この素晴らしい過負荷に祝福を!   作:いたまえ

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どうも、みなさん。サブタイトルのとおり、今回は挿絵があります。嫌な人の為に、注意喚起しましたよっ
しくよろです!


六十七話 過負荷との遭遇 【挿絵あり】

  地下通路の先は、住民が行き交う商店街の一角。今は使われていない空き店舗裏の、古い井戸につながっていた。井戸といっても、水は干からびて既になく、雑草がチラホラと生えているのみ。井戸からの隠し通路という定番のシチュエーションについては、球磨川がドラ◯エの世界ならば良くある事だと語り、けれど誰の賛同も得られずに終わる。アクアでも居れば共感してくれただろうか。

  一同はひとまず空き店舗内の埃が積もった床に腰を落として、状況の説明をしあうことに。歩くごとにフローリングから音が鳴るほど、年季の入った建物。ここは、トゥーガが偽名で借りており、最低限の維持のみを行なっているだけの場所。密かにミーティングをするにはうってつけだ。いかに敵が情報通であっても、ここを特定するまでには至るまい。

 

  円を描くように、顔を向かい合わせた面々。めぐみんを背中に担いできたダクネスは、ちょっぴり肩で息をしている。おんぶで長距離進んで乳酸漬けになり、トドメに井戸からハシゴを使って、めぐみんを背負いながら地上に上ったのだから無理もない。

 

『さて、と。』

 

  球磨川は丁度目の前に位置取ったトゥーガに目をやり、その横のレオルにも、なんとなく意味ありげな視線を送ってから。

 

『まずは初めましてだね。……トゥーガさんと、レオルさんとやら。僕の名前はクマガワ ミソギだ。これでもダクネスちゃんとは、彼女のお父様公認の仲でね。レオルさんは、もしもダクネスちゃんに手を出すのならば、まずは僕に話を通してもらおうか』

「まだその話を引っ張るのか!?そもそも、お父様公認ってなんだ。誰もそんなものを認めた覚えはないのだが!」

『……だっけ?』

 

  すっとぼける球磨川。ダクネスとの発展は望むなと、正面切ってレオルを牽制したのは……たんなる平時のからかいか。又は、ダクネスに恋をしてるが故の嫉妬心からか。……まぁ、後者の可能性は極めて低い。なぜならば、【ダクネスを盗られるかもしれない】なんて焦りが、この過負荷に芽生えることが前提だからである。いや、仮に芽生えたとしてもだ。それは親愛から来ているのであって、決して恋愛感情ではないだろう。どちらにしてもレオルは苦笑するのみ。ダクネスについては仕事ありきの、たまたま護衛対象になっただけの間柄。しかも、球磨川はどうやら、レオルのチャラさのみに重きを置いている様子だからだ。チャラいイコール遊び人なイメージは世の常だとはいえ、任務遂行の為の偽りの人格に注意を促されても、どうしようもない。チャラい演技を止める時が来るとすれば、レオルがダクネスに近づく状況にもならないのだし。

  球磨川の忠告は、肝心のレオルにはいまひとつの効果だったが、違う人物には動揺を走らせた。意図せず横で聞いていただけのめぐみんは、球磨川がダクネスを異性として意識しているのではと、ちょびっとモヤモヤした気分になる。

 

(て、なんで私がモヤモヤしなきゃいけないのですか!仮にミソギがダクネスに恋をしていようと、私には関係ないじゃありませんかっ)

 

  めぐみんは両手で頬を叩いて、余計な思考を振り払う。

  三人だけのパーティーで、自身を除く二人が恋仲になる状況は到底【関係ない】では済ませられない問題のはずだが……それでも。めぐみんは頭からピンク色の悩みを追い出した。考えれば考えるほど、ドツボにハマってしまうことを予知したのかもしれない。

 

「……はじめまして、クマガワ殿。ララティーナ様とパーティーを組まれている程の方であれば、ダスティネス卿から評価されていると言っても差し支えありますまい。私はトゥーガ。かつては王宮騎士団に籍を置いた者でございます。先程は窮地を救って頂き、誠にありがとうございます」

