突然だが、俺は変人だ。
だが、それを理解している…いや、認識している人間はきっとどこにも居ない。
世界は「普通」か「それ以外」かに分けられる。
つまり、周りから見れば俺なんて
「無料で配られてるティッシュ」
「パチンコ玉一粒」
「くしゃくしゃになっちゃった絆創膏」
どこにでもあって、価値にしてみてもせいぜい4円程度が関の山…まあ、もっと簡単に言えば”ほぼ無価値な存在”に分類される、生きててもしょーもないし生きてる意味すら見いだせていない、いわゆる「負け組」。
それでも俺は、今日『徳丸高校』(とくまるこうこう)の入学式に出ている。
目的?そんなもの無いよ…考えるだけで鬱になりそうな長い人生の、たかだか3年分の暇潰し。
この高校生活で得られるものなんて、きっと…。
先生「えー、じゃ次は…『天照天吾』(あまでらてんご)君。」
担任の先生が天吾を呼ぶが天吾はボーっとしていて気づかない。
先生「天照天吾君?」
天吾「あ、はい!?」
ようやく気づき天吾は飛び跳ねて立ち上がる。
先生「自己紹介…お前の番だぞ?」
天吾「あ!あー…はい、あ、天照天吾で…す…えっと、と、歳は、じゅ、15才…。」
「当たり前だろー!」
明らかにムードメーカー気質な同級生のツッコみに、教室内が笑いに包まれる。
その雰囲気に飲まれた天吾は赤面と蒼白をごちゃ混ぜにしたような顔色に変化していく。
天吾「あ、あの…皆と、ももっと仲良くなりたいと思っているので、どうぞよろしく…フヘッ。」
……最悪だ……
俺がその他大勢なのは、生まれた時からすでに決まっていた。
容姿、頭脳、運動神経どれをとっても平凡そのもの。
それどころか、コミュニケーション能力も生活力も何もかもが平均点より少し下。
夢もなけりゃ、明日の楽しみすらない。
だけど、それを悟られずに取り繕う事だけはなぜかずっと上手かった。
もうこの歳で、人間的に終わってると自覚する。
だけど更に最悪なのは、俺はもう世界の端っこをコソコソと生きていくしか選択肢が無いと漠然的に頭では分かっているのに、それでもなお湧いてくるのは欲望ばかり。
金、彼女、親友、青春…もしかしたら、明日の俺は今日までの俺と違うかもしれない。
まだそんな夢うつつのような奇跡を考えてしまう。
高校の俺は、なにかが違うかも…と……………。
二年後―…放課後。
クラスの中心人物的存在の『戸田英吉』(とだえいきち)が天吾に声をかける。
英吉「天吾ー、俺ら今日の夜3年の進級祝いってことでカラオケ行くんだけどさー、お前も来んだろ?」
天吾「カラオケ?良いねえ、誰が来んの?」
英吉「いつものメンツは、お前以外全員来るってよ。」
…て事は、声を掛けられたのは俺が最後かよ…。
天吾「いや、悪りぃ…今日は、ちょっと用事が…。」
英吉「なんだぁ、まさか彼女…んなわけねえか!!んじゃ、また今度な。」
…俺に彼女がいちゃおかしいんか…
まあ、当然だが用事などない。
ああいうすぐに誰かとつるみたがる、社交的な対応が自然体に出来る奴をみると、同じ人間なのに俺とは全くの別の生き物なんだなと思い知らされる。
そして、幸か不幸かこれが今まで取り繕って生きてきた俺の立ち位置だ。
見た目にも一応気を遣い、強制的に人と接する必要があるコミュニティには本心を隠して属することに専念し、嫌味にならない程度に距離は保つ事で、決して友達が居ない訳じゃない単なる上辺だけの関係値を築く事に成功した。
だから、携帯にはアドレスが沢山入っているけれど、それらから連絡が来る事も無いし、無論こちらからする事も最小限。
社交辞令という名の友情が、今の俺の居場所だ。
予想通りで期待外れな高校生活も、残りあと一年。
