この素晴らしい過負荷に祝福を!   作:いたまえ

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めぐみん好きな友達がいて、僕がいかにアイリスが可愛いか説明しても、最終的に友達は「やっぱめぐみんじゃね?」しか言わなくなってしまうのです。


六話 球磨川ファイナンス

  球磨川の一言で、喧しかった女性はピタッと止まる。

  馴れ馴れしく近寄ってきたものだから、めぐみんはてっきり球磨川の知り合いかと考えたが、違うみたいだ。

 

「わ、私は、水の女神アクアよ。冗談…よね?私を忘れてるフリをしてるだけよね??」

『僕は冗談なんて、冗談でも言わないよ。水の女神アクアって名前に覚えがない以上、君の勘違いなんじゃない?誰かと勘違いしてない?』

「う、嘘よおぉ!!私、私だってばぁぁあ!日本からあなたを導いた、美しい女神様よっ!?」

 

  球磨川の両肩を掴み、グワングワンと前後に揺さぶる美しい女神。

『めぐみんちゃん。この痛い人に見覚えあったりする?』

  依然として激しく揺さぶられつつも、球磨川はめぐみんに水を向ける。

「い、いえ。私もこの女性を見るのは初めてです。ミソギの知り合いではないのですか?」

  めぐみんは初の理解者である球磨川を揺らすアクアを見て、少しだけつまらなそうにした。

『んー。』

 

  せっかくエリスが胸にしまった事実も、アクアと球磨川が邂逅しては意味がない。たった1日で記憶から抹消された事実に、アクアはエリスの想像通り泣きわめいてしまった。

 

「びえぇえん!こんなのあんまりよぉおお。」

  球磨川から手を離したアクアは、両手で顔を覆いしゃがみ込んでしまった。周囲の客も何事かと注目し始め、めぐみんは居心地の悪さを覚える。

「お、おい…アクア。周りの人に迷惑だから、泣きやめよ。」

  アクアのパーティーとおぼしき少年が、後ろから歩いてきた。中肉中背のどこにでもいそうな少年。この世界に似つかわしくないジャージ姿。もしかして、彼も転生者なのか。

 

「あんたら、アクアに何を言ったんだ?てゆーか、学ラン??」

 

  少年は呆れ半分の表情で球磨川、めぐみんを見る。やはり転生してきたのだろう。学ランを、この世界の人間が知るはずない。

『初めまして、僕はクマガワ ミソギ。多分、君と同じ国の出身さ!』

「あ、おれはサトウ カズマ。そっか、やっぱりあんたも日本から送られてきたんだな。」

『うん。で、こっちは紅魔族随一の魔法使いであり、爆裂魔法の使い手でもある、アークウィザードを生業としためぐみんちゃんだよ。』

「なぁっ!?私の見せ場を潰さないで欲しいのです!」

 

  今か今かと自己紹介の順番を待っていためぐみんは、ズコッと机に突っ伏した。よっぽど自己紹介したかったらしく、球磨川を睨む。

『ごっめーん!ほら、今のめぐみんちゃんは決めポーズをとれないでしょ?半端な完成度の自己紹介はプライドが許さないと思って、助け舟を出したつもりだったんだ!』

  事実、爆裂魔法を放ったことで、めぐみんはカッコいいポーズをとれない。球磨川の言は一理ある。

「むぅ。ちゃんとした理由があるのなら、いいのです。気遣い、ありがとうございます。」

  めぐみんが渋々礼を述べる。

 

「へえー、爆裂魔法か!凄く強そうだな。えーと、で、すまん。名前をもっかい聞いてもいいかな?」

  カズマはまだ見ぬ爆裂魔法を想像し、目を輝かせる。

「ぐっ…。」

  カズマはしっかり球磨川の紹介を聞いていたが、聞き慣れない名前だった為、球磨川が噛んだものと考えたようだ。もう雰囲気だけで察したのか、めぐみんが唸る。

「………めぐみん。」

「え?ゴメン、もう一回…」

「我が名は!めぐみん!!紅魔族随一の魔法使いめぐみんだ!!文句あんのかコラーー!!!」

 

  球磨川が代弁したのは徒労に終わり、しっかりとめぐみんはギルド内に響く声量で自己紹介を行った。

 

 ……………

 ………

『ところでといえばさらにところで!なんで僕に特典をくれなかった、ケチな女神様がここにいんの?』

  ようやく泣き止んだアクアにお水を飲ませ、やっと落ち着いた話し合いが出来ると思った矢先。良くも悪くも、事態を台無しにすることで定評のある球磨川がアクアに追い打ちをかけた。

「しっかり覚えてるじゃない!!」

 

  すっかり目を腫らした美しい女神が、勢いよく球磨川を指差す。ギリギリと歯を鳴らし、再度掴みかかる。

「なんで2連続でろくでもない転生者がくるのよ!私は女神!あなた達は!私を甘やかしてくれればそれでいいの!!」

 

