キョンのやれやれが聞けて、もう最高。これだけで救われた。
平◯綾さんも、出し方忘れたと言いつつも、まだこなたの声出そうじゃないか。嬉しみ
「ん……ここは?」
昨夜は安いシャンパンでもラッパ飲みして、悪酔いしたのだろうか。アクアはガンガンと頭を内側からハンマーで殴られる様な痛みで目覚めた。カズマを探して、王都にある公園の中でベアトリーチェに襲われた記憶が蘇る。頭痛の正体は二日酔いでは無く、あのゴスロリ娘によるスキル攻撃のせいだった。
「いったぁ〜……。結局、なんだったのよあのロリっ子は。私とは前に会った事があるかのような言い草だったけど」
球磨川と違い、地面に特別寝心地の良さを見出せなかったアクア様は、一度上体を起こす。ここで、自分が身に覚えの無いワープをしている事に気がついた。
アクアが倒れたのは公園だった筈なのだが、いつの間にやら王城の入り口付近へとやって来ていたのだ。
「あれ?……私ってば、いつのまに」
まるで、まさに深酒し過ぎたその翌日みたいだ。全く記憶が残っていないというのに、自分が移動しているだなんて。少々、気味が悪い。
『おや。そこにいるのはアクアちゃんじゃないか。カズマちゃん探しは打ち切りかい?いくら最短の打ち切りといえど、8話くらいは連載するもんだぜ』
「球磨川さん…それに、みんな!」
何がなんだかわからないアクアのもとに、冒険を終えたみんながやって来た。顔ぶれの中には1番の目的だっためぐみんもいて、アクアは頭痛を吹き飛ばして彼女に駆け寄る。
「めぐみんも!無事だったのね!!どうしているのか、すっごく不安だったのよ?」
「アクアにも、心配をかけさせてしまったようですね。申し訳ありません」
ペコリと、一礼するめぐみん。アクアは白い歯を見せて、そんな彼女の肩を二度ほど叩き
「いいの。無事な姿を見せてくれただけで、私は満足なんだから!球磨川さん、ちゃんとめぐみんを連れ戻せて良かったわねっ」
『うん。これでカズマちゃんも見つかっていれば言うこと無しだったのだけれど、そもそも王都にいるのかさえわからないから仕方がないか』
カズマの名が出た途端、アクアはわかりやすく不機嫌な顔になり、しかしすぐさま元気を取り戻す
「本当に、カズマさんてばどこに行っちゃったんだか。まあ?もしかしたら、行き違いでアクセルにいる可能性だってあるわけよね。今日のところは、めぐみんが見つかったお祝いにご馳走を食べましょう!カズマさんの事は、アクセルに帰ったら本腰いれて探してあげるわ」
達成されなかったアクアの人探しは心残りではあるものの、今はめぐみんの無事を喜ぶこととする。カズマとは、意識が無い間に既に接触しているとは露知らず。アクアはお預けにされていたご馳走に目を輝かせる。
「アクア。お前はよほど食べ物と酒に目がないのだな」
「当たり前じゃない、ダクネス。貴族の貴女は高級ワインも水扱いかもしれないけどね、私にとって二千エリス以上のワインとなればグラン・クリュ扱いなんだから」
聞いてる方が情けなくなるようなアクアの発言にアイリスが苦笑いしていると、急にアクアが向き直って
「ねえ、アイリス。少し聞きたいんだけど」
「はいっ!?べ、別に私は二千エリスのワインも素晴らしいと思いますわ!そもそもワインは知名度によっても価格が変動するものですからっ」
年齢的にお酒がNGのアイリス様だが、彼女はきっと成人しても二千エリスのワインとは無縁だ。だからと言ってお手頃価格のワインを卑下する考えは持ち合わせておらず、苦笑いしてしまった僅かな後ろめたさからアクアの話を聞き終わる前に弁明を始めたのだが
「違うわよっ!お酒のことを聞きたかったんじゃないの。」
「はぁ…では、何を?」
「めぐみんがいるって事は、ディスターブを捕まえたか取り逃したかしたわけよね。その辺りを教えて欲しかったのよ」
眠っていたアクア様は結末を知らず。ただ、自分が牢屋に入れられたり裁判にかけられた原因となった男がどうなったのかは勿論気になる。
「それなら、彼は今頃牢獄に入れられていますわ。一連の事件を詳しく調べてから、事情聴取された後で裁判にかけられることでしょう」