 

  ダクネスの前だからか、すっかり騎士モードの口調になったトゥーガさん。ここに至って多少の冷静さは取り戻したように見えるものの、影の男に間違いなく殺されたと思っていたのに、気がつけば地下通路でレオルに起こされていた時には、驚きを隠せていなかった。

 

「せっかくこうして拾った命。貴女方のお力になれるのなら、もうしばし同行させて頂ければと存じます」

 

  深々とした礼。彼の行動原理を辿っていくと、昔々にダクネスぱぱから受けた恩があり、それをダクネスに助力する事で返そうって感じだ。つまり、ダスティネス・フォード・ララティーナについては命がけで守るが、球磨川とめぐみんはその限りでは無いことを重々承知しなくてはいけない。もっとも、球磨川とめぐみんにだって先程命を助けられたのだし、ある程度なら手助けしてくれるだろうが。

 

『その旨を良しとする。良きに計らってくれよ、トゥーガさん』

「御意。」

 

  球磨川はトゥーガから気持ちの良い礼を受けて、瞬く間に気を緩めた。次にレオルが口を開いた途端に、気の緩みは解消してしまったが。

 

「俺っちはレオルっす!好きなタイプは年上のリードしてくれるお姉さん。趣味はナンパ。お気に入りの装備はムチっす」

 

  チラリと、上着をめくって腰に装備したムチを見せた。ダクネスは叩かれればそれはもう痛そうなムチを視界に収め、一度ピクッと背筋を伸ばす。

 

『ムチ……?それはもしかしてもしかすると、SM的なムチかい!?レオルさんって、実は今もダクネスちゃんを打ちたいのを我慢してるとか?それにしても、年上のお姉様に罵られたいだなんて、いい趣味しているじゃないか』

「別にダクネスさんを打ちたいとかいう訳ではないっすけど……、なんなら、お姉様が好みってだけで、罵られたいとかでもないんすけど!」

『へえ。ムチで打ちたいんじゃなければ、むしろソレは叩いて貰うために持ち歩いているんだねぇ。荷物が増えるだろうに、君のこだわりには感服したぜ。お姉さんにリードして欲しいって、さては首輪のことなのかな』

「や、だから。俺っちはマゾじゃないっすって」

 

  球磨川禊には色々な意味で注意しろ。暗部で共に任務をこなした戦友、サトウカズマは護衛を依頼してきた際にそう言った。低レベルな冒険者風情に気を使う必要があるのかと話半分だったレオルだが

 

(なるほどね。物腰が……なんというか、独特だな。戦闘面で特筆すべき点があるかの評価は保留だが、警戒は必要か)

 

  球磨川は仮にも魔王軍幹部も倒している。カズマがどうして護衛対象の男を警戒するよう呼びかけたのか、その真意もよくわからない。だが確かに、眼前の球磨川には謎の嫌悪感を抱いてしまうようにも思う。何かしらのスキルが発動してるのだろうか。

 

(そうだとすると、普通は自身に対して好意を寄せるようコントロールすんじゃないのか……?あえて嫌悪感を覚えさせるのは、デメリットしか無いようにも感じるが)

 

  様々な予想はたてられるものの、どれも想像に他ならない。加えて、現時点で球磨川と敵対しようものなら、護衛任務そのものが成り立たなくなる恐れがある。護衛対象並びにトゥーガも無事。まずは上々の結果としても、カズマは怒るまい。影の男にうまく陽動作戦を決められた時は肝を冷やしたが、どうにか乗り切った。転ばぬ先の杖としてレストランにめぐみん達を匿っていなければ、今頃どうなっていたことか。

 

「で、チャラ男はなんだってレストランまで戻ってきていたのですか?私達の食事代を支払ってくれたところまでは認めてあげますが、やっぱりナンパを続行する腹だったとか」

 

  めぐみんのチクリとした指摘。球磨川について少しばかり真剣に考察するも、一言で引き戻された。ここは、考えて答えなければ任務に差し障る。ナンパに来たと言って女性陣の好感度を無駄に下げるのも得策ではない。ならば……

