変's(two)    作:和三盆百馬

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第九話「人生は落とし穴だらけ」

昼休み―。

 

海「有紗ちゃん、行こ。」

 

有紗「…」

 

有紗はいつもこの瞬間、気まずそうにうつむいて教室を後にする。

 

海が自分の事を、好意を以て迎えに来ているこの状況が、あまりに不釣り合いだと分かっているからだ。

 

しかし、肝心の海はその辺り、鈍感というか盲目だった。

 

周りの目など一切視界に入っていないかと思うほど、この時だけは海の目には有紗しか映っていない様だった。

 

その光景を見て、天吾はいつも思う。

 

天吾「…物好きな奴。」

 

容姿だけでいえば、有紗なんかより海を盲目的に好いてる矢代の方が断然可愛いのに、なんであいつは有紗を選ぶ?

 

美形は食い飽きたってんで、今度はああいう地味めを狙いに行ってるのか?

 

ま、あれだな…これこそ正に、選べる奴の特権ってとこかな。

 

チッ…虫酸が走るぜ。

 

あまりに一方的な偏見である。

 

英吉「行かせちゃって、良いのかなぁ?」

 

すると突然、英吉が横から顔を出す。

 

天吾「うおぉ!?って、またお前?」

 

英吉「まあ、相手があの神奈海だから?尻込みしちゃうのは分かるよ…でもな、お前は二宮を思う熱いハートを、これ以上ごまかしきれんのか?」

 

その発言に深く長いため息が天吾の口から洩れる。

 

天吾「はあぁ…あのさ、もうマジでいい加減にしてくんねえかな…俺は、あり…二宮とは、別に友達でもなんでもねえから!」

 

英吉「うんうん、そうだよな…認めたくないよな…ただでさえ、あんなクソ地味な娘にお熱だなんて、万が一にもバレたくないもんな…だけど、人間人それぞれ…誰がどんな奴に恋しようが、俺は決して笑いはしない。」

 

天吾のこめかみに青筋が立つ。

 

英吉「ましてや、あの引く手あまたの神奈海が、あそこまで自分をさらけ出してあんなのに求愛してるんだぞ!そりゃあ、恥を忍んでいるだろう…プライドもボロボロだろう…それなのに、海の足下にも及ばないお前が、恥ずかしがって指をくわえてるだけで、万に一つでも勝てると思うか?二宮なんか、ちょっと優しくされたら一発で食われち…」

 

天吾「…英吉ぃ…。」

 

天吾が、英吉の肩に手を置いて話を中断させた。

 

天吾「…ぶっ殺ぉす!」

 

英吉「待てって、落ち着けってぇ~!!」

 

逃げる英吉を、天吾が追いかける。

 

英吉「ギャア~!!」

 

天吾は、英吉を捕まえると押し倒して馬乗りになった。

 

その時偶然、近くにいた友子と矢代の会話が聞こえてくる。

 

友子「行っちゃったわよ、愛しの海君。」

 

矢代「大丈夫、もう手は打ってあるから。」

 

…なんの話だ?

 

友子「へえ、手際良いじゃん。」

 

矢代「海君を取られて、イラついてるのが私だけだと思った?」

 

海?イラつい…。

 

矢代「あなたにも手伝ってもらいたいんだけど、頼める?」

 

友子「勿論。」

 

そうして、二人は教室を後にする。

 

マ…ジか!あの二人が結託した!?ヤバイだろこれ、どう考えても!!

 

どうする…また俺は有紗に関わろうとしてるのか?海に任せとけばそれでいいんじゃ…。

 

英吉「おーい、どしたんだぁ?固まっちゃったりして…。」

 

英吉の天吾を見る目が嫌らしい笑みを浮かべている。

 

ハッ!そうだった…俺は今、英吉に跨がってたんだ。

 

こいつも、さっきの友子達のやりとりをきっと聞いていたに違いない。

 

その後で、俺が教室を飛び出そうものなら、こいつはまたつけあがってなにしでかすか分からない。

 

今度こそ、あること無いこと良いように話をでっち上げて、面白おかしく学校中に噂を広めるに決まってる。

 

どうする俺?

 

英吉が、にへらと笑う。

 

どうする俺ぇ~!?

 

その頃有紗達は、昼食をとるため中庭のベンチへ向かう途中だった。

 

海「いつも、お弁当お母さんが作ってくれるの?」

 

有紗「いえ、いつも私が自分で作ってます。」

 

海「へえ、偉い!そういうのすごいと思う!」

 

有紗「そ、そうですか?」

 

海「うん、いっつも思ってたけど、有紗ちゃんのお弁当って全部手作りだよね?」

 

有紗「そ、そんな事ないですよ。」

 

海「で、今日のおかずは?」

 

有紗「えっと、確か卵焼きとミートボールと野菜炒めと…えと…」

 

「海くーん!」

 

有紗が、指を折りながらおかずを思い出していると、そこに慌てた様子で海を呼ぶ女子生徒が現れる。

 

海「どうした?」

 

「ちょっと困った事があってぇ、少しでいいから手伝って欲しいんだけど…。」

 

海「悪いけど、見ての通り僕は今取り込み中だ…他の人に頼むか、別の時にまた来てもらえないかな。」

 

「ち、ちょっとぉ!今大変なの、今手伝ってよぉ!!」

 

海「…それなら、僕が他の人に頼んであげるよ…とにかく、僕は駄目なんだ。」

 

有紗「あの…行ってあげて下さい。」

 

海「!…でも…」

 

有紗「もし断ってる理由が私なら、私は大丈夫ですから…だから、行ってあげて下さい。」

 

海「…分かった、有紗ちゃんの頼みなら…すぐに終わらせて戻ってくるから、先にご飯食べて待っていて。」

 

そうして、海は女子生徒に連れられて有紗から離れていってしまった。

 

有紗「…」

 

矢代「やぁっと一人になった…二宮有紗ちゃん。」

 

有紗「…矢代…さん?」

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