兵がいて、侵入は容易ではなさそうだが、道中球磨川はある人物に協力を仰いでいた。

 

  潜入するのにうってつけの、神器持ちに。

 

『サクッとやってくれる?タダオさん!』

 

  球磨川の背後に控えたタダオは、憮然とした態度で神器を掲げた。空間を操る程度の能力を持つ、魔杖モーデュロルを。

 

「んー。オレはお前の家を建てるのに忙しいんだが…なんで豚小屋に侵入する手伝いをしているんだろうな?」

 

  球磨川と同じく、日本から転生してきたエンドウタダオ。建築主である球磨川が突然訪ねてきたかと思えば、半ば強引にここまで連れてこられた。有無を言わさず、命の恩人という立場を利用されて。タダオは、アルダープに騙されてアレクセイ邸に監禁された過去もある為、この建物を見るだけでも虫酸が走る様子。

 

『しょうがないよ。今、アクセルには僕に協力してくれる人なんかいないし』

 

「…何がしょうがないだ。こちとら、爆裂ルームを作るのに四苦八苦してるっていうのに。にしても、ブレンダンから戻るなりオメーらの悪評が広まっていて、何事かと思ったぜ」

 

『いやー、何もしていないのに町中から嫌われるなんて。これぞ球磨川禊だね!』

 

  モーデュロルが青白い光を帯びると、球磨川達の侵入を阻んでいた塀にポッカリと穴が空いた。丁度、大人がしゃがんで潜れる大きさだ。

 

「うしっ。いっちょあがりだ」

『…これさ、女湯とかでも可能?』

「可能だけど…意味あるか?それ」

 

  球磨川は穴を潜りながら、自らの欲望にも利用出来ないか尋ねる。

  タダオも後に続き、二人は難なくアレクセイ邸の敷地内に侵入した。

 

『僕が裁判で勝つ条件は幾つかあってね。…いや、僕程度のゴミが【勝つ】だなんておこがましいから、ここは【負けない】と訂正しよう』

 

  タダオは塀にもう一度モーデュロルをかざし、元の状態に戻す。侵入の痕跡は綺麗さっぱりと消えた。

 

「どっちでも構わんが…オメーが負けない為にはどうすりゃいい?」

 

『簡単なのは、バルターさんが流した情報が偽だって証拠かな。アクセル全域の情報操作をするのに、当然部下に命令しているはずだよね。その際の指示書みたいなものが有れば…』

 

「そんなもの、媒体に残すヘマをするか?バルターっていやぁ、結構切れ者らしいぜ?」

 

『…んー。とにかく、部屋とかあさってみようか。タダオさん。そこの壁とかお願い!』

 

「…はいよ」

 

  壁に穴あけ、扉に穴あけ。球磨川達は間取りなんかおかまいなしに、最短ルートでバルターの私室を目指していった。

 

  その途中で。

 

「うわっ!?侵入者か!!それにお前は…クマガワじゃないか!?」

 

  衛兵の一人に発見されてしまったのだった。衛兵は素早く剣を抜いて、一直線に距離を詰めてきた。

  厳密には、詰めようと頑張った。

 

「すまんが、こっちこないでくれ」

「なにっ…!?」

 

  タダオによって空間を引き伸ばされた衛兵は、走れど走れど1ミリも球磨川達に近づけず。鎧や剣を装備して走ったせいか、しばらくすると、息切れして動けなくなってしまった。

 

「バカな…!なぜ、距離が縮まらん!?屋敷が伸びているとしか思えん…!」

 

  ご明察。屋敷が伸びているのだ。

 

『流石!空間の魔術師(笑)の異名は伊達じゃないね!魔杖モーデュロルの能力はチートそのものだ』

 

「なんかバカにされてる気がするし、オメーのスキルには敵わないぞ。それに衛兵まで相手にするとか…。マジで、命の恩人でなきゃ絶対に協力してないわー」

 

