この素晴らしい過負荷に祝福を!   作:いたまえ

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知人によう実を勧められたのですが、私は暁のツキちゃんが好きで、似たキャラが出ると言われて期待して読んだのですが…
え、でなくない?まあ、軽井沢さんも可愛いけれど!


六十話 チャラ男防衛線

  騎士が二つに裂かれた光景はグロテスクで夢に出そうなくらいショッキングだが、チャラ男ことレオルはただの情報収集としてその殺人現場を淡々と観察していた。トゥーガにいるダクネス達を守るのがカズマからの頼み、ここでおいそれと刺客の接近を許してはならない。ナイフを扱った不気味な影の正体を見定めるのは戦闘を有利に進めるのに必要不可欠だった為、新米騎士は見殺しにしたが、これで勝利を掴めるのなら必要な犠牲だとレオルは考える。第一、騎士の接近は感知出来たが、謎の黒い影は、発声するまで気配を完璧に消していたのだ。助けたくても助けられなかったというのが正しい。むしろ影の戦闘力が自分の上をいっている可能性が高く、ここで迂闊に戦う選択肢を選ぶべきか判断に迷う。

 

「これは、カズマから追加報酬でも貰わないとやってられないな」

 

  ダクネスを釣ったエサ。SMプレイ用では一切無い自分の相棒であるムチを取り出しながら、護衛の難度が上がった現状を嘆くレオル。たった一回戦いを見ただけだが、影は純粋に強い。正体はわからないものの、はかったようなタイミングから、ギルド長の息のかかった奴だと仮定する。相手にする上で厄介なのは、二つに分かれたように見せる体捌き、及びスピード。それから、騎士の剣をすり抜けたナイフの仕組み。正体含む殆どが謎のベールに包まれ、未知数の敵。苦戦は免れないだろう。一つ確かな事は。影の男は疑いようもなく、数々の修羅場をくぐってきた猛者だ。すり抜けについては遠目での観察では突破口も見つけられなかったので、対峙して攻略するしか無いだろう。

  ともかく、仕掛けるのなら先手必勝。存在を悟られる前に強烈な一撃を見舞うのがレオルの常套手段。

 

  ムチで一息に薙ぎ払い、首を飛ばしてしまおうかと企てるが。保険をかけて直前でプランを変更することに。

 

(……念には念を。あの厄介な動きから封じるとするか)

 

  取り出すは、予備のムチ。使うのはスキル【バインド】。技の分類的には小手調べだが、侮るなかれ。これさえ決まれば必勝と言えよう。魔力消費は大きいけれど、繰り出す価値はある。

 

「おらよっ」

 

  スキルの使用と共に、ムチは勢いよく影へ迫った。トゥーガの屋上から放ったムチは、魔力を与えられ、さながら生きているようにクネクネと影の男を捉える。

  影は動かない。いや、死角から近寄るムチに対応出来ていないだけか。男はスキルによって身体から自由を奪われるに至った。

 

「ほう、【バインド】か」

 

  影は自らの四肢に巻き付いたムチをしげしげと見つめ、続いて技が放たれた位置を追い、レオルを発見した。

 

「まさか、あっさり拘束されてくれるとはね」

 

  小手調べがまさかのクリーンヒット。こうなれば、後はどう料理するかだ。身動きの取れない人間を殺すなら、目を瞑っても容易い。

 

  それでも。偶然、偶々奇襲が決まりはしたけれど。ここで油断するような男がカズマの信用を得られるわけがない。努めて慎重に仕上げへと移る。

 

「不気味な外見とは裏腹に、わりと呆気なかったな。さっきの騎士を殺して気が緩んだか?」

 

  レオルは愛用装備のムチを両手でひろげつつ、屋上から地面へ降り立ち、構える。軽口を叩いているが、影の一挙手一投足を見逃しはしない。バインドで行動を制限された影の男は、窮地に陥ったが、それでも不遜な態度を崩さなかった。

 

「そうでも無い。騎士を手にかけた時点で、キサマの気配には気づいていたとも」

「そうなのか?」

「我が雇い主は寛大でな、あのレストランにいる二人の首だけをお望みだったのだ。作戦遂行にあたり、イレギュラー因子は可能な限り取り除くべきだしな。だが、任務遂行の妨げになる輩は殺しても良いとのお達しもある。愚か極まるぞ、キサマ。傍観していれば命だけは助かったものを」

 

  やはり、めぐみんとダクネスを殺すのが目的らしい。影の口から出た雇い主とやらは十中八九ギルド長だ。カズマのもたらした情報によれば、アクセルにも腕利きの魔術師を配置していたらしく、ギルド長は、なかなかどうして有能な駒をお持ちのようで。

