翌日―。
天吾と有紗は、学校をサボり駅前で待ち合わせをしている。
天吾「おう、ずいぶん早いな!もしかして、待った?」
先に待っていたのは、有紗だった。
有紗「そ、そそそ、そんな事ないです!!」
天吾「そうか。」
ほんとは、一時間くらい前からずっと待ってたけど…。
有紗「あ!お、おおお、おはおはおは…」
天吾「はいはい、おはようさん…たく、なに緊張してんだよ。」
有紗「だ、だって、学校までサボっちゃったし…お、男の人と学校以外で二人っきりになるの…お、お父さん以外で、初めてなんですもん…。」
…うーん…普通そんな事言われたら、ときめくなりなんなりするもんなんだけど…。
天吾「やっぱ有紗違う、チェンジで。」
有紗「な、なにを言ってるんですか?チェンジってなんの事ですか!?」
天吾「…ってか、やっぱ私服も期待裏切んねえクオリティだな…ここら辺の統一感は、ある意味流石だわ。」
有紗「…あ、ありがとうございます…?」
天吾「褒めてねえよ!?ボサ髪、瓶底、グレーのシャツにケミカルウォッシュ&ナイキのスニーカーって、やっぱお前どっか病んでるだろ?」
有紗「病んでません!!さっきからなんか酷いです!」
天吾「悔しかったら、劇的ビフォーアフターしてみせろ…いいか、校内で噂の二人が同時に休んだんだ…今日で決めなきゃ、明日からは更なる地獄が待ってると思え。」
有紗「…は、はい。」
天吾「よし、そんじゃ早速行くぞ。」
天吾が、有紗の腕を引っ張り先導する。
有紗「あ、あの…行くって、何処に?」
天吾「まずは、そのボッサボサの髪をどうにかする。」
有紗「ええ!?一体どうやって?」
天吾「…それ本気で言ってる?そんなの、美容室に行きゃ一発だろ。」
有紗「ああ、その手がありますか。」
天吾「逆に、それ以外なんか思い付くのか?」
有紗「…そういう所に行くの、あまりに久しぶりなもので…。」
天吾「久しぶりって?いつ以来?」
有紗「…約二年です。」
天吾「マジかよ!なんかバッチい。」
有紗「バッチくはないですよ!頭はちゃんと毎日洗ってるんですから!」
天吾「手入れとかは?って、それは愚問か。」
有紗「…」
天吾「黙んなよ!ほら、着いたぞ…巷で人気No.1の美容室だ。」
有紗「…う!」
む、無理…こんなお洒落な所、私なんかが入れる訳ないじゃん!
天吾「どうした?早く入るぞ?」
有紗「あ、あのですね…私思うんですけど、人気No.1のお店に飛び込みで入っても、きっと予約で一杯だと思うんです…。」
天吾「ああ、それなら昨日の内に予約済ませといたから、大丈夫だよ?」
ええぇぇ!?抜け目ない…きっと今日一日のスケジュール、もうきっちり決まってるんだ…でも、入りたくないぃ…。
有紗「…私、お金が…」
天吾「金なら俺が出すから、ぐだぐだ言ってねえでさっさと入れ!!」
有紗「えええ!?そんなの悪…」
天吾「いいから入れ!!」
有紗「…はい。」
有紗は、渋々天吾の後を着いていく。
「いらっしゃいませ。」
天吾「あの、昨日予約した天照ですけど、こいつのカットお願いできますか?」
店員の視線が、有紗に集中する。
うわぁ、皆の視線が痛い…皆、ここはお前が来るところじゃないって、心のなかで思ってるんだ。
「なかなか手強そうですねぇ…久々に腕がなります!」
天吾「あの、出来るだけ…出来るだけで良いんで、こいつが一番可愛く見える髪型にしてください…どんな感じかは、お任せするんで。」
「了解!そうですよね、彼氏さんも彼女さんには出来るだけ可愛くいてもらいたいですもんね!」
彼氏?彼女!?
天吾「…あの、そんなんじゃないんですけど…こいつが今日どれだけ変われるかに、俺の運命が懸かってるんで…。」
「え?なあんだ、違うんだ…お似合いだと思ったんですけどね…ま、なんかよくわかんないけど、そういう事なら腕によりをかけさせてもらいます!」
お似合いとか止めてくれ…俺に釣り合う女が、こんなダサダサの地味っ娘だって言いたいんか?
そして、有紗の施術に取り掛かること数時間…。
「はい、お疲れ様ー。」
お、やっと出来たか…。
天吾は、雑誌を片付けると有紗の顔を覗きこむ。
「彼女は長い黒髪が綺麗だから、素材をそのまま活かしてみました。」
天吾「…」
有紗「あ、あの…どうですか?」
天吾「…いい。」
あれ?これは、予想以上だぞ?これが、No.1美容室マジック?
