この素晴らしい過負荷に祝福を!   作:いたまえ

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このすばを更新できない間、後学の為に球磨川さん一人称の小説を書いてみました。過負荷の思考をトレースするのはやめましょう、具合悪くなります。

脳が……脳が震えるぅぅぅっ!!


五十二話 裁判 後編

  最初は半ば出来レースの様相を呈していた裁判も、ここに来て球磨川達に追い風が吹き始めた。

  セナは基本的に優秀な部類に入り、悪手と呼べる手はまずうたない。徐々に徐々に球磨川達に追い上げられてしまった原因はセナ本人ではないのだ。

 

  雲行きが怪しくなったのはダストの証人尋問からだが、けれど人選をミスしたわけでもなく。ダストの証言は、もしも相手が真っ当な人間だったのなら、九分九厘打撃を与えられただろう。通用しなかったのは、球磨川禊がおよそ普通とはかけ離れた性質を持っていたからに他ならず。

 

  有り体に言って。

  相手が悪かったのだ。

 

  それでも今更引くことは許されない。

 

「申し訳ありません、バルター殿。予想よりも被告側に粘られてしまっています」

 

  数えるほどではあるが、セナとバルターがタッグを組んだ裁判は常勝。相手に抵抗さえ許さず、犯罪者達の人生を終わらせてきた。民衆の支持は勝利を重ねていく度に増していき、輝かしい無敗記録は今日でまた一つ伸びる予定だった。アクセルの未来を左右しかねない、大規模テロというやや難しいケースとはいえ、準備は怠らず。冷静沈着に事を運べば十分勝利をもぎ取れる筈だと。

  裁判が始まる前、そう判断してしまった過去の自分を止められるとしたら、止めたかもしれない。

 

  ただ。今のセナの言葉に諦観はなく。彼女にとって球磨川の反撃は、たんなる足掻きでしかないとでも言うように。

  バルターとセナが手を組めば、球磨川ですら相手にならないと考えているのだろうか。

 

「ダスト氏が証人として役立つと判断してしまったのは早計でした。被告側にプラスとなる要素が皆無な人材を、丁寧に選定しておけば……」

 

  ダクネスが弁護人席に移動する短い間、セナはバルターに不甲斐ない現状を詫びた。本質的には、謝罪の意味よりかは助けが必要だというセナからのSOSだが。

 

(すみません、バルター殿。手を貸して下さい…)

 

  しかし……

 

「そんなことは、言われなくてもわかります。それで、貴女の仕事は私に詫びる事なのですか?」

 

「え?ば、バルター殿…??」

 

  原告、さわやか風イケメンの顔は曇り気味。セナの提案をスルーした。

 

「違うでしょう。ただ、勝つこと。弱音を吐いている余裕があるのなら、勝利に繋がる道を模索して下さい」

 

「そ、そんな…!」

 

  返ってきた言葉はなんとも冷たいもの。他の裁判にて、バルターとは二人三脚で被告を追い詰めた過去もある。実際、先ほども助け船を出してくれたというのに。どうやら、今日のバルターはあまり協力的ではなさそうだ。

 

(いえ…バルター殿に助けを求めたくなる時点で、既に状況は芳しくないという事ですか)

 

  セナは深く呼吸をして、全身に酸素を行き渡らせた。

 

(認めましょう、球磨川さん。貴方は素人にしては弁が立つようです。ならば……こちらとしても、遠慮はいらないというもの)

 

  逃げ道を塞いでからトドメをさす。そんなポリシーを曲げてまで、セナは一撃で球磨川を潰す方法をとる。

 

  セナがバルターから原告代理人を依頼された際、バルターは切り札となる証人を用意したと告げてきた。正直、この証人がいるかいないかで、セナが仕事を引き受けるか否かも変わっていた。

  バルター曰く。球磨川達のテロ計画を細部まで知る人物だそうだ。

 

  1ターン目から繰り出せるエクゾディア…みたいな証人を使う決意をし終えれば、丁度ダクネスが弁護人席で裁判長に頭を垂れていた。

 

「審理を停滞させた無礼、お詫び申し上げます。弁護側、準備完了しました」

 

「結構。それでは、再開致しましょう」

 

  裁判長の号令で、裁判が再開した。

 そこそこの時間を経てきたものの、傍聴人の中に、退屈や疲労を感じているものはいない。確かに、球磨川達を悪者にしようと躍起になる思考停止した愚か者は、街全体にはチラホラ存在する。が、傍聴までしにくる人間達は皆一様に、真実を明らかにしたいと願っている。愛する家族や恋人は、どうして命を終えなければならなかったのか。自分の怒りや悲しみは、誰に、何に向ければ良いのか。今はただ、それだけが知りたいと。

