この素晴らしい過負荷に祝福を!   作:いたまえ

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『お前なんだか、40ヤード走4.2秒で走りそうな名前だよな(笑)』


四十七話 王国検察官、到来

  めぐみんに助けを求めてきたゆんゆんは、無実の罪で子供達に攻撃されたことで精神的なダメージを負ってしまった。ただ、そんなダメージすらも吹き飛ぶほどの噂を聞いてしまったので、めぐみんが追い払ってくれた性悪な子供らの事など、既に頭から消え去っている。

  子供達に憤るというよりは、此度も又厄介ごとを持ち込んできためぐみんに物申したい様子。

 

  余談だが、めぐみんが子供らを追い払った際のセリフはこうだ。

 

「あなた達。一応、そこのゆんゆんは私の知り合いなのです。その辺にしておかないと、あなた達も我が爆裂のサビにしますよ?」

 

  ようやく年齢が二桁になりそうな子供達は、初めこそ抵抗する素振りを見せたものの、めぐみんが詠唱した途端一目散に逃げて行った。

 

  ギルド前に安置された戦死者の中には、子供達の家族だった者も存在する。一日一回、アクセル付近で爆裂魔法を放つめぐみんの存在を、生前聞かされていたのかもしれない。時に【頭のおかしな娘】と評されるめぐみんなら、本当にこの場で爆裂魔法を撃ちかねないと判断出来た子供らを、むしろ褒めるべきか。

  逃げ時の見極めは、冒険者にとって欠かせない技術でもある。

 

  【爆裂のサビ】とやらが何なのかはめぐみんのみぞ知る。

 

「まったく。この街の子供達は教育がなっていませんね。まさか、私とゆんゆんの見分けもつかないだなんて」

 

「そこ?気にするところはそこなの?ボールを人にぶつけたことを怒るべきでしょ、普通!」

 

  地べたにへたり込んだままのゆんゆんが、怒るポイントがズレているめぐみんに呆れる。

 

「なぜ成績トップの私が、ゆんゆんと同列にされなくてはならないのでしょう。甚だしく心外です」

 

  やれやれと、巻き込まれ型主人公のように首を横に振るめぐみん。

 

「うぐっ……。それはコッチの台詞よ!めぐみんに間違われたせいで、私はあの子達にボールをぶつけられたんだから。逆に、めぐみんには感謝してもらいたいくらいよ!」

 

「それについては、まあ。流石の私も、そこはかとなく申し訳ないとは思っていますが……。事の発端は偽りの情報を流したバルターなので、やはり『私は悪くない』って感じなのです。心境的に」

 

  球磨川何某の決め台詞を引用するめぐみん。ゆんゆんは微妙にだが、めぐみんが言わなそうな台詞に首をかしげる。かしげた後、忘れかけていた本題を思い出したようで。

 

「それはそうと、テロリストってどういうことなの。まさか本当に悪いことしたんじゃないでしょうね?」

 

「それこそ、まさかですね。この私が、私利私欲でテロリズムに及ぶと思いますか?」

 

  ゆんゆんは少しだけ複雑そうな表情で。

 

  「……思うわ」

 

「思っちゃうんですかっ!?」

 

  紅魔族として。里にいた頃からめぐみんを身近で見てきたゆんゆん。めぐみんのトラブルメーカーぶりは今に始まったことではない。

 

「冗談よ。めぐみんが好き好んでテロを起こした訳ではないのはわかってる。……けど。又どうせ、誤解を招いたりしたんじゃないの?」

 

  ゆんゆんが片目を閉じ、ピッと人差し指を立てた。

  侮りがたし。長年の付き合いは伊達ではないようで。ゆんゆんの推理力に感嘆しながらも、めぐみんは自分の役目を全うするべく別れを告げる。

 

「お見事。流石はゆんゆんですね。そんなこんなで、私は今取り込み中なのです。すみませんが、急ぎますので」

 

「あ、うん」

 

