翌朝―教室前
天吾「あ…。」
天吾は教室から出てくるところの有紗とバッタリ鉢合わせた。
有紗が対応に困りオロオロしていると、唐突に天吾が話を切り出す。
天吾「教室内で変わった事なかったか?」
有紗「へ?…いや、特に気になるような事は…。」
天吾「はぁ…マジで頼むぜ…。」
有紗「?」
天吾「昨日俺の取った行動が、どんだけリスキーか分かってるよな。」
有紗「…は、はい。」
天吾「だったら、今まで以上に注意して俺から離れて行動しろよな…。」
そう告げると、天吾は有紗の横を通り去り教室へと入っていった。
天吾「は、はよーっす。」
天吾の挨拶に英吉が振り返る。
英吉「ヒューヒュー!」
天吾「…え?」
英吉「なになに!?二人仲良く同伴出勤ってかぁ???妬けるねおい!!」
天吾「…はぁ!?」
その発言で天吾が後ろを振り返ると、天吾に続くようにして有紗が立っていた。
ブッチーン。
おいおい…早々やらかしてんじゃねえよこの野郎!!
昨日の今日でこの組み合わせ…考えなくても分かるだろ、普通!!
その状況に、有紗はただただ焦っている。
友子「違うよ。」
天吾(友子!)
友子「天吾はぁ、昨日も二宮さんの事ピンチから救ったんだよぉ!」
終わった…みんなの前で全部ばらされてバッドエンドや…。
友子「それからというもの、そこの二宮さんがあんまりにもしつこいから嫌々ボディーガードやらされてるだけなんだよ…そうだよなぁ、天吾?」
それは、誰が聞いてもあからさまな嘘と挑発の言葉であったが、誰もがその友子の発言に乗せられていた。
それは、天吾も例外ではない。
天吾「そ、そうなんだよ!あの後、俺に惚れたのか…んなわけねえか…とにかく、かなりしつこく付きまとわれてさぁ…なんか、今日一緒に登校してくれなきゃ、明日どうなっても知らないからー、なんて脅され…て…さ…。」
英吉「うーわ、コワ…。」
友子「普通に引くレベルなんですけど。」
俺は、絶対に「いじめる側」にはいかないと…それだけは絶対にしないと決めていたのに…こんなの…。
天吾が恐る恐る有紗の方を見ると、有紗は天吾を追い抜かしてうつむいたまま席へと座り込んだ。
天吾「…」
そして、何事もなく時間は過ぎていき、遂に魔の昼休み。
友子「にーのみーやさん!あーそびーましょ!」
その声に露骨に肩をびくつかせる有紗の耳元で、友子がささやく。
友子「昨日は、途中で邪魔入っちゃって、全然足りてねえからさ…覚悟しとけよ?」
有紗は、今にも泣きそうな顔で、反射的に天吾を見詰める。
しかし、天吾は素知らぬ顔で明後日の方向を向き、有紗の方を見ようとはしない。
友子「あ、そうそう…天吾。」
天吾「ひゃい!?」
友子「昨日みたいな事がまたあったら…わかってるよね?」
天吾は、あまりの威圧感に黙って頷く事しか出来なかった。
友子「さ、行きましょ。」
有紗も、半ば諦めた様に自主的に立ち上がり、友子の後に着いていった。
その時、去り際に一瞬だけ天吾と目が合う。
悲しみの色が今にも滲んで溢れ出そうな程黒く深いその瞳に、天吾の顔を冷や汗がつたう。
最低だ…俺は、自分を護る為とはいえ…咄嗟とはいえ…皆の色眼鏡にさらされていたとはいえ…最低の選択をしてしまった。
これで、この教室内で有紗を擁護する人物が現れる事はなくなり、有紗はこれまで以上に酷い仕打ちを受けるだろう。
俺のせいだ…俺が昨日した事も、そもそもが自分の後悔を拭いたかっただけの無意味な行為でしかなくて…むしろあれさえ無かったら、有紗は今日こんな事にはならなかった。
有紗を追い込んでんのって…もしかして俺?
自分の行いを考える度に、天吾の額からは止めどなく冷や汗が流れて出ていく。
英吉「…うえ!?なんだお前その汗!」
偶然通りかかった英吉が、天吾の異変に気付いた。
英吉「お、おい、大丈夫かよ!?お前、どっか具合悪いの?」
天吾「…ん…ら…ごけ…。」
英吉「…え?」
天吾「後悔すんなら、動けよ馬鹿野郎!!!!」
英吉「うわぁ!?」
天吾は、力強く机を叩くと、有紗の後を追って教室を飛び出した。
英吉「…なん…だ、あれ?」