既にディスターブの身柄は騎士団から警察へと引き渡されている。アイリスの預かり知るところでは無くなったが、身分や財産に関係無く、彼がしでかした罪に見合う罰が与えられることは確かだ。
「それを聞いて安心したわっ!もしも外国に逃げちゃってたりしたもんなら、せっかくのお酒の味もわからなくなっちゃうもの」
アクアも気を良くして、これで美味しいご飯に専念出来る。
「ねえねえ、早くお城へ入りましょう!めぐみんだって疲れているでしょうし」
「そうですね。クレアに命じていた宴の準備も、すぐに整うと思いますわ」
『アクアちゃんは遠慮が無くて実に良いね。僕もその図太さは見習わなきゃだな』
「え、お城って……中まで入るのですか!?」
めぐみんは、アイリスを先頭に息をするよう城へと入っていく球磨川らを驚きの眼差しで見つめ、しかし置いていかれるわけにもいかず自身も入城した。
場違いにも程があると、我ながら思う。単なる冒険者に過ぎない自分達が王城に入れる日があるとするならば、それは球磨川が以前掲げた目標、魔王討伐を為し得た時くらいのものだ。球磨川はと言うと、城の門をまるで自分の家かのように軽やかにくぐっていた。
「ミソギ、いいのですか!?我々がこのような場所に存在していても!」
馬車がゆうにすれ違える、広い廊下を歩きながらめぐみんは球磨川の腕を掴む。
『いいもなにも、めぐみんちゃん。僕らにとって王城は既に別荘的な扱いになってしまっていてね。実際、君を捜索している間は仮住まいにさせて貰ってるんだよ』
「仮住まい!?王城がっ!!?馬小屋で生活しているミソギが、別荘ですとっ」
めぐみんの驚愕は続く。それも無理からぬこと。名門貴族のダクネスならばいざ知らず、ホームレスにも近い球磨川が王城に寝泊まりしているというのは、まさしくホームレスが王城に寝泊まりしているようなもの。そのままである。
『あはは、流石の僕も王城と馬小屋を同列には出来ないかもだな。ハイデルさんがいるのといないのでは、快適さが雲泥の差だしね。おっと!ハイデルさんっていうのは、僕の専属執事だよ』
「執事まで…」
いつもの冗談……では無いことは、ツッコミを入れないダクネスやアイリスの態度からわかる。まだまだ心の準備が出来ないまま、めぐみんは王城内にある中庭への到着を余儀なくされたのだった。
-中庭-
『さてと。これにてアイリスちゃんの冒険はひと段落したわけだけれど。初ミッションにしては、中々に上出来だったんじゃないかな』
めぐみんが無事に救い出されたあかつきには盛大にパーティーを開くと約束してあった通りに、城へ戻ったら以前にも増した絢爛豪華なご馳走達が立ち並んでいた。ベルゼルグはもとより、他国からも腕の良い料理人を集めた宮廷料理は、どれもこれも一口食べればほっぺが落ちてしまいそうな程。
中庭に備え付けられた特注のテーブルには、人数分の食事が湯気を立ち上らせている。
「ミソギちゃんにそう言って貰えると、頑張った甲斐がありましたわ」
鴨のテリーヌを口に運ぶ手を止めて、アイリスは初冒険を振り返り喜びをあらわにした。自分でも、無我夢中だったと思う。城外へ護衛も付けずに出たことも新鮮だったし、冒険を楽しんでいたのは確かだが、王女としてもディスターブ捕縛は達成しなくてはならなかった。
「なんにせよ、イリスの大冒険が無事に終わって助かったぞ。もしも大怪我でもされていたら、この国に終わりが近づいていたからな」
さらりと怖いことを言い放つダクネスは正しく、結果オーライじゃなければめぐみんが助からないだけにとどまらず、球磨川の責任問題に発展し処刑は確実。ダスティネス家の威光も地に落ちていたことだろう。アイリスが亡き者となっていれば、元老院の中で離反する者も少なく無かった筈だ。王が不在の期間中に国が傾いていたなんて、笑い話にしても出来が悪い。
『まあまあ、過ぎた事は言いっこなしだよ。もしもそんな状況になれば、アイリスちゃんをスキルで蘇らせ、僕も処刑後に生き返り、離反する奴らは無かったことにしちゃえばいいだけだしさ!』
アクアを筆頭に、めぐみんと球磨川はここぞとばかりにご馳走をかき込む。ベアトリーチェにいたぶられ体力を消耗しためぐみんは、とにかく肉を貪る。肉、肉、肉だと言わんばかりに。
