この素晴らしい過負荷に祝福を!   作:いたまえ

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いよいよ、来週はFateのHFですねぇ。

個人的には麻婆を早く見たいです。
何年も前からの夢です。多分2作目とかでしょうが。

あとは、ハルヒの3期はよ。異世界行って心残りな物の一つは、動く佐々木が見られない事ですからね!


五十八話 神への訴え その2

球磨川とアクアの即席コンビ。王都のどこかにいるギルド長を効率よく探す為、王族の協力を得ようと目論みお城までやって来た二人は、門前払いを喰らうことなく、不思議と城内に入れてしまっていた。それも、ベルゼルグで最も厳重な守りである筈の王城に。アクアはさて置き、どこの世界でも問題ばかり起こす球磨川は、ダントツでお城に入れてはならない不審者なのだが。彼を招き入れるのが許されるなら、衛兵の仕事は幼稚園児にも務まってしまう。昭和の映画館並みのなんとも残念な警戒態勢に、球磨川はどこぞの小さな名探偵のような口調で疑問を呈する。

 

『あれれー?おかしいぞ。僕の予想だと、大方【下賤のクズが!】的な発言と同時に、お城の敷地内から放り出されるモノだと思っていたのに。王城の警備って、案外ザルなんだなぁ。この体たらくなら、レスリングで有名なあの人を雇った方が賢明だぜ』

 

目からビームを放つ元金メダリストの雇用を勧める球磨川の脇腹を、左となりを歩くアクアが指でつついた。

 

「ねえねえ。さっきから聞いててわからないんだけど、球磨川さんはなにをそんなに不安がっているのよ。私たちは、現にこうやってお城に入れたんだし、もうそれでいいじゃないの。細かい事を気にしてると、小ジワが増えちゃうわよ?」

 

ムニムニと。アクアは自分の目元を、両の手でマッサージして見せた。

雪のように美しい肌が、柔らかく形状を変化させる。

 

『……ふむ、アクアちゃんはお気楽だね。これが罠の可能性だってあるんだぜ?君とパーティーを組んでいるカズマちゃんの苦労が垣間見えるようだ。ともあれ。ショートケーキにメイプルシロップをブチまけたような甘さに目を瞑れば、アクアちゃんの意見は的を射てるな。現状、気にしても仕方がないのは確かだし、僕はアンチエイジングに一家言ある。ここは、素直に君の助言を聞いておくとしよう』

「うんうん。人生、適当が丁度良かったりするの。力を入れすぎると、かえって失敗しちゃうものなのよ!程々にやったら上手くいった、みたいなケースも多いんだから」

『……アクアちゃん。それ、君の教えとかだったりする?なかなか心に響く言葉だね!』

「そ、そう!?他にも、アクシズ教には魅力満載な教えがあるわよ。なんせこのアクア様が考えたんだから、心に響くのは当然よね。」

 

珍しく手放しで称賛され、アクアはにわかに調子に乗り出した。ピノキオよろしく鼻をのばす女神の態度はなんとも癪にさわるが、特にそれを咎めようとも思わない球磨川は、むしろ前のめり気味で催促する。

 

『他の教えはどんなのだい!?』

「とくと聞きなさい!これが、水の女神アクア様のありがたいお言葉よっ」

 

アクシズ教の教えには、以下のようなものがある。

 

・汝、何かのことで悩むなら、今を楽しく生きなさい。楽な方へと流されなさい。自分を抑えず、本能の赴くままに進みなさい。

・アクシズ教徒はやればできる、やればできる子なのだから上手くいかなくてもそれは貴方のせいじゃない。上手く行かないのは世間が悪い。

・嫌なことからは逃げればいい。逃げるのは負けじゃない。逃げるが勝ちという言葉があるのだから。

・迷った末に出した答えはどちらを選んでも後悔するもの。どうせ後悔するのなら今は楽ちんな方を選びなさい。

 

なんともありがたいお言葉の数々。

 

『す、素晴らしいよ…!胸を打つ、熱く重い言葉だ』

「でしょでしょ!?素晴らしいわよね?これはもう、エリス教に見切りをつけるべきじゃないかしら」

 

上記の教えを黙って聞いていた球磨川は、異世界に来てから一番大きな関心をアクアに寄せた。

 

『……どうやら、君はそれなりに弁えているみたいだね。人間ってものを。腐っても女神だけある』

「ちょ、腐らなくても女神なんですけど!」

 