  仕上げとばかりに、衛兵を首から上だけ残して床に沈めてから、探索を再開する。衛兵の口にはロープをかませたので、助けを呼ばれることもあるまい。 なんとなく上の階を目指していくと、バルターの私室と書かれた扉を発見するに至った。というか、以前までアルダープが使用していた領主用の部屋だ。一番広く、代々領主が使用してきたのだろう。

 

『バルターさんはギルド前にいたからね。屋敷にはまだ戻って来てないでしょう。今のうちにササっと済ませちゃおう!』

 

「うん。オレも犯罪者として訴えられたくないしな。帰りに、さっきの衛兵の記憶はお前のスキルで消してけよな」

 

『…ウン、ソウスルヨ!』

 

「何故カタコトなのか!オレまで住居侵入とかになっちまうから、真面目に頼むぞ!」

 

『わかったよ。わかりましたとも。心配性だなぁ、タダオさんは』

 

「…ったく。調子くるうなー」

 

  球磨川の返事に安心して、タダオも引き出しやら棚を無造作に調べ出した。一応は命の恩人である球磨川を、偽りの罪で裁こうとする人間に、遠慮する気も起きなかったのだ。

 

  貴族の、それも領主の部屋だけあって中々広く。一通り調べるにも、二人がかりでさえ結構な時間を要する。

 

『タダオさん、なんか見つかった?』

 

「いいや。クソつまらん仕事の書類ばかりだな」

 

  部屋に入ってから、もう数十分は経過しただろうか。

  先ほどの見張りも、下手したら他の衛兵やメイドに発見される可能性がある。何より、バルター本人が屋敷に戻ってくる危険性も。

 

『くっ、マズイね。これだけ調べて有益な情報が得られなかったとは。一旦、出直そうか?』

「…いや、まて!」

 

  そろそろ撤退も視野に入れ始めた球磨川を、タダオが制した。

 

『ん?』

「机の引き出し、2段目が隠し棚になってやがった」

 

  一見空っぽの引き出し。しかし、よく見ると、一枚の板で本来の収納スペースが隠されていた。フェイクの板を持ち上げると、一冊のノートが隠されているのを発見。

 

『でかしたタダオさん!…バルターさんめ、デスノートの隠し場所みたいなことしちゃって』

「それはちょっと思った。だが、デスノート並みに重要なノートなんじゃないか?ここまで厳重に隠してるんだから」

 

  日記だろうか。何も書かれていない表紙をめくって、タダオがパラパラとノートに目を通す。

 

「ふむ、簡単な日記だな。ここ最近の出来事が書かれている」

 

『なーんだ。それなら、あまり重要じゃなさそうだね。…ね?タダオさん』

 

「……んー…」

 

『…タダオさん??』

 

「…なんじゃ、これは…!」

 

  球磨川との会話が疎かになるほど、タダオは日記に夢中になった。それも致し方がないというもの。何故ならば、そこには。目を疑うような文章が記載されていたのだから。

 

 ………………………

 ………………

 ………

 

 ◯月△日

 

  最近、アクセル周辺に魔王軍の幹部が住み着いたようだ。なんでも、誰も住まなくなった廃城が放置されていたらしい。

 

  すぐに解体しないから、このような事態を招くのだ。ウチのクソ親父には、廃屋などはすぐ壊させるようにしなくては。

 

  魔王軍幹部と聞くだけで恐ろしい。

 

  王都の騎士団が早急に手配されることを願う。

 

 ◯月□日

 

  とてもめでたい。驚いたことに、アクセルの冒険者が魔王軍幹部を討伐したらしい。

  廃城も何処かへ消えたようだが、ある意味では良かったのではないか。解体の手間も省けただろうし。

  パーティーには、あのララティーナもいるようだ。今度詳しく、話しを聞いてみよう。

 

 ◯月◇日

 

