有紗「…矢代…さん?」
矢代「ねえ、海君と二人っきりの時間は楽しかった?」
有紗「…え?」
矢代「全くさあ、あんた自分でも分かってたよね?海君と肩並べて歩いていい立場じゃないって。」
有紗「…それは…はい。」
矢代「そんじゃあさ、あんたなんでまだ海君と一緒に居るの?」
有紗「…神奈さんが…私を気遣ってくれて…。」
矢代「海君のせいにしてんじゃねえよ!!」
矢代の怒号に、有紗は肩をすぼめる。
矢代「お前、そういやさ…この前は天吾にちょっかい出してなかったっけ?」
有紗「そ、それは…天照君の…う…そっていうか…。」
矢代「まあ、別に天吾なんてどーでも良いんだけどさ…てか、むしろ天吾くらいが丁度良いんじゃね?」
有紗「…ど、どういう意味?」
矢代「だからよ、お前あれだろ?そうやって、絶対的弱者装って男に近づいてたんだろ?そんで、海君が人が良いのを利用して、こうやって護ってもらうふりして二人きりになってたんだろ?」
有紗「…違う…ます。」
矢代「…ふーん、しらばっくれるんだ…そんじゃ、もう口で言っても分からないって事だよね?」
有紗「い、嫌…。」
矢代「海君が自分からあんたなんかに近づくかよ!!」
矢代が、有紗の髪を引っ張りあげる。
その頃、海は―。
海「…用事って、これだけ?」
海は、倉庫の隅に出来ていた蜘蛛の巣を振り払った。
「わぁー!やっぱ海君って、勇気あるねー!」
海「こんな事で、わざわざ僕を呼び出したのか?こんな事、僕じゃなくても出来ただろ。」
「そ、そうだよね!まさか、こんな事の為に呼ぶ筈ないじゃん!」
海「…じゃあ、さっさと言ってくれないかな…暇じゃないんだよ。」
海は、下らない用事を任され、露骨に怒りを露にする。
「え、えっとね…違うんだよ…本当に大事な用があって、だからそんなに怒らないでよ。」
女子生徒は、海の怒りに触れ少し涙目だ。
海「じゃあなんなんだ回りくどい…これじゃ、まるで時間稼ぎ…。」
「…」
海「まさか…」
海はこれが陽動だと気付き、急いで有紗の元に戻ろうとするが、女子生徒が海を掴んで離さない。
「嫌!待って行かないで!あんな女の何処が良いのよ!?」
海「その手を離せ!!彼女を今一人にさせちゃ駄目なんだ!!」
友子「それは違うねぇ。」
そこに、友子が颯爽と現れる。
海「…矢野!なんで君がここに!?」
友子「居ちゃ悪い?」
海「…いや、逆に安心したよ。」
友子が目の前にいる事で、有紗が無事であると解釈し一気に海から肩の力が抜ける。
友子「クク…プクク…安心したってさ…あんたって、ほんとお人好しだよね。」
海「…何がおかしい?」
友子「言っとくけど、今あんたに抱き着いてるそいつら…私とは無関係だよ。」
海「…どういう事だ?」
友子「分かんないかなあ…今回、二宮の身に起きてる事は、全部あんたが原因だって事。」
海「!?」
友子「あんたは、自分が女子にどんだけ人気があるか気にもせずに、急に二宮を贔屓しだした…相手が、二宮じゃなくあんたと釣り合う様な女なら、こんな事にはならなかったんだろうけど、残念ながら二宮じゃ誰も納得させる事が出来ないんだよ…そしたら、行き場を失った矛先が何処へ向かうか… ここまで言えば頭がいいあんたなら分かるよね?」
海「…ふ、ふざ…」
友子「ふざけるなって気持ちも十分分かるよ…だけどね、今有紗の所にいる奴も、今のあんたとおんなじ気持ちなんだよ…相手をそんな気持ちにさせたのは、明らかにあんたの落ち度だよね。」
