この素晴らしい過負荷に祝福を!   作:いたまえ

50 / 97
裁判、凄く長くなりそう。区切っていきます。

このすばかっぽれ!の、アニメ第3話は首ちょんぱフラグ。アレはめちゃくちゃ笑いました。

首ちょんぱになったのは、一体何フィナーレさんなんだ…


五十話 裁判 前編

  裁判場は独特な空気に包まれており、傍聴人席は犠牲者遺族で埋め尽くされていた。子に先立たれた老夫婦に、夫を失った未亡人。父親がいなくなった子供等。裁判長へのアピールなのか、皆犠牲者の遺影(肖像画)等を抱き抱え、中にはすすり泣く者も。

  すんすんと耳障りな声は、中年裁判長の一声でピタリと鳴り止む。

 

「静粛に。只今から、クマガワ ミソギ、アクア、めぐみんの裁判を行います。いささかケースが特殊という事もあり、異例ではありますが三人同時に執り行います」

 

  裁判長は検察側のセナ、告発人バルター、それから球磨川達の順で一通り視線を配った。

  放置しておけば、つつがなく裁判が始まりそうだったので、球磨川は慌てた素振りで手を挙げる。

 

『裁判長さん!僕らの弁護人であるところのダクネスちゃんがまだ来てないのだけれど』

 

  裁判始まる5秒前になっても、弁護人席は空席のまま。

 

「そのようですな。裁判所としては、弁護人の遅刻は、計画的な審理を停滞させるものと判断します。到着次第参加は認めますので」

『あ、そういう系?言われてみれば、遅刻してるダクネスちゃんが悪いのかもね。』

 

  裁判長は、球磨川達の弁護人がいないのをさして気にすることもなく。スムーズな審理を目指して早速冒頭陳述を促した。

 

「では検察側より、冒頭陳述を」

「はい」

 

  セナが返事と共に立ち上がる。

  裁判長が、特に球磨川達に言い聞かせるように注意事項を述べた。

 

「冒頭陳述でも、嘘が含まれていた場合は魔道具が反応します。双方発言には注意して下さい」

 

  裁判場のど真ん中に設置された、見覚えのある白黒魔道具。取調室でも使用されていた、例の嘘発見器である。

 

『ここでもやっぱり魔道具頼みか。法の代わりってとこ?』

 

  楽しげに。裁判そのものをゲームに近い感覚で捉えている球磨川さん。

  今の発言が裁判長への侮辱だ何だと言われては面倒なので、めぐみんとアクアにだけ聞こえるように話す。

 

「球磨川さん。これ、ガチでヤバい奴よ。デストロイヤーの爆発で死んだ人が沢山いるのは事実だから、最悪死刑だってあり得るの!」

 

  珍しく焦った様子のアクア様。

  球磨川の学ランをぐいぐい引っ張りながら、上目遣いで見据えてくる。

  守ってあげたくなるのは、小動物的可愛さというものか。

 

『死刑って、つまりは勝訴だろう?アクアちゃんてば、何をそんなに焦っているのさ』

 

  死刑イコール勝訴。デタラメな、裁判の存在意義を無くする認識は、球磨川ならではのもの。【大嘘憑き】で死をなかった事に出来る以上、さして死刑に恐怖を抱けないのだ。アクアの言葉には、むしろ隣にいためぐみんの方が焦っていた。

 

「ミソギは反則みたいなスキルのせいで、麻痺しているのです!わかっていないようなので言いますが、犯罪者になったら冒険家業も終わりますからね?ギルドや街の住人からの信頼が得られないと、ろくに仕事も来ませんよ」

 

  球磨川さんにとって死刑程度、今更屁でも無い。であっても、有罪判決そのものは今後の冒険者生活に致命的なダメージだと、めぐみんは言う。

 

『まあ、そうかもね。前科者だから依頼したくないっていう気持ちは、僕にはわからないけれど。めぐみんちゃんが言うなら、100歩譲ってひとまずはそういうことにしておこう』

 

 前科者に進んで依頼する物好きは多くないだろう。

  これからも冒険者としてやっていくのなら、バルターを完膚なきまでに潰し、疑惑を晴らす必要がある。

 