「今回は全て私が悪いのです。ダクネス、ミソギを責めたりはしないで貰えませんか?私が拐われていなければ、こんな事態には陥らなかったのですから」
「そうだが……しかし、締めるところは締めておかねばミソギが更に増長してしまうぞ」
「…今日だけは無礼講ということにしましょう」
球磨川の増長は、パーティーメンバーとしてめぐみんも避けたいのだろう。命を助けられた恩義から大目に見ても、彼の好き勝手な発言や行動は今日のみに限りたいくらいには。
「それで、皆様はこれからどうなさるのですか?アクセルの人々の誤解が解けて、熱りが冷めるまでは王都に滞在した方が良いのではありませんか」
アイリスは皆様と言いつつも、基本的にはリーダーということもあって、球磨川の顔を見て話す。冒険に連れ出してくれた感謝の気持ちもあるし、ディスターブの捕縛に尽力してくれたことから、王城へは幾ら居てくれても構わないと考える。
『あ、そう?だとするなら、お言葉に甘えちゃおうかな。アクセルに戻りたいのは地元愛の強い僕的に山々ってとこなのだけれど、今帰ったらニュースに疎い層からは石を投げられかねないし』
ディスターブの処刑が実行されたとしても、暫くは球磨川達が犯人だと認識し続ける人間が一定数いることだろう。であれば、安全な王城を仮宿とするのは悪くない。何よりも快適だし、馬小屋より格段に暖かい。宿泊費も無料なら言うことなしだ。
「アクセルに戻ってカズマさんを捜したい気持ちに偽りは無いわ。でも、冷静に考えたらここの酒蔵に眠ってる名酒を味わってからでも遅くないわよね?」
どさくさに紛れて、アクア様も居座る気満々である。この女神様は、果たしてどれだけ真剣にカズマを捜す気があるのだろうか。
「はいっ!私も、是非とも王城に住んでみたいのです。だってズルイではありませんか、人が拷問を受けている間にミソギ達だけ貴族生活を体験していただなんて!」
肉の次は高級食材。カニやエビを中心に魚介を攻め出しためぐみんが。
『めぐみんちゃん、その気持ちは痛いほどわかるぜ。なんなら、アクセルに何の思い入れも無い事だし、僕はこのまま王城に永住しても問題無いよ』
「……うむ、目の前で受け持っている街が貶されるのは何度目かになるが、やはり悲しくなるから私の前では極力控えてはもらえないだろうか。というか、ついさっき地元愛が強いとか言わなかったか?」
球磨川が王城でお世話になる。これが、どのくらいアイリスや使用人の方々のご迷惑となるか。想像するだけで胃がキリキリと痛むダクネスは固形物が喉を通らず、シチューを辛うじて飲み下す。
「て、このシチューの味は!」
ダクネスは何かに気がついて、隣のめぐみんを見やる。めぐみんも同様にハッとし
「トゥーガさんのお店で食べた味ではありませんか!」
二人の娘は視線を中庭の至る所にいるコックさん達へ彷徨わせ、やがて御目当ての人物を発見した。
中庭に、この会食の為設えられた調理スペースで鍋をかき混ぜるトゥーガの姿が。
彼は二人に見つめられているのに気がつくと、笑顔で小さく手を振ってくれた。身体の調子は悪くなさそうでめぐみんとダクネスがホッと一息つく。
「トゥーガ様は、ディスターブ卿によってレストランと別荘の両方を破壊されてしまいましたからね。元々はこの城でシェフとして支えて貰っていた経歴もあり、暫くはここに住み込んで頂くこととなったのです」
めぐみん達の目線を追ったアイリスが、経緯を説明してくれた。ディスターブ卿によってレストランが破壊されたという部分に引っかかりを覚えないでもない球磨川達。が、なんとなく聞き流した方がお財布に優しい気がしたので右耳から左耳へと素通りさせた。
「それを聞いて安心したのです。我々を匿ってくれたことが原因で、職を追われホームレスになってしまっていたら、ダスティネス家に責任を負わせていたところですから」
「もしもトゥーガさんが再就職出来なければ当然そうしていたが、なんだろう。めぐみんも我が家の権力を軽く考えるようになってきてないか?」
球磨川が言いそうな事を年下のめぐみんに言われ、ダクネスは少し寂しい気持ちに。