海「…有紗ちゃん…とにかく行かなきゃ!!」
「キャッ!」
海は、抱き着く女子生徒を無理矢理振り払う。
友子「あんたも人の話聞いてないねえ!」
海「…」
友子「今、あんたがあの娘の為に駆け付けでもしてみなよ…そのせいで、あいつはまた新しいいじめの対象になっちゃうんだよ…まあ、私的にはそれはそれで面白いけどね。」
海「じゃあ…どうすればいい?」
友子「知るかよ!…本当にあいつの事を思ってるなら、助けに行くのは止めときな…そして、今後二度と近付いてやらない事だね…あんたと二宮は不釣り合いすぎたんだ…そして、周囲はそれを決して許してはくれない。」
海「…」
その言葉を聞いた海の顔は、生気が抜けたように青ざめ、無言のまま立ち尽くすしかなかった。
一方―。
有紗「キャッ!!」
有紗が地面に突き飛ばされると、その衝撃で持っていたお弁当もぶちまけられた。
矢代「あーあーあーあー、勿体ないんだぁ。」
矢代は、その中からミートボールを一つ拾い上げる。
矢代「ふーん、これちゃんと手作りなんだ…これで、海君に出来る女アピールでもしようと思った?」
有紗「…」
矢代「なんとか言いなさいよ!!」
矢代は、泥だらけになったミートボールを、そのまま無理矢理有紗の口に捩じ込もうとする。
有紗「んー!んー!!」
矢代「ほら、食え!食えよ!!」
天吾「や、やめろぉ!」
矢代「…あ?」
天照…君?
天吾「そ、そそそ…そんなの、食べりゃれ…食べられる訳ないだろ!」
矢代「なに、あんた…正義のヒーロー気取り?ウザッ。」
天吾「あ、ああそうさ!俺はな、正義のヒーローになりたいんだよ!!」
矢代「ヤダァ、チョーキモーイ…&マジでウザーイ。」
なんて、鋭利な刃物持ってやがる!
ましてや、見た目だけは可愛いから、鋭さも倍増…!!
天吾「と、ととっと…とりあえず、あり…にのみゃーを離¥×◎※!」
矢代「はあ?ちゃんと日本語で話してよ…マジでキモいんだけど。」
な、なんだよこれ…なんで俺、こんなにガクブルしてる訳!?
普通こういうのって、かっこよく解決するもんじゃないの!?
矢代「ねえ、用無いならさっさと消えてくれない?ヘ・タ・レ君。」
グサッ!
駄目だ…致命傷だ。
今日はもう無理だ…一旦出直して、また後日気持ちが落ち着いた後で…。
心が折れた天吾は、有紗達に背を向けて引き返そうとする。
有紗「…天照君…。」
天吾は、有紗の呼び掛けも無視して遠ざかる。
有紗「…ありがとう。」
天吾「…」
しかし、その一言に天吾の足は止まった。
矢代「ほら、立ち止まってないで、とっととどっか行ってよ。」
…そうしたいよ。
だけど、出来なくなっちまったよ…!!!
なんだよ、ありがとうって!?
俺、なにか有紗の為にしたか?
してねえよ。
それどころか、逃げようとしてる相手の背中に向かって、ありがとうなんて…どうかしてるよ、マジで。
そんな奴見捨てるなんて、どうかしてるよ…俺!!
天吾「…あぁ…。」
矢代「…なに?」
天吾「あぁあぁあぁあぁ!!!!」
天吾は、怒った子供の様に腕をブンブン振り回し、涙目で矢代に突進する。
矢代「え!?や、ちょっ…キモォォォイ!!」
その異様な光景に、矢代はたまらず逃げ出した。
…終わった…。
何もかも終わった…今まで培ってきたものが、この一瞬の出来事で全部ぶっ壊れた。
それが分かるのに、そう時間は掛からなかった。