翌日―教室。
私は、変人なのかもしれない。
私は、出来るだけ目立たない様に、自分を押し殺し、細心の注意を払って、生きている。
なのになんで皆の私を見る目は冷たいの?
私がなにかしたの?
私は世界の端っこを歩いて生きていくしかないって、分かってるよ?
だけど、それを誰かに問い質そうにも、聞ける相手なんてこの学校には居ない。
そういえば…昨日の男の人、私は確かに見覚えがあった。
という事は、やっぱり同級生?
ああああ、それじゃあ嫌だなぁ…私の事知ってるかなんて図々しい事聞いてしまったから、出来ればもう会いたくないよぉ。
天吾「はよーっす。」
その声に不意に振り返った有紗の眼には天吾が写る。
有紗「…うっ…!!」
有紗は、咄嗟に姿を隠した。
ウソ…まさか、同じクラス…だったの?
英吉「おう、天吾!昨日のカラオケ超盛り上がったんだぜ!なんで来なかったんだよー!!」
天吾「えぇー、マジかー!俺も、用事無きゃ行ってたのになぁ!」
英吉「一次会の親睦会も、何だかんだでほとんど来たんだぜ?」
天吾「……へ、へえ。」
…なにそれ、聞いてない。
俺は、クラス全体で参加する様なイベントには、顔を出すようにしている。
そうする事で、周りからはぐれずノリの悪い奴には見られないからだ。
英吉「来てなかったのはぁ…お前と…あ、あそこの貞子みたいな奴。」
マジかそれ…来てなかったのが俺とそいつだけ?
昨日からの新しいクラスなのに、完全に出鼻挫かれた。
こいつの事は端から信用してなかったが、マジでやらかしてくれやがった…。
天吾は、英吉の指差す方を見た。
英吉「一応あいつにも声かけたんだけどさ、「行けない」なんて言うんだぜ!?お前になんの用事があんだっつーの!!いやぁ、てかそれにしてもあいつにもちゃんと声かけてやるとか、俺ってマジ心広くね?…あんなの、絶対今までもハブられて生きて来たただろ…。」
天吾が見覚えのある風貌に固まる。
必死に背を向けていた有紗だったが、刺さる視線に耐えきれず振り返りざま二人の目が合う。
天吾「…マジ!?」
英吉「ん?おお、マジマジ…って何が?」
まさか…同じクラスだったのかよ。
ヤベー、変に関わりあいになっちまった。
てかどんだけ存在消してんだよおんなじクラスで全く認知できないって!!!!
待てよおい…これで下手にあいつに話し掛けられでもしてみろ。
これまでの俺の努力が一瞬にして水の泡。
俺まで変な目で見られる事になる。
天吾は青ざめたまま固まる。
英吉「ん?なにそんなにじっと見てんだ?え?え?まさか…知り合いだったり…。」
天吾「ファッ!?バッ!んな訳あるか!?どうやったら、あんなのと知り合いになれんだよ?」
英吉「とか言って、昨日の用事ってのも、実はあれと会ってたんじゃねえの?」
天吾「…マジで取り消せ。」
英吉「なにそんなにむきになってんだよ!!ジョーダンだろ?」
天吾の気もよそに英吉が無神経に天吾の背中をバンバンと強く叩く。
こういう奴は、後さき考えずすぐに有もしない噂を流して人を貶める。
本気で否定しないと、後で痛い目見るのは俺だ。
こうなった以上、とにかくあいつには近付かない様にしなければ。
チャイムが鳴り先生が教室に入ってくる。
先生「えー、一限目のHRだが皆お待ちかねの席替えをしたいと思う。」
英吉「小学生かよ!」
先生「人生残り数回の席替えなんだぞ?…もっと楽しめ!」
クラス一同文句は言っているが一様に楽しそうだ。
そしてくじ引きがなされ、いざ席替え。
天吾「…」
やっぱり…俺の人生は、ほとんど思惑通りにいった試しがない。
よりにもよって、この女の隣かよ!!
天吾と有紗は隣どうしの席になった。
有紗は、少し気まずそうに軽い会釈をした。
しかし、天吾はそれを無視する。
まさか、この人…えっと、天照君だっけ…の隣になるなんて。
なんで私って、嫌だなと思った事が現実になっちゃうんだろ?
でも、なんでかな?今になって…少しだけワクワクしてる自分がいる。
昨日、偶然話しかけられた人と、偶然同じクラスで、偶然隣の席になるなんて。
もしかしたら、この学校で初めての…と、友達になれるかも。
有紗が、口角を少しだけあげて微笑む。
天吾「…キモ。」
有紗「…え?」
その突然の声に天吾の方を振り替えるが、天吾は頬杖を着いてそっぽを向いていた。
今のって…私?
まただ…私は、自分が何をしてしまったのか分からないまま、いつの間にか嫌われてる。
こうして、ささやかな願いは一瞬にして消え去った。
放課後―。
有紗が、昨日のベンチで黄昏ていると、いつもの帰り道である天吾と鉢合わせる。
天吾「んだよ、今日も居るわけ?」
有紗「あ、天照…君も?」
天吾「俺は、ここが帰り道なの!」
有紗「そう…なんだ。」
天吾「それにしても、まさか同じクラスで隣の席になるとわねー。」
有紗「う、うん…そうだね。」
あれ?これって、ちょっと良い雰囲気なんじゃ…。
天吾「あ、丁度いいから言っとくね。」
有紗「は、はい?」
有紗が、天吾に笑顔を向ける。
天吾「お前と俺が喋るのは、これっきり…何があっても、もう二度と話し掛けたりとかすんなよな?」
有紗「…え…。」
その瞬間、有紗の笑顔は凍りついた。
天吾「いや、俺もこの3年コツコツ努力して、上手いことやってきた訳よ…それをさぁ、間違ってもお前みたいな奴と知り合いだなんて知れたら、全部がパァになっちゃうんだわ…特に、英吉にもし知られでもしたら…。」
その言葉に、有紗はただただうつむくばかりだった。
…あれ?これ泣いてる?
深くうつむく有紗の姿に天吾が焦りだす。
天吾「え、いや…お前も分かってるよね?だって、自分の立場になって考えてよ…お前みたいな、陰気な奴と知り合いだなんて知れたらさぁ、印象悪い事くらい想像つくでしょ?」
有紗「…はい。」
天吾「それを承知で、そんな人を寄せ付けないオーラだしてるんだよ…ね?」
有紗「…はい。」
その返答に天吾が胸をなでおろす。
天吾「…良かったぁ、んだよ…これじゃ俺が悪者みたいになるところじゃんかよ。」
有紗「…ごべんなざい…。」
天吾「んじゃ、そういう事で明日からよ・ろ・し・く。」
そう言って、天吾は公園を後にした。
その後、我慢していた涙が有紗の目からボトボトと溢れてくる。
有紗「…ごべんなざい…。」