 

「そりゃ、トゥーガさんのシチューを食べたくなったからに決まってるじゃないっすか。人にオススメしたら、自分も食いたくなるんすよねぇ」

 

  極力、再度来店した理由をそれっぽくでっち上げるしかあるまい。土壇場のアドリブ、これはいささか苦しいか。レオルが恐る恐るめぐみんの反応を観察していると。

 

『あ!その感覚はわかる。わかるよ、レオルっち!食べたくなるなるケンタッキーってワケだね?』

 

  球磨川が右手をハイハイとあげて、めぐみんとの間に身体をねじ込んで来た。

「わ、わかるっすか!?クマガワさん」

『モチのロンさ。おいおい、どうしたんだよレオルっち。君と僕の仲じゃないか、他人行儀な呼び方はやめて、ミソギっちって呼んでくれよ』

 

  球磨川と、自分。お互いが警戒しあっているという認識だったレオルは、唐突に全肯定されて虚をつかれた。コロッと変わった球磨川の表情には、親愛が感じられるほど。今の発言の、どこに球磨川と仲良くなる要素があったのか。レオルにはわからない。

 

「……トゥーガさんのシチューは、それはもう絶品でした。いいでしょう、私たちにオススメする中で自分も食べたくなってしまったという貴方の言い分は信用します」

 

  とはいっても、めぐみんに不信感を与えずに済んだので、球磨川が前触れもなく距離感を詰めて来たのは嬉しい誤算か。

 

「それでだ、ミソギ。お前が何をしていたのかもじっくりと聞かせてもらいたいのだが?」

 

  食べ物が美味しいから仕方がない。なんてトボけためぐみんの判断基準に喝を入れたかったダクネスだが、優先すべきは球磨川の動向。レオルは一旦問題なしとして、トラブルメーカーの行動へ焦点を絞った。

 

「どうしてアイリス様に謁見出来たのか。そこらへんを詳しく話してくれるだろうな?」

 

  一同の視線が球磨川へと集まる。

 

『んーとね。……アイリスちゃんと僕がマブダチになった経緯か。そもそも、人と人との間に友情が芽生えるのに、理由なんか必要なのかな?ともすると、友達になってくれ!なんて宣言するほうが変だとさえ感じるけれど』

「……そうじゃない。この際、ミソギとアイリス様がマブダチ云々は流すとして。最初の、出会うまでの経緯は説明出来るんじゃないか?一般人のお前とアイリス様では、身分が違うのだし」

『袖振り合うも他生の縁って、偉い人も言ってたことだし。……僕とアイリスちゃんの出会いは前世から決まっていたようだ。つまりっ!何故出会えたのかではなくて、出会うのは当然だったと考えるべきだね』

 

  球磨川以外、この場で納得出来た人間はいない。既に【いつもの】といって差し支えない球磨川の煙にまく論法。

  ダクネスも、水を向ける前からこうなりそうな気はしていたものの、いざやられるとやっぱり苛立ってしまう。

 

「仮に、仮にだ。前世からの縁が、お前と、アイリス様にはあったとしよう。そうであっても、物理法則を無視するまでには至らないはずだ。ミソギ、お前はどうやって謁見の間までたどり着いた?よもや、アイリス様が門の外まで出迎えてくれたとは言うまい。門番をどのように納得させ、城内へと入ったんだ」

『しつこい女は嫌われるよ?ダクネスちゃん』

「なんだとっ。……しつこい?私が??」

『ていうか、気がついていないのかい?さっきから外で僕らの様子をコソコソ伺っている人たちに』

「……なに?そうやって嘘をついてまで、話したくないということか?ここは、トゥーガさんの隠れ家だぞ。そう簡単に見つかるわけがないだろう」

 

  今度は、敵襲だなんて嘘をついてまで答えないつもりなのか。呆れかえって言葉も出ない。ダクネスはこれまでかと、球磨川を問い詰める徒労はやめようかと考え始める。

 

