教室に戻った天吾は、隣に座る有紗を見て、ふてくされた様子で席に座っている。
ちなみに、友子も海の邪魔立てに相当腹を立てたようで、ふてくされて勝手に家に帰ってしまったようだ。
当の有紗は、いつもならひどく落ち込んでいる頃なのに、今日は少しだけ明るく見えた。
けっ、なんだその清々しい顔…びしょ濡れなんだぞ?汚い水に沈められたんだぞ?どー考えても、今はその顔のはずがねえだろ!!
そんなに、あの男に助けられたのが嬉しかったのかよ!?
俺が助けた時は、そんな顔しなかったじゃねえか!
やっぱり、あいつだからか?あの神奈海が助けてくれたから、そんなに嬉しそうにしてんのか?
まあ、そうだよなぁ…あいつ、クラスの女子にも人気高いもんなぁ!
結局、誰が助けるかなのかよ…。
あんな奴、名前が神奈川より規模がデカイだけで、俺には大した男には見えないね!!
天吾はそういうが、実際海の人気は相当高い。
清潔感漂う外見に余裕を感じさせる身のこなし。
成績は常に学年トップ、高身長でスタイルも抜群、そして誰にでも優しい人格者。
ダメ押しでメガネスタイルがインテリな雰囲気を助長させている完璧な美男子だ。
…てか…なんかこれじゃ、俺が有紗の事好きみたいじゃねえか…って、まさか。
その、ふと湧いた“好きかも”という感情に、天吾は有紗を見つめ直す。
天吾「…」
…うん、無いわ。
やっぱ、俺は俺の為に有紗を助けたかっただけみたいだ。
けど、これで有紗にも海っつうこれ以上ない味方が出来た訳だし。
これで、本当に俺は有紗と関わる事は二度と無くなるんだろう。
天吾「…有紗。」
有紗「ふぇい?」
天吾「ふぇい?じゃねえよ…お前、なんか腐った水臭い…一体どこでなにしてたんだよ?ったく。」
有紗「…あ、ご、ごめんなシャックショーン!」
天吾「…きったねえな…さっさと着替えてきな。」
有紗「…ふぁい。」
その言葉を最後に、天吾は有紗から目を外した。
翌日からは、二人は本当になんの関わり合いも無い間柄になった。
天吾は英吉達と惰性の友情を育み、有紗は海と二人で図書室に居る事が多くなっていた。
海「有紗さん、この本読んでみて、面白いよ!」
有紗「あ、ありがとう。」
海は、差し出された本を食い入るように読み出す有紗の横顔を見て、ふと呟く。
海「でも、君が読書好きで本当に良かった…。」
有紗「はい、私読書大好きです…て、こんな見た目で読書好きじゃなかったら、逆に変ですよね。」
海「ハハハ、それは偏見だよ。」
有紗「…神奈さんは、なんで私を護ってくれるんですか?」
海「なんでだと思う?」
有紗「…正義感が、ものすごく強いから?」
海「それも偏見。」
有紗「…え?」
海「僕って、そんなに正義感が強く見えるかな?」
有紗「はい、そりゃもう!そうじゃなき、自分の時間を割いてまで私なんかと一緒にはいませんから。」
海「また、卑屈な考えだなぁ…前に言ったじゃないか…僕は、僕の好きで君と一緒に居るんだよ。」
有紗「…?」
海「それに、僕は君が思ってる様な人間じゃないよ…誰かが目の前で困ってても、君のようには助けられないし強欲で弱い人間だ。」
有紗「…神奈さん。」
海「言ってる意味分かるよね?僕は、君が困ってるから…君だから助けるんだ…正直、他人の事なんかどうでもいい。」
有紗「…やめてください…。」
その言葉に、有紗は持っていた本で顔を隠す。
有紗「…これで、二人目です。」
海「え?」
有紗「私を護ってくれたの。」
海「…へぇ。」
有紗「神奈さんみたいに、かっこよくはなかったけど…でも、もの凄く嬉しかったんです。」
海「…そう…でも、これからは僕が居るから安心して。」
そういってほほ笑む海
有紗「…はあ。」
その頃、天吾は…。
英吉「なあなあ、良いのかよ?」
天吾「何が?」
英吉「何がって、二宮有紗だよ!」
天吾「…何が?」
なんだ?なんでこいつ、このタイミングで有紗の事振ってきやがった?
英吉「もぉ~、しらばっくれても駄目なんだから!この前、二宮が友子に連れ去られた時、お前必死に探してただろ?」
それを聞いた天吾は、目の色を変えて英吉に飛びかかる。
天吾「おい、あんまいい加減な事言ってんなよ?」
英吉「あっそ?あくまで認めないと。」
天吾「当たり前だろ!そんな事してないんだから!!」
英吉「…分かった…お前がそこまで言うんなら、この話は終わりな。」
天吾「…あ、ああ。」
…な、なんなんだ、こいつ?