それから数日―。
有紗の変貌にも周囲がだんだんと慣れ始め、有紗が男女問わず声を掛けてられている姿を、よく見かける様になっていた。
友子を始め、有紗をいじめていた女子連中も、あれからは比較的大人しく生活している。
特に、海への嫉妬心から有紗をいじめていた矢代は、有紗が海と釣り合う存在だと認めたのか、いじめる様な素振りは一切感じられなくなっていた。
こうして、いじめに来る者の存在は影を潜め、逆に好意を以て近付く者が増えた有紗の学園生活は、劇的な変化を遂げていた。
そして勿論、皆の興味がそちらに集中している為、思惑通り俺への嫌がらせもぱったりと治まった。
ただ一つ、誤算があるとすれば…。
英吉「有紗っちゅわぁ~ん!」
有紗「あ…お、おはようございます…。」
英吉「ちょ、天吾どけ!てかいっそ席交換しろ!」
天吾「どわっ!!」
英吉は、ボーっと頬杖をついて座る天吾を席から突き飛ばし、有紗の隣に陣取った。
天吾「…英吉、てめえ…。」
…有紗への人気が集中しすぎて、俺の扱いが以前にも増してぞんざいになった事だ。
天吾「…」
英吉に席を乗っ取られた天吾は、無言で恨めしそうに教室を後にした。
有紗はそれを、心配そうに見詰める。
天吾「…ちぇ、皆有紗有紗うるせえっつの…マジで現金な奴等ばっか。」
有紗の周りには常に誰かがいる状態が続き、天吾と有紗との距離は自然と離れていった。
これにより天吾は、自分が懸念していた事が杞憂であったと実感して鼻で笑う。
天吾「…はっ、そういえば…嫌いなら、今後は関わらなければいいとか…今思えば、自意識過剰も甚だしいな…。」
天吾は、窓越しに外の景色を見詰める。
天吾「…今となっては、有紗とは喋りたくても喋れない間柄…てか。」
友子「なぁに黄昏てんだよ…まだ昼間だぞ?」
天吾「うおぅ!友子!?」
友子「…二宮の事か?」
天吾「…違うよ。」
友子「嘘つけ!友達じゃないとか言っといて、本当は今の現状にむしゃくしゃしてんだろ。」
天吾「…んな訳あるかよ…そんなの、ただの勘違いだ。」
友子「じゃあ、なんで嫌がらせされてた時より、今の方が元気ねえんだよ?」
天吾「は?そんな筈ないじゃん!マジで有紗とは友達でもなんでもないし…。」
友子「お前は、友達でもない奴の事、下の名前で呼ぶのかよ?」
天吾「…」
それはお前もだろ。
天吾「てか、いきなりなんだよ?有紗に絡めないから、今度はその原因作った俺を狙おうっての?」
友子「あ!?」
バチッ!!
天吾「ぐおっ!!」
友子が、天吾の二の腕に目掛けて鉄拳を食らわす。
友子「てめえなんて狙っても面白くもなんともねえわ、ボケ!…それと、あんたには忠告しといてけど…二宮の見た目が変わろうがどうなろうが、そんな事私には関係ないからな…。」
天吾「いっっ…あぁ!?」
天吾は、あまりの痛みに二の腕を高速で擦っている。
友子「私に、あいつをいじめる理由なんて、端から無いんだよ。」
それを告げると、友子はその場を立ち去っていった。
天吾「あ、ちょっ!」
はあ?なんだあいつ…一体どういう事だ?
海「どうした?そんなに、肩を擦って…。」
そこに、今度は海が現れる。
天吾「…神奈川のでっかい版には、関係ねえだろ…。」
海「…毎度その呼び方、面倒じゃないか?」
天吾「うるせえな…どうせ、今日も有紗がお目当てなんだろ?だったら、さっさと行けよ。」
海「…いや、今日は君に話があって来たんだ。」
天吾「…俺?」
図書室―。
天吾「…で?わざわざ図書室まで来たけど?」
海「…有紗ちゃんを…元の容姿に戻したのが君だと聞いて…君は、何処まで彼女について知っているのかと思ってね。」
天吾「は?有紗の事って…。」
…そういえば…まっっったく知らん!
天吾「…てか、元の容姿にって…そういえば、お前前にもそんな事言ってたよな…確か、君は昔の彼女を知らないのかー、とかなんとか…。」
海「ああ。」
天吾「お前こそ、有紗の事なんか知ってんの?」
海「僕が知る限り、中学までの彼女は今の容姿そのものだった…それに加え、性格も元気で明るくそれでいて聡明な、皆から好かれる人気者だった事を覚えているよ。」
天吾「あいつが元気で明るく!?ウッソだぁ~!!」
海「僕も、高校で初めて彼女を見掛けた時は、とても同一人物だとは信じられなかったよ。」
天吾「…それが、なんで今みたいな感じになっちゃったんだ?」
海「…それは僕にも分からない…だが、高校に入学して彼女の名前を見付けた時、挨拶しようとすぐさま彼女の元に行ったんだが、その時点で既に有紗ちゃんの雰囲気や印象は今の状態になっていた…という事は、中学三年から高校入学までの期間に、彼女の性格すら一変させてしまうような、重大ななにかがあったのかもしれない。」
天吾「なんだよ!なんで、その重大ななにかを知らないんだよ?だってお前、有紗とおんなじ中学だったんだろ?」
海「いや、部活の練習試合の時に行った中学で、偶然彼女を何度か見掛けた程度だ…それからは、僕の単なる片想い…いわゆる、一目惚れってやつだな。」
天吾「…なんで告らなかったんだよ?」
海「当時の彼女は、そういう行為さえはばかれる程、僕には輝いて見えたんだ…今となっては、僕で良いのなら心の支えになってあげたかった…有紗ちゃんが、傷付いてしまう前に…。」
チッ、なんでこいつこんな発言を恥ずかしげもなく?
顔も良いし、勉強も出来っし…なんか、生きてるのが馬鹿らしくなる格差だわ。
天吾「…ハァァ、あいつの事真剣に考えてるとこ悪りいけど、残念ながら俺は有紗について全然知らないんだわ…よって、俺はなぁんの力にもなれまっしぇ~ん…って事で、おつかれ~!」
天吾は、勝手に話を切り上げて教室に戻ろうとする。
海「…本当にそうかな?」
天吾「…あ?」
海「有紗ちゃんは、過去に深い傷を負ったのがキッカケで心を固く閉ざし、それが原因か容姿までガラッと変わってしまっていた…それを君は、どんな方法かは知らないが元の姿に戻したんだ…つまりこれは、約三年もの間立ち止まったままだった彼女を、君が前進させたという事に他ならない…悔しいが、これは君だったから出来た事だと、僕は思っているよ。」
天吾「たまたまだって!たまたま俺が、無理矢理ビフォーアフターさせたってだけ!キッカケがお前なら、あいつを変えてたのはお前だったの!つまり、早いか遅いかの違い…分かる?」
海「…そうだな。」
天吾「んじゃ、今度こそおつかれ。」
天吾が、図書室を後にする。
海「君は、何にも分かってないな…天吾。」
天吾が立ち去った図書室で、海は一人さびしそうにつぶやく。
海「…僕では、彼女を外に連れ出す事さえ叶わなかったんだよ…。」