この素晴らしい過負荷に祝福を!   作:いたまえ

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カズマさん無双、はっじまーるよー!

※番外編です。本編に影響は無いので、升が嫌な人は読むのをお控えください。



番外編 【リンカーネーション】

  かつて。何度目の追体験だったかはあやふやだけれど、転生先がアクアの不手際によってズレた世界があった。

 

  一つの人生しか知らない当時は、アクセルに飛ばされるのが正規ルートだなんて知る由も無く、何の疑いも持たずに日々を過ごしたから、関係無いと言えば無いけど。今となっては、ポンコツ女神が転生をしくじったのだとわかる。

 

  その俺は、ベルゼルグの隣国に飛ばされて、神剣を特典として貰い魔王討伐を目指していた。

  高難度のクエストを、神剣に頼ってソロでこなしていく毎日。あまりにも順調な冒険者人生を過ごす中で。噂を聞き付けたお城の大臣から、王宮の兵士にスカウトされるまでに至る。

  騎士団に所属する王道の展開に心を揺らした俺は、二つ返事で了承し、厳しい異世界での修行にもどうにか耐えられていた。

 

  モチベーションは大事だね。

  ゲームのような体験は、引きこもりの俺を熱血な体育会系に変貌させてしまうくらい素晴らしく。転生して数年。ひたすらに鍛え上げた肉体は、転生特典を加味すると、王国でもトップクラスになるまで上り詰めていた。

 

  騎士として、王族や貴族の為に剣を振るう生活。【神剣の勇者カズマ】の名は他国にまで轟き、それなりの資産も手に入った。【この俺】の異世界生活は成功の部類だったと自負している。

 

  もうそろそろ、魔王討伐も視野に入れ始めたとある夏。

 

「あー、あっちぃ……」

 

  ジメジメとした暑さだけが印象に残った日。水分も補給せずに戦闘訓練に明け暮れ、身も心も疲労しきった夕暮れに。 俺は兵舎から200メートル程度離れた池のほとりで、一人涼んでいた。

  日が落ちかければ風も冷たく、チャプチャプと戯れる水の音が、耳からも体温を下げてくれる。風鈴で涼をとっていた日本時代が懐かしい。

 

「いくらチートな武器を持ってるからって、これだけに頼るのは死亡フラグだよなぁ。魔王軍幹部とか、中には【スティール】を使うヤツだっていても不思議じゃないし」

 

  水の女神アクアから貰った神剣、【ラグネル】を鞘から取り出して眺める。金色の刀身は長く、斬らずとも相手を叩き潰せそうなほどに重い。転生当初なら、自分の専用武器って補正が無ければ持ち上げるのも一苦労であったはずの重量。

  が、騎士として数年間訓練に明け暮れた恩恵で、補正が無くとも腕力で振り回せるようにはなった。

  でも、だからこそ。

 

「……他の武器も、扱えればなぁ」

 

  剣は基本装備だ。転生特典に恥じない完全チートな性能を誇るから、よっぽどじゃない限り俺はこのラグネルで戦闘をこなす。とはいえ、扱える武器が増えれば戦略の幅も広がるし、何より異世界まで来たんだから、色々な武器を使ってみたいってのもある。

  剣を取られて、肉弾戦ではクズ同然になっちゃうのは格好悪いしな。

  神剣にあぐらをかいて無双するのは確かに心地よいけど、個人的にはプレイヤースキルや駆け引きで敵と渡り合うのも嫌いじゃ無いんだよね。

 

  スキルポイントには幾分余裕を残している為、新たな武器を使用するのは難しい事でも無い。

 

  弓に槍。斧にメイス。

  ゲーマーとしては、非常に悩ましい。そんな折。

 

「お困りのようだな!」

 

  背後から、妙に明るい声がした。

  振り返れば、くすんだ金髪が目に入る。

 

「おっと、ラインか。急に話しかけるなよ、びっくりするだろう」

「わりーわりー。いや、カズマが一人で黄昏てるからよ、あまりの似合わなさについ、な。邪魔したくなっちまった」

「失礼なっ!俺だってたまにはセンチメンタルになったりもするわ!」

 

  いきなり。不粋にも俺のハードボイルドタイムを台無しにしてきたのは、同じ騎士団に所属だけしている、ラインだった。【所属だけしている】とあえて表現したのには理由があって、このラインは元々下級貴族なのだが。

  生まれつきドラゴンに愛される体質を持つ【ドラゴンナイト】であり、また槍使いとしても王国一の実力な為、今はこの国の姫を護衛する任についているのだ。

 