「それとミソギ。セナの発言でおかしいところがあれば、すかさず異議を唱えるんですよ?沈黙は肯定ととられますからね」

 

  めぐみんは真剣だ。爆裂魔法を強化する際、威力と発動速度のどちらから上げるかを迷っている時みたいに。生死がかかっていては、誰だろうと本気になるしかない。

 

『おかしなところって……。僕から言わせれば、セナちゃんの取調は全部が言いがかりだったんだけど』

 

  それはもう、セナの全ての発言に反論がヒットしそうなくらいには。まあ、バルターによる情報操作があってようやく成り立った冤罪だ。整合性なんかとれているわけが無い。

  球磨川達は一つ一つ確実に、矛盾をついていけばそれで良い。

 

  セナは裁判場に響かせるようにして、冒頭陳述を開始した。

 

「被告人達は今回のデストロイヤー出現を利用して、大勢の冒険者を殺害しました。被告は、ギルドのデストロイヤー警報が出るよりも早く、デストロイヤーと交戦していました。これは事前にテロを企て、それに伴い周辺を調査したから可能だったのではないでしょうか。つまり、彼らはデストロイヤーの出現を知っていたのです」

 

  セナは裁判長に、既に提出していた書類を見るように勧める。そこには、アクセルの見張りを務めていた兵士による一部始終の報告が記載されていた。球磨川達が真っ先にデストロイヤーと接触した事実と、足だけ破壊した後、デストロイヤーを放置して何処かへ立ち去ったとの文字が。

 

「ふむ、本来ならギルドへ報告に行くはずですな。デストロイヤーの後処理をするようにと」

 

  裁判長は首をゆっくりと横に振り、球磨川達が冒険者としての義務を果たさなかった事を指摘した。

  確かに討伐任務なんかでは、ギルドにモンスターの死体回収を頼む仕組みになっている。

  裁判長の反応はまずまず。セナはにわかに目を細めて続ける。

 

「裁判長。彼らがギルドへ報告していたら、今回のような事態にはならなかったでしょう」

 

「確かに。ギルドが情報を得ていたならば、対策は出来たということですな」

 

「ええ」

 

  満足気に、セナさんが頷く。

 

「では、何故彼らはあえて報告しなかったのか。その理由は何かと考えた場合。……最初から冒険者達をデストロイヤーの自爆に巻き込ませようとしていた以外に、考えられません。テロを起こそうとしていたなら、報告しなかったのも頷けます」

 

  セナはペラペラとよくまわる舌をもって、着々と球磨川達の印象を悪くしていく。裁判長も「うーむ……」と唸り、改めて資料を読み込む。

  球磨川達がテロリストだという前提があれば、セナの言うことは一理ある。これに対して、球磨川達に弁明はあるかと裁判長が水を向けようとしたところで。

 

「裁判長!!」

 

 原告。アレクセイ・バーネス・バルターが椅子から立ち上がった。

 

「ど、どうされました?」

 

「どうか、……どうか彼らに寛大な処置を。確かにテロは悪です。許されるものではなく、罰せられなければいけません。しかし、彼らには魔王軍幹部討伐といった功績もある。その辺りを考慮して頂きたい」

 

  バルターは真ん中分けにした髪をかきあげ、うやうやしく裁判長に一礼。貴族のお辞儀はこうするものだと、教本に載せても良い程綺麗な動作。裁判長が、勝手な発言を注意する機を逸するくらいには、洗練されていた。

 

  打ち合わせにないバルターの発言。セナも虚をつかれたものの、これを利用しない手はないと頭を切り替える。

 セナはバルターの気持ちを汲みたそうな顔をしつつ

 

「バルター殿、貴方は慈悲深いお方だ。ですが、此度は犠牲者の数があまりにも多すぎます。周辺の街から冒険者を集めてこなければ、最低限の安全も確保出来ない程に。ゆえに、彼らには極刑が相応しいと検察側は判断します」

 

  告発人と検察でやり取りする光景は、意外にも裁判長を刺激した。それも、原告側に良い印象を持つように。

  オホンと、裁判長は咳払いをする。

 

