ペルソナ5Rはやくでないかな…サタナエルはいいので、ヨシツネだけでも引き継がせて欲しい。
上には上がいる。ディスターブは剣も魔法も極めた、世界でも上から数えた方が早い実力者だ。敵と対峙しても、自分の方が上回っていると感じたことは数多くあれど、刺し違えるのも厳しいと思えてしまう相手は長い人生でも僅か数人だった。
それが今日、新たに一人加えなくてはならなくなった。他ならぬ、眼前の相手アイリスを。
自身の娘でもおかしくない年齢差の少女に命を握られている。年長者として、男として。こんなに屈辱的な出来事もそう無いだろうが……
「貴女に限っては、嫉妬するのも烏滸がましい。いや?真にベルゼルグの発展を願うのなら、王女殿下の強さが本物だったことを安堵すべきですか」
ピリピリとした緊張感が全身を包むも、ディスターブの切っ先はピタッと固定されている。アイリスの剣がどのように迫っても対応可能な位置で。
「私こそ、認識を改めましたわ。ディスターブ卿、貴殿の構え……まるで隙がありません」
「光栄ですね。とはいえ、アイリス様がその気になれば、一瞬と保たないでしょうが」
「……驕り高ぶるつもりではないのですが、この国の王女として遅れを取るわけにはいけません。ましてや、恩人の命が危うい状況ではなおのこと。」
急ごしらえの為、王家の家紋が入った聖剣では無いものの、アイリスが持つこの世に二本とない宝剣が輝きを増す。
「アイリス様!?クマガワ ミソギ……彼を指して【恩人】と仰いましたか!?」
「ええ、私を外の世界へ連れ出してくれたお方。貴方も名前くらいは聞き及んでいるのではないですか?魔王軍幹部及び、悪徳領主を成敗してくれた人格者ですわ」
「馬鹿な……!人格者などと。だが、アイリス様がおっしゃるのなら、やはり私の杞憂か……?」
球磨川への不信感。依然、信用に足る人物かどうか量り損ねているものの、アイリスが言うのはそこいらの凡人が言うのと説得力が段違い。ディスターブも、頭ごなしに否定するだけの材料を持っているわけではない。目に余る素行の悪さはあるが、華々しい功績を無視していいレベルには至らず。
球磨川が真実、人格者であるなら。ディスターブが行ってきたことは全て……
「ディスターブ卿。貴方が何を思いクマガワ ミソギに敵愾心を抱いたのかはわかりません。ですがそれは、単なる思い込みから来たものではありませんか?」
「……さて。敵愾心とまではいきませんが、彼に不審な点があるのも事実。アクアさんがいないこの状況で、致命傷を負った彼がどうなるか見ものではありませんか」
「見ものですって……?」
「ええ。何事も無く命を落としてくれたら、どれだけ安堵することか」
「ディスターブ卿、貴方は……」
人の命をなんだと思ってるのか。罪もない優秀な冒険者を殺しかけておいて、安堵ときた。アイリスの知るディスターブとは、こんな人物だったのか。幼き王女は落胆を隠せない。その気配を察知したディスターブは、アイリスの言葉を遮る。
「王女殿下。私は、クマガワが魔王軍のスパイでは無いかと疑っているのです」
「スパイ……!?言うに事欠いて。貴方の思想は危険ですわ。どのみち、国家反逆罪の容疑が貴方にはかけられています。この場で拘束する他ありません」
輝きを増した宝剣が左右に揺らめく。アイリスの踏み込みは一歩で数メートルは稼ぐ。一足一刀の間合いからは、ディスターブの反射神経を凌駕するスピードで迫る。話を聞くのは、牢に入れてからにすると決めたらしい。
「速いっ……!!!」
懐に潜り込まれてからでは対応が間に合わない。側面から滑り込むアイリスの刀身は、高速でディスターブの剣を弾き飛ばした。
元より、命を刈り取るつもりは王女には無いのだ。
「そうくると、思ってました……殿下」
「なっ!?」
剣士にとっては生命線の、唯一の剣。普通は弾き飛ばされかけたら必死に抗うはずだ。だが、ディスターブは瞬時に見切りをつけ、あえて手放す事で次の行動を選択可能とする。
距離を保ちながら、アイリスに爆発魔法を撃ち込んだのだ。直撃はさせず、爆風の余波でアイリスを吹き飛ばす位置に。
剣士が剣を捨てる。理外の理を選択したディスターブには、アイリスといえど驚かずにはいられない。
「無礼をお許しください。生憎と、私の本職はこちらなのです、アイリス様。」
爆発魔法を自在に操る天才。グロウ・ヴァルム・ディスターブの連続爆撃。
どれもアイリスを直接害することはせず、空中に浮いた華奢な身体を遠ざけるように吹き飛ばしていった。
「くぅっ……!!」
「頼みます、ベアトリーチェ!!」
絶え間なく出現する、圧倒的な爆発。一度宙に浮いて仕舞えば、踏ん張りも効かず。暫くはアイリスも翻弄されるしかない。十分に距離が離れたあたりで爆発は止み、ようやく着地出来た。すかさずディスターブと対峙していた地点に視線をやるが、そこにはもう影すら残っていない。
ベアトリーチェのスキルか、ディスターブはまたも認識の外へと消えてしまったのだ。これでは、次も攻撃を受けてからでないと対応が難しい。球磨川が致命傷を受けた時同様に。
「あれが、ディスターブ卿の爆発魔法ですか。成る程、噂に違がわず厄介ですね」
広場から遠ざけられてしまったアイリスは、全力で戦場へ戻る。ディスターブの狙いはわかっているのだ。
「ミソギちゃん!!」
姿を隠し、一回分の奇襲の権利を得たディスターブ。狙いは100パーセント球磨川だろう。スパイでは無いかと疑っていた点と、アイリスへはダメージを与えなかった点。敵が再び姿を見せるとすれば、それは球磨川に危害を加える時の筈。
恩人に追撃を与えられるくらいなら、いっそこのまま街の外へと逃げて欲しい。
何百メートルか先に見える学ラン姿の恩人に、王女は大声で呼びかけた。
『やれやれ。すっかりヒロインポジションってわけか、この僕が!』
お腹の痛みと、ベアトリーチェによる攻撃。両方に耐えながらも、球磨川は懸命に近くの建物へ背を預ける。地面には点々と血液が滴るが、動けないってほどじゃない。動くことで、どれだけ傷口が広がるかは別問題として。
これで、ギルド長が背後から奇襲してくる可能性は潰えた。前方と左右、あとはせいぜい、上を気にしておけば良い。
『よほど僕は君の反感を買ったのかな、ディスターブさん』
ズズズズズッッ………!!!