アクアの教えは一般論として、ダメ人間の発想に近い。常人が聞けば、不真面目で無責任な考えに立腹するだろう。けれど、そんな過負荷と似た思考は、日の本一ダメ人間であるところの球磨川さんの琴線に触れる。もしもエリス教徒に身を甘んじていなければ、アクシズ教に入信していたかもしれないとも球磨川は考えた。しかし。

 

『ただ、一つ言わせて』

「なに?この素晴らしい教えに、不満があるとでもいうの?」

 

アクアの述べた美しい言葉には、一箇所だけ看過できないところがある。

いかな他宗教とはいえ、そこを訂正しなくては球磨川達の存在を否定してしまうことと同義だ。それだけは認めてはならない。

初めてブレンダンを訪れた折、球磨川はアクアに過負荷の存在をアピールしたが、此度も又、神々へ進言する良い機会だと考える。球磨川は、自分の在り方をかけて口を開いた。

 

『……【逃げるが勝ち】って部分を、【負けるが勝ち】にしてくれないかな?そうすることで、救われる人間が増えるんだよね』

 

1行で矛盾する言葉を言い放たれたアクアは、目を2回、3回とパチパチさせて。

 

「えっと、なにか変わるの?それ。逃げるのも、負けるのも、結局はどっちも同じ意味だと思うんですけど」

『変わるさ。……変わるんだよ。【逃げる】のと【負ける】のは、根底からして違うんだ。確かに日本語としては同じ意味合いだけれど、【勝ち】に至るまでのプロセスが重要でね』

 

この世には、どうやっても幸運に恵まれない人々の存在がある。生まれながらにして負けている、特殊な人間達が。魂に刻み込まれた敗北の呪い。何物にも代え難い友情も努力も勝利も無く、あるのはぬるい友情、無駄な努力、虚しい勝利だけ。彼ら、彼女らを、人は過負荷と呼ぶ。生きているだけで周囲もろとも不幸せにしてしまう災厄。

だが。その過負荷にだって、蔑ろに出来ない信念はある。いや、過負荷だからこそ、無視出来ないと言うべきか。球磨川禊も一人のブラックシープとして、今一度眼前の神に訴える。いつの日か、自分達のような存在に救いがもたらされる奇跡を願って。

『真の負け犬は、負けから逃げない。負けを自覚して次に進むんだ。負けを受け入れず、逃げて勝つだなんて都合が良過ぎるぜ。負けた経験があるからこそ、勝ちに繋がるのさ。ゆえに、教えとしては。【負けるのは逃げじゃない】にして欲しいくらいだよ』

「……【負けるのは逃げじゃない】、か。へえ、球磨川さんって、案外面白いことを言うのね。言われてみれば、負けを認めずに駄々をこねるよりは、敗北を受け入れる人間の方が潔くはあるわね」

 

球磨川がアクアに興味を示したように。アクアも同様に、球磨川をマジマジと見つめ返した。アクアが最初に球磨川という存在に引っかかりを覚えたのは、転生させた時だ。眼前の少年は、元々スキル持ちだったり、特殊な思考回路だったりと、どこかただの人間では無い気はした。けれど、転生させてしまえばもう無関係だと判断し、それ以上思うことはなかった。

それが今。同じく異世界を冒険する仲になったことで、改めて興味の対象となったのだ。

 

『アクアちゃん、わかるかい?この考え方が。』

「頭がこんがらがりそうだけど、負けと逃げがイコールでは無い……てのはなんとなくね。つまり、球磨川さんとしては、某ドラマのタイトルも【負けるは恥だが役に立つ】にしたいってことかしら」

『……その発想はなかった。けど、まあ、そういう事さ。もっとも僕レベルまでくると、負けても恥とは思わないけれどね』

 

負け犬の矜持。球磨川の言葉がどの程度アクアや(覗き見しているかもしれない)エリスに伝わったのか、それを確認する術は無いものの、口にしなければ始まりすらしない。アガペー的な雰囲気を持つエリスならば、日本は無理でも、この世界にいる過負荷くらいは救ってくれるだろうか。

まだ転生してから本格的な過負荷に遭遇してはいないが、世界は違えど人の営みがある以上、過負荷は必ずいる。光と影。貴族や王族などといった華美な人種がいるなら尚のこと。

 

「ま、そのうち気が向いたら採用してあげてもいいわ。でも、御賽銭をわけてあげたりはしないけどね。こういうのって、表向きは女神が考えたことにしないと、信者は納得してくれないもの。球磨川さんに著作権は無いのよ。それでもいいなら考えといてあげる!」

『うん。君が僕の言葉を反芻してくれるなら、それ以上は何も望まないさ』

 