「検察、並びに告発人。勝手な発言は慎むように。判決は我々が決めるものであり、貴方方が口を出す事ではございません」

 

「はっ、失礼いたしました」

 

  セナ達に対してお決まりの注意はしてみたものの、確実に心を揺らされた裁判長。バルターの善良さは折り紙付きで、大量殺人を行ったであろうテロリストにさえ情けをかけるとは。こんなにも慈悲深い人間が他にいるだろうか。加えて、バルターには何度か裁判の経験もある。いずれも、凶悪犯を死刑や無期懲役にする素晴らしい功績だった。対するセナの発言も、犠牲者遺族の心傷を思えば当然のもの。此度の判決、貴族と検察、どちらをたてるべきか。裁判長の中では、どうやら原告側に有利な判決を下す方向らしい。セナとバルターは、それだけ裁判所に信頼されているようだ。

 

「では続きまして、被告人。冒頭陳述を行って下さい」

 

  死刑か、否か。 考えをまとめる時間が欲しかった。裁判長は球磨川らの発言中、頭を整理しようと試みる。また、一応は公平に被告の主張も聴く義務もある。だが……

 

『はいはーい!冒頭陳述しちゃいまーす。うわー、緊張するなぁ。ホラ、僕って裁判とか初めてな訳だし、なんなら人前で話すこと自体苦手じゃない?しかも、この冒頭陳述はかなり重要だっていうから、実はさっきから喉が渇いちゃって』

 

  場にそぐわない明るい声で、思考は強制的にストップさせられた。

 

「被告人!貴方の裁判歴は聞いておりません。必要な事だけを述べるように」

 

  セナとバルター、人間が出来ている(ように見える)二人の会話があったからこそ、続く球磨川の陳述に裁判長は苛立ちに似た何かを感じてしまったのだ。

 

『あ、そう?えーとね。バカにもわかるように結論から言うけど、僕はテロなんかやってないよ。むしろデストロイヤーと正面から戦ったヒーローだ!』

 

  ザワッ。

 

  真っ向からの否定。自分はテロリストではないと。傍聴人はどよめき、裁判長も言葉を失う。

 

「テロリストではないと?では、何故ギルドへの報告に行かなかったのですか。貴方の怠慢が、結果として多数の死者を出してしまったのですよ?」

 

  球磨川の発言に、魔道具は反応しない。その結果をふまえて、裁判長が気になる点をたずねていく。

 

『ギルドに行かなかった理由かぁ。あー、なんだろ。理由なんて、考えたこともなかったなぁ……』

 

 まあ。やはりというか、 球磨川にまともな返答を期待するだけ無駄だったが。

 

「なんですと!ギルドへの報告は、冒険者の責務ではないのですか!?」

 

『責務って……デストロイヤーを行動不能にしただけでも十分じゃない?デストロイヤーが自爆するのは予想出来なかったし。冒険者達が爆発に巻き込まれたのは残念で仕方ないけれど、それこそ結果論じゃないかな?』

 

「な、なるほど。デストロイヤーが自爆すると把握出来ていたなら、ギルドへ報告していたということですね?」

 

『そう、大正解。ミソギポイントをプレゼント!』

 

  よくわからないポイントが、裁判長に加点された。

 

『にしたって裁判長さんさぁ、被告側の冒頭陳述を聞く前に原告側の主張を認めかけるとか……裁判長失格じゃない?ミソギポイントマイナス!』

 

 そして、よくわからないポイントが減点された。

 一体、どういうポイントだったのだろう。

 

「むぅっ……!」

 

  裁判長は茹でられでもしたみたいに顔を赤くし、小刻みに震える。

  故意ではないにしろ、球磨川の行動で死者が多数出た今回の一件。しかし球磨川からは自責の念など一切感じられず、貼り付けたような笑顔が一層裁判長を苛立たせた。

 

「球磨川さん、なんで裁判長を煽るわけ?とても怒ってるように見えるんですけど。私の気のせいよね?」

 

  恐る恐る、アクアが裁判長をチラ見しながら球磨川を小突く。めぐみんも複雑そうな顔をして

 

