この素晴らしい過負荷に祝福を!   作:いたまえ

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九十六話 神との距離

 

 

「さあさあ、皆さんはぐれないでついて来てくださいねー!特別の特別に、セシリーお姉さんによるガイドツアーを開催してあげますから!」

 

 アルカンレティアにある教会。それ即ちアクシズ教の総本山。水の女神アクアを祀るプリースト達が何百人と、日々信仰を捧げている。球磨川達がセシリーに先導されながら教会内を歩くも、祈りを中断する者は誰一人いない。神聖な祈りの最中に意識を他に向けるなど、不届も甚だしいということか。ガイドするセシリーの手には【アクシズ】と書いた小さい旗が握られている。

 

『これはこれは。水の女神を信仰しているにしては見上げた根性だね』

「ちょっと!それ聞き捨てならないんですけど。ウチの子達が、見学者くらいで集中を乱すわけないんだから」

 

 イメージとは違い、本物の信仰心を持ち合わせているアクシズ教徒を球磨川は手放しで賞賛した。老若男女、ひたすらに祈る姿は信仰の対象がなんであれ尊さを感じさせるほど。アクアとしては、事前に変な印象を持たれていただけで面白くない。怒ったポイントがアクア自身を貶されたところではなく、信者の信仰心を軽んじられたところなのは褒めるべきか。

 

「む。エリス教徒だって、エリス様への祈りを捧げている最中ならばちょっとやそっとの事で中断したりはしないぞ。今度ミソギもエリス教の礼拝の様子を見学しにくるといい」

『ていうか、僕はクリスちゃんのせいで既にエリス教徒なんだってばっ』

 

 無駄に対抗心を持つダクネス。正直、八百万の神を信仰する日本で生まれ育った球磨川的には、エリスとアクアのどちらが上かで対立する構造そのものがアイドルの推し活をしあうファン同士の争いに思えなくもない。推しかぶりで殺し合いが起きるよりかは、信者全員が結託して信者を増やそうとするほうが建設的か。

 

『ある意味で、ホッとしたかな。イリスちゃんを作戦ミスでアクシズ教徒にしちゃった身としては、偽物の信仰で違う目的を果たそうとするような宗教じゃないだけ安心だ』

 

 行き過ぎた勧誘は頂けないが、それも金儲けに走るより健全であると球磨川は考える。

 

「球磨川さんてば、さっきから失礼にも程があるわね。日本人の神様へのイメージには困ったものだわ。手始めに球磨川さんはもっと崇め奉るべきなのよ、この私を!!」

 

 腰に手を当て仁王立ちし、さあ好きなだけ祈りなさいと得意げに笑うアクア様。ふふん!と威張る姿には、あまりありがたみを感じない。エリスであればここまで自己アピールしてはこない筈だ。この辺りが、通貨の単位として使われる神と使われない神の差か。

 

『日本人にとって神様は特別であり、身近でもあるのさ。無神論者でも悪い事があったら【神よ…!】なんて呟くもんだし。なんなら、僕が通ってた学校にもいたしね、神様なんて』

 

 球磨川の言う事だ。学友が神とか聞き捨てならないが、真に受けるには少々鍛えられすぎたパーティーメンバー達。みんなBGMとして球磨川とアクアのやり取りを右耳から左耳へ素通りさせていたのだが、この場ではアクアのみが唯一、直接やり取りしていた立場として掘り下げるしかない。

 

「球磨川さんの同級生が神って、なによそれ?日本に直接降り立ってる神がいるだなんて、元日本担当の女神としては捨ておけないわね。一体どんな神様なのかしら?特徴を教えてくれたら、今度私が直々に呼び出して、メッ!しておくんだから」

 

『えーと、大したもんじゃないんだけれど。待ち合わせで僕が遅刻する度に、罰として喫茶店の代金を支払わせようとしてきたな。週に一回くらい、休みの日に強制的に呼び出した上で、集合場所に一番最後にやって来た人間にたかるんだよ。厳密には、遅刻していなくてもだね。年がら年中金欠な僕としては奢らされたくないから、待ち合わせ時間より随分早く向かったものだけれど、必ずその神様は先に到着していたっけ』

