この素晴らしい過負荷に祝福を!   作:いたまえ

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異世界カルテット二期かぁ…
アイリス出そうよアイリス





八十四話  一件落着…そして

「……消えた?」

 

 球磨川禊が消えた。ディスターブ渾身の、ヒヒイロカネを使用しての爆発魔法を直撃させたはずだと言うのに。

 

 破壊跡には人がいた痕跡はゼロ。

 

「死体が粉微塵になる程の威力は無いのですがね…」

 

 不死。球磨川に対してディスターブが仮定したとんでもない特性。万が一に生き返るとして、死んだ場合どこか別の場所で復活が行われたりするのだろうか。

 例えば、特殊な蘇生魔法用の陣なんかが描かれていて、そこから生き返れるとか。……考えても、蘇生魔法に明るくないディスターブでは判断がつかず。一先ずは爆発魔法を喰らわせられた方向で思考をまとめた。

 

(……これで、クマガワは死んだ。爆発魔法を目視したアイリス様が、じきにいらっしゃるだろう)

 

 アイリスが来たら投降するべきか。自分一人だけならばそれもよしと思える。ベルゼルグに魔王軍のスパイが紛れ込んでいるという最悪のシナリオは回避出来たのだ。アクセルのギルド運営も、頼れる部下たちが引き継いでくれることだろう。

 牢獄で最期を迎えるか、死罪で無いなら出所後は片田舎でのんびりと余生を過ごすのも悪くない。

 

 が、それは全部自分だけが犯罪を犯した場合に過ぎない。今は、共犯のベアトリーチェがいるのだ。ディスターブのみの判断で投降しては、明確な裏切りとなってしまう。

 こんな大それた犯罪の片棒を担いでくれた彼女に不義理は出来ない。

 

(…せめてベアトリーチェだけでも逃さなければ)

 

 堅い決意。残る魔力もわずかだが、アイリスの足止めは命がけで遂行しなくては。

 

 アイリスの剣を受け止めた時点で、ディスターブの手には力が入らなくなっている。レベル差による力の開きは大きく、もうまともに剣もふるえないほど。故に先程は剣に執着せずに爆発魔法を行使したのだが。唯一、遠距離から牽制可能なその爆発魔法も使えてあと数発。

 

 手札が圧倒的に少ない。

 

 ディスターブには、そもそもアイリスを傷つける必要性が無い。というよりも、むしろ王女は命をかけてでも守るべき存在だというのに……

 

「見つけましたわ、ディスターブ卿」

 

 考えても答えは出ず。アイリスが高速移動で眼前へ現れてしまった。

 

「これはこれは、アイリス様。お早いお付きで」

 

 剣は構えない。構えては、握力が落ちているのを見抜かれてしまうから。

 ディスターブに可能なのは、魔力を練って牽制するくらいだ。

 

「もう投降してはくれませんか?こんなに、王都の街並みを損なってまで……クマガワ ミソギという英雄を勘違いで葬らなくてはならないのですか?」

「あくまでも勘違いと申されるのですね。アイリス様が何故そこまで肩入れするのか、正直わたしにはわかりかねます。あのような不気味な男を冒険者としてこの国に留めておくのはいかがなものでしょう」

「不気味というだけで迫害するのは愚かです。」

「………それは、そうですがね」

 

 王女の眩しすぎるお言葉。ディスターブは返さない。いや、返せない。

 それでも。ギルド長としてアクセルで長年培ってきた人を見る目は、未だに球磨川を危険だと判断し続けている。

 

「ですが、アイリス様。時すでに遅いのです。クマガワミソギは、先の爆発魔法で粉微塵になってしまったのですよ」

 

 アイリスがやって来たのも、爆発魔法を見てだ。爆裂魔法にも引けを取らないほど巨大な破壊の象徴は、やはり球磨川に向けられたものだったようだ。

 

「貴方という人は……一国民に対し、あそこまでの手段を講じてしまったのですね……」

 

 球磨川が死んだかもしれない。アイリスも動揺は隠せないが、ディスターブがつけいる隙とはいえなかった。せいぜい、切っ先が数ミリ下がった程度。これでは、握力が落ちていなくても到底踏み込めまい。

 しかし、この会話こそがギルド長の狙いだった。会話を極力引き伸ばし、ベアトリーチェの逃走を助ける為。アイリスと戦闘せずに時間を稼げるのはディスターブにとっても望ましい展開。

 

(いいですね、これだけ時間があれば彼女ならうまいこと逃げ切れたでしょう)

 

 頃合い。球磨川も死に、ベアトリーチェも門から出れるだけの時間を稼いだ。後は剣を捨て、投降すればディスターブの役目も終わる。アクセルか、或いは王都でこのまま裁判にかけられるだろう。その結果がどうあれ、これだけ滅茶苦茶やってしまった責任として重く受け止める覚悟もある。

 

 

 スッ。

 

 

 ディスターブが剣の鞘へ手を伸ばし、地面に捨てようと腰から外したところで。アイリスも投降の意思を感じ剣を納めた。

 

「もう抵抗はしないのですね。貴方らしい、賢明な判断です」

 

 慈愛に満ちた王女の声。

 いくらクマガワを殺す為だとしても、今回はやり過ぎたかと、ディスターブにも反省を促すほどの美しい微笑みだった。

 

「アイリス様。私は、愚かですね……」

 

「ええ。……ですが、罪は償えます。ディスターブ卿。貴方はこれからの人生、自らの行いを深く反省して下さい」

 

「……かしこまりました。」

 

 イエスマイロードとでもいいかねない勢いで、地面に膝をつき視線を落としたディスターブ。彼の忠誠にも、偽りは無い。一連の騒動は、真実が故の暴走だったのだ。アイリスもそう感じ、むしろ彼が行動を起こす前に止められたのではと自らに問いかける。

 これだけの逸材に罪を重ねさせてしまったのは、王族としても恥ずべきだ。

 

 アイリスの前で膝をつく姿は家臣そのもの。主従関係のはっきりした二人に、息を切らせた声がかかる。

 

「イリス!無事だったか!」

「!!……ララティーナ。それに…」

 

 アイリスが深く、心の内で今回の騒動を振り返りつつ反省していると、鎧を音立たせながらダクネスが応援に駆けつけた。勿論、その後に続いて来たのはリーダーたるこの男。

 

『あれー?ディスターブさんってば、アイリスちゃんとタイマンどころか、もう屈服しちゃってるんだね!あ!さてはギアスでもかけられちゃった系男子だったりするのかい?』

 

「ミソギちゃん!?生きてたんですね」

 

『うわ。そりゃ無いぜイリスちゃん。確かに僕は今すぐにでも息の根を止めた方が地球に優しいレベルで生きてる価値が無いけれど。そうズバッと言われちゃ、今しばらくは生きて、酸素を無駄に消費したくなるんだぜ』

 

 死んだと思っていた、球磨川の登場。めぐみんも一緒だ。アイリスは破顔してみんなに駆け寄る。人質になっていためぐみんが目を覚まし、無事な様子なのも何より。

 

「本当に王女殿下とパーティーを組んでいるとは…」

 

 めぐみんは、アイリスと球磨川達が共闘している報告にさっきまでは半信半疑だったが、この王女の反応はどうやら真実のよう。

 

 ディスターブも投降した様子で一件落着。と、アイリスが油断した一秒間で。

 

「不死身……キサマ、本当に……!!」

 

 疑惑を確信に変えたディスターブが、地面に投げ捨てた剣を再び手に取ってしまったのだった。

 

 




次でディスターブ編終わりです。
アイリス、大好きなんで引き抜きたいですね

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