 

「バルター殿。」

 

  セナは決めておいたポーズでバルターの許可を得ようとする。ただ眼鏡を外すだけではあるが、それが切り札を使用する合図。

 

「……いいでしょう。幕引きですね」

 

  待ってましたと、バルターも即答。

  セナのポリシーは出来る限り尊重するスタンスのバルターだが、今日この時だけは出し惜しみをして欲しくはなかった。なにせ長引けば長引くほど真実が浮き彫りになり、球磨川達が無罪へと近づいていくのたから。聴衆が、球磨川達は無罪なのではと気づき始めている。

 

(だがしかし、ギリギリ間に合ったか)

 

  一人静かに、バルターは息を吐く。

 

  変にセナに入れ知恵したことで、彼女に絶対的な安心感を抱かせてしまった。心の片隅でそれは慢心となり、球磨川に隙を見せたのだ。

 

(今度セナを利用する時は、適度な緊張感を与えてやらねーとな。あそこで助けなければ切り札に縋ると予想したが、ズバリ的中したぜ)

 

  優等生な仮面の裏で。バルターは失敗を自分の糧とする。将棋やチェスでコマの動きを覚える程度の感覚で、今後のセナの利用法を学んだのだ。

 

「裁判長、第二の証人を呼び、尋問を行いたいのですが」

「ほう、次の証人ですか……」

 

  満を持して。セナが切り札投入を試みる。

 

「ちょっと。マズイんじゃないかしら。セナとかいうメガネ女が、また証人尋問しようと企んでるわよ!」

 

  アクアは慌てて仲間達を見やる。

  まあ、相手が呼ぶ証人なのだから、それはもう相手が有利になる発言しかしないことは、水の女神様にも理解出来たらしい。

 

「アクアの言う通りですよ。さっきのダストはうまく利用出来ましたが、運が良かったと捉えるべきかと。あちらもそうそう反撃を許してはくれないでしょう」

 

  めぐみんもアクアに同調し、何か手をうつよう球磨川とダクネスに求めた。だが、いつもそこそこに頼り甲斐がある裸エプロン先輩も、ここではお手上げの状態。

 

『あいにく、僕ももう手札がないよ。手札が無ければハッタリすらかませないし、ここはもうダクネスちゃんを頼るしか方法はないだろうね』

 

  ということで、三人から期待の眼差しを受けることとなった弁護人。普段の冒険では、壁役としてならともかく。攻撃役としては微塵も期待されないダクネスさん。

  それが今、ある種攻撃役として大きな期待を抱かれている。

 

「わ、私が……こんなにも期待されるなんてな」

 

  ドエムの騎士でも、どうやら辱めを受ける以外で昂りを覚える事もあるらしい。プルプルと小刻みに震えてから、ダクネスさんはキリッとした表情をどうにか作り上げて。

 

「お待ちください裁判長。原告代理人は証人を呼ぼうとしているようですが、次に証人を選ぶ権利は被告側にあるのではないかと」

 

  連続で証人を呼び続ける事が許されれば、誰だって裁判に勝てるだろう。

  反対尋問を認めてくれた柔軟な裁判長は、当然ダクネスに理があると判断してくれる。

 

「被告側も証人を用意していたのですね。よろしいでしょう、原告代理人の前に、被告の証人尋問を許可します」

「……ありがとうございます」

 

  ダスティネス家の威光に裁判長が屈したからかは定かじゃないが、すんなりとダクネスの提案が通る。

  必殺の一撃を出し損ねたセナとしては焦せらざるを得ず。

 

「くっ……」

 

  悔しげに拳を机に落とし、歯を強く強く嚙みしめる。

  反撃の機会を先延ばしにされた。喪失感に似た何かは、セナの聴力に異常をもたらす。ダクネスの凛々しい声が、なんとも遠くに聞こえてきた。

 

「では、証人はお入り下さい」

 

(…ララティーナ嬢。一体どのような証人を用意したのでしょう)

 

  こうなったら、被告側の証人を利用してやればいい。意気込み、セナは重厚な木扉を見据えた。

  球磨川、めぐみん、アクアの期待を一身に背負ったダクネスが選んだ証人だ。一筋縄ではいかないはず。だが、逆のパターンで球磨川はやってのけた。裁判さえ初めての素人に出来て、自分に出来ないわけがない。

 

  ギギィ……と、本日3度目の扉が軋む音。

 

  証人の一挙手一投足を注意深く観察してやろうと意気込んでいると。

 