二人は、会計を済ませ外に出る。
有紗「凄い髪がサラサラしてます。」
天吾「いや、マジであの店員グッジョブだわ…有紗が、ここまで化けるとは…これは、マジで明日イケるかもよ!?」
有紗「そ、そうですかね?ところで、次は何処に向かってるんですか?」
天吾「エステ。」
有紗「え、えすて?」
天吾「髪質は良くなったけど、一番の問題は顔面だ…今までは、サイズが明らかに合ってないその馬鹿デカ瓶底眼鏡と、ボサボサの髪でほとんど顔が隠れてたけど、もう髪はサラサラだし金輪際その眼鏡は掛けさせないから、これからは顔を隠せなくなる…だから、エステで無駄毛やらニキビやらを処理してもらうのが次の目的。」
有紗「エステなんて、は、初めてです。」
天吾「だろうね。」
そうこうしてる間に、二人は次の目的地に到着する。
天吾「ほれ、行ってこい!」
有紗「…あの、天吾は?」
天吾「いやぁ、流石にエステサロンに入ってく勇気はないから、終わるまで近くの喫茶店にでも居るよ。」
有紗「ええ!?でも…。」
天吾「金なら心配すんな、後で立て替えてやるから…ほら、時間ねえんだ時間!」
そう言って、天吾は有紗を急かすように、腕時計をトントンと叩く。
有紗「…うう…行ってきます。」
そして、更に数時間後…。
有紗「天吾、行ってきました。」
天吾「おう、時間掛かったな…やっぱり、素材が素材だけあって施術師も相当苦労…。」
有紗の顔を見た天吾の動きが止まる。
あれ?あれれ?なにこれ、何でこんなにお肌がプルプルしてるの?
手入れされてなかった眉毛も、綺麗に整えられてて…あんなにダサかった瓶底眼鏡も、むしろお洒落に見えてきた。
こういうもんなの?エステってこういうもんなの??
有紗「あの、やっぱり変ですか?」
天吾「…いいや…超イイ。」
有紗「でも、お金高かったです…もう行かなくていいです…。」
いや、むしろお釣りくるだろこれ…どんだけ変わってんだこいつ。
天吾「よし、次だ…次は、眼鏡屋に行くぞ。」
有紗「眼鏡屋さんですか?でも、この眼鏡まだ使えますけど?」
天吾「そういう問題じゃねえだろ!お前気付いてる?その眼鏡、度がとんでもない事になってて、端から見たら宇宙人みたいになってんだぞ?」
有紗「…はあ。」
天吾「…うん、分かってない返事だね…ちなみに、それっていつから使ってんだ?」
有紗「小学生の時からです…お父さんが、どうせずっと使うんだから大きめの買っとけって。」
天吾「…ああ、そう…。」
親父の貧乏性が原因かよ…。
天吾「じゃあ、眼鏡はずっと着けてるんだ?」
有紗「はい、前はお家の中だけで使ってたんですけど、どんどんと目が悪くなっちゃって…。」
それ、その眼鏡が原因って事ないよな…。
天吾「そういえば、俺お前の眼鏡外した顔見たことないんだけど、ちょっと外してみ?」
有紗「ええ~?そんな急に言われてもぉ…。」
天吾「外すだけだろ、とっととやれや。」
天吾は、無理矢理有紗の眼鏡を外した。
有紗「あ、ちょっ…!」
天吾「!!!!」
え?誰ですかこれ…。
なに?このパッチリおめめ…それでいて、顔は小さくて少し丸顔で…まるで小動物みたいに可愛いんですけど。
これが、二宮有紗の本来の顔?
有紗「ちょっ、返して下さい!それが無いと、全然見えないんです!」
天吾「あ?ああ、悪い。」
どういう事だ?
なんで、こんな高いポテンシャル持った奴が、わざわざ自分を落とす様なこんな格好を?
その時、天吾が思い出したのはある二つの言葉。
海「そうか、君は昔の彼女を知らないのか…。」
有紗「その事があるおかげで、今のいじめが耐えられてる様なもんですから。」
有紗があんな容姿になったのは、なにか過去にあったのが原因?
有紗「あの…眼鏡屋さん行かないんですか?」
天吾「あ?ああ、行く…。」
そして夕方―。
眼鏡と服を買い揃え、全ての工程を終えた有紗は、見違える程に美しくなっていた。
天吾「…し…信じられない…。」
有紗「な、何がですか?」
天吾「ちょっと確認なんだけどさ、俺途中間違えて、美容整形外科に立ち寄ってないよな?」
有紗「立ち寄ってません!!」
天吾「…だよな。」
有紗「それより、本当に変じゃないですか?なんか、いつもより視線が気になるんですけど…。」
なにこの大逆転劇!?
これこそ、世に言うダイヤの原石って奴だよな?
俺は今日一日、というかここ最近ずっとこんな美少女と行動を共にしてたなんて…。
しかし、見違えた有紗の姿を見て、天吾の心に芽生えたのは、意外な感情だった。
でも、なんでなんだこいつ…なんかムカつく。
これってつまり、俺や周りの人間を今まで欺いてたって事だよな…。
自分と同格か、それ以下だと思って余裕ぶっこいてたのに、蓋を開けてみりゃ格上も格上かよ。
なのにこいつは、自分から望んで格下に成り下がってたんだ。
…なめやがって…こんなの、生まれつき格下の俺がまるでピエロじゃねえか。
有紗「あの、私お腹空きました…良かったら、ご飯食べて帰りませんか?き、今日のお礼もしたいし…。」
天吾「…悪りい、俺そろそろ帰るわ…。」
有紗「そ、そうですか…残念です…。」
なんでだろう…さっきまで、あんなに楽しかったのに、今は悲しい。
天吾「…それじゃまた明日、学校の前で待ち合わせな。」
有紗「は、はい。」
そして、互いの気持ちに思いがけないズレが生じたまま、勝負の朝を迎える―。