  本日はギルドで、クソ親父が魔王軍幹部を討伐した冒険者を讃える式典が行われる。俺様に恥だけはかかせるなと言いたい。昨日、あいつがセリフを練習しているのを発見した。とちったら許さない。本気で。

 

 ◯月◇日その2

 

  やりやがった。クソ親父め。よりにもよって、俺様好みの男の子に乱暴しやがって。みんなの前で床に抑えつけるなんて、酷いことをする。せっかくの可愛らしい顔に傷でもついたらどうするんだ。男の子は、クマガワくんと言うらしい。

 

  にしても、ララティーナが羨ましい。あんな可愛い男の子とパーティーを組めるなんて。

  今度紹介してもらおう。

 

 ◯月▲日

 

  やった、やった!クソ親父が消え去った!聞けば、クマガワくんがやってくれたとのこと。

 

  なんて良い子なんだ、クマガワくん。抱きしめたい。

 

  しかし。やっぱり許せないぞ、ララティーナめ。本当に憎たらしい。建築家のタディオに家を造らせ、クマガワくんと同居するつもりだとか。それは許せない。絶対に。

  どうにかして、クマガワくんを俺のものにしなくては。どうすればいい。時間はあまり残されていない。

 

 ▲月◯日

 

  クマガワくんが、今度はデストロイヤーまで倒してしまった。なんて凄いんだ。さすがは、俺の惚れた男。

  ただ、残念ながら馬鹿な冒険者共が巻き込まれて死にやがった。

 

  クマガワくんの頑張りを無駄にしたカスどもめ。死んで詫びろ。って、もう死んでるのか。

 

  …しかし、これでいい。これは使える。いっそ、クマガワくんを犯罪者にしてしまうのも良いかもしれない。

  ララティーナの名前を使えば、アホな住人を騙すくらい簡単だからな。

 クマガワくんが犯罪者となれば、変な女も寄り付かないだろう。

 

  クマガワくんを追い詰めるだけ追い詰めて、最後に救いの手を差し伸べるのもありだ。俺が天使にみえて、きっとクマガワくんは俺に惚れるはず。

 

  一番良いのは、ウチのクソ親父が作っていた、地下の牢屋。どうにかして、あそこにクマガワくんを入れられれば、キミは一生俺のものだ。素晴らしい。

 犯罪者を責任持って収容するといえば、間抜けなダスティネスも丸め込める。

 

  可愛いクマガワくん。

 

  絶対に、逃がさない。逃がすもんか。

 

 ………………………

 ………………

 ………

 

『え。何これは?誰の日記?え?』

 

「普通に考えて…バルターの日記だな。恐らく」

 

『ちょ、ええ…?予想してなかった事態が起こったな。この展開は勘弁してもらいたいかも…』

 

  異性の友達の部屋で、いかがわしい本を発見したような心境の日本人二人。タダオは対岸の火事状態なのでそこまでダメージを受けていないが、張本人はそうもいかず。

 

  球磨川は生まれて初めて絶望しかけた。

 

『…とりあえず、これは貰っていこうか?裁判のネタになるかもだし』

 

  ガックリと肩を落とし、球磨川はため息まじりに聞く。

 

「いや…それをオメーが持ってたら、この部屋に不法侵入したってバレるんじゃないか?」

 

『あー…そっか。ごめん。なんだか頭が働かないや』

 

「いいけど。どうせなら、オメーが裸エプロンでも着て、バルターとやらに許しを請うほうが期待できるんじゃないか?」

 

『うん、タダオちゃん。いっぺん死んでみる?』

 

  タダオは過負荷をからかった代償として、飛んでくるネジを躱す作業を余儀なくされた。




裸エプロン先輩の裸エプロン。萌えポイントはおさえてそうですね。ちょっと見たい。

てか、バルターさん?ヤンデレだし腹黒いし、ホ◯だし…どうしてこうなったんだ!?
…と思ったけど、プロット考えてたときから決まってたみたいです。

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