「……なんだ、これは。あり得ん。何がどうなっている。」

 

  セナの隣。何事にも動じないバルターが、突然情けない声を出したのだ。かすれて、途切れ途切れの肉声。聞くものすべてに、自分は不安だと宣言しているも同然の。

 

「バルター殿、これは一体…」

 

  証人の登場で、急に狼狽え出したバルター。慌て様は素直に、【バルターらしくない】反応。そして、セナも同様に驚きを隠せていない。

 

『あらら、どうしたんだい?原告のお二人さん。顔中に脂汗かいてるよ、汚いなぁ、ハンカチいる?』

 

  球磨川に言われて我にかえる。

  バルターもセナも、あまりの事態に我を忘れていた。

  落ち着きを取り戻し、バルターは努めて冷静な口調で証人に問う。

 

「エルク。どうして、貴方が被告側の証人になっているんです…!」

 

  バルターとセナが動揺するのも当然。

  ダクネスの呼びかけに応えて現れた証人。エルクと呼ばれたその男こそが、バルター達が切り札と呼んでいた人物だったのだ。

 

  球磨川達を一撃で葬るはずの証人が、自分達の敵として現れた。

 

  エルクは胸を巨大な螺子で貫かれ、髪も白く染まっている。普段と同一人物とは思えないほど変わり果てた姿。

  それでも、バルターにはわかる。

  何故なら、彼は此度のテロ計画を最初から最後まで支えてくれた、腹心の部下だからだ。

 

「バルター殿、申し訳ありません。今の私に、ダスティネス家に逆らう気力はないのです」

 

  髪だけに留まらず、全身からぼんやりと負のオーラを放つエルク。態度や言葉からは、微塵もやる気を感じない。

  この様子だと、バルターと打ち合わせて矛盾なく仕上げた嘘の証言も言えないのではないか。

 

「気力がない……?第一、その胸の螺子はなんですかっ!?」

「あ、これですか?……説明するのも面倒なので、しなくても良いですか?」

「……んだと?おい、お前本当におかしくなったんじゃないのか?」

 

  怠惰。エルクの胸に突き刺さった巨大な螺子から、強烈な怠惰の感情が流れ込んでくる。遠くにいるバルターの精神にさえ働きかけてくるあの螺子は、一体なんなのか。また、アレに貫かれているエルクの心は、確実に無事ではあるまい。

 

『あはは。バルターちゃん、焦るあまり敬語キャラじゃなくなってるって!それから、その螺子にシンパシーを感じてくれたみたいで嬉しいよ』

 

「く、球磨川君……!あの螺子を知っているのですか?エルクの、私の配下の身に何が起きたのです」

 

  バルターは、螺子から流れ込む感情を【怠惰】と認識した。それは、彼の辞書に【過負荷】の文字がなかったからであり、いわば暫定的なものだ。

  ならば、説明しよう。

 

『何が起きたか、ねぇ。簡単な事だ。エルクちゃんは、【過負荷】になったのさ。僕とお揃いのね』

 

「まいなす……?」

 

『そ、過負荷。以上で説明は終わりにして。エルクちゃん、証言しちゃってよ!』

 

  親指をグッとたて、ウィンクする球磨川先輩。過負荷に対する説明は圧倒的に足りないが、状態異常に近いものだろうかと、バルターは考える。

 

  「まさか。」

 

  怠惰に支配されようと、過負荷に飲み込まれようと。バルターを裏切るようなエルクではない。

  幼少の頃から共に剣と勉学に励み、父、アルダープが消え去った後も、一切態度を変えずにつかえてくれた。

  親よりも、兄弟よりも信頼に足る男。単純に、裏切りを認めたくなかったという心の弱さも邪魔をして。

 バルターはエルクの証言を止められず。会心の一撃は、痛恨の一撃となって返ってきた。

 

「告発人、アレクセイ・バーネス・バルターは、アクセルのギルド長と協力し、無実の球磨川被告をテロの首謀者に仕立て上げました。」

「……。エルク、キサマ血迷ったか!!」

 

  限界まで目を見開いたバルターは、エルクに飛びかかった。裏切りが確定すれば、生かす価値もない。

  余計な証言をする口をふさぐため、喉を握り潰そうと試みる。非常に高いレベルを誇るバルターの跳躍。一度瞬きすれば、二度と視界に捉えられない程のスピード。だが。

 

「バルター殿、今原告の発言は許されませんぞ。」

 

  裁判長が木槌を振ると、バルターとエルクの間を引き裂くように稲妻が走った。思わず足も止まる。少しでもかすれば、根こそぎHPを持っていかれそうな、高位の雷魔法。

 

