温泉が好きな私は、マリオサンシャインのモンテの村でマリオをずっと温泉に浸からせていました。Switchで出ないかな……
だだっ広い、貸し切りの男湯。高級感溢れる浴場は、成る程王様気分を存分に味わえるものではあったが、話し相手もおらずポツンと湯に浸かるだけの状況は、球磨川には退屈だった。……が、
『はぁ……。この世界に来てから、ここまでゆったり温泉に浸かったのは初めてだな』
あくまでも話し相手の一人もいればこの上無いというだけで、ダクネスに言われたとおり誰に気を使うでも無く足を伸ばし切るどころか、浴槽の縁に後頭部を預けて身体を浮かせることさえ可能な現状は、リラックス効果抜群だ。
聞こえてくるのは、人工的に造られた、岩山を模したオブジェから滝のように浴槽へ注がれるお湯の音のみ。ジャバジャバと不規則に響く水の音は、これもヒーリングにおいて非常に役に立つ。
『ふー。安心院さんやめだかちゃんといった、温泉好きな二人に自慢できる体験だな、これは。』
あの二人といえば大のつく温泉好きで、箱庭学園の地下七階にある温泉までよく足を運んでいた。いくらフラスコ計画に力を入れていたあの学園であっても、ここまで荘厳な湯船は建築していなかった。
球磨川は少しマナー違反ではあるが、湯船からお湯を手ですくい自分の顔を洗うと、ふと気になる浴槽を発見した。球磨川が現在浸かっている湯船とは別の、黒い石造りのモノを。
『あれは…?』
黒っぽいような、茶色っぽいようなお湯が張られた湯船。【石油になる一歩手前の温泉】と呼ばれる、モール温泉みたいなものだろうか。
少し興味を惹くその浴槽には、残念な事に【泉質調査中。入浴禁止】と立札がされており、ロープで立ち入りも制限してある。
球磨川はザブッと湯を出ると、立札の前まで近寄ってしげしげと看板を読み込む。
『ううむ……禁じられると、犯したくなるのが僕なんだぜ』
めぐみん達と混浴出来なかったフラストレーションが、このくらいやっても許されるだろうといった、謎めいた自信を球磨川先輩に持たせた。
近距離で観察してみても、特に入浴禁止するような点は見受けられない。
とろとろと、なんともやわらかそうなお湯は入らずとも心地良さそうだと判断がつく。
どうせ貸し切り風呂で、咎めるものもいない。
『……すぐ出れば大丈夫だよねっ!』
ロープをひょいっと跨いだ球磨川は、温泉通よろしく手拭いを頭の上に載せると、静かに浴槽へ沈んでいく。やはり泉質は素晴らしいのだろう。心地よさのあまり、身体が溶けてしまうような感覚を覚えつつも、球磨川は首まで黒っぽい天然温泉に浸かった。
お風呂の温度は39度といったところか。先程まで入っていた主浴槽が41度程度でのぼせ気味だったのもあり、ぬるめのお湯がとても丁度良く感じる。
ハイデルの説明にあった、水と温泉の都アルカンレティアから取り寄せた最高峰の温泉とやらに違いなさそうだと球磨川は思う。
『……ん?凄くお肌がすべすべだな。いや、お湯自体がぬるぬるしているのかな』
今日は珍しく長風呂になっているのは自分でもわかっていた。少なくとも、自宅のお風呂ではここまで長時間湯船にはつからない。温泉の効能をあまり信じていない……というより、毎日じっくり入浴しなければ得られないものなんだと割り切っている球磨川にさえ、この肌の滑らかさは紛れもなくここのお湯のおかげだと確信させた。
『なおさら、安心院さんは羨ましがるだろうね。美肌の湯と命名しよう。今日はこの後寝るだけだし、もうちょっとだけ浸かっておこうかな』
恐らくはディフターブの裁判まで、このお城で厄介になるであろう球磨川達。となると、毎日だってこのお湯に浸かれるわけで。朝に弱い球磨川には珍しく、明日の朝風呂は決定となったようだ。
…………………………
………………
………
ぬるめのお湯の中、ついウトウトとしてしまった球磨川。高齢者であればかなり危険な、入浴中の睡魔。
……何もお年寄りに限らず、若い球磨川にとってもお風呂での寝落ちは命取りだったらしい。何故ならば、貸し切り男風呂に居たはずの彼は今、おなじみとなりつつある女神の間へとやって来てしまっていたのだから。
球磨川を歓迎したのはまず、女神エリスによる冷めた視線であった。
ジィ……と、目を細めた可愛いお顔で見つめられた球磨川は、照れたようにポリっと頬をかいて
『もう、エリスちゃんってば。さては僕の入浴シーンを覗いていたんだろう?しずかちゃんの入浴に合わせてどこでもドアするのび太君じゃあるまいし、感心は出来ないぜ』
全裸に、大事なところを巻いたタオルのみで隠した裸エプロンならぬ裸タオル先輩が恥じらうそぶりを見せる。