  ペコリと一礼してから、ゆんゆんの元を去るめぐみん。あまりにもアッサリした別れだったので、つい咄嗟で返してしまったゆんゆんだが。

 

 …… 少し間を置いて、全力疾走で後ろから追いかけてきた。

 

「そうじゃなくて!せっかく再会出来たんだから、約束を果たしてもらうわ!今日こそ私がめぐみんに勝って、紅魔族一の座を手にするの!」

 

  ゆんゆんは、紅魔族現族長の娘。いずれは後を継ぐことになっている。その時、族長よりも腕が立つ人物がいてはなんともバツが悪い。周囲からのいま現在の評価も、【家柄だけの娘】といった感じなのだ。

  後を継ぐ日までにめぐみんとの勝負に勝ち、実力を知らしめる必要がゆんゆんにはあった。

 

「私はめぐみんとの約束を果たし、上級魔法を覚えたわ。いざ尋常に、勝負してっ!」

 

「やれやれ。空気を読んで欲しいですね。上級魔法を覚えたとはいえ、ゆんゆんはゆんゆんですか」

 

「どういう意味よ。それより……アレ?めぐみん、杖はどうしたの?」

 

  お気付きの通り。めぐみんは杖をダスティネスの屋敷に置きっぱなしなので、魔法での決闘は行えるはずがない。

  魔法対決する気満々のゆんゆんに、めぐみんは高らかに勝負の内容を告げる。

 

「では、先にアクアを見つけた方の勝ちとしましょう」

 

「な、なによ急に。魔法対決じゃないの?ていうか、アクアって何。アクシズ教団のご神体??」

 

「水色の髪を持つ、外見だけは美しい女性です。アクセルの何処かにいるはずなので、捜してここに連れてくればオッケーとします。制限時間は2時間です。発見出来なくても、2時間経ったら一度ここで落ち合いましょう。よーいどん!」

 

  早口でルール説明を一方的に終えためぐみんは、走り出しながら始まりの合図を出す。いまだに理解が追いついていないゆんゆんは

 

「………もう始まったの!?」

 

  事態を飲み込んだ瞬間、目を丸く見開いてワタワタと足踏みし始めた。

 

「ふっふっふ。装備も無く身軽な私が圧倒的に有利……!この勝負、もらいましたっ」

 

  慌てふためくゆんゆんにお尻ぺんぺんを見せつけながら、めぐみんが軽快に快足をとばす。アクアを一度も見たことがないゆんゆんのハンデキャップたるや、無視できる重さではない。

 

  ないのだが。

 

「水色の髪をした人なら、さっき見かけたような……」

 

「なんですって!?」

 

  聞き捨てならないゆんゆんの言葉。駆け出していためぐみんはいそいそとスタート地点まで戻ってきた。そのまんま、ゆんゆんの両肩をガッチリホールドすると

 

「ズルはいけませんよ、ズルは!恥ずかしいとは思いませんか?ゆんゆん。貴女はそこまでして、紅魔族一の称号を手に入れたいのですかっ?だとするなら、私は貴女という人を軽蔑せざるを得なくなってしまいます」

 

「ふぇえ!?ズルなんかしてないわよ!めぐみんが自分勝手に勝負の内容を決めたのが悪いんじゃないっ!」

 

  いきなりズルだの言われて驚き、しかしめぐみんに両肩を掴まれた事が少し嬉しかったりもする、複雑な乙女心のゆんゆん。

  めぐみんは反論を聞いて、後ろめたくなったのか顔を伏せた。

  肩から手を離してそっぽを向くと

 

「で?アクアを見かけたのはどこなんですか。早く案内してください」

「変わり身速すぎない!?」

 

  二人の紅魔族は、アクアを目撃した付近を目指して歩き出す。アクアを見かけたのは街の中央区。それも、警察署付近だというゆんゆん。

  もしもめぐみん一人で捜索していたならば、後回しにしていたであろう地域。ゆんゆんと偶然遭遇したのは僥倖だったと言えよう。

 