『残念なことに、嘘じゃない。文句があるのなら、こればっかりは……空気の読めない襲撃者さんサイドに言ってくれないとね。こっちは戦闘したばっかで疲労してるってのにさ。ま、早すぎる展開は嫌いでは無いけれど。それと、ダクネスちゃんも、そのセリフはフラグにしかなっていないぜ』

 

  球磨川はユラリと立ち上がって、螺子を構えた。どこまで悪あがきをするのか、なんて未だ球磨川に疑いの眼差しを向けていたダクネス。が、気がつけばトゥーガも。あろうことか、レオルまでもが臨戦態勢となったいた。

 

「み、みんなして……?では、襲撃者がいるのかっ、本当に!?」

 

  ダクネスも遅ればせながら剣を構えた。襲撃者の気配なんて微塵も感じ取れていないので、切っ先はぐるぐるとアテもなく周囲をさ迷う。

 

『どうにも、ここを隠れ家とは呼べなくなったようだぜ?トゥーガさん』

「ええ。これからは、ただの別荘としてしか用途がないようですね」

 

  隠れ家だから安全だと、ダクネスは胸中油断していた。ここがセーフハウスである為には、隠し通路の存在が知れ渡っていないことが重要だ。レストランからの隠し通路が見つかり、出口までたどり着かれれば、付近にあるこの建物だって途端に安全では無くなる。当然、レストラン側の隠し通路には発見されないようカモフラージュを何重にも施した。

 

「あれを発見するなんて、ちょっと普通じゃありませんね。スキルでもあれば可能なのかもですが」

『ま、見つかったことを嘆いても解決しない。ここは、とにかく敵を迎撃しよう』

「そうですね……!しかし、身動きできない私は足枷でしかありませんけど」

『なーに。めぐみんちゃんを庇うくらいのハンデ、僕は慣れっこさ』

「ミソギ……。す、すみません、毎度」

『いいってば。君はそこで、ジャンプでも読んでくつろいでおくといい』

 

  球磨川達は、サインを出さずともめぐみんを守れるように各々がポジションを移した。襲撃者も、これではウィークポイントであるめぐみんを狙うのは難しい。

  近接戦闘には、ダクネスとトゥーガ。中距離での遊撃はレオルが。そして、後方で支援し、回復もこなす球磨川。急造のメンバーにしては、以外とバランスがとれている。

 

「敵は二人といったところですね。少数ですが、あの影と同じレベルだとすると、楽な相手とは言えますまい」

「トゥーガさん、数までわかるんすね!?流石っす!」

 

  さっきの戦いで、どうやら昔の勘が戻ってきているトゥーガは、油断なく窓の外を見る。気配で数を判断できるのは熟練した索敵能力を要するが、こともなげにやって見せた。レオルは出番を奪われ、素直にトゥーガを賞賛する。

 

「ばかもの。敵感知スキルに決まっているだろうが」

「あ……そうっすよね」

  見事な索敵は、スキルによるものだった。

 

『……この布陣を見て、撤退してくれれば儲けものなのだけれど』

 

  敵も手練れなら、こっちの守りが固いのを察するだろう。もうちょっと人数を揃えて来たいと思うのが、頭数で負けている側の自然な考え。

 

  ……しかし。

 

「【エクスプロード】ッ!!!」

 

  屋外から聞こえた、低く響く声。

 

『これは……!?めぐみんちゃんの……』

 

  バリトンボイスがスキル名を叫ぶと。【エクスプロージョン】には及ばないまでも、殺傷力は充分に備わった爆発が屋内で発生した。

 

  木製の建物は見事に破壊され、球磨川達は紙のように吹き飛ぶ。驚くリアクションすら、とらせてはもらえない。

 

  どんなに守りを固めようと、地盤から崩されては意味をなさない。高威力の爆発は、居飛車穴熊囲いが完成した将棋盤を、手でひっくり返してしまうような理不尽さを兼ね備えていた。

 

『ぃ、ててて……』

 

  球磨川は全身を屋外の地面に叩きつけられ、脳にも深刻なダメージを負ってしまったようだ。グワングワンと視界が回り、眼に映るものすべて二重にボヤけている。それでも、必死で仲間たちを探す。

