夜―有紗宅。
有紗「ただいま。」
有紗ママ「おかえり、随分遅かったのね…今日、学校お休みだって言ってたけど、何処に行っ…。」
有紗ママが、トタトタと駆け足で玄関まで出迎えにくる。
有紗ママ「…有紗…。」
有紗ママは、見違えた娘の姿を見た瞬間、無言で有紗を抱き寄せた。
有紗ママ「…やっと…やっと立ち直ってくれたのね。」
有紗「…うん、今まで心配掛けてゴメンね…私、もう大丈夫だから。」
私は、嘘をつきました。
本当は、まだあの日起こった出来事を、心の何処かで引きずったままなのです。
あと、今日は学校が休みだというのも嘘です…。
だけど、全部が嘘だと言う訳ではありません。
私はもう大丈夫…天吾が居る事、何故だか本当にそう思わせてくれる。
まだ出会って間もないし、嬉しい出来事より辛い仕打ちの方が多かった気がするけど、それでも最後の最後で彼は私を見放したりはしなかった。
それが、彼は私に本音で接してくれてると実感させてくれる。
だから、信頼…と言ったら大袈裟かもしれないけど、それに近いものを感じる事が出来るのかもしれない。
…って、こんな事考えてたら、また天吾に「勘違いすんな!」とか言われそうですけど…。
そして、翌日―校門前。
やはり、先に待っていたのは有紗だった。
その間も、登校する生徒の視線は、一様に有紗に向けられる。
「なあ、あれ誰?見たことないけど、一年かな?」
「やべえ、めっちゃ可愛い!」
「あれって、転校生?」
「じゃねえ?あれだけ可愛くて、今まで噂にならない訳ないじゃん!」
周りでは、有紗に対しての憶測が飛び交っている。
ううう、天吾早く来ないかな…。
皆、私の方見て何か噂してる気がする。
その時だった…。
『調子に乗んな!』
『…あんたのせいだから。』
『もういい…もう死ななくていいから…だから、死んだように生きていて…。』
そんな状況下に置かれた有紗の脳裏に、突然フラッシュバックされたのは、依然として有紗に暗い陰を落とす「とある過去」にまつわる出来事だった。
その記憶が甦った途端、有紗は酷い頭痛と目眩に襲われ、その場に倒れ込みそうになる。
天吾「うおっと!!大丈夫かよ!?」
有紗「天…吾…。」
そこに天吾が現れ、倒れる寸前で有紗を支えた。
天吾「どうした?具合、悪いのか?」
有紗「…ありがとう。」
そう言って、有紗は怯える様に天吾の服をぎゅっと握った。
そのしぐさに天吾の顔が赤らむ。
くぅ~!有紗のくせに、なんでこんなに可愛いんだよ!?
…そういえば、有紗って名前…今となっては、めちゃくちゃ似合ってるじゃねえか…。
それに、有紗って思ったより小柄で物凄く軽いんだな…。
胸は…まあ許す。
ていうか、可愛くなった途端なんだ俺のこの反応。
けど…それって、裏を返せば結局は顔…見た目が全てって事の証明なんだよな…。
有紗への興味が湧く度に、それと比例して込み上げるのは自分への劣等感だった。
そして、どうしても拭い去れない有紗への嫌悪感。
相容れない二つの感情が、天吾の中でごちゃごちゃに入り交じっていた。
俺は、何処かで有紗は俺と同じ世界の人間だと思ってた。
だから、何気無く話す事だって出来たし、それどころか罵る言葉さえ容易に吐けた。
けど今になってそれが、表面しか見ない俺の浅はかさと、格下にしか強がれない俺の本質とを、恥ずかしげもなく露呈していただけだと気付かされた。
有紗が元からこの姿だったら、俺はそんな態度は取らなかっただろう。
今の気持ちを例えるなら、まるでドッキリにかけられたみたい気分はだった。
「天照天吾は人によって態度を変えるクソ野郎なのかどうか」の検証ドッキリ。
結果は、「ブス」には酷い態度を取るくせに、「美女」にはヘラヘラ媚びへつらう、そんな最低の人間でした。
一同大爆笑。
俺の醜態を見て、皆が笑っている。
もう、笑われる側に有紗は居ない。
ただ一人、俺だけが笑われてる…。
有紗を変えようと思ったのも…そして、実際変えたのも俺だ。
じゃあ果たして、その選択は俺にとって正しかったのか…。
それは、残念ながら俺が決める事じゃない。
そしてそれは、この後すぐ…教室に入れば全てが分かることだ。
だけど何故だろう、昨日から非生産的な考えが、頭からこびりついて離れなくなった…。
天吾は、気持ちを落ち着かせると学校を見上げた。
天吾「有紗…教室、行けるか?」
有紗「…はい。」
天吾が居てくれるなら。
天吾「それじゃ…行こう。」
…もし、有紗が居なかったら…。
俺の学園生活は、こんなに崖っぷちではなかったんじゃないか?
有紗が居なかったら、俺の築き上げてきたものが、ここまで脅かされる事はなかったんじゃないか?
有紗さえ居なければ、俺はここまで自分の劣等感に、苛まれる事はなかったんじゃないか?
なんで今更そんなことばかり考えてる…俺は…有紗が嫌いなのか?