「そういえば、この勝負の行方はどうなるの?アクア……さん?の居場所を知ってた私の勝ち?」

 

  ほっぺを若干赤くさせつつ、ソワソワした様子で尋ねてくるゆんゆん。

  めぐみんはため息をひとつ。

 

「何を言っているのでしょう、この小娘は。ズルをしたのですから無効試合に決まっています!そもそも、搦め手で勝って嬉しいのですか?ゆんゆんも紅魔族なのであれば、魔法対決で正々堂々と私を倒してみせなさい!」

 

「なぁっ……!」

 

「全く。ゆんゆんは狡いですね。私の知ってるゆんゆんは、もっと正義感溢れる優等生キャラだったはずなのですが……」

 

「私は最初から、魔法対決が良かったのにっ!良かったのに……!!」

 

 …………………………

 …………………

 …………

 

  アクセル中央区。

 

  球磨川らが休日としたこの日。クエストにも出かけられないアクアは昼まで惰眠を貪った後、行方不明者となったカズマを捜していた。

 

「カズマさんてば、全く手がかかるんだから。この私に心配かけるだなんて、本来なら打ち首ものよ」

 

  台詞とは裏腹に、一切怒っている感じは無い。

  出来の悪い弟を世話する姉のような心境で街を歩くアクア。カズマがこの世にいるものと信じての行動は、少し痛ましくもある。

  手がかりも無い状態なので、捜索範囲は勘に頼っている部分が多い。

 

「にしても、今日は何かあったのかしら」

 

  なんとなく暗い街の雰囲気。

  デストロイヤーがいなくなったのにお通夜ムードな現状に、アクアが首を傾げていると。

 

「失礼。恐れ入りますが、貴女がアクアさんでしょうか?」

 

「そうだけど。何よアンタ」

 

  アクアに近寄ってきた、細身の女性。黒い髪を伸ばし、かけたメガネは知的な印象を与えさせる。

  女性の背後には、二人の屈強な兵士が控えている。

  一回、かちゃりとメガネのポジションを整えてから。女性は冷たい口調で

 

「申し遅れました。私は王国検察官のセナと申します」

「……検察?」

 

  なんだって、そんなものが。

  訝しむアクア。セナは一歩アクアに近寄る。カツンと、セナの履くヒールが音を立てた。

 

「貴女には、テロの容疑が掛けられています。正確には、貴女と、貴女のパーティーメンバーにですが」

 

「……はい?」

 

「つきましては、貴女の身柄を確保させて頂きます。ああ、裁判が終わるまでは、最低限の人権は保護されますのでご安心下さい」

 

「ちょちょ、ちょい待ち!アンタは何を言っちゃってるワケ?この私が容疑者とか、笑えないんですけどっ!ちっとも面白くないんですけど!!」

 

  アクアは、自身を拘束しようと試みた兵士の腕をはね退けて、一定の距離をとった。

  並みの冒険者では、高レベルな兵士から逃れることはできない。

  ステータスの高さを証明したアクアに、セナは「ほう……」と呟く。

 

「アクアさん。なるほど記録に相違ないステータスの高さですね。ですが、我々から逃げるという行為は、貴女の立場を悪くするだけですよ?」

 

「だーかーらー、私はテロリストなんかじゃないの。わかる?」

 

「納得出来ない気持ちは理解できますが……少なくとも、貴女は容疑者なのです。裁判で無罪となるまでは、誰も貴女が犯罪者ではないという証明が出来ないのです」

 

  セナの口調は実に淡々としていて、アクアも段々と「これ、逃げられないヤツだ」とわかり始めてきた。

  それにしたって、突然過ぎる。

  アクアにはまるで心当たりがない。

 

「幸い、警察署はすぐそこです。応援も呼べますし、暴れたければ止めはしませんよ。ただし、罪を重くするのは賢いとは言えませんが」

 

「なんで、なんでよぉ……。私、本当に悪くないのに……」

 