 

  ダクネスも、めぐみんも、トゥーガにレオルも。伏してはいるが、呼吸はしている。タフなダクネスが一撃でダウンしたのは、めぐみんを庇ったかららしい。彼女の身体は、めぐみんに覆いかぶさっていた。

 

『みんな生きてるね。不意打ちとは卑怯な真似を!』

 

  姑息な手段をとった相手に怒りをぶつけつつ、球磨川は魔法を放った人物を探す。

  どれだけ首を捻っても道行く人々しか見えないが、ここで違和感を覚えた。行き交う人が、誰も今の爆発を気に留めた様子がなかったからだ。

 

『おや。みんなには、さっきの爆発が見えなかったとでも?いくらなんでも、スルースキル高すぎじゃない?』

「爆発魔法をその身に受けて尚、余裕な態度。……結構。耐久力はあるとお見受けしました」

『ん!?』

 

  球磨川は即座に声がした方へ振り向く。が、誰もそちらにはいない。

 

「ですが所詮、耐久力とは戦闘に役立ちはしません。何故ならば、貴方は私の姿を捉えられないのですからね。【エクスプロード】!!!」

 

  またも大規模な爆発が球磨川を襲った。今度の爆発は皮膚と肉をゴッソリ持っていき、球磨川を後方へ大きく吹き飛ばした。

 

『グエッ……!』

 

  爆発魔法を二発。うち一発はモロに球磨川を対象に放たれた一撃。最初の、余波だけのダメージとは比較にならない。

  球磨川がゴミのように地面に転がったのを確認してから初めて、術者が姿を見せた。

 

「如何でしたか?私の得意魔法の味は」

 

  たった今爆破された建物の残骸から、舞踏会を抜け出してきたような、仮面で素顔を隠した男の登場。明らかに球磨川に顔を見せないよう意識している。しかも、男はあろうことか、気絶しためぐみんをお姫様抱っこしていた。姿勢の良い佇まい。さながら、お姫様を迎えに来た貴族の旦那様みたいな印象を与えさせる。眼前の人物が、いきなり隠れ家を爆発させてきた犯人らしい。

 

『へ、変態仮面だ……!』

「変態ではありませんっ!!」

 

  ズタボロの球磨川は、舞踏会男を指差して口をあんぐりと開く。男も男で必死に否定したものの、めぐみんを抱えていては説得力ゼロだ。

 

『めぐみんちゃんを攫おうとしてる時点で、君は変態だ。なんだってダクネスちゃんじゃないの?彼女のほうが発育がいいのに』

「発育は関係ありませんよ。こちらの女性の方が、疲弊していてさらいやすいだけのこと」

『ドン引きだ……。僕にすらドン引きさせる業の深さは誇ってもいいよ、君』

 

  球磨川は木っ端微塵に骨が砕けた足で、すんなり立ち上がると。

 

『君が誰で、なんの目的でめぐみんちゃんを攫おうとしているのか、そんなのはどうでもいい。ポイントは一つ。君のシナリオどおりにはいかせないってことだ』

「ボロボロの身体で無茶をすれば、後遺症が残りますよ?」

『敵に情けをかけるつもり?舐められたものだ』

 

  爆発魔法のダメージをなかったことにして、ネジを取り出し舞踏会野郎に突っ込む球磨川。途端に綺麗になった外見に男は若干狼狽したが、即座に落ち着きを取り戻して。

 

「むっ!?……ベアトリーチェ!!」

 

  側に控えていた、仲間に助力を求めた。

 

『……ぐっ!?』

 

  男が仲間の名を呼んだ瞬間。球磨川は不意によろけ、片膝をつく。足の骨折は治癒しているため、決して痛みで崩れ落ちたのでは無い。ただ、ひたすらに気分が悪い。三半規管を揺さぶられたような、酔いに似た感覚が突然襲って来たのだ。

 

『平衡感覚が…、これはスキルかな?』

 

  片膝をついて尚、グラグラと上半身を揺らさないとバランスを保てない球磨川の視界に、ゆったりとした歩き方で新たな敵が入ってきた。

 

