ダクネスの引き取り先がめでたく決定した後、クリスはこれから数日間に渡り野暮用があるとだけ告げて帰った。
テーブルから離れる前に、球磨川の耳元で優しく囁く。
「球磨川さん。貴方のスキルは、滅多な事では使用しないって約束してください。」
【大嘘憑き】。現状、微塵も解析が進んでいないが、使い方次第ではとてつもない被害を出すスキル。釘を刺しても球磨川が思惑通り動いてくれないのは承知の上。釘を刺しても刺さなくても変わらないなら、念のため刺した方がいい。
『滅多な事って例えば?』
「そうですねぇ。…例えば。大切な人を複数人、守りきらないといけない場面とかなら許します。」
人差し指を立ててウィンクするクリスは、変装でも隠しきれない女神オーラを放つ。惚れやすい球磨川が八割くらい好きになる程、破壊力を秘めていた。
ギルドの出入り口付近で一度立ち止まって、律儀に一礼してから去っていくエリスを見送ってから
『…まったく面倒な縛りだぜ。表蓮華じゃあるまいし。』
……………
………
「さあ!二人とも!こっちです。さあ早く!!」
赤い瞳の爆裂ロリ娘がハイテンションで球磨川とダクネスを急かす。
今日はめぐみんが爆裂魔法によるモンスター撃破を披露する大切な日。
二人を50メートル程置き去りにし、華麗なスキップで移動する。
モンスターのいる地点はおおよそ見当をつけてきためぐみんは、後はカッコいい口上とともに魔法を放つだけ。
冒険者の球磨川は爆裂魔法に魅了されて、めぐみんと一緒に爆裂道を極めんと燃えるに違いない。
妄想に忙しいめぐみんの意識は遥か彼方。ゆえに、球磨川とダクネスの注意を促す声は届いていない。
「めぐみん!左だ、左!!」
ダクネスが叫びながら、全力でめぐみんの救出を急ぐ。
『まずい。ここからでは、螺子を投げようにも射程外だ…!』
球磨川も一生懸命走ってはいても、ダクネスより遥かに遅く。
……………
………
遡ること数時間。
「今日のクエスト、私が選んでも良いでしょうか」
クリスと別れ、三人はクエスト掲示板の前に移動した。各々今日張り出されたクエストの内容を隅々チェックしていると、めぐみんが1番に立候補。
『僕は構わないよ。何せ、今日は爆裂記念日だし。』
「今日は爆裂記念日だったのか。なら仕方ないな。めぐみんが決めてくれ。」
鼻息を荒くするめぐみんは軽くガッツポーズして喜び、かと思えばスッと真顔で球磨川とダクネスを見た。
「二人とも、今日は爆裂記念日と言いましたね?」
『言ったね。』
めぐみんが喜ぶと思って。
「甘いのです!!」
ちっちっち。人差し指を左右に振っためぐみんが
「確かに、今日は爆裂記念日です。がっ!昨日も、そして明日も!これからは毎日が爆裂記念日なのですっ!間違えないでいただきたい。」
「す、すまなかった。以後気をつけよう。」
パーティーに入れてもらった立場のダクネスは「めんどくさい」とか正直に言える筈なく、とりあえず謝ってみた。
『サラダ記念日に代わって教科書に載っててもおかしくない、最高の記念日が生まれてしまった…!めぐみんちゃん、君のめんどくさいところも僕は好きだよ。』
「教科書…!」
その発想は無かったと、めぐみんが目を見開く。マントをバサっと手で靡かせて、おなじみカッコいいポーズに移行した。
「今日は私の人生で最高の爆裂魔法を撃つと宣言します!教科書に載る、子々孫々語り継がれるであろう瞬間に立ち会える幸福。我が爆裂を、とくと堪能して下さい!なんなら友人枠でインタビューとかを受けさせてあげても良いですよ。」
『爆裂記念日って祝日になる?祝日なら嬉しいな。でもでも、合併号になるからその点は改善が必要だ。祝日が毎日増えるなんて、集○社もまだ対策してないと思うし。』
「…私はもしや、進んでハズレくじを引いたのではないだろうか。」
ちょっとしたおふざけで、パーティーメンバー3分の2が妄想の殻に閉じこもった。ダクネスはパーティーに入ったその日のうちにやらかしたのではと不安に苛まれた。
「今日はジャイアントトードを倒しに行きましょう!」
ピラッとクエスト掲示板から紙を剥がし、そのままカウンターまで持って行ってしまっためぐみん。
『ジャイアントトード?』
「ここら辺ではメジャーなモンスターだな。牛より大きいくらいのカエルだ。グレート・チキンを倒した私達なら、問題ないだろう。」
めぐみんが受付作業を終えるまでの間、球磨川はダクネスにジャイアントトードの姿形から戦い方まで教わった。
『昨日、カズマちゃんとアクアちゃんが返り討ちにされたモンスターじゃなかったかな。』
「ミソギの知り合いか?」
『うん。夜遅く、ヌルヌルになった二人を発見したんだけどね。アレはカエルにやられちゃったんだ。』
「ぬ、ヌルヌルかぁ。」
……………
……
上記のやり取りがあり、めぐみんを先頭にモンスター観測地点を目指していた一行は、予測地点の大分手前でジャイアントトードと鉢合わせた。
上機嫌なめぐみんは球磨川達より先を一人で歩いていた。しかもジャイアントトードに気づいてない。
『ダクネスちゃん!』
「承知した!」
クルセイダーは防御が自慢の職業で、ダクネスもかなり重量がある鎧を身につけている。頑張っても、鎧を着込んだ状態だと速度が生まれない。
(間に…合わないっ!)