  泣きながら、兵士に両隣から拘束されたアクア。ふり払えなくはないが、拘束を解いたところで得もない。

  しかし、犯罪者に間違われるとは。これではカズマ捜索や魔王討伐どころじゃなくなってくる。

 

「私…女神なのに」

 

  後輩女神が管轄する世界で、容疑者として捕らえられるなんて。

 

  情けなくて涙が抑えられない。

 

  ポロポロと涙を溢すアクアを引きずるようにして、警察署へ連れて行く兵士達。

 

「全く。最初から大人しくすれば良いものを」

 

  セナがようやく仕事を全うできたと安堵していると。

 

「待ちなさいっ!私の友人に、無礼な真似はさせませんよ!」

 

  瞳を紅く光らせためぐみんが、行く手を遮った。

 

「め、めぐみん!?助けて……早く私を助けてよぉお……!」

 

  見知った顔に、アクアはさっきよりも大粒の涙を流す。理不尽に警察署へ連れて行かれかけていたところに現れためぐみんは、まさに救いの神。

 

「さぁ、早くうす汚い手を離すのです!さもなければ、私の爆裂が…」

 

「貴女、めぐみんさんなんですか?」

 

  決めゼリフの途中、セナがめぐみんに問う。滅多にないカッコいい場面で水をさされ、めぐみんは不貞腐れた。

 が、名乗りの機会を得たので、まぁ良しとする。

 

「…いかにも。我が名はめぐみん。紅魔族随一の…」

 

「捕らえなさい」

 

  事務的に。兵士の片割れがめぐみんをアッサリと捕まえた。カッコいい場面も、名乗りすらも中断させられてしまっためぐみん。

 

「なっー!?何をするんですか、離して、離し…離せぇぇえ!」

 

  流石に、めぐみんに振り解かれる程、兵士は弱くなかった。どれだけ暴れてみても、ビクともしない。

 

「めぐみんさん。貴女にも、アクアさん同様の容疑が掛けられています。共に出頭して頂きましょう」

 

「めぐみん、なんで捕まっちゃうの?めぐみんまで捕まったら、誰が私を助けるのよ!?」

「申し訳ありません、アクア。まさか我が至高の名乗りが、このような形で不利を招くとは」

 

  めぐみんの乱入は予想していなかったとはいえ、あくまで冷酷なセナ。

  ミイラ取りがミイラになる。こうして、アクアとめぐみんは仲良くお縄になったのだった。

 

「後は、あの人物だけですね」

 

  セナは眼鏡の奥で瞳を光らせた。

 残るメンバー、球磨川禊。彼には出頭命令を手紙で送っている。

  まともな人物ならば、間違いなく呼び出しに応じる筈だが…果たして。

 

 …………………………

 …………………

 …………

 

「はわわわ…めぐみんが捕まっちゃった!?」

 

  人ごみに紛れながら、めぐみんが捕まるまでの一部始終を見守っていたゆんゆん。二人がアクアを発見したのは、丁度兵士に拘束される現場だった。ゆんゆんは状況を把握しようと提案したのだが、めぐみんが堪えきれずに飛び出してしまった。

 

『いやいや。あそこで飛び出していなければ、僕はめぐみんちゃんを見損なっていたかもしれない。君もそうだろう?』

 

  いつの間にやら、ゆんゆんの隣という素晴らしいポジションに収まっていた球磨川。

  ゆんゆんは独り言に返事が返ってくるとは思っておらず。勢いよく声の主に向き直った。

 

「だ、誰ですか!?」

 

『誰でも良いじゃないか。知らない人には名前を教えちゃいけないって、母親から言われていてね。君に名乗ることは出来ないんだよ、ゆんゆんちゃん 』

 

「私の事は知ってるんですね!?」

 

『さてと。僕の仲間を無理矢理拘束したおとしまえ。そして、このラブレター……。どうしてくれようか、セナちゃんめ』

 

  球磨川の手には、一通の出頭命令が握られていた。

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