「だから、最初から二人で行くべきだって言ったじゃない。」

 

  やってきたのは、アイリスよりも更に幼い女の子だった。白と黒を基調にしたゴスロリ服を身に纏った、黒髪ツインテールの乙女。

  髪をかきあげながら、仮面の男に苦言を呈している。セリフから、仮面の男が一人で事足りる、的なことを言っていたらしいと推察する球磨川。

 

『狙うのもロリ、連れて歩いているのもロリ。これを変態と呼ばず何というのさ……』

 

  段々と酷くなる症状を堪えつつ、必死に意識を保ってはいるが、いつ気を失ってもおかしくない窮地。にも関わらず、軽口を叩けるのは球磨川ならでは。

 

「だ、誰がロリですって!ふざけんじゃないわよ、アンタ!」

 

  ロリ呼ばわりされて怒るロリっ娘。

 

『ベアトリーチェちゃん、だったかな?確か、イタリアではポピュラーな女性名だっけ。なるほど、君のゴスロリ服はたしかに【ディ・モールト ベネ(非常に良しッ)】と言わざるを得ないようだ』

「アンタ……!」

 

  いつまでも気を失わずヘラヘラと喋り続ける球磨川に、ベアトリーチェは若干目を開く。日本人風の顔立ちだが、瞳は青い。碧眼の日本人はいないので、純粋な異世界人か。もしくは、名の通りイタリアの血が流れているのだろうか。

 

「長居は無用です。ベアトリーチェ、そろそろ仕上げなさい」

 

  仮面の男が急かす。

 

「わかったわよ。アンタ、これだけ長く耐えるなんてやるわね。でも、もう終わりにするわ」

 

  ベアトリーチェなる少女は邪悪に微笑む。すると。球磨川をもってしても耐えられないほどの精神的ダメージが押し寄せてきた。

  頭痛、めまい、吐き気。どれも風邪薬で治せそうな症状ではあるものの、一度に、かなりの辛さで訪れれば馬鹿にはできない。

 

『ぐぅう……』

 

  球磨川がいま倒れては、謎の奴らにめぐみんを連れ去られてしまう。だから、絶対に気を失うワケにはいかない。

 

『こんなもの…!【大嘘憑き(オールフィクション)】ッ!!』

 

  スキルによる攻撃なら、なかったことにしてしまえばいい。球磨川はどうにか【大嘘憑き(オールフィクション)】を発動した。……だが。

  依然として、苦痛は終わらなかった。

 

『……!?僕のスキルが、効かないだと。まさか、これは……!!!』

「さようなら。おそらく、二度と会うことは無いと思うわ」

 

  球磨川の視界が黒に染まっていく。連れ去られていくめぐみん。そして、ベアトリーチェの黒い微笑み。

 

『めぐ……みん、…ちゃ…ん…』

 

  少女のスキルに対する心あたり。紛れもなく、アレは自分と同じ類のもの。

 

  まさしく、『過負荷(マイナス)』だと、薄れていく認識の中で心に刻み込んだ。かつての後輩にあたる江迎怒江(えむかえむかえ)のスキル、【荒廃した腐花(ラフラフレシア)】を無かったことには出来なかった過去が蘇る。だがあの時は、スキルそのものは消せなくても、スキルによって腐敗した顔面などはなかったことに出来たのだけれど。

 

『(僕のスキルが不安定な事が原因か、あるいは……ベアトリーチェちゃんの過負荷がとてつもないのか……だね……)』

 

 球磨川は、いつもよりも多めに無力さを噛み締めながら、ついに意識を手放してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 













挿絵は、オリキャラのベアトリーチェちゃんでした!
ほら、やはりオリキャラともなると私の拙い文章では魅力を出しきれませんからね。百聞は一見にしかず。挿絵で彼女をイメージする手助けになれば最高ですっ。こんなに可愛いキャラを生んでしまうとは…(自画自賛



え、男のオリキャラの挿絵??
そんなの、私の文章だけで充分では?笑

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