図書室を出た天吾は、一人でブツブツと呟きながら歩いている。
天吾「俺だったから、有紗は前進する事が出来たとか…海の奴、あんな事言ってなんのつもりなんだ?」
そもそも、あいつが言ってた重大ななにかってのも、単なる憶測なんだろ?
話聞いてると、海も有紗について深く知ってる訳じゃなさそうだし。
天吾「…今度、機会でもあったら有紗に直接聞いてみっかな。」
その頃、教室―。
英吉「ねえねえ、有紗ちゃん。」
有紗「…はい?」
英吉「俺らさ、せっかく友達になれたんだから、アドレス交換しなきゃダメだと思うんだけどー!」
有紗「…え!?」
英吉は、戸惑う有紗を尻目に交換の準備を勝手に始めている。
英吉「…あれ?まだ?ほれ、早く携帯。」
有紗「あ、あの…その…私ですね…。」
?「残念でした!有紗ちゃんは、実は携帯持ってないのです。」
戸惑う有紗を見かねて、突然女子生徒が二人の間に割って入ってくる。
有紗「…たまちゃん。」
彼女の名前は、『横溝珠稀』(よこみぞたまき)。
どうやら、クラスの中で最も有紗と気があったらしく、最近では一緒に居るのをよく見かける。
有紗にとってはクラス内で一番近い存在の人物だ。
英吉「ええ!?そうなの?」
珠稀「だって、私だって有紗ちゃんのアドレス知らないんだよ!ねー、有紗ちゃん。」
有紗「あ、うん…ごめんね、今どき変だよね。」
珠稀「えー、そんな事無いよ!皆持ってるからって、本当は要らない物を、無理に持ってるって方が変だよ!」
有紗「…そうかな?」
英吉「おい、タマ…有紗ちゃん一言も要らないなんて言ってないじゃん。」
珠稀「あれ?もしかして、本当は欲しかった?」
有紗「う、うん、確かに…今までは、要らなかった…かも。」
珠稀「じゃあさ、じゃあさ…今は欲しいと思ってる?」
有紗「…ちょっとだけ…。」
珠稀「えー!そんじゃ、決まり!」
有紗「…え?」
珠稀「今日の帰り、欲しい携帯ショップによって行こうよ!」
有紗「…え、えー!?」
珠稀「…嫌?」
有紗「い、嫌じゃないけど…。」
英吉「よっし!そんじゃ、携帯買ったら真っ先に俺とメアド交換ね!」
珠稀「ダメー!最初は私となの!!ね、有紗ちゃん?」
有紗「…う、うん…そうだね…。」
珠稀「…ん?」
そこに、図書室から天吾が帰ってくる。
自分の席の周りが未だガヤガヤ騒がしいのを見て天吾は深いため息を漏らす。
ゲッ…まだやってんのかよ…。
天吾「英吉、そろそろ自分の席に戻れよ。」
英吉「あ、わりい…とりあえず、アドレス交換楽しみにしてるからね~。」
そう言って、英吉は自分の席に戻っていく。
天吾「…なんだ、英吉とアドレス交換すんの?」
有紗「…あ、はい…なんか、そうみたいです。」
珠稀「私ともするんだよ!」
天吾「…あー、うん…。」
珠稀「でも、その前に携帯だよね!」
天吾「なに、お前携帯持ってないの?」
有紗「…はい。」
天吾「まあ、要らなかったわな。」
そういう俺も、大して役には立ってないが。
天吾「でも、良かったじゃん…これから、どんどん必要になってくるんじゃん?」
有紗「…あ、あの…。」
天吾「…ん?」
有紗「…えっと…やっぱり…なんでもないです…。」
天吾「…なんだよ。」
珠稀「…んー?」
珠稀は、先ほどから様子のおかしい有紗を見て何か感ずく。
珠稀「…あー…そっかぁ。」
有紗「どうしたの?」
珠稀「んーん、なんでもない…フッフー。」
有紗「?」
昼休み―。
有紗と珠稀が、仲良く昼食をとっている。
珠稀「有紗ちゃんってさぁ…。」
有紗「はい?」
珠稀「テンテンの事どう思ってる?」
有紗「…テンテン…って、なんの事?」
珠稀「天照天吾!名字にも名前にも天っていう字が入ってるから、テンテン!」
有紗「あ、そうなんですか…天吾の事ですか?」
珠稀「えー!有紗ちゃん、テンテンの事天吾って呼んでんの!?」
有紗「…それは…まあ、いろいろありまして。」
珠稀「うーん、でも変だなぁ…なんで、お互い下の名前で呼びあう仲なのに、テンテンは有紗ちゃんの事友達なんかじゃないなんて言ったんだろ?」
有紗「…下の名前で呼んでるのは、覚悟を決めさせる為の成り行きというか…。」
珠稀「なにそれ意味わからん。」
有紗「…そうですよね…ちょっと説明が難しくて。」
珠稀「まあ、テンテンの事はさておき、今知りたいのは有紗ちゃんの気持ち!」
