この素晴らしい過負荷に祝福を!   作:いたまえ

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100均で、復刻版シゲキックスを買い占めている人物がいたら、それは私です。声をかけて下されば、一つだけ譲りますので!


六十五話 天上へ至る輝き

  めぐみんとダクネスが地下道を引き返して数分。再度お店の直下まで戻ってきたところで、店内の様子を窺う。轟く金属音に、トゥーガの無事を知った。命があるなら、今からでも遅くはない。2人は顔を見合わせて、救出プランを練る。

 

「私に出来ることなんて、そうはありませんが」

 

  めぐみんは知っている。自分の魔法はこうした場面に不向きだと。魔王軍幹部、ベルディアを討伐したときもそうだった。屋内戦闘では、翼をもがれた天使のように役立たずなのだ。天使に翼が必要なのかはさておき。

 

「や、めぐみんには爆裂魔法以外期待していないから安心してくれ。トゥーガさんの盾には私がなろう。」

「なんか引っかかる言い方ですね。確かに、爆裂以外を求められても困りますけど」

 

  ダクネスが導き出した結論は、結局は捨て身。というか、運の要素が強いものになった。このまま自分が店に突入して、トゥーガと合流する。そして、どうにかトゥーガと連携して襲撃者から逃げ果せたタイミングで、めぐみんに爆裂魔法を放ってもらうというもの。お店もろともの破壊となるが、命には変えられない。こればかりは、ダスティネス家の私財で弁償する他あるまい。

 

  地上階に上がった時点での、トゥーガの安否が鍵だ。剣が奏でる音が鳴り止まぬ内に、決行しなくては。

 

「めぐみん、早めだが詠唱を開始してくれ。私は爆裂魔法の発動準備が整うギリギリで上がるとしよう」

 

  詠唱が終わるよりも前に襲撃者と事を構えては、爆裂魔法が発動するのを待たずに殺される可能性がある。

 

「わかりました。ダクネス、どうにか頑張ってください」

 

  めぐみんが魔力を練り始める。集中し、思考を深い段階へ移行していく途中で。

 

『……君たち二人の頑張りを高みの見物と洒落込むのも洒脱ではあるけれど、ここはやっぱり手を貸すべきかな。リーダーとしては!』

 

  やけに甲高く、蠱惑さのある声が場違いに響き渡った。めぐみんの集中は一瞬で切れる。ここに居るはずのない人物が現れては、誰だって気を乱すしかあるまい。

 

「み、ミソギ!?どうしてここに」

 

  堪らず、めぐみんが聞いた。ダクネスが腰砕けになっている間に、アクアと二人で情報収集に向かったはずだ。レオルに誘われるがまま、入り組んだ道を進んできた二人の居場所がどうしてわかったのか。

 

「というか、後ろからやって来るということは、地下通路の出口から遡ってきたのか?店の入り口からの登場なら、百歩譲ってわからなくもないが」

 

  ダクネスも置いてけぼりに。いや、この場合は置いてけぼりというよりかは、寧ろ球磨川が進みすぎなのか。地下通路の出口がどうなっているか、女性陣は把握していない。それでも、きっとカモフラージュされていて、人目につかないよう工夫してあると推察される。だのに、球磨川はそこから遡ってきたらしい。前から通路の存在を知っていたと考えるのも不自然だし、全くわけがわからない。

 

『その問いに対する答えはシンプルだよ、ダクネスちゃん』

「というと?」

 

  よもや、球磨川がこの地下通路の製作者とでも言うまい。ダクネスは続きを促した。

 

『学生時代、僕は後輩から【風】と呼ばれて慕われていてね。』

 

『風は』『囚われないから風だ。』

 

  返答は、全く理解不能な音として女性陣の耳に届いた。なにせ、答えになっていないのだから。球磨川のドヤ顔に力が抜けていく。

 

「えっと。アクアはどうしたんだ?」

 