「いえ、アレは絶対怒ってますね。ですが、ミソギの発言に魔道具が反応しなかった以上、真実だとわかってもらえたはずです」

 

『僕だって怒らせたくはなかったけれど、しょうがないよ。裁判長がバルターさん達にすっかりお熱みたいだったし、悪態の一つもつきたくなるのが球磨川禊だぜ。僕は悪くない』

 

  冒頭陳述は終わった。裁判長の怒りをかったのは球磨川の自業自得として。

  嘘発見器自体は、球磨川達を優位に立たせている。これは、実際球磨川達は無実なのだから当たり前だ。被告の発言が全て真実だと思われては流石に勝てない。いち早くそれを察したバルターは音もなく立ち上がり、八方美人スマイルで裁判長に提案する。

 

「裁判長。その魔道具はとても曖昧な物です。発言者が真実だと思い込んでいる事象は検知しないケースも確認されております。クマガワ被告が自身はテロリストではないと思い込んでいるならば、魔道具が反応を示さないのも頷けるのです」

 

  よく通る声で、優しく諭すよう魔道具の欠点を述べるバルター。

  改良の余地ありと裁判所や警察でも課題になっていた嘘発見器も、法整備されていないこの世界では大切な基準だ。だから、今回も採用されてはいたのだが…

 

「バルター殿、貴方のおっしゃることはもっともだ。過去にも何度か貴方が告発人となった裁判がありましたが、魔道具に惑わされた事も少なくありませんでしたね。しかし、魔道具無しでの判決というのも……」

 

  流石に、一切魔道具に頼らないのは裁判長も自信がないようで。球磨川に失格と言われたのが、若干効いている様子。

 

「迷う必要はありませんよ、裁判長。最終的な決定権は貴方にある。我々の主張を取捨選択した上で下された結論ならば、誰も文句など言いません」

 

  ニコッと笑いかけられ、裁判長は決心した。

 

「……わかりました。元々、三人同時の異例な裁判です。今回は、この私が責任をもって判決を下すとしましょう」

 

  どこからか黒服の男が現れて、よくわからない内に魔道具が片付けられていく。その様子を、めぐみんとアクアはポカーンと見ていることしか出来ずにいた。

 

  裁判を客観視する為の重要な道具を、こんなにアッサリ片してしまうとは。

  以前から面識はあるらしいバルターと裁判長だが、仮にも告発人の言葉に素直に従う裁判長なんて、ロクなものじゃない。

 

  魔道具を片付ける係の人が居なくなったところで、めぐみんは魔道具無しのヤバさを認識。隣のアクアを抱きしめた。

 

「まずい、まずいですコレは。どうしましょうアクア!なんで裁判長はバルターの言うことをホイホイ聞くのですか!おかしいじゃないですか!!」

 

「私も同感よ、めぐみん!……でもね?あの魔道具については、無くなってもいいかなって思ってるの」

 

  意外にも、アクアは魔道具を必要ないと言った。めぐみん達被告側のライフラインを、だ。

 

「何故です!?」

 

  堪らずめぐみんが理由を聞くと、 アクアは取り調べを思い出しながら述べる。

 

「だってあの魔道具ったら、私が女神だと名乗っても嘘扱いする不良品なんだもの。邪魔なのよ、あんなベル!」

 

「いや、それは思いっきり嘘じゃないですか……」

 

「う、嘘じゃないわよっ!?」

 

  めぐみんに嘘つき認定され、アクアは思わず涙ぐむ。

 

『あーあ、こうなっちゃうんだ。個人の考えで判決を下していいのは、世界中でも異世界でも、長者原君ただ一人なんだけどなぁ』

 

  舵を失った裁判の先が思いやられる。

  球磨川はかつての選挙管理委員を懐かしく感じるのだった。




『マミさんは死んでも、僕達の心の中で生き続けているんだ!』

裁判長、これサイバンチョじゃない?バルター寄りすぎぃ!

そして。裁判が進むと、球磨川さんの過負荷度が強くなっていくので、ちょっと胸糞悪くなるかもしれません。

現実から切り離してみてね!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。