  騎士団に所属していない人物がそんな大事なポストにいるってのは、王宮的にちょっと情けない。てことで、目の前のライン君はなんちゃって騎士団にされたってはなし。

  大人の都合ってヤツだな。

 

「んで?邪魔だけしに来たってのか?」

  俺はラインにうろんな目を向けて抗議する。

「いやー、最初はそうだったんだが……。カズマ、なんか面白いこと呟いてたじゃねーの」

「面白いこと?」

「おうよっ!なんか、新たに武器を使いたいんだろ?」

「あ、それか。まぁね、使えるにこした事はないとは思うよ」

 

  ラインはニッと笑うと、自身の背中に括り付けていた槍を構えて

 

「だったら槍はどうだ!王国一の槍使い、ライン=シェイカー様が、今なら無料で特訓してやるぜ!」

「槍……か。」

 

  どちらかというと、ラインは面倒臭がりな性格だったはずだ。一体、どういう風の吹き回しだろう?

  しかも無料でなんて言われちゃった日には、これは新手の詐欺かと疑っちゃうよね。

 

「これは新手の詐欺か?」

 

  なんて考えていたもんだから。

 言葉に出てしまった。うっかり。

 

「詐欺じゃねーよっ!?おいカズマ。いくらなんでも失礼だろ」

「つーか、いきなりどうしたんだよ、ライン。お前、進んで人に稽古をつけるヤツだった?」

「まー、こっちにも事情があんだよ」

「ふーん……?」

 

  怪しい。すいてる電車でわざわざ女子高生の後ろを陣取るおじさん並みに怪しいぞ。でも、ラインから槍を習えるってのはそれ以上に魅力的だ。

  性格はアレでも、腕は確かだからなー……

 

「んー。それなら、お願い出来るか?ラインさんよ」

 

  どうせだからと、頼んでみた。

 

「ああ、いいとも!これからは、カズマが王国を守るんだしな」

「はぁ?お姫様の護衛役が、何言ってるんだよ。お前こそ、最たるもんじゃないか」

「……ああ、それもそうだ。今のは気にしないでくれ」

 

  おかしなやつ。

 

  この時はいつもの戯言だと思い気にもしてなかったが。この日から数ヶ月後。俺が基本的な槍捌きを身につけたところで。

 

  ……ラインは衝撃的な事件を起こして、国を追われる事になったのだった。

 

 …………………………

 ………………

 ………

 

  おーい。

 

  いつまで追体験なんてどうでもいい事をしてるんだよ。そろそろ現実に生きてみる気はないのかな。

 

  ああ、そうか。

 

  かわいそうに。精神が壊れかけてしまっているみたいだね。それなら、起きられないのも納得だ。

  スキルを渡した手前、君が廃人になった責任は僕にあるようだ。一応、数多の世界を追体験する程度の所業は、このスキルを使う為の前提条件に過ぎないわけだが。

 一般人にはちょっと厳しかったみたいだね、ごめんね!ついつい、僕の物差しで判断してしまったよ。

  僕から言わせて貰えば、無限に近い追体験であっても僅か数瞬の出来事だからさ。別段、問題だとは思えなかったんだ。別の世界の自分をトレースするんだから、まぁ、あの程度の地獄はしょうがないと思ってくれ。

 

  それにしたって、廃人になってしまうとは予想外だったよ。

 せっかく、球磨川くんと共に魔王を討伐して貰おうと思ったのに。

  これでは僕のキスが無駄になってしまうじゃないか。あれでも、女の子としては結構な勇気を出したんだぜ?

 

  カズマくん、勝手言うようだけれど。魔王を無事討伐する為にも、君には異世界転生者としての活躍をしてもらわなくちゃいけないのさ。ホラ、球磨川くん達だけだと命が幾らあっても足りないだろ?

  【大嘘憑き】さえ完全……いや、負完全なら心配無いのだがね。

 

  いずれにしても、君は生きててくれた方が都合が良い。

  壊れかけた精神は、僕が特別に治してあげるよ。なぁに、礼には及ばない。僕は主人公って奴には一目おくようにしているんだ。厳密には今の君は主役と呼べないけれど。

 

  まあ、出来る範囲で頑張るといい。

  居場所を取られて尚、主人公補正とやらが働くのかどうか……

 

  せいぜい、楽しみに見させてもらうよ。

  それじゃあ、グッドラックとでも言っておこうかな。幸運が下がった君には嫌味かもしれないが。いや、スキルによって変化可能な君にはもう、嫌味でも何でもないんだったね。

 

  それでは。しばらくの間バイバイだ、カズマくん!