  言葉のキャッチボールは諦めた様子のダクネス。こちらから投げたボールは、球磨川が明後日の方向へ投げ返してしまうので、新たなボールを投げてあげる他ない。

  アクアと一緒に行動していたなら、彼女も近くにいるのだろうか。ダクネスとめぐみんが球磨川の背後を伺うも、気配はない。

 

『アクアちゃんなら、王城にいるよ。アイリスちゃんと遊んでるんじゃね?』

「なっー!?アイリス様に謁見したのか、お前達は!!」

  サラリと驚きの事実を告げられてしまう。一国の王女と面会出来る幸運を、さも普通の事のように語る球磨川。貴族であっても、力が弱ければ他の貴族に頼み込んで、数ヶ月の工作を経てやっと謁見が可能になるレベルだというのに。この男には、やはり常識は通用しないようだ。

 

「アイリス様……。私も、名前でしか知らないのです。【軽い情報収集】が、随分とまあ大それた行動になったものですね」

 

  その辺のおばちゃんとかに現状の暮らしぶりなどを聞く程度かと思ってみれば、国のトップへ突撃してるとか、つくづく行動を読めない男だ。流石は球磨川といったところか。一般人がアポも無く王城を訪れ、王女に会えるなんて。一体どんな手品を使ったのか。まさしく、破天荒とでも言うべきか。

 

『それはさて置いて。今はやるべき事があるんだろう?なら、話はそれが終わってからにしよう』

 

  球磨川は、隠し通路の天井を見上げた。なんだか状況はわからないけれど、めぐみん達が誰かを助けるべく策を練っていたのは聞こえた。

 

「それもそうだな。しかしミソギ、今日の敵はとても厄介だぞ。搦め手を使えば、ベルディアとも斬り合えるクラスの使い手かもしれないんだ」

『あっそう。』

 

  首なしデュラハン。ダクネスが殺された、苦い経験のある相手。なるほど、強敵には違いなかった。あれクラスの達人ともなると、一筋縄ではいくまい。だというのに、球磨川の返事はえらく素っ気ないものだ。

 

「あっそう……て、ミソギ。コトの難しさを理解できているのですか?今現在、我々を庇う為に、ベルディアと同等の敵と戦ってくれている御仁がいるんですよ。そして、私たちは一度逃げたものの、やはりその御仁と協力した方が良いと判断して、ここに戻ってきたわけです。」

「うむ。で、ここで作戦をたてていたのだ」

 

  二人の矢継ぎ早の説明。球磨川はそれを受けても、特に表情は変化させなかった。どころか、不思議そうに首を傾げて。

 

『ベルディアちゃんなら、僕らは倒したでしょ?今、上にいる相手がその程度なんだとしたら、迷ってる時間が勿体無いよ。サクサクっと、前回みたいにめぐみんちゃんの爆裂で倒そうぜ』

 

  球磨川はのほほんと言い放つ。

  言うは易し。めぐみんは微かに苛立ち、球磨川に対し語気を強めて。

 

「ですから、私の爆裂魔法を如何にして当てるか考えていたのです。さっきまでは、ダクネスが刺客と向き合って時間を稼ぐのが有力だという判断でしたが……」

『うん、悪くない作戦だ。物は試しでトライしても良いくらいにはね。ベルディアちゃん程度の相手であっても、今のダクネスちゃんでは不利だと言わざるを得ないものの、でも、ダクネスちゃんが覚醒して、隠された力で敵と互角の勝負を演じる確率はゼロとは言い難いことだし。』

「私の評価低すぎではないのか?……それは、ベルディア戦では死んでいただけだから強くは言い返せないが。アレから結構経っているわけだし、今ならもうちょっとマシに戦えるつもりなのだが……」

 

  モニョモニョと、ダクネスは不満を言う。

 

『けれど、それは僕がいなかった時の案だよね?』

「ええ。ミソギがいるなら、話が違います」

 

  めぐみんは思い出す。ベルディアとの戦闘を。球磨川はスキルを使い、移動時間をなかったことにして爆裂魔法の範囲外から脱出した。今回も、同様の手法が有効だろう。

 