ジャイアントトードは羊を丸呑みにする。めぐみんが丸呑みにされそうになって、二人は諦めた。こうなったら、呑み込まれためぐみんを迅速に助け出そうと。
「……………」
もうめぐみんが呑まれる前提で剣を引き抜いたり螺子を取り出したりしたダクネスと球磨川。
「…………」
ジャイアントトードが、なんのアクションも起こさない。
『あれれ?おかしいぞ。』
「どうしたんだ。」
ジャイアントトードはいつまでたっても動かない。
『あれ見て!ダクネスちゃん。』
球磨川はジャイアントトードの口元を指す。
「どれだ?」
球磨川の指先を視線で追うダクネス。
「…あ。」
ジャイアントトードの口からは、人の足が二本はみ出ているのが見えた。
「わあああん!カズマさん、カズマさんがあぁあ!!」
ジャイアントトードの背中側で、半泣きの女神が懸命に杖でカエルを殴り続けてている。杖での殴り方を知らないようで、ただベチベチ振り下ろす。アレではカエルはびくともしない。
「いつのまに隣に!?」
今更になってめぐみんがトードを認識し、大焦りで爆裂魔法の詠唱を開始。
「まて!めぐみん。あれの口にはカズマとやらがいるらしい。」
「なんですって!?どうしたら…!」
ダクネスがめぐみんを間一髪制止。
『いや!そのまんま爆裂魔法を使うんだ、めぐみん!』
ダクネスに追いつき、追い越す球磨川。ジャイアントトードとの距離をぐんぐん縮める。
「待ってくださいミソギ!どうするつもりですか!?」
言われた通り発動準備は進めるが、球磨川は何を考えているのだろう。
『いいから!僕に任せて。いっちょ最強の爆裂魔法を頼むぜ!』
球磨川はジャイアントトードの元までたどり着いた。
「…わかりました。ミソギを信じます。」
めぐみんの瞳が赤く光る。周囲には一筋の閃光が走り、魔力が凝縮されて空間が歪曲する。
「我が最強の魔法よ。ここに具現せよ!!【エクスプロージョン】ッ!!」
超大規模な爆裂。
ジャイアントトードは消し炭と化し。ジャイアントトードに呑まれていたカズマも同様に、瞬時に塵へ姿を変えた。
…………………
………
「はっ!?」
カズマが目を開ける。アクアと懲りもせずジャイアントトードにリベンジを挑んでいたはずの彼は、いつの間にやら別の空間にいた。
ここはどこだろう。見覚えのない、でもなんとなく居心地の良い不思議な場所。そうだ。日本で死んだ時。アクアと出会った空間に似ている。
「初めまして。サトウカズマさん。」
「!あんた…誰だ??」
「私はエリス。女神として、この世界を担当させてもらっています。」
穏やかな声。柔らかな微笑み。カズマの前に現れたのは、異世界で通貨の単位になるほど信仰されている、女神エリスだった。
「め、女神様…!本物の女神様だ。」
アクアと違う。お淑やかで清楚で。
エリスのような存在こそ、女神なのだ。
まことの女神に出会えた感動。カズマはせっかくだからエリスに質問でもしてみようか考えた矢先…
『やあ、カズマちゃん。ここは死後の世界。君と僕は、仲良くお陀仏したみたいだ。』
今まで何も無かった空間に、前触れもなく球磨川が出現。
「うわあっ!?く、球磨川!?」
カズマとエリスのみが存在する空間に、もう一人見知った珍客が登場した…
『やあ、エリスちゃん。僕だよ。…来ちゃった☆』