この素晴らしい過負荷に祝福を!   作:いたまえ

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注! ちょい球磨川くんのマイナス成分が強くなります。
エリス教徒の方は、読み飛ばしても大丈夫です。


九話 教室にいこう

  「球磨川さん!?あなた、また死んだんですか!」

 

 女の子が男の家にアポ無しで遊びにきたようなセリフと共に、過負荷の代表球磨川くんがやってきた。呼びもしないのにやってきてしまった。

 

「なんで球磨川までここに?もしかして、あんたも死んだのか?」

  エリスと二人きりの状況に何かを期待していたカズマ。突然の乱入者に無愛想な対応をしてしまうのは、男の性か。

『おやおや、僕も嫌われたものだ。エリスちゃんとのフラグでも期待してた?カズマちゃんてばやらしー!』

  キャッ!と手を口に当て恥ずかしがる裸エプロン先輩。

「べべ、別にぃー?相手は神様だしぃ?そんな不埒な考えはもってないしぃ?」

「そうですそうです!私とカズマさんは、やましいことをしてた訳じゃありませんから!」

「あ、やっぱりそうですよね…」

  ニートと女神は手をパタパタさせつつ早口で弁明する。エリスの必死さに何故かカズマは傷ついた。そこまで本気で否定しなくてもいいんじゃないかと。

『ならよかった!それじゃ、少しエリスちゃん借りるよ。』

「え?球磨川さん??」

「エリス様を借りる!?ちょ、どういう意味だ。詳しく…!」

  カズマが球磨川へ、借りるとはどういう意味かを聞こうと近寄る…

 

  刹那。

 

 ズガガガガッ。

 

  球磨川は、女神の華奢な身体に無数の螺子を捻じ込んだ。

 

「…ぅ…。…ぁ」

  無残にも全身から螺子を生やす女神エリス。一本一本、長さが数メートル程ある螺子から、赤く暖かい液体が大量に滴っている。

 

  あまりに突然おこった悲劇。

 

「…は?」

 

  カズマの目の前で容易く行われた虐殺行為。理解が後からやってくる。

 ドサリと、糸の切れた操り人形のように、エリスが倒れた。血で床を赤く染めるエリスを見て、心配よりも恐怖が勝る。

「…どう…し…て?」

  まだ息がある。口から、言葉なのか吐息なのかもわからないかすれ声を漏らすエリス。

 自分の存在が消える悲壮感や絶望感よりもなによりも、球磨川の行動原理。それだけが知りたいようだ。必死に意識を保ち、球磨川の言葉を聞き逃すまいと歯をくいしばる。

 

『どうして?』

『あ!エリスちゃんを刺した理由?』

『んー…待って。今日中に考えてメールするから!』

「…………」

 

  自分のしたことの重大性を理解しようとすらせず。いつもと変わらない口調で球磨川はとぼけてみせる。ろくな返答もしてもらえないまま、エリスは事切れた。

 

「おい…!おいテメェッ!!!何してんだコラァッ!!!!」

  鬼の形相で、瞬く間に球磨川を組み伏せたカズマ。目は瞳孔が開き、呼吸は荒く。見慣れない人の死を前にして吐き気を必死に堪え、嗚咽を漏らす。

『血相変えてどうしたのさ?いきなり人に暴力を振るうだなんて。人として最低だよっ!』

「うるせえっ!!」

 

  短い日本での人生で、ここまで頭に血が上ったことはない。人を殺し、ヘラヘラする球磨川が憎くて、そして怖くてたまらない。

 

「よくもっ!よくもっ!!」

  一発、二発。マウントポジションで球磨川の顔面へ拳を振り下ろすカズマ。

「人の命を!何だと思ってやがる!」

 更にもう一発!

  合計三発殴られた球磨川。カズマが恐怖し、混乱し、怒り、嘆く表情を見つめ、鼻で笑った。

『…ひょっとしてお前。主人公ぶってれば、自分は助かるとでも思ってる?』

「なに!?」

 

  カズマの組み伏せ方はまるきり素人のそれで、軽く力を入れれば楽に抜けられる。その弱点や力のかけ方を見つける能力だけは高い球磨川。

  容易に拘束を解き、今度は球磨川のターン。お留守の足元を払い、バランスを崩したカズマの額へ螺子をブチ込む。

 

「ぐぁっ…」

 

  何かが割れたような安っぽい音が反響して、カズマも動かなくなる。

 

『甘えよ。』

 

  女神が不在の、女神の間。二つの死骸を満足げに眺めてから、球磨川は更にもう一本螺子を取り出した。

 

『こんなもんか。二人とも、こんな楽しそうに死んじゃってズルいんだから。僕も混ぜろよ。』

 

  やおら自分の頭を螺子で破壊。神聖な筈の女神の間は、三つの死体が並ぶ異様な光景となっていた。

 ……………

 ………

  おーい、球磨川くん。まだ君と今生の別れをしてから2日しか経っていないわけだが、もう僕が恋しくなっちゃったのかな?ホームシックならぬ安心院さんシックだね。いや、球磨川くんは死んで僕に会いにきたのだし、【今生】は終わったものと考えてもいいのかな。僕のような人外や、君のような反則級のスキル持ちは、生命を慈しまなくて困る。…ときに、素直に会いたいと言えば、僕だって君をここに呼ぶのはやぶさかじゃない。しかしアレだね。君も随分変わったものだ。女神エリスちゃん、だっけ?彼女にさては本気で惚れちゃったとか言うなよ?

  なんだよ、その顔は。でも、ラブかライクかはあまりに瑣末なことだったね。君が好きでも無い奴を【ここ】に連れてくるわけが無い。

 

 …………………………

 ………

  異世界では、死んだら死後の魂は女神の元へ向かう。人外の安心院さんでも女神の元へ向かう魂をかすめ取るのは骨が折れる。だったら、死後の世界から死んでみてはどうだろう。球磨川の実験に付き合わされた2人には同情を禁じ得ないが、どうだ。

 

  教卓に我が物顔で腰を掛ける安心院さん。そして生徒用の机には、制服のカズマ、セーラー服のエリス、普段同様学ランを着た球磨川が着席させられていた。

 

「いらっしゃい。球磨川くん以外の2人は、はじめましてだね。女神エリスちゃんと、サトウ カズマくん。僕は安心院なじみ。親しみを込めて、安心院さんと呼んでくれ。」




少し短め。物語初期の球磨川寄り。
エリス様、ごめんなさい。あと、カズマさんも。

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