  アクアが球磨川の首を掴むことで、順調に絞殺への道を歩む球磨川。この女神、筋力ステータスはどれ程なのか、球磨川ではとても振り払えない。

 

「ちょっと!ミソギが死んでしまいます!その手を離してください!!」

「そ、そうだぞアクア!シャレにならん!!」

 

 ………………

 ………

『だいぶ話が逸れちゃったけど、お金がいるんだっけ?』

  改めて四人はテーブルにて、話を再開。カズマとアクアはさっき異世界へ来たばかりで、お金が無く冒険者登録も出来ずにいたとのこと。話が逸れたのは主に球磨川のせいだろう。カズマは心の中で悪態つく。

『仕方がない。僕は弱いものの味方だからね。特別に貸してあげよう。』

「本当か!?助かるよ!」

「うう…女神なのに、迷える子羊にお金を恵んでもらうだなんて。」

『僕はエリス教徒らしいから、困った人に手を差し伸べるのは息をするくらい当然の行いみたいなんだぜ』

「しかも後輩女神の信者だったわ!」

 

  球磨川はグレート・チキンを討伐した報酬から、きっちり二人分の登録料を手渡す。

「これが通貨ってわけだな。ありがとうございます。」

 カズマがしっかり受け取る。

  通貨の単位は女神の名にちなんで、エリス。1エリスおよそ1円くらいの価値。計算しやすそうでなにより。

 

『出世払いで構わないからさ。それよりもホラ!さっそく、冒険者カード作りにいこう!』

  球磨川がグイグイと、二人の背を押す。お金を貸してあげたのだし、ステータスを見るくらいの権利はあって然るべき。

「み、ミソギ!まだ歩くのはキツイので、私も連れてってください。」

 

  …受付までやってきて、まずカズマからステータスを調べる。手順は球磨川の時と同様。球体に手を置くと、見る見るカードに文字が書き込まれる。

 

「これが俺の冒険者カードか。どうですか?このステータス。」

 

  受付のお姉さんに手渡し、ステータスの良し悪しを教えてもらうことに。

 

「…拝見します。えーと、知力が多少高いくらいで…。あとは普通ですね。」

「バカな…!もっとこう、一点突出していたり、謎のスキルを所有していたりは…?」

「ございません。」

 

  なんということでしょう!元々、幸運だけは高かったカズマさんですが、球磨川くんと同時期に転生した事実によって幸運ステータスがガクリと落ちてしまいました!

 

「くそぅ…。まあいいや、ここまではキャラクリみたいなものだしな。レベルを上げれば俺だって…!」

 

  球磨川と転生したから幸運が下がった。ただ、そんな因果関係を知るものはいない。元々カズマの幸運が普通だっただけとしか受け止められず。カズマ本人も例外ではない。

 

  続くアクアは、女神の名に相応しい高ステータスを叩き出し、ギルド内に喝采が沸き起こった。

 

「ふふん!まあ?女神としてはこのくらい朝飯前なわけよ!」

  誇らしげにカードを見せびらかしてきたアクア様。めぐみんも「おお!」と尊敬の眼差し。なお、まだ球磨川におんぶされたまんまだ。アクア様。これ以上カズマの心を抉るのは止めて差し上げてはいかがか。

 

  最高クラスのステータスを叩き出し調子に乗ったアクアは、カズマを引き連れてクエストを受ける。球磨川とめぐみんは、めぐみんが動けないため誘いを断らざるをえなかった。

 

『アクアちゃん達、大丈夫かなぁ。』

「アクアは、職業にアークプリーストを選択していました。ジャイアントトード相手ならば、なんとか勝てると思います。」

 

  めぐみんも回復したことで、明日の集合時刻だけ決めた球磨川とめぐみんは帰宅。入れ違いで、全身を粘液まみれにした女神とニートが戻ってきた。

 

 ……………

 ………

 

  夜。めぐみんをおんぶしたり、めぐみんにご飯を奢ったり大忙しな一日を終えた球磨川。

  馬小屋だろうと物置だろうと、彼からしたら高級ホテルとそこまで違わない。お風呂屋さんから安らげる馬小屋に帰ってくると、異臭を放つ女神とカズマがどんよりと項垂れているのを発見。お風呂屋に行くお金を稼げず、かといって汚れたまま寝床に入るのは抵抗があるようで…

 

『…はあ。今日の僕は紳士的だ。これでお風呂に入って来なよ。』

 

「「球磨川様っ!」」

 

  粘液まみれで抱きつこうとする二人を避け、流れるように自室?へ滑り込んだ。弱い者と愚か者にはとことん優しい、裸エプロン先輩の在り方は異世界だろうと変わらない。

 

 




この世界、弱い者と愚か者が大半を占めてる…!?

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