「くそ……!」

 

  バルターの暴走は、呆気なく阻まれた。

 

「加えて。バルターは、戦死した冒険者達の指揮をとり、デストロイヤーの自爆に巻き込ませた大罪人でもあります」

「なんですと!?」

 

  自分が殺されかけても歯牙にもかけず、エルクは淡々と証言を終えた。命ごとき、どうでもいいらしい。

  いよいよ、裁判所、傍聴人の認識が書き換えられる。正義がどちらにあるのかを。

  バルターがなりふり構わずエルクを口止めしたのが全てだ。

 

「ま、まて!みなさん、これは何かの間違いです。エルクの発言は、全て戯言、聞き流して下さい。……ね?」

 

  バルターは小学生レベルの抵抗をするが、ただ見苦しい。裁判長も、傍聴人も、そして球磨川達も。皆冷めた視線だけを注ぐ。

 

「裁判長。これら26点の書類を、新たな証拠書類として提出致します」

 

  止めに、ダクネスがエルクから預かった証拠書類を裁判所に提出。テロの計画から、アクセル全体の情報操作に関するものまで。エルクが球磨川達から隠し通した書類が、白日の下に晒されたのだった。

 

「これは。どうやら、決定的な証拠になりそうですな。バルター殿、一時的に貴方を拘束させて頂きます」

 

「うそだ、この俺様が……!」

 

  マッチョ共に押さえ込まれ口を切ったバルターは、血と共に呻き声を床に投げつけた。

 

 ……………………

 ……………

 ………

 

  球磨川は言った。タダオと共にアレクセイ邸を探索していた折。

 

『裁判に負けない方法が、いくつかある』と。

  禁断の過負荷、【却本作り】をエルクに撃ち込んだのは、その直後。

 

  タダオのモーデュロルによって、首から下を床に埋め込まれた男。バルターの留守中、屋敷を守っていたあの兵士こそが、エルクだったのだ。

 

「う…。なんだ、これ………」

 

  螺子に貫かれたが最後。

  髪は染まり、顔からも生気が消え失せて行く。

 

『なんだかんだと聞かれたら、答えてあげるが世の情け!君の身体に刺さったそれは、【螺子】というんだぜ!』

 

「…これで、この兵士は裁判でお前有利な証言をするのか?」

 

  螺子の効果を信用していないタダオが、球磨川に聞く。

 

『んー、いけると思ったり思わなかったり。微妙に運の要素もあるけれど、過負荷になった兵士さんが、エリートの最たるバルターさんに忠誠を誓い続けるのは難しいと思うよ』

 

  少なくとも、自分はエリートに尽くさないね。と、球磨川が付け足す。

 

  レベルも、知能も、体力も。

  一切合切球磨川と同じになれば、もうそれはエルクと呼べない。

 

  バルターとの友情。剣に誓った忠誠。エルクの全てであるそれらを簡単に消し去ってしまう理不尽なスキル。

 

  球磨川が言う、裁判に負けない為の策。これがなかったら、ダクネスは証拠を探しきれず、裁判所に到達すらしていなかったはずだ。

 

  屋敷を捜索中、バルターの戻りが気がかりで【却本作り】を使用するだけに留まってしまい、情報収集はどうしてもダクネス頼みになってしまったが……見事、ララティーナは期待に応えてみせた。

 

 ……………………

 ………………

 …………

 

  裁判所が、数時間かけて書類の確認を行う。探しても探しても見つからなかった、紙媒体の証拠達。

  中にはバルターの筆跡と一致する記述も存在した。

  審査するほど、今回バルターが企てたおぞましい計画の全貌が明らかに。

 

  セナは既に膝から崩れ落ちており、空中の一点を見つめ続けている。

 自分が極悪人を助ける為に頑張っていたのだと知ったショックは、いささか大きすぎた。

  バルターはエルクに襲いかかったことで、屈強な男達に腕を掴まれ身動きがとれずにいる。審査が終わるまでという条件つきだが、恐らくこのまま牢屋に連れていかれるだろう。

 

「やりました、もうこれは勝ちですね。我が爆裂魔法を使うまでもなく勝利です!」

 

  ぴょんぴょんと飛び跳ね、体全体で喜びを表現するめぐみん。

 

「まあ、私のおかげね。マンガンロンパをやり込んだ甲斐があったわ!」

 

  冤罪の容疑は晴れた。

  傍聴人達の目も変化し、球磨川達を英雄だと讃える。

  起動要塞デストロイヤーを1パーティーが戦闘不能にさせた前例はない。

  球磨川達の名は未来永劫、英雄として教科書に載るだろう。

 