前方の180度。自分を守るように、地面から大量のネジを生やした球磨川。予備動作もなく生えてきた鋭い金属に、ディスターブは完全に不意をつかれた。
「なんだと!?」
召喚術の一種かと、地面から突き出てきたネジを観察するディスターブ。球磨川の左側面から首をはねようとして、一本のネジに腕を抉られたのだ。地面に不自然な振動を感じた瞬間飛び退いたが、一番外側に生えたネジに捕らえられてしまった。
「正体不明だった、貴方が持つ3つの謎スキル……その内の一つが、これですか?」
『君がそう思うのなら、そうなんじゃね?よくわからないけどさっ!』
ビデオを巻き戻したように、突き出てきた周囲のネジが地中に還っていく。大量にあった金属達は、地面に穴だけを残し忽然と消える。
「……アイリス様は、貴方を恩人と仰いました。我が国の王女に、あまり変な事を吹き込まないでもらいたいのですがね」
脇腹の痛みはもはや治ったかのように、裸エプロン先輩は【けんけん】で穴を避けつつディスターブの正面へと移動した。
『バトルシーンだっていうのに、国家反逆罪の容疑者は多弁なんだね!あ、死罪確定だから今のうちに喋っておきたいとか?僕としては、どうせなら自分の能力をペラペラと語って自滅して欲しいのだけれど』
「貴方に国家反逆罪と言われるのは業腹です。にしても、勘が鋭くていらっしゃる。完璧な奇襲だったというのに、よく私の気配に気がつきましたね?」
一撃目。脇腹を突き刺した時は全くの無防備だったというのに、今はまるで奇襲されるのがわかっていたかのようなタイミングだった。
『あーそれね。ディスターブさんのほうからベアトリーチェちゃんに教えておいてあげてよ。苦痛を与えながらの認識操作は甘くなるってさ!』
「ほお、クマガワさんは痛みに耐性でもあるのですか?脇腹に致命傷、そしてベアトリーチェの苦痛を受けてなお、先ほどの動きが可能とは。普通は起き上がるのも困難でしょうが…」
『まぁね!僕は現在、彼女の所為で頭が割れそうで吐きそうで泣きそうで死にそうなわけだけれど……おかげで、ギルド長さんの僅かな呼吸音は聞こえた気がしたんだぜ!』
「……ベアトリーチェには、伝えておくとしましょう」
実はもう、伝えてはいるが。
『僕を痛めつけつつ、君を認識操作で隠しながら、自身も気配を消す。一人の人間が一つのスキルで全てを並行する。これって結構骨が折れると思うんだよね。果たしてベアトリーチェちゃんは、ダクネスちゃんに見つからずにいられるのかなぁ…』
顎に手をあて、何やらベアトリーチェの身を案じている風の球磨川先輩。ディスターブには、おちょくっているようにしか見えず。
「ララティーナ様に捕捉される前に、私が戻れば良いだけのことです。クマガワ ミソギ、すみませんが貴方には消えてもらうとします。仮に善良な冒険者だったとしても、仲間の仇は討たせてもらわなくては」
ディスターブは、胸元の内ポケットからある石を取り出して、魔力を込めていく。
『!……その石は……』
「アイリス様を巻き込む訳にはいかないので、手っ取り早く済ませます」
『……そうか。僕はてっきり、【威力を更に増幅】させる為に使用するのかと思ったものだけど。結局は君のコンプレックスの為に消費するんだね!いや、気持ちは痛いほどわかるよ。自分より年下の女の子が、自分が至らなかった頂にいるんだからっ』
「なんとでも言いなさい。不死の可能性がある貴方を葬るには、この魔法しかない…!」
『不死…か。』
「では【アクセルの英雄】さん、さようなら。」
紅い石が、直視不可能な光を放つ。ディスターブの魔力に呼応して。
球磨川を何度も救ってきた、めぐみんの【爆裂魔法】。同じ魔法が今度は、球磨川に牙を剥く。今の球磨川に魔法の発動を阻止する術はなく、王都の南広場の一部は、地図から消しても構わないくらいの焼け野原となってしまった。
前にフラグだけ立ててましたが、ある種の回収出来まして一安心でござる
説明不足…?次話で……!