「……はぁ。どうして貴方は、入浴禁止と書かれた湯船に浸かっているんですか。それは、ハイデルさんの落ち度と言えなくもありませんが……普通は入りませんよね?」
心底呆れたようなエリス様。やはり球磨川の入浴シーンは覗かれていたようだ。
『わはは。エリスちゃんはジョークが上手だね。入るなと言われたら、入りたくなるって相場が決まっているじゃないか。かつて流行ったツンデレだってそうでしょ?』
べ、別にアンタに浸かって欲しくなんか無いんだからねっ!と、あの黒いお湯が顔を赤らめながらそっぽを向いたように、この男には見えたのか。
「球磨川さんは、仮にも死んでしまったというのにその軽口……。もう少しなんとかならないものでしょうか」
ぶつぶつ言いつつも、エリス様は球磨川に緑茶を手渡した。
「あ、よろしければどうぞ。粗茶ですが……」
『ん?ありがとっ!』
以前【お茶も出さない】と貶された事を根に持っていそうだ。球磨川も特に茶化したりはせず、当たり前のように湯呑みを受け取り喉を潤した。熱々の緑茶は、風呂上がりには少々気が利かないと思うものの。
『火照って、汗をかいて塩分や水分や電解質を失った身体に、舌が火傷しそうに熱い緑茶をくれるだなんて、エリスちゃんは優しいねっ!』
「もうっ!どうして貴方は憎まれ口を叩かずにはいられないのですか!」
『いや、これに関しては言われても仕方なくね?』
まるでエリスが逆切れしてきたと言わんばかりに、球磨川先輩は困り眉になる。
あんまりツンツンされては、せっかく温泉で癒した疲れがぶり返してしまう。ここは一つ、自分の死に際に話題を変更しておくとする。
『で、僕はお風呂で寝落ちして溺死したんだよね。……やれやれ。だから、みんなと混浴すべきだったんだ。今日日、完全に隔離された浴室での入浴シーンなんて絶滅危惧種だとは思わないかな?普通は露天風呂や銭湯で、壁一枚隔てたくらいのバランスだろうに』
未だに混浴イベントを潰されて萎えてしまってるのは、彼が読んできた漫画や視聴アニメの入浴シーンがどれもそのような感じだったからだろうか。
「こ、混浴はともかくですね。今回の貴方の死因は溺死ではありません。」
『……ほう?それは興味深い。このまんまエリスちゃんとの話をブッチして生き返る事も可能だとは言え、こんな話し相手もいない空間でずっと社内ニート状態な女神を哀れんで、あえてたずねてあげよう。僕の死因はなんなんだい?』
「また、口を開けば……!そもそも、私は社内ニートなんかじゃありませんっ!」
『わかったわかった!ほら、閑話休題といこう』
「なんだか、球磨川さんとの会話には通訳が必要な気がしてきました……」
話しているだけで、女神でさえ過負荷の言霊にクラクラさせてしまう。ここは精神衛生上、手短に必要な情報だけを与えて切り上げようとエリス様が考えてしまうのは自然なことだった。
「球磨川さんが死んだ理由。それは、入浴です」
『えっと……?入浴して死ぬだなんて、僕はバイキンマンか何かだったのかな。』
毎朝早くから、子供達の為に顔を分け与えてくれるアンパンに吹き飛ばされている、あのチャーミングな敵役を思い浮かべる球磨川。
「違いますよっ。全ては、あの黒い温泉が原因です。アルカンレティアから運ばれてきた、あのお湯が!」
『……いまいち話が見えてこないな。エリスちゃん、悪いんだけれど、コーヒーでも煎れて貰えるかな?入浴後の心地よい眠気のせいか、君の話が全く頭に入ってこなくてね。』
「ええ……せっかく、本題に入ったところなのに、ですか?」
『君も少しは藍染隊長を見習うべきだな。敵の襲撃にあった場面での第一声が、【まずは紅茶でも淹れようか】なんだからっ!』
どうやら、コーヒーを煎れてあげるまでは会話にならないらしい。
「わかりました!煎れてきますからっ。いいですか?勝手に生き返ったりしないで、ここで大人しく待っていてくださいね?」
諦めて、急いでコーヒーを落としてこようと走り出す幸運の女神。
『そうだ、僕の舌にはブルーマウンテンしか合わないのは、女神ともなれば知っているよね?』
「うう、何故私がこんなことを……?」
無駄に高級豆を要求してくる一介の冒険者に、どうして女神である自分がここまで翻弄されなくてはならないのか。もういっそ、コーヒーをドリップして戻ったら、球磨川が勝手に生き返って居なくなってくれてた方が楽なのでは?なんて考えをエリス様に抱かせてしまうくらいには、今日の球磨川は一段と面倒くさいのであった。
姉に5月末まで在宅勤務になった自慢された。
私の代わりに、毎日たぬきにカブ価聞いといてくれよぉ〜!