 

 在学当時を思い出しつつ、顎に手を当てる球磨川。

 

「それホントに神様??球磨川さん、あなた妖怪か何かの話をしてないかしら?」

 

 兵庫県西宮市に生息していた神様とのやり取りを球磨川は語ったのだが、なるほどここだけ聞くと確かにそういう妖怪みたいではある。

 

『ははは。なるほど、アクアちゃんが知らないって事は……そういうことなんだね。僕としてもそのほうが納得出来るよ』

 

「どういう意味よ……」

 

球磨川は一人『合点がいった』と頷く。アクアには彼が何に納得したのかいまいちわからない。

 

「ま、いいわ!ここで肝心なのは、この私がこれ程までに熱烈に信仰されているってことよ。つまり、受けた恩を恩返しをしないといけないわけ。いい?みんな。なんとしてもここの温泉を元に戻してあげるわよ!!」

 

 アクアが檄を飛ばす。

 

「その為には、セシリーお姉さんからしっかり情報を得ないといけませんね。随分と歩きましたが、まだ辿り着かないのですか?」

 

 めぐみんが先頭をゆくセシリーの背に問う。さすがは宗教団体の本部ともあって、建物自体とても広い。既にどこをどう曲がったのか、めぐみんは覚えきれていない。道は覚えられないが、奥に進むほどダンジョンと同様の危機感は覚えてしまう。

 

「ふふふ、そう入口から近い部屋に貴重な資料は置いていませんよ。何せ、これから皆さんにお見せするのは現在アクシズ教が危機に瀕している大問題に関する資料なのですから。イコール、その部屋はアクシズ教の生命線でもあるわけです」

 

 言いながら、セシリーは廊下に二重、三重と張られた結界を解いていく。ここから先はアクシズ教徒でもさらに位の高い人間しか入れない、いわば聖域のようだ。これは、セシリーを味方につけないと始まらなかっただろう。

 

「本来であれば、ここから先へ足を踏み入れてはならないのですが……お姉さんとめぐみんさんの濃密過ぎる関係を持って、トクベツに許可を出している事をゆめお忘れなきよう!」

 

「みんな!!やっぱり引き返しませんか!?今ならばまだ間に合うのですっ」

 

 瞳を光らせながら撤退を求めるめぐみん。今のめぐみんならば、道順を忘れていようが、結界が張られていようがものの数分で入口まで辿り着いてみせるだろう。

 

「気持ちはわかるが、めぐみん。ここは大人になってくれ。事はアルカンレティアだけにとどまらないのだ」

 

 めぐみんを大切に思うダクネスからしても、セシリーの発言は許容したくない。だが

 

「ここの温泉は王室御用達だ。放っておけば王族の方々に被害が及ぶ恐れがある。というより、運良く汚染に気付けたものの、実害が出ていた可能性もある。ダスティネス家としては、一刻も早い解決が望ましい。解決が出来ずとも、原因の特定までは本日中にでも至りたいところだな」

 

 パーティーメンバーが王族のワードが出たあたりでイリスを見やる。球磨川が汚染温泉で死んでるのをスルーしているのは、本人が今現在ピンピンしてるのでノーカウントのようだ。

 

「考えたくはない事ですが、もしも水質検査に引っかからないような未知の細菌がお湯に含まれていたらと思うと……被害が広がっていたかもしれません」

 

 イリスが自分自身が入浴していた可能性を考慮してうつむく。加えて、大切な家族までもが危険な目にあっていたのだと思えば、冒険だなんだと浮かれてばかりはいられない。現に、アルカンレティアでも入浴してから体調を崩してしまった人も少なくない。改めて、今回の問題は王族として看過出来ないと感じた。

 

「……わかりました。そもそも私も本気で引き返そうとしてたわけじゃありませんから」

 