有紗「…分かりません。」
珠稀「ワカラナイ?自分の事だよ大丈夫?」
有紗「…なんだか…天吾とは、もうこれ以上仲良くなれる気がしなくて…天吾も、私を避けてるようなそうじゃないような…。」
珠稀「有紗ちゃんは、テンテンと仲良くなれなくても良いのか?」
有紗「それは嫌です!…多分。」
珠稀「多分かい!でも、そう思ってるなら相手から歩み寄ってくるのを待ってたら駄目なんじゃない?ましてや、相手はテンテンなんだから…テンテンってさあ、なんだか仲良さげにしてる人達とも、一定の距離を感じるっていうか…まあ、なかなか上手くやってるんだけどね。」
珠稀はこれでいて、なかなか鋭いところがあるようだ。
有紗「…そうなんですか?」
珠稀「そう!だから、もっと仲良くなりたいなら、有紗ちゃんから歩み寄ってあげないと、テンテンからは近寄ってきてくれないよ!ぜったい!!」
有紗「…でも、どうすれば…。」
珠稀「丁度良いじゃない!」
有紗「…へ?」
翌日―。
先生「えー、今から班ごとに二人一組に別れて、授業で使えそうな資料を集めて、レポートにして提出してもらう…くれぐれも、どちらか片方に任せっぱなしなど無いように、平等に役割分担するんだぞ。」
英吉「有紗ちゃーん!一緒にやろー!!」
有紗「え!?」
先生「英吉!お前、ちゃんと話聞いてたか?班ごとの二人一組だ…お前は、二宮とは別の班だろ。」
英吉「ええー!!そんな縛り決めてなんの意味があんだよ!不公平だよこんなの!」
先生「…なにがだ…。」
珠稀「有紗ちゃーん!一緒にやろー!!」
先生「珠稀てめえぇぇ!!」
放課後―図書館。
と、いう事で…。
天吾「これ、使えそうか?」
有紗「あ、はい…ありがとうございます。」
結局、天吾と有紗が組む事になった。
携帯は、昨日のうちにゲットした…あとは、それを天吾に切り出せば良いだけ…これって、凄い千載一遇のチャンスだよね。
有紗「あ、あの…」
天吾「このページ丸々写しときゃ、それっぽく見えっかな?」
有紗「へ?あ、ああ…そうですね。」
天吾「…ん?いま、なんか言おうとした?」
有紗「い、いえ…続けましょう。」
有紗は、作業を続ける。
天吾「…そういえばさ…聞きたい事があったんだけど…。」
有紗「…はい。」
…なんだろう?
天吾「あの…なんて言えばいいのか分かんないけど…お前が、変わった理由っつうの?」
有紗「…それは…天吾が、色々してくれて…。」
天吾「じゃなくて!その前!お前…元は、今みたいに身なりもちゃんとしてて、性格もそんなおどおどしてなかったらしいじゃん。」
有紗「…え…。」
天吾「それが、高校入る前に何かあったんじゃないかって話になって…そこんとこ、どうなのかなぁ…なんて。」
その話を切り出された途端、有紗の呼吸が急に荒くなる。
天吾「…有紗?」
有紗「…そ、それは…その…うプッ!!」
天吾「有紗!?」
有紗はパニック症状を引き起こしその場に倒れこむ。
帰り道―。
体調を崩した有紗を、天吾がおぶって歩いている。
有紗「ごめんなさい…。」
天吾「いや、俺の方こそ…なんかごめんな…。」
有紗「ごめんなさい…。」
天吾「もういいから…。」
有紗「ごめんなさい、ごめんなさい!!」
天吾「分かったから!そんなに謝んなよ!!」
有紗「…う、うう…。」
あまりの恥ずかしさから、有紗は思わず天吾の背中に顔を埋めた。
天吾「…ほんとごめん…有紗にとって、そんなに嫌な思い出とは知らずに…なんか…ほんと無神経だった…。」
有紗「…天吾が謝らないで下さい…私が、いつまでも引きずってるのが…悪いんです。」
天吾「…そんなに、嫌な事だったのか?」
有紗「…」
天吾「悪かったよ!もう、この事には一生触れない…。」
有紗「…うん。」
なんだ…有紗にこんなにくらい影を落とす存在って…。
それなのに、そんなに辛い出来事を、たった一人必死に抱え込んで引きずって…。
なんか…こいつを護ってやりたいと思った。
天吾「…そういやさ、携帯買うんだろ?買ったら、俺ともアドレス交換してくれよな。」
すると、天吾の背後から突然携帯が差し出される。
有紗「…ん。」
天吾「…なんだ、もう持ってたんだ。」
有紗「…私、まだ交換の仕方分かんないです…やって下さい…。」
天吾「…任せとけ…。」
なんだろうな…それに、有紗に頼られるのって、そう悪くないかもな…。