 

  そうそう。ひょっとしたら、近々僕もそっちに遊びに行くかもしれないから、その時は宜しく頼むぜ。

 

 …………………………

 ………………

 ………

 

  俺はいつの間にか、王都にいた。しかも、ベルゼルグの。

 

「……ん?」

 

  今は、いつだろう?

 

  タイムトラベラーにお馴染みのセリフを脳内で呟く。

  ここはどこで、私は誰?なんて。

  おっと、これだとタイムトラベラーというよりかは記憶喪失した人みたいだな。

 

  ここはベルゼルグの王都。

  俺は佐藤和真。

  ……よし、大丈夫だ。なんとか、自己を忘れたりはしていないらしい。

 

  唯一わからないのは、今この世界にいる俺が、転生してどの位なのかって事だな。

 

  道行く街の人が、なにやら慌ただしい。俺は手近な主婦っぽいおばさんにたずねた。

 

「あの、何かあったんですか?みなさん急いでるみたいですけど」

「何かあったなんてもんじゃないよ!駆け出し冒険者の街、アクセル付近で機動要塞デストロイヤーが出現したんだとさ!」

「デストロイヤー……か」

「あたしゃ、息子がアクセルにいるんだよ!避難して来るだろうから、近くまでは迎えに行くようにするつもりさ」

「そうなんですか。お話を聞かせてくれて、ありがとうございました」

 

  おばさんは、「あんたもアクセルには近づくんじゃないよ!」なんて言いながら先を急いだ。

  デストロイヤーが現れたのなら、まだ転生して間も無い時期ってわけだ。

 

「でも、場所が悪いな」

 

  どうして俺は王都なんかに?

  ここからじゃ、デストロイヤーを倒しにむかっても手遅れだ。

 

「待て。待てよ……?」

 

  なんとなく、引っかかった。

  引っかかりの正体について、ゆっくりと振り返る。

 

  俺は今。

 

【自分の意思】で動いたか?

 

  これまで無限に繰り返してきた追体験。枝分かれした世界での人生は、どんなにリアルであっても、最終的にはその世界の俺が選んだ道を進むだけだったのだ。

 

  例えば、追体験中に恐ろしいモンスターと対峙しても、俺は逃げたいのにその世界の俺が勝手に戦ってしまう……といったように。明晰夢でうまく動けない、的な感覚に陥った事がしばしば。

 

  加えて、今の俺は自分が転生してからの経過時間を確認する為の質問をした。もしもこれが追体験なら、この世界の俺がそんな大事な事を忘れる筈はない。

 

  俺は自分の右手を見つめて、意味もなく拳を広げ、握る。

 

「やっぱ、動く……」

 

  ……自分の思い通り、身体が動く?

 

「ここは、まさか……!!!」

 

  この俺、佐藤和真が最初に転生した世界だというのか!?

 

「……戻って……来た?」

 

  転生してから、何度人生を繰り返したのだろうか。終わりが見えず、果てしない道のりをただ歩くだけの時間。

  自分の意思とは無関係に進んでいく物語を傍観するような、拷問にも似た何かが。

 

  やっと。やっと終わりを告げた。

 

  俺は、俺自身のスタート地点に帰ってきたらしい。

 

「う……、うおおおおおぉぉぉ!!?来た!ついに、終わったんだ!!」

 

  次の瞬間は、人目も気にせず歓喜に打ち震えた。

  顔が紅潮し、達成感が全身を駆け巡る。このまま、3日間は喜びの舞を演じられそうではあったけど、悠長に構えていられる程の時間は無さそうだった。

 

「ふぅ…。さてと、どうしたもんかね」

 

  機動要塞デストロイヤー。

  もしも、ここが俺のいた世界なら。アクアがアクセルにいる。

 直接関わりは無いけど、めぐみんとダクネスだっているはずだ。

 

「間に合うか……?」

 

  王都にいても、彼女達は護れない。

 

  かつての、追体験した世界の俺であれば。肉体を、鍛えに鍛えぬいたサトウカズマだったら。もしかしたら、ギリギリ討伐に間に合うかもしれない。

 

  幾つかの世界では、実際に王都からアクセルまで走った経験もある。

 

「なら、行くだろ。行くしかねぇ!!」

 

  今の俺にはもう。大切な人達を護るだけしか、生きる希望が無いのだから。彼女らを、デストロイヤー如きに殺させて堪るか!

 

  ただ、このままでは厳しい。

  単なる冒険者なこの身体では、その辺のモンスターに殺されて終わるだろうさ。

 

  だったら!

