翌日―。
天吾「はよーっす。」
天吾は、有紗に目配せした後、席に着く。
「もう二度と話し掛けたりとかしないでね。」
天吾の顔を見た有紗は、昨日言われた非情な言葉を、頭の中で何度も反芻している。
私なんかと関わりあいになんてなったら天照君にまで迷惑がかかっちゃう。
そんなの望む人なんていない。
天照君の主張は、当たり前の事なんだよね?
だから、天照君は悪くない。
有紗は、自分に言い聞かせながら天吾の行為を正当化しようとしている。
天吾「…」
一方、隣の天吾は律儀に言い付けを守る有紗を見てふと思う。
なんだかなぁ…有紗って、本当に友達とか居ねえんだな。
たまに、トイレかどっかに行く時しか席立たねえし、声とか普段全く聞かないもんな。
昨日は、二度と話し掛けんなとか言っちゃったけど、今思えば有紗から話し掛けられた事なんて一回もなかった。
そもそも、友達欲しいとか思わない訳?
そのボサボサの髪も、どこで売ってんのか分かんねえ様なだっさい眼鏡も、見た目からして人に好かれようとしてねえんだよな、こいつ。
俺も大概だが、そんな人生生きてて意味あんのか?
って、なんで俺こんな事考えてんだろ…あー、なんだか段々腹立ってきた。
天吾がそんな事を考えていると、突然背後から有紗の肩に何者かの手が回わる。
天吾「ん?」
「あんたいっつも一人だね。」
有紗「え…あの…。」
有紗の背後には、五人の女子が立っていた。
「暇してんだったら、ちょっとウチらに付き合ってよ。」
その声の人物を見た天吾の表情が固まる。
おいおい、こいつら『矢野友子』(やのともこ)達じゃねえか。
影で、悪さばっかしてるって噂のこいつらが、有紗なんかに用なんて一つしかねえじゃねえかよ。
友子「ん?何見てんの、天吾?」
天吾「え、いや…別に。」
天吾は、咄嗟に目を反らす。
友子「ほら、さっさと行くよ。」
そうして、有紗は友子達に強引に何処かへ連れ去られてしまった。
いやいや、待てよ…案外本当に友達として誘っただけかもしんねえし、相手だけ見て始めっから悪い方に考えるのは良くないよな。
てか、有紗がどうなろうが、俺の知ったこっちゃねえ訳だし。
そしてしばらくした後、有紗が一人で戻ってくる。
その姿を見て天吾の不安が的中する。
几帳面に着こなされていたはずの制服は無残にもほこりまみれになっており、有紗本人はただただ意気消沈している。
うわー…完全にやられてる。
で、でも、これもはっきり言って目ぇつけられるお前の自業自得ってやつで…てか、まだいじめられてるって決まった訳でもねえ訳で…て、俺は一人で何考えてんだ…。
それからというもの、昼休みや放課後になると、有紗は毎日の様に友子達と何処かへ消えるようになった。
そして、戻ってきた姿はいつも暗いオーラを纏い、ひどい時にはびしょ濡れで帰ってきた時もあった。
だけど俺は、毎回それを見てみぬふりし続けた。
そんな日が一週間続いたある日の事。
昼休み―。
天吾「えーっと、資料室はこの先だったよな…っと。」
天吾は、授業で使った資料の片付けを先生に頼まれ、資料室に向かっていた。
天吾「それにしても、やっぱここら辺はクラスが無い区画だけあっていつ来ても静かだなぁ…そのせいか、たまにイチャついてる奴等がいるって噂もあるし…」
「んや!…あ…!」
すると突然、曲がり角の方から女の吐息の様な声が聞こえてくる。
ん?もしやこれって…ラッキィィィ!!
煩悩に支配された天吾の脳内は「それ」一色になった。
たまには、先生の言うことも聞いてみるもんだぜ!
天吾は、高鳴る鼓動を抑えつつ、そっと声の方を覗きこんだ。
しかし、その先に見た光景は天吾が望んでいた様なものでは無かった。
そこに居たのは、矢野友子グループと有紗だった。
天吾「…有紗。」
有紗「いや!痛い!!」
友子は、有紗の髪を強引に引っ張り回している。
友子「誰が喋っていいっつった?」
有紗「あうっ!」
有紗の頬に友子の手が振り抜かれる。
有紗「か…ぐ…っ。」
友子はその後も首を絞めつけたりなど容赦なく有紗に手を上げていく。
友子「あははは、いっちょまえに苦しんでんじゃねえよ。」
うわー、えげつねえ…触らぬ神に祟りなし…ここはとりあえず退散っと。
天吾が立ち去ろうとしたその時。
「そこに居んの誰だ?」
天吾「!!?」
マジっすか…見つかっちまいましたけど…どうするこれ!?
「おら!居んの分かってんだよ!!隠れてねえで出てこいよ!!」
グループの女子の怒号に、天吾は恐る恐る友子達の前に姿を現す。
友子「天吾?あんた、こんなとこで何やってんの?」
天吾「いやぁ、先生に資料の片付け頼まれちゃ…てさ…。」
絶対ただでは帰してくれねえよなぁ…。
友子「あっそ、だったら早く通りなよ。」
暗かった表情がその一声でぱっと明るくなる。
天吾「あ、そう?いやぁ、悪いねお取り込み中のとこお邪魔しちゃって。」
良かったぁ、なんもされずに済みそうだぞ、これ。
天吾が、胸を撫で下ろしながら友子達の前を通り過ぎ様とした時。
有紗「……」
「二度と話し掛けたりとかしないでね。」
一切助けすら求めようとはしない有紗を横目に、以前自ら有紗に吐き捨てた言葉が頭をよぎっていた。
そうしている間に、天吾は有紗を一瞥もしないまま通り過ぎて行ってしまった。
有紗「…」
天吾「…」
二人無言のまま。