『ああ、アイリスちゃん。』
思い出したように、裸エプロンが口を開く。
「何でしょうか、ミソギちゃん」
『念のため言っておくけれど、僕はアクセル帰還の目処がたつまでステイホームしている気は無いからねっ!君を、時間の許す限りクエストに連れ出して鍛え上げるつもりだから、覚悟しておくんだぜ』
「まあ!……私が生きてきた中で、一番嬉しいお誘いですわ……!」
目をキラキラと輝かせたアイリス。
『なんたって、君は僕のパーティーメンバーなんだから。リーダーである僕を筆頭にクエストを苦労してこなす間、新入りのイリスちゃんが快適な王城で寛いでるのもおかしな話だろう?』
「かしこまりました……!このイリス、全力で皆様の盾となり、剣となりますわっ!」
球磨川が自分を冒険者仲間として認識してくれているのがこんなに嬉しいとは。アイリスは胸の内から喜びの感情が予想以上に溢れ出してきて、自分でも驚いた。ディスターブ討伐は、いわば王族としての義務もあったが、それが解決した今。次のクエストは純粋なパーティーメンバーイリスとして、心から自由に冒険が出来ることだろう。
柱の陰に控えていたクレアさんがギリッと歯を鳴らしたりするも、シェフやメイドさんが給仕する音に紛れ、誰の耳にも届きはしなかった。
……………………
……………
……
王城の地下部分はかなり広い造りとなっており、敵の侵入を阻む目的もあって通路は複雑だ。予め地下通路の構造を完璧に把握している人間でなければまず辿り着けない空間に、彼はいた。
ゴスロリ幼女から水の女神アクアを救出し、王城前まで気配を隠しながら運んであげた心優しい少年が。
外界とは隔絶されたその部屋には、この国の【暗部】と呼ばれる精鋭部隊が集っている。広い部屋の一画。主に休憩する為のスペースでの会話。
サトウカズマは、めぐみんとダクネスを護る為、休日を返上してくれた戦友にまずはお礼をとコーヒーを差し出した。
「今回はマジで悪かったな、レオル。せっかくの休みに」
カズマのコーヒーはスキルで抽出したものだが、クリエイトウォーターで作り出された水には一切の不純物が入っておらず、そこいらの喫茶店で飲む安いコーヒーよりは遥かに味わい深い。
「いいって言ってるじゃないか。ディスターブ卿も捕まったし、この分なら近いうちに代休を貰えるだろう」
言い終えたレオルは一口コーヒーを飲んで、ブラックの味わいを楽しんでから少量の砂糖を加えた。マイルドになったコーヒーが、疲れた身体に優しく染みていく。
「これで終わるならいいんだが」
「なんだ?カズマ。まだ気がかりでも?」
「……まあな。」
あらゆるスキルを所有し、併用は出来ないものの多彩な神器も操れるカズマなら、どんな脅威でも軽く振り払えるというのに。眉間に深くシワを刻むのは、よっぽど心配事が厄介なのか。チートのかたまりみたいな相棒がこれだけ懸念する時点で、レオルとしては憂鬱な気持ちとなる。
「言いたくはないが、今回俺は死にかけてる。トゥーガさんもだ。お前の心配事っていうのは、ディスターブ以上に面倒なのか?」
「…………まあ、な。」
「即答かよ」
勘弁して欲しい。レオルは聞いたのを後悔した。もしもカズマの言う面倒事が舞い込んできたら、次は暗部として組織的に対応したいレベルになる。休みの日に引っ越しを手伝う感覚で来たら、間違いなく死ぬんじゃないかと。
「あ、わりーわりー。そんなに事は切迫してないよ。いずれ、いつの日か、もしかしたら脅威になるかもってだけだから!」
訝しむレオルを安心させるべく、カズマは手をヒラヒラと動かしておどける。
「ならいいがな。その時は、特別手当ての一つも出してもらうぞ?勿論、お前の給料からなっ」
コーヒーを飲み終えたレオルは、別の任務に呼び出され部屋を後にする。
「……全てを無かった事にする、か。厄介なんてレベルじゃねーぞ」
ひとりごちるカズマが思い浮かべたのは、繰り返した並行世界には一切存在せず、この世界にのみ現れた謎多き学ラン男の姿だった。
肉を食え、肉を。
焼肉屋で野菜なんか食う必要はねぇんだ。野菜が食いたきゃ焼き野菜屋に行けばいいんだよぉ。
肉、肉、肉だぁ