教室へ向かう二人は、胸が張り裂けそうな緊張感の中、歩を進めていた。
俺は有紗が嫌い?
俺がそんな事考えてどうすんだ?
そもそも、俺が有紗を変えたのだって、自分の現状を打破する為の単なる手段だったじゃないか。
要するに、俺の学園生活が元通りにさえなれば、有紗と今後関わる必要もない。
だったら有紗が嫌いだろうが、そんなのどうでもいい事…。
それなのに、俺は何を余計な事を考えてんだ?
そして、きっと…いや、この有紗の変化があれば確実に俺の思惑は成就するだろう。
天吾「はよーっす!」
天吾は、この計画が成功を収める事を半ば確信した様に、堂々と教室のドアを開け放つ。
英吉「おぉっ!!今日はちゃんと来たなぁ!昨日は、二宮も無断欠席だったけど…天吾は、昨日どおしたの?」
天吾「…」
天吾の無言の反応に英吉は、にやにやしながら肩を組んでくる。
英吉「はい、だんまり入りましたー!よって、昨日天吾君は二宮有紗と学校を無断欠席して、ラブラブデートしてた事が確定しましたー!」
教室内に、乾いた笑い声が充満する。
天吾「…悪いかよ?」
英吉「…あ?」
天吾「俺が、昨日有紗と一緒に居たってのが、そんなに面白い事なのかって?」
友子「…は?マジかよ…。」
友子は、ボソリと呟く。
英吉「…プッ、マジ?マジで一緒に居たんだ?開き直りとか、お前格好良すぎんだろ!いやいや、全然悪くないよぉ…健全な男女が、健全なお付き合いをしてるだけなんだから…ただ、ただな…お前女の趣味悪すぎんだろー!いくらモテないからって…あれはないってしかし!!」
英吉が、天吾を馬鹿にする態度で教室内を煽る。
教室内も、それに同調するように笑いに包まれる。
友子「…チッ。」
その雰囲気に、何故か友子だけ不機嫌だ。
天吾「…だってよ…。」
英吉「…へ?」
天吾「ほら、いつまでも隠れてねえで、出てこいって。」
天吾の合図で、有紗は怯えながらもクラスメイトに顔を見せる。
英吉「…へ?」
友子「…は?」
矢代「…はぁ!?」
有紗の姿を見た教室内は、一瞬にして静寂に包まれた。
その空気に居たたまれなくなった有紗は、足早に自分の席に着く。
だが、皆の目線は有紗を追いかけた。
英吉「…誰?」
天吾「誰?なに言ってんだ… お前らが、散々小馬鹿にしてた二宮有紗だろうが。」
「………………ええぇえぇえぇえ!!!!!?」
その驚愕の声に、有紗は肩をビクつかせる。
英吉「に、にににのにのにの…二宮?」
英吉は有紗に歩み寄り、間近まで顔を近づけ直接問い掛ける。
有紗「…はい。」
有紗がチラッと目線を送ると、英吉はその場で腰を抜かす。
英吉「…か、可愛ええ…。」
この予想外の出来事に、クラスは一時パニック状態に陥る。
よし!まあ、やはりというか…予想通り、有紗は皆に受け入れられたと見て良いだろう。
これで、俺への冷やかし混じりのいじめも無くなる。
元は、根暗な女を必要以上に庇いだてする様な行為が、いじめに繋がってたんだ。
だけどもう、その根暗女は何処にも居ない。
なら、奴等が俺を茶化す理由も無くなった訳だ。
だがしかし、一つ大きな誤算が生じた。
有紗の容姿が、予想以上に可愛くなりすぎた事だ。
これにより、俺はまた一つ手を打たねばならなくなった。
天吾「あー、それとな…これだけは言っておきたいんだけど…俺と有紗は、別に付き合ってないから。」
俺と有紗の間に、格差が生まれた事により、今度は有紗に好意を寄せる奴等からの嫌がらせが起きる可能性が予想された。
誠に腹立たしい事だが、今まで有紗をキモ女として扱い、それに関わる俺をもいじめの対象にしてた奴等が、今度は可愛くなりすぎた有紗と俺との関係を勘違いして、釣り合ってない俺に猛反発してくる…そんな、逆転のいじめが発生する場合があった。
だからこそ、この事実を明確にしておく事は、元の生活に戻るうえで最も重要な事だった。
天吾「…てか、付き合うどころか別に友達って訳でもないしね。」
…え?
英吉「友達じゃない?じゃ、なんで昨日一緒に居たんだよ!?」
天吾「いや、それは成り行きじゃん!ぶっちゃけ、お前らが俺にちょっかい出すのって、有紗がキモかったのが原因だろ?だから、それ改善すれば少しはマシになるかなーと思って、昨日そいつを無理矢理休ませて、一日中連れ回してたってだけの話!まあ、変わりすぎて正直ビビったけど、ただそれだけ!!つまり自分可愛さ!それ以外の感情なんも無し!」
まあ、大体は実際そうだったし…。
英吉「…それ、ホント?」
英吉は、有紗に訪ねる。
有紗「…へ?…は…はい。」
英吉「可愛うぃぃぃ!!」
英吉が、スタン・ハンセンのモノマネで喜びを表現する。
だが、それを告げられた有紗の胸中は穏やかではなかった。
ただ…成り行きで関わってただけ…。
天吾…私を友達だなんて思って無かったんだ…。
なぁんだ…そうだったんだ…本当に、私の勘違いだったんだ。
…なぁんだ…。