 あまりにもセシリーが気持ち悪かったが故に、素直に後をついて行くのが嫌だっただけなのだ。

 

「うふふ、めぐみんさんが大人の対応を……お姉さんがめぐみんさんを大人にしたのね……はぁはぁ」

 

 先のダクネスの発言を曲解したセシリーが息を荒げる。

 

「今日の爆裂魔法はここらで使っときましょうか」

 

 めぐみんに同情したからなのか、パーティーメンバーの中でめぐみんを止めようとした者はいなかった。……あの球磨川禊でさえも。

 御神体だけが、誰も信者セシリーを庇ってくれない現実に涙目になりながらもめぐみんに抱きついて爆裂を静止したのだった。

 

◇◇◇

 

「ここが目的の部屋です。みなさん中で見たもの、聞いた事は第三者に言っちゃ駄目なんですからね!」

 

 最後に、扉にかけられた封印を解くセシリー。

 

「ようやく到着ですか。これだけ勿体ぶったのですから、一気に解決出来るくらいの手がかりが欲しいところですね」

 

 その部屋には、様々な書物。分厚い本やら何かの議事録、新聞や雑誌の切り抜きのようなモノが、天井まで届く本棚にギッチリと壁一面に詰め込まれていた。図書館もかくやといった膨大な資料に、一同はどこから手をつけるべきか悩む。

 

『うーん、なんていうか。汚染にまつわる資料があるのは良いのだけれど、他の関係ない資料達は一体なんなのかな?まさか、水の女神アクアに関する書物だとは言わないよね』

 

 そんなにアクアについて語る事が無いだろうと、暗に言う球磨川。

 

「あらクマガワさん、その発言はアクア様にわかがバレバレで恥ずかしいですよ?ここにある本の90パーセントはアクア様にまつわる記述や、アクシズ教団の議事録、運営に必要な資料ですから。どれか一冊でも無くなっていようものなら、即座に世界中のアクシズ教徒を捜索にあたらせるほど大切なモノなんです」

 

 勧誘時と同じ熱量でアクアの文献を全世界で探す信者達の光景は、想像するだけで嫌過ぎた。

 

『あ、そうなんだ。そんなことより、温泉にまつわる資料をピックアップして欲しいんだけれど可能かい?セシリーお姉さん。水の女神アクアの資料は僕も読みたいと10年くらい前から夢見ていたのだけれど、生憎今は1分も無駄には出来ないからね!事件に関係した資料だけピンポイントで読ませて欲しいんだぜ』

 

「勿論、お安い御用よ!お姉さんもアルカンレティアに来てからまず始めにやったのが資料の整理ですからね!」

 

 セシリーがウインクしてから、資料室の奥へと消えていった。

 

 そこらへんにある適当な本をペラペラと捲る球磨川。アクアの素晴らしさをあらゆる表現で伝えてくる文章は目が滑る事この上ない。

 

「ミソギちゃん、結局水の女神アクアの資料を読む時間を【無駄】って言っちゃってませんか……?」

 

 パッと球磨川の発言を聞いたら、セシリーのご機嫌取りに10年もの歳月アクアを想ってた部分にのみ意識がいきそうになるが、イリスはきちんと最後まで聞いていたようだ。後半の球磨川の本音部分にしっかりとツッコミをいれてくる。

 

『おおっとイリスちゃん、言葉尻を捕らえるのはやめてくれるかな?今大事なのは早急な事件解決なんだし、僕はしっかりアクアちゃんの文献に興味を持っているんだぜ。100回以上読み返したドラゴンボールかアクアちゃんの資料、どちらかしか暇つぶしの手段が無い場面で、とりあえずセル編まで読み終えてから考えた後、ひとまず魔人ブウ編に進むくらいには、ね!』

 

 聞く人が聞けば球磨川のアクア文献に対する興味が限りなくゼロであるのが理解できる会話の後で、分厚い本を一冊抱えたセシリーが戻って来たのだった。

 

 

 











書き始めたらかけるのですが、過去の自分の文章を読むのが大変で…!申し訳
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