 

「【リンカーネーション】!!」

 

  俺は息をするように、安心院さんがくれたスキルを行使していた。

 

  違う世界の自分を、力を。

  呼び起こす為に……!

 

  スキル名を告げ、数秒待ってから。

 

「…ぅぉ!?」

 

  心臓が、ギュッと強く締め付けられる。

 

  どうやらこのスキルは、何の代償も払わずに使えるタイプではなさそうだ。

 

「…ぐぅっ……!がはっ…」

 

  鼻から、口から、大量の血が漏れた。

  血液がビチャビチャと、不快な音を奏でつつ地面に溢れ落ちる。口の中が鉄の味で満たされ、思わず手で口元を拭う。

 

「そういう、ことかよ……」

 

  繰り返しになるけど、今の俺は低レベルの冒険者に過ぎない。別の世界で、ベルゼルグでもトップクラスのスピードを誇っていた自身とは、別人並みに乖離している。

  いくら本人とは言え、かけ離れた二つの存在を一時的にでも融合させようとすれば。

  世界が、そうはさせまいと修正力をかけてくる。容赦なく、俺の華奢な身体に。

 

  安心院さん曰く。このスキルは、世界に抗い、無理矢理違う世界の自分とリンクするモノのようだ。あの辛い追体験は、いわばその下準備だったみたいだな。

 

「安心院さん、それならそうと早くに言ってくれれば」

 

  もうちょい頑張れたのに。(多分だけど)

 

  俺はてっきり、単なる虐めかと思ってしまった。……いや。おそらく、虐めも兼ねてたのかもしれないが。

 

  おもむろに剣を抜き、一度、二度振るう。

  血を流して、頭はけっこうグラグラするものの、肉体はあの頃の俺に限りなく近づいていた。

 

「よし、これなら行ける……!」

 

  そこから更に【速度強化】をかけて、俺は王都の城門を勢いよく飛び出した。

 

 …………………………

 ………………

 ………

 

  速い。身体が軽い。

  馬車なんて止まって見える。

  同じ肉体でも、ステータスでここまで変化するのか。

 

  街道をただ真っ直ぐに突き進む。

  対抗して、避難民が王都を目指して歩いてくるが、それらを巧みに掻い潜って走り抜ける。

 

「なんだアイツ……!速すぎるだろ」

「え。今の、人間なのか??」

 

  通行人達は振り返って、驚愕に口を開く。うん。俺も結構驚いてるよ。

  ボルトもガトリンも目じゃない。

  人間の限界を遥かに超えた、超人的身体能力に。

 

  ひたすらに走り続けても、息がキレる気がしない。

  橋が壊れていても、軽い跳躍で飛び越えられる。紛れもなく、今の俺は最強だった。(当社比)

 

  身体能力だけじゃない。聴力や視力などもトレース出来ているようだ。

  でもなければ、自分のスピードに目や反射神経がついてこられないしね。

 

「気持ちいい……!」

 

  気が昂る。心が踊る。

  以前、バニルから仮面を貰った際に、月夜に感じた高揚が蘇った。

 

  何時間と、走った頃。

 

  アクセルも目と鼻の先にまで迫り、そろそろラストスパートをかけようかと考えだしたあたりで。

 

「ようし、バルター殿への義理は果たした。私はしばらく地下に潜る」

 

「ん…?」

  気になる話し声が、アクセル近くの森付近から聞こえてきた。

「誰だ……?」

 

  バルター?アレクセイ家の好青年…….だったか。確か、ダクネスとお見合いしたりもしていたな。

  何だって、こんなところで彼の名前が出るんだ?

 

  俺は足を止め。手頃な大木に張り付くと、潜伏スキルで気配を隠す。

【千里眼】を併用すれば、声の主を捉えられた。

 

「随分と高級な馬車だ」

 

  見れば、二人の男たちが装飾の施された馬車を囲み、何かを話し合っているようだ。中でも、高級な生地で仕立てられたスーツに身を包んだ壮年の男は、馬車に乗り込もうとする態勢。

 

「後の差配は一任するぞ」

 

「お任せ下さい、ギルド長。デストロイヤーがアクセルに来たのは誤算でしたが、街は壊滅せずに済みましたし……あとは、バルター様との筋書き通りに。あの冒険者達に罪を償ってもらうとします」

 

「うむ、万が一追っ手が王都に来る事態となれば、私の方で処理しよう」

 

  ギルド長と呼ばれた男は、ローブ姿の不気味な老人に指示を出すと、馬車に乗り込んで王都方面へ移動を始めた。

  話の流れだと、デストロイヤーは既に討伐されたのだろう。街も壊滅しなかったとも言っていたな。

 

