二宮宅―自室。
ボフッ。
有紗は、ベットに勢いよく飛び込んだ。
有紗「…ハアアア…。」
深いため息をついた有紗は、仰向けになり腕で顔を覆う。
有紗「…今日は本当にやっちゃったな…。」
有紗は、人前で取り乱して倒れた事をとても悔いていた。
有紗「…それにしても…まだあの事を、こんなに引きずったままだったなんて…自分でも信じられない…。」
私が、人とも関わらずメイクやオシャレからも遠退いて、脱け殻の様な人生を選んできたのは、自分への戒めの他に安心を手に入れたかったからなのかもしれない。
そうやって、自分で自分を貶める事で、反省の色を目で見える形で表す事で、逆にあの出来事から目を背けたかったんだと思う。
しかし、その選択は間違っていた。
この三年、あの出来事と向き合おうとしなかったせいで、有紗の中にある毒素の様なドロドロとしたものは、褪せる事なく意識の外から未だに彼女を蝕み続けていた。
それが、三年前の姿を取り戻した事をきっかけに有紗に自覚を持たせ、目眩や頭痛、吐き気となって有紗を苦しめ始めていた。
…天吾は、気にするなって言ってくれたけど、そう言う自分はどう思ってるんだろう。
有紗「…天吾に嫌われたら…どうしよう。」
ピロリロリン♪
有紗「うわ!!何?」
有紗が、携帯の着信音に驚く。
有紗「…なんだ、メールか…あ、天吾からだ!」
天吾『大丈夫か?明日も辛い様なら無理しないで学校休めよ。それじゃ、おやすみ。』
有紗「…天吾…。」
それを読んだ有紗が、携帯を胸に抱き締める。
有紗『ありがとう。私は、もう大丈夫。また明日。おやすみなさい。』
なんでだろう。
天吾が、私に笑いかけてくれるだけで、一言声を掛けてくれるだけで、ただそれだけの事で、私は明日を信じられる気がした。
この感覚は、天吾が優くしてくれたからだとか、助けてくれるからだとか、そういう事じゃない…天吾が天吾だから、私は今生きてるこの時を信じる事が出来るんだと思う。
有紗「…私、変われる気がするよ…あの出来事から脱け出せるかもしれない…天吾が居てくれるなら…。」
そうして、有紗はゆっくり眠りへと落ちていく。
有紗と天吾を繋ぐ携帯を握り締めながら。
数日後―。
天吾「出来たー!」
天吾は、完成した課題の資料を高々と掲げた。
それを、有紗は傍らで拍手して沸き立てる。
天吾「いやぁ、めちゃくちゃ仕事早いなお前…まさか三日で完成しちまうとは。」
有紗「そうですか?私、そんなに頑張ったつもりなかったですけど。」
天吾「…あのさ…これ、一応三週間後に発表する予定の課題なんだけど…それをたったの三日で終わらせて、頑張ったつもりないって…。」
有紗は、天吾の反応にキョトンとする。
有紗「はあ…それじゃ、発表会の間までに、もっと作品を練り上げて完成度を高めましょうか?」
天吾「え!?…いや…いいんじゃないかな…今のままで、十分完成度高いし…うん。」
うわー…それは、流石にめんどいわ…たく、これだからガリ勉は…。
有紗「…そう…ですか。」
なんか残念がっちゃってるし…。
有紗「…」
そうだよね…課題なんてすぐに終わらせたいもんね…。
私、天吾と居るのが楽しくて、時間も忘れて打ち込んでたから、ちっとも苦じゃなかったんだけどな…。
はぁ~…これで終わりか…。
有紗は、無意識に天吾を見詰める。
天吾「…ん?なんだよ。」
有紗「え!?あ、ああ…いや…。」
天吾「…」
天吾は、有紗の恥じらいに違和感を覚えた。
…なに?もしかして俺…今鼻毛出てる?
天吾は、咄嗟に口元を手で隠した。
ヤベー…なんかさっきから、チラチラチラチラ見てきてると思ったら、そういう事かよ…。
天吾「か、帰ろうか。」
有紗「…は、はい…。」
い、いつのまにか天吾の顔ジーっと見ちゃってた…どうしよう…絶対変な娘だと思われてるよ…
なんだかんだで噛み合わない二人は、互いに恥じらいながら帰路に着いた。