 

「俺も殺す?縛られている男が粋がるなよ」

「おやおや、このような時間稼ぎで勝ち誇ったつもりか。装備もスキルも、状況判断もお粗末とは、救えぬな」

「……そうだな、勝ち誇るのは息の根を止めてからとしよう。死んでもらうぞ」

 

  縛ったとはいえ、高レベルが相手だといつまでも拘束は出来まい。幸い雇い主の正体も、その目的も知れた。これ以上は得るものも無い。

  レオルの一撃が影の首を捉えて締め上げる。絞殺。これはムチと首の間に手でも挟まれれば無効化されてしまう不確かな殺害方法ではあるが、バインドとのコンビで使用すると、途端に必殺となる。

 

「グ……ッ!」

 

  首を絞めるにつれ、男の口からヨダレが垂れる。バインドを解こうと試みるも、まだまだ持続時間に余裕がある。

 

「しぶといな、大抵のヤツはこれで意識を失うんだが」

「……クク、クハハハッ!では、此度は例外であるのだろう。このような技術を有している者もおるのだ!」

「むっ!?」

 

  気を失うどころか、影の男は全身をバキバキと鳴らしながら、なんとバインドから逃れてしまった。忍の縄抜けみたいなものか。レオルのムチは首に巻きついたままでも、肉体は自由を取り戻す。首を絞められながら、男はナイフをレオルに投擲した。

  目の前で投げられたナイフの回避は造作もないけれど、ムチを絞めながらというのは無理がある。結果。避ける動作に伴い、多少首の締め付けが緩んだ隙に、男はムチも解いてしまった。

 

「ちっ、手を抜いてやがったな?バインドから逃れられるヤツなんてそうはいないぞ。関節を外せるなんて、どんな身体してるんだ。ていうかお前、それだけの腕を持っていながら、アクセルのギルド長ごときについてんのかよ」

「そういうキサマは大した事がないな。レストランにいる者たちに、加勢を願うべきではないか?魔王軍の幹部を討伐した猛者なのだろう?それから、ギルド長ごときと言うが……そのごときの手下に手こずるキサマ自身、卑下している発言と取れるぞ」

「どうやら、ギルド長に心酔する何かしらの要素はあるみたいだな」

 

  縄抜けが出来るから、あえてバインドを避けなかったのか。拘束し、優位に立ったとレオルが油断するように仕向けたのかもしれない。油断こそしなかったが、レオルは予備のムチと手の内を明かすに至った。

  ジリジリと、影の男は間合いを詰めてくる。先刻の、すり抜けるナイフで決めにくるつもりだろう。

  姿が揺らめく。接近戦は圧倒的に不利。ここを逃せば、殺される。

 

  その前に、レオルとしても致命打を与えなくては。ムチをしならせ、狙うは腕。

 

「ナイフがすり抜けるのなら、それを扱う腕を捕らえるまでだ!」

 

  レオルのムチは一瞬、見当違いの方向へと放たれた。影の男から左に45度は逸れている。道の端にある街路樹に巻きつく軌道だ。

 

「馬鹿め、何処を狙っている!」

 

  嘲笑。脅威になり得ないムチから視線を外して、男は加速する。だが……

 

「油断するのは早いぜ」

 

  木をくるりと巻き込み、ムチの先端は曲を描きつつ影に迫った。一度脅威では無いと判断した男は、必然対応が遅れる。

 

「なに……!?」

 

  そして見事、ムチは影がナイフを持つ手に巻きついた。直接巻き取らず、間に街路樹を経由させたので、影の男も一直線にレオルへ向かうことは叶わず。上空から見て、「く」の字にムチがしなっている。その為、影の男がレオルへ向かうには、まずは絡まった糸をほどくように、街路樹をグルリと回らなくては始まらない。街路樹は道の端に並ぶように植えられており、両者の間合いは2メートルだが、実質的な距離にして5メートルは稼いだ事になる。詰められる間に、第2撃、3撃を繰り出す機会は得た。

  影はまず最初にムチをナイフで切断しようと試すが、生半可な腕力では文字通り歯が立ちそうもない。

 

「ムチとは、マイナーな武器だといった認識でいたが……市街地でこそ映えるというところか。こちらに遠回りを余儀なくする、小賢しい一手だ!」

 

  ムチが切れないと見るや、木を回ってでも距離を詰める方向へ切り替える。流石の俊足だが、5メートルのアドバンテージがレオルに福音をもたらした。影を捉えていたムチをわざと手放し、上着を探る。そうして3本目となるムチを取り出す。