今の問答でこの世界の誰かが負の連鎖から抜け出せるのなら、球磨川としては大金星。どれだけの富にも代えられない。神々への訴えが言葉だけで通じないのなら、魔王を討伐した際の恩恵とやらに望みを託すのも悪く無い。魔王を倒す具体案は未だ謎ではあるものの、この世全ての過負荷を一人一人改心させるよりはイージーだろう。裸エプロン先輩が目指す弱者の為の世界は、案外近くまでやって来ているのかもしれなかった。

 

…………………

……………

………

 

 

シリアスな雰囲気の問答を終え、球磨川達は軽口を叩きつつ、先導するクレアの後ろを歩いて追う。

 

歩くのは大理石の床。ブレンダンから腕のある職人を雇って造らせた廊下は、埃一つ落ちておらず。カツ、カツ、と3人の靴がリズミカルな音をたてる。

お城の中を歩きだして、約6分。カップラーメンが二回は作れた時間を要しても、クレアの歩みは止まる気配が無い。目的地はまだ遠いようだ。

 

知らない建物の中、ゴールもわからず歩くのはそれなりに苦行で。

 

『クレアさん!僕たちはどこへ向かっているのかな。そろそろ給水ポイントの一つもあってしかるべきじゃない?』

辛抱たまらず、球磨川がクレアの背中に問いかけた。初めは見慣れないお城の内装を楽しめたものの、それも3分で飽きた。

男装の麗人は、このくらいで音をあげる球磨川に根性の無さを認め

 

「いいから、黙って歩け。アイリス様に拝謁するのだ。貴殿らにも相応の準備をしてもらう。さしあたって、その見るに堪えない衣装を着替えていただこう」

 

と、応じた。

言われてみれば、場所柄ドレスコードが存在してもおかしくない。むしろ、平凡な身なりの人間が城内にいれば悪い意味で目立つ。事実、これまですれ違ったメイドや執事っぽい人たちが、失礼のない程度に視線を寄越していた。

 

『あれは、僕らの格好が原因だったんだね。みすぼらしい服装しやがって!ていう感じかな。でも、日本では学ランで冠婚葬祭オッケーなのになぁ』

 

球磨川はとりあえず悪態ついたり言い訳したりする性格なので、今のも反射で口から出た言葉だ。内心では、学ランが異世界に浸透していない点から、日本での常識は通用しないのだと割り切っていた。

一番かわいそうなのは、隣のアクアさんだ。

女神の格好自体を【見るに耐えない】とまで言われてしまっては。

 

「こ、これは女神の!れっきとした!女神の正装なのよっ!?ちょっとあんた、失礼にも限度ってものがあるでしょ?謝って!今なら許してあげるから謝って!!」

 

「女神?……フッ。御託はいい。そこの部屋には召使いがいる。彼女らが適当なドレスやタキシードを見繕ってくれることだろう。早くゆくのだ」

 

「は、鼻で笑ったわね!?」

 

ゴッドブロー。アクアご自慢のマジ殴りで、高慢な女騎士の頭部が弾け飛ぶ寸前。球磨川さんがどうにかアクアを落ち着かせ、更衣室へと誘導していった。

 

『アクアちゃん、僕らの目的は王女に会って協力を求めることだ。すこし落ち着いてくれよ。全部終わったら、あの女騎士さんをフルボッコにしても文句は言わないからさ』

「……女神の服装なのよ?これは、女神のちゃんとした格好なんだから。球磨川さんはわかってくれるわよね?」

『はいはい、そうだね。女神の格好だねぇ』

 

クレアは暴れかけたアクアに冷めた目を寄越していただけだが、アクアが本気でゴッドブローする気なら、球磨川如きでは止められなかった。そうなると、クレアの頭と胴体は今頃お別れしていただろう。

 

無論アクアは、罪のない人間に本気で暴力を振るうはずがない。だが、ある日堪忍袋の尾が切れる可能性だって残る。彼女の女神オーラを誰も理解出来ないことで、今後悲しい事件が起こってしまうかもしれないのだ。

 

それを未然に防ぐ為には。

 

球磨川は生前、街でウィンドウショッピングを楽しんでいた際の出来事を思い出した。「あなたは神を信じますか?」とか言いながら近寄ってくる綺麗なお姉さんを、ロクに話もせずに螺子伏せたことがある。

もしかすると、あのお姉さんも女神だったのではないか。

『これからは、彼女達の話にも耳を傾けてあげるべきかな』

 