  俺はひとまず、安堵した。

  アクセルが無事なら、アクア達が生き残っている可能性は跳ね上がる。

 

  ギルド長達の会話はどこか意味深に聞こえたけど、現状、アクア達の安否が最優先だ。

 

  俺が潜伏スキルを解除して、アクセルへ急ぐと。

 

「フェッフェッ。どうやらネズミが覗いておったようじゃ。どれ、姿を拝ませて貰おうかのう……」

 

「なっ!?」

 

  ローブのジジイはこちらの気配を察知していた。潜伏と千里眼で、完璧に息を潜めていたんだが。

  それに、今の俺は高レベルな冒険者と同等のステータス。ならば、ローブ男の実力は相当なのだろう。にしても、笑い方がキモい。

 

「フェッフェッ、小手調といこうぞ。【カースド・ライトニング】!!!」

 

  ローブの男はいとも容易く上級魔法を繰り出した。黒い稲妻は、木々を破壊しながら一直線に俺を目指す。

 

「あぶねっ!」

 

  距離は十分離れていたので、跳躍のみで回避できた。

  放たれた黒い稲妻は木々に当たっても止まらず、数瞬前まで俺がいたポイントを黒焦げにして、霧散した。

【リンカーネーション】を未使用だったら、俺の冒険は一つの区切りを迎えていたな。

 

「ほぉ!速いな、まさにネズミじゃ」

 

  何故か嬉しそうなローブの男。

  俺は避ける動作、跳躍と同時に弓を構え

 

「【狙撃】っ!!」

 

  ローブ目掛けて矢を放つ!

  だが……

 

「甘いわっ!【インフェルノ】!!」

「また、上級魔法かっ」

 

  相手は業火を発生させると、矢を炎で防ぎつつ、攻撃に転身してきた。攻撃は最大の防御というが、こんな森で、よりによって炎の魔法を使うかね?普通。

  上級魔法をポンポン使ったり、俺の存在に気がついたり。このジイさん、何者だ?

 

  近場に巨大な岩があったので、そこに身を隠してどうにか炎をやり過ごした。最高位の炎魔法だけあり、近くにいるだけで結構なダメージを喰らったが、戦闘に支障はない。ただ、こんなエゲツない魔法が直撃すれば、二度と立ち上がれなさそうだ。

 

「ふむ、身のこなしは悪く無い。アクセルの冒険者とはとても思えんのぅ……」

 

  あんたこそ、アクセルのギルド職員にしては強すぎないか?

  そもそも、こんなローブの男、見覚えが無いんだが。

  もしかして、容姿を偽っているとか……

 

【インフェルノ】の余波が消えたタイミングで、俺は岩陰から飛び出して相手との距離を詰めた。これだけの魔法を操る手練れだ。

  遠距離ではこちらが不利。

  近接戦に持ち込んで勝機を見つけないと、ズルズルと負けてしまう。

 

「むっ!こやつ……」

 

  ジジイは、俺の接近が予想より早くて驚愕し、咄嗟に杖を構えるが……

 

「遅い!」

「ぬぅ、杖が!?」

 

  剣で杖を真っ二つにしてやった。その影響で、ジジイの唱えていた魔法はキャンセルされる。

  そして……!

 

「【ドレインタッチ】っ!!」

「ぐ、ぐがぁぁぁぁあ…!!」

 

  ありったけの魔力を奪いとる!

  ジジイは必死に抵抗を試みるも、力では俺が遥か上をいく。

 

「こんな小僧に……!ギルド長…どうかお気をつけ…下さい」

 

  今際の際みたいなセリフとともに、ジジイは倒れ伏す。

  にしても、桁外れな魔力量だった。先に杖を封じてなければ、ドレインタッチで吸い取る前に、反撃されていたかもしれん。

 

「死なないよう手加減した。安心するんだな」

「敵に…情けとは……青いのぅ」

 

  ギルド長がどんな企てをしたのかを聞き出したかったけど、隙を見せればこちらがやられていたかもしれない。

  コイツのような老獪な輩が、一番厄介って相場は決まってる。

  念の為、ジジイに【バインド】をかけてから、俺はアクセルに入った。

 

 

 …………………

 ……………

 ………

 

「あー、疲れた。思わぬ邪魔がはいっちゃったなぁ」

 

  命の危機に瀕しつつ、やっとこさたどり着いたアクセルでは。

 

「ん、これは……?」

 

  俺の探している人物達。

  めぐみん、アクアの指名手配ポスターが、掲示板に張り出されていたのだった。

 

「何やったんだアイツら!!?」




カズマさんの心労は絶えない……

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