『時間を稼ぐ必要は、僕の加入によって無くなった。けど、どっちにしろ御仁とやらの救出は、ダクネスちゃんにお願いしてもいいかい?敵の攻撃に耐えられるのは、この中じゃ君一人だけだ。とは言っても、攻撃される前に作戦は完了するだろうけれど』

 

  ショックを受けていたダクネスは、役目を伝えられた途端、表情を引き締めて。

 

「ああ。防御力が要求される役割は、私が適任だ。だがミソギ、時間を稼ぐ必要が無いとは……何故だ?」

『単純明快だよ。ダクネスちゃんが御仁さんの元へたどり着くまでの時間と、ここへ引き返すまでの時間。その両方を、僕のスキルで無かったことにすればいいのさ。』

 

  この世でただ一人、球磨川にだけ扱える反則級のスキル【大嘘憑き】。この期に及んで、どんな事が可能でもツッコミはしない。球磨川について真剣に悩むのは細胞の無駄遣いだと、めぐみん達も学習してきた様子。

 

「ホントに、なんでもありですね。いえ、文句ではありません。ミソギのスキルがなければ、私達は今日まで生きていないのかもしれないですから。それで、私は爆裂魔法の準備に入ってもいいんですね?」

『いいともー!そしたら、ダクネスちゃん。君は上に行ってくれるかな?似非ワープとはいえ、ダクネスちゃんからすれば、普通に移動するのと変わりないんだよね』

「あ、ああ。承知した!」

 

  ダクネスは駆け出す。その後ろ姿に球磨川が右手を突き出し、スキル名を呟く。すると、ダクネスは瞬間的に消え去ってしまった。今頃は、もうトゥーガの傍らまで到達している事だろう。

  めぐみんは見落としたが、この時、一人静かに球磨川は安堵していた。問題なくスキルが行使されたことに対する、安心。彼をよく知っていればいるほど、球磨川より安堵が似合わない男なんて思いつかない筈だ。

 

「ミソギ、威力は抑えなくてもいいんですね?」

 

  めぐみんは、一応確認する。寂れていようと、ここは街中だ。レストランの近隣は空き家だらけなので人命は気にしなくてもいいだろうけれど。

 

『大丈夫、アイリスちゃんの許可ならおりてるからね。』

 

  当然、おりてはいない。もし、この後に王城で顔を合わせたのなら、多分可愛らしく頬を膨らませてしまうだろう。

 

「わかりました……!トゥーガさんのシチューを再び食べる為に、我が究極の光を具現しましょう!」

 

  練り終えた魔力が奔流し、地下通路に満たされていく。ビリビリと皮膚に響く痛みは、巨大すぎる魔力を受けてのものか。

  にわかに、ボロボロのトゥーガを担いだダクネスがこの場に出現したのを見て、めぐみんは全ての魔力を頭上へと集めた。

 

「出でよ極光。森羅万象、全てを無に帰す破壊の象徴……!」

 

  魔法陣は現れない。いや、現れないのではなく、見えないだけだ。地上階でのみ、大きな魔法陣は目視可能となっている。

  襲撃者が逃げに徹すれば、当たるかどうかはわからない。とはいえ、手加減しても倒せない。ならば、全力全開だ。マナタイトの杖は、天才少女の溢れ出んばかりの魔力を完璧に御してくれた。めぐみんにとって、それは至極当たり前のこと。背中を預けるような安心感の中で、あとは一言発するだけで、争いは終わる。

 

「【エクスプロージョン】!!!!」

 

  聖なる光は。王城内にある、謁見の間に備え付けられた巨大な窓にすら収まらない程、天高く伸びていった。その光の先を見る為には、翼でも生やさない限り不可能だろう。

 

 







筆がのる…!
すなわち、仕事から逃げているということ……!!

2日続けて投稿出来るなんて、いつぶりですかね。

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