  厳格な審査は終了した。

  裁判長が、判決を下す。

 

「主文。起動要塞デストロイヤーに纏わるテロ騒動において、被告は無罪とする。少人数のパーティーで起動要塞デストロイヤーの足を破壊した功績は大きく、テロを行った証明となる証拠の殆どは捏造。テロリストだと断ずる根拠はあまりに薄弱です。言葉巧みに冒険者を操り、自爆寸前のデストロイヤーに特攻させ、功労者たる被告に罪を被せた原告、アレクセイ・バーネス・バルターの罪は重く。バルター殿の裁判を別日に執り行ないます!!」

 

  完全勝利。傍聴人席から拍手が起き、球磨川達の勝利を彩る。バルターは結局拘束が解かれぬまま、警察署までしょっぴかれることが決定。

 

「認めん……認めんぞ!俺は絶対に球磨川君のお尻を可愛がる……!!それまでは、絶対に死なんからなっ!」

『……お断るよ、バルターさん』

 

  ガチムチ達に手取り足取り、丁寧に牢屋へと連行されたバルターさん。

  ガチムチタイプより、中性的な男の子が好みのようだ。

  球磨川に寒気を感じさせる程、バルターの執念は凄まじかった。

 

 …………………………

 ……………………

 ………………

 

  真犯人がいなくなった法廷で、裁判長は球磨川達に歩み寄ってきた。

 

「球磨川さん、めぐみんさん、アクアさん。此度は多大なご迷惑をおかけし、本当に申し訳ない」

 

「いいのよ、謝らなくても。私、一度裁判ってヤツをやってみたかったの!サイバンチョも良く頑張ったと思うわ。でも、私達の第一声で無罪だってわかるようにならないとダメよ?」

 

「は、はぁ。精進します」

 

  アクア様はサイバンチョの肩をパシパシ叩く。とびっきりの笑顔で。

 

「こらアクア!この街の碩学である裁判長になんて態度をとるんだ!すみません、裁判長」

「いえ、気にしてませんよ」

 

  今回は良い働きをしてくれたダクネスさんがアクアを引き剥がし。

 

「……それで、どのようなご用件ですか?裁判長が直々に声をかけに来るなんて」

 

  わざわざ健闘を讃えにきた、というわけでもなさそうだ。ダクネスは裁判長に本題を促した。

 

「どういうことです?裁判長は、我々に何か伝えに来たのですか?」

 

『かもね。めぐみんちゃんの疑問に答えてもらえるかな、裁判長さん』

 

  ダクネスは一目で裁判長の狙いに気づいた。裁判での勝訴を祝う流れから、ある依頼をする予定がいきなり崩れてしまう。なるほど、デストロイヤーを追い詰めたのは伊達じゃない。

 

「では。既にご存知の通り、このアクセルの被害は甚大です。自由に動ける凄腕冒険者となれば、貴方達しかいません」

 

『だろうね。凄腕ともなると、僕達しかいないかもね。それでそれで?』

 

「はい。そこで一つ依頼したいのです。」

 

「依頼……」

 

  なんだか嫌な流れになってきた。

 聡いめぐみんは眉をひそめ、裁判長の言葉を待つ。

 

「先ほどエルク殿の証言にあった、この街のギルド長が、昨日から王都へと出張している事がわかりました。もしもバルターと手を組んでいたならば、彼も罪を償わなくてはなりません。貴方達に、ギルド長の捜索をお願いしたい」

 

 王都にて、ギルド長を捜す。

  疲弊しきったアクセルとしては、球磨川達に頼るしかない。王都の冒険者にも頼む予定だが、体裁的にアクセルからも冒険者を出した方が何かと好都合なのだ。

 

『王都か。そういや、クリスも言ってたな。王都になんかのヒントがあるとか』

 

  前にクリスから頂いたアドバイスを思い出した裸エプロン先輩。

  王都に行けば、魔王討伐に近づくかもしれない。

 

「どうする、ミソギ」

 

『勿論、行くに決まってるさ!困っている人を助けるのが冒険者の務めだしね!!』

 

  神妙な顔で問いかけてくるダクネスに、球磨川はドヤ顔ダブルピースで答えてみせた。

 

 




裁判場の扉と書きたいのに、予測変換で
裁判長の扉ってなっちゃう。意味深。

てか、却本作りで髪染まるの、白髪でいいのかな。
わからん。
球磨川くんが大嘘憑きで冒険者を生き返らせるご都合展開も考えたけれど……劣化してるからなぁ

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