 

「……ぬ!?」

 

  影の男は、突如ムチから解放されて一瞬たたらを踏んだ。ガクッと、前傾姿勢になるのを防ごうと利き足を踏み出した、その僅かな隙に、レオルの必殺技が炸裂する。

 

「詰めだ。【スプリット・ウィップ】!!」

 

  薙ぎ払うは、棘の付いた必殺のムチ。殺傷力を上げる為、やや重たく扱いにくい品。それゆえ、使用するのは戦闘が佳境に入ってからだ。遠心力を味方につけたムチは、棘と共に対象の肉体をズタズタに引き裂く。加えて、レオルはスキルも併用した。一振りのムチが、スキルによって分裂するという凶悪なものを。影の男が対新米騎士戦で見せた動き同様、どちらかに対処すれば、もう一方を無防備に食らうしかない。

  人間離れした反射神経を持って、上半身への攻撃は受け止めた影だが、代わりに両足を切断寸前まで切り裂かれるに至った。機能しなくなった脚では自立も難しく、四つん這いになる。

 

「これはこれは、中々の手練であったか。愛用の武器を死合いのさなか手放す判断、見事だ」

「褒めてもらって光栄だな」

 

  両足からはとめどなく鮮血が漏れ、男の目はどんどん目蓋が黒く変色していく。まさに、風前のともし火だ。だというのに。

 

「ふふふ、それだけに惜しい。この程度の腕前があれば、防げていたかもしれんぞ」

 

  どこか、余裕ともとれる笑みを浮かべているのだ。

 

「なに笑ってんだ?死に直面して狂ったか?」

「いや。キサマの愚かさを前にすれば、笑わずにはいられぬよ」

「……どういう意味だ」

「騎士との戦闘を見ていながら、気づかないとは」

「なんだと?」

 

  騎士との戦闘。影が二つに分かれて、武器をすり抜けるナイフでトドメを刺した展開。得た情報の中で特筆すべきは、この二点。無論、レオルとて警戒は怠らなかった。もっとも、今の戦闘ではそのどちらも使ってこなかったのだが。

 

  そう、使ってこなかった。

 

「いや……違う?まさか、使えなかったとでも言うのか!?」

 

  信じられないと、レオルが呟く。我が意を得たり。影の男は微笑のまま、最期は力無く地面に伏した。

 

「初めから二人、だった?」

 

  分裂したような動きは、なんのひねりも無く、最初から二人居ただけなのか。普通は考えにくいが、この影クラスの身体能力があって、連携が完璧にとれれば可能なのか。他にも。敵に悟らせないよう、潜伏スキルを使用していた可能性が考えられる。

 

  仮に。もしも影の正体が二人組みで。今仕留めた男が、実は単なる揺動だとしたら?片方がレオルの気を引き、もう片方がレストランにいるダクネスらを殺す。そんな筋書き。

 

「……あっちゃー。これ、ガチでマジっすか?」

 

  とんでもないショックは、時に人を現実逃避させたがる。レオルは変装用のチャラ男キャラに、思わず逃げ込んだ。口調を変えただけで、事態が好転する筈も無いが。

 

  影は最初から二人。レオルが相手にしたのは囮。そしてどうやら、すり抜けるナイフは、もう一方が持っているらしい。いつの間に通り抜けられたかはわからないけれど、倒した影以上に厄介な輩が、かなり前にトゥーガに到達してしまっているかもしれない。

 

  ただ、これが杞憂で済む場合もある。影が負け惜しみにホラを吹いただけなんてことも。

  どちらにしても、今急ぐべきはめぐみんらの安否確認だ。

 

「ちょ、とりまトゥーガに戻らな……」

 

  そして。

  レオルが踵を返した瞬間。

 

  目も眩む光。鼓膜に穴があきそうな轟音。人を吹き飛ばす、圧倒的な暴風。

 

「……これ、手遅れ感パネェわ」

 

  トゥーガを中心に、爆裂魔法が発動されたのだった。当然、レストランは消え去り、何なら周囲の廃屋も諸共吹き飛んだ。更地に戻った区画には、トゥーガに備え付けられていた、地下道への入り口だけが残る。

 

「今のが、めぐみんの爆裂魔法か。なら、彼女はもう戦力にならない。……ララティーナ様とトゥーガさん、少し粘っててくれよ」

 

 途中、使い捨てたムチを回収してから、レオルは地下への入り口に飛び込んでいった。




スマホがついにゴーストタッチするようになりました!
ゆえに、更新が遅くなりました(言い訳

やはり、神様にプロテクトしてもらわないとダメですね!

誤字あったらごめんなさい…

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