だけど、悲観は一切していない。
さっきも言った通り、ここまでの筋書きは全て予想通りだったから。
で、ここが俺の変なところだ。
最悪にもなりきれていないような棒にも箸にもかからないような人生を受け入れてる。
こんなもの、はっきり言ってほんの少しの努力さえあればいくらでも変えていける。
例えば「誘いに乗ってみる」だとか「自分から友達に連絡してみる」とか、本当にそんな些細な事だ。
だけど俺はしない。
これ以上、他人との距離を縮めようとは、微塵も思わない。
言っておくけど、出来ないんじゃないやらないんだ。
だけど、その理由も分からない。
だから俺は変人…誰にも気付かれる事の無い…悲しい変人。
学校を後にした天吾は、通学路にある公園のベンチに腰掛けた。
天吾「あー、彼女欲しー!」
そして恥ずかしながら…そんな御託を並べても、結局欲望は消えないのだ。
天吾「ん?…うおっ!」
天吾が、チラッと横を見ると、そこには同年代くらいの女子高生がいつの間にか座っていた。
天吾(ヤベー、今の聞かれたか!?)
女子高生も、その視線に気付いて天吾の方を見返した。
その女子高生は、ボサボサの手入れされていない髪が顔を隠していて、はっきりとした人相は判らなかったが、いわゆる“いじめられっこ”のオーラをプンプンと醸し出していた。
化粧っ気のない顔に度の強そうな眼鏡をかけ、模範になりそうなくらいキチッと着こなされた制服。
絵に描いたような陰気な風貌である。
この年まで生きてきたなら嫌でも通ってきたであろう通過儀礼的なイベントすら、この娘は経験してこなかったのではないかと連想させてしまう程のオーラに、天吾は思わず声を掛けていた。
天吾「…ずっとここに居た?」
女子高生「…え?」
天吾「いや、俺がさっき言った事聞いてたかな~…なんて。」
俺は、自分から見ず知らずの人に声を掛けるなんて必要が無ければしない。
ただ、例外があるとすればこういう奴。
総合点が平均点以下の俺よりも、明らかに格下なある意味「貴重な人間」には、気兼ねする事なく話し掛ける。
そいつの前だけでは、俺は“格上”だからだ。
女子高生「…………いえ…。」
天吾「…あ、そう。」
なんだこいつは?せっかく俺から話し掛けてやったのに、根暗はこれだから。
女子高生「…あ、あの…彼女欲しー…って、ところしか聞いてないので…安心…して下さい。」
天吾「…」
バッカ野郎!!それを聞かれたくなかったんだよこっちは!!
ははーん…こいつ、さては俺の事バカにしてるな?
そのボッサボサの髪の奥で、俺の事笑ってやがるんだろ?
天吾「…名前は?」
女子高生「…?」
天吾「君の名前」
女子高生「…どうしてですか?」
天吾「いや、その制服徳丸だよね?しかも見る限り多分タメでしょ?なのに、いままで君のこと全く知らなかったからさぁ…名前を聞けば、なにか思い出すかなぁと思って。」
有紗「…二宮…『二宮有紗』(にのみやありさ) です。」
有紗!?似合わねー!!ヤベー、一瞬吹き出しそうになっちゃった!!
天吾「へえ、(見かけによらず)可愛い名前だね。」
有紗「い、いえ…それで…私の事…なにか、知ってました?」
天吾「ゴッメーン!全然知らなかった、許してぺろっ」
何かに期待しているような気配を感じ取った天吾は、侮辱したような大げさな態度で否定する。
有紗「…そうですか…。」
そう言って、有紗はトボトボとどこかへ立ち去ってしまった。
天吾「へッ、ざまーみろ!格下が俺の事をバカにするからだ。」
だけど、俺は知らなかった。
このどうしようもなく冴えない女との出会いが、俺の残り一年の暇潰しを劇的に変える事を…。