自分達、過負荷の存在を知ってもらうのだから、女神の話も聞いてあげるのが道理だ。恐らくはコピーした名画やら不出来なツボを買わされるだけだとしても。

 

球磨川の思考に僅かでも変化をもたらすあたり、アクアも正真正銘の神だといえよう。

 

……………………

……………

………

 

部屋の中で、召使い達の着せ替え人形になること15分。

球磨川達はやっとの思いで謁見の間までたどり着いた。

 

『やあ、アクアちゃん。見違えたね!馬子にも衣装ってやつ?』

「……そう?に、似合うかしら?」

 

女神の格好から着替えたアクアは、見た目だけは絶世の美女。

見るに耐えないと言われて傷ついた心も、球磨川に褒められたことで若干回復したようだ。まあ、馬子にも衣装は褒め言葉では無いのだけれど。

 

「ふむ。少しは見られるようになったな。」

 

着替えた二人に、クレアが頷く。

 

「……だがそれは外見だけの話。冒険者は乱暴だと聞く。アイリス様に、くれぐれも失礼を働かないように。さもないと、私の剣で頭と胴体を切り離すからな」

 

言い捨てて、クレアは謁見の間へ入室すべく扉へ近寄っていった。

 

『それは君のほうだけどね』

 

アクアの自制が無ければ首チョンパになっていた女騎士の後頭部を視界に収めながら、球磨川は一本の螺子を背中に構えた。

 

かくして、扉は開かれる。

 

ギギギギィ……

 

大きな扉は、大型トラックでも悠々通り抜けられるほど。

それだけ巨大だから、ドアが開いただけで、踏み入れずとも謁見の間の全貌が見渡せた。

 

「ひ、広いわ!球磨川さん……いくらなんでも、広すぎじゃないかしら」

『確かに。クイックルワイパーだと、シートが何枚あれば掃除できるんだろうね』

学校の体育館何個分か。無駄に広い謁見の間。入り口から真っ直ぐ伸びるフカフカなレッドカーペット。その先では、小さな女の子が大きな椅子に腰掛けていた。綺麗な金髪に、純白のドレス。彼女が、王女なのだろう。

 

壁に控えるは歴戦の兵士。シンメトリーになるよう、左右に10人ずつ配置されている。球磨川達が僅かでも怪しい動きを取れば、両サイドから数多の剣撃が飛んでくるのだと予想できる。

 

「……………」

『……………』

 

無機質な瞳。なんの感情も籠らない表情で、王女は球磨川とアクアを捉えている。球磨川も、王女を見つめ返す。

 

混沌よりも這い寄る過負荷、球磨川禊と。

ベルゼルグ王女、ベルゼルグ・スタイリッシュ・ソード・アイリスの、初顔合わせがここに成った。

 

重たい空気。王城と王族。二つの要素が織り成す、発言を許さない場の雰囲気。アクアでさえ、もう軽々と口を開けないほど。

クレアが仕切り、球磨川達に武勇伝を語るよう促す。

 

「冒険者、クマガワ ミソギ。貴殿の冒険譚を、アイリス様はお望みだ」

 

『その前にっ!』

 

球磨川は真剣な面持ちでクレアの言葉を遮った。

 

「……っ!」

 

シャキンッ!!

唐突に大声を出した球磨川。左右の兵士は即座に抜刀し、ゼロコンマの時間で球磨川を取り囲んだ。

斬りかからなかったのは、クレアが手で制したからだ。

 

「……何事ですか?クマガワ殿。」

 

発言によっては。球磨川の首を自身で刎ねようと、腕に力を込めるクレア。

 

『うん、別に大層な事でも無いのだけれど……。』

 

タキシードに身を包んだ球磨川は、スルッと兵士達の壁をくぐり抜けると。アイリスに向かってはにかんだ。

 

『王女様って、どんなパンツを穿いてるんだい?』

 

球磨川の背後から、どれもこれも必殺の一撃が、複数繰り出された。




お付き合いいただき、毎度ありがとうございます。
最後の球磨川さんの発言に、立腹された方には申し訳ありません。私も、球磨川さんが問題を起こさずアイリスに気に入られるルートにしたかったのです。……が!

パンツに興味を示さないなんて、球磨川禊では無い!
そうは思わないですか?……思わないですか。

お許しを。しかし、ついにアイリスが出ましたね。出せましたね。一年ちょい書いてますが。やっとですね。
まあ、アルカンレティアや紅魔の里にいくイベントと順序がアレなのでアレなんですけどね。

アイリスかわいいよアイリス!

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