俺の名前は、とりあえずジョン・スミス(仮)と名乗っておこう。
アイマスを卒業しラブライブと艦これに目覚めた俺は、高校受験に失敗し浪人中だった。
「ジョン(仮)、だらだら過ごさずにアルバイトでもしたらどうなの?」
「うっせえババア、殺すぞ!」
俺に意見して来たのは後妻として家に入り込んできた糞ビッチの義母だ。
見た目はまあまあ良いが、俺は母親と認めてねえ。
俺の親父は会社を経営しており、息子一人遊ばせておくだけの金はある。こいつはきっとうちの財産を狙っている。
だから俺は盗人から守る自宅警備をやってるんだ。
「出かけるの?」
「てめえに関係ねえだろ」
18歳の誕生日を迎え、新作のエロゲーを買って自家発電を頑張ろうと家を出た俺は日本橋に向かった。
ズボンの中でいきり立つ一物をポケットに突っ込んだ片手でさりげなく直しながら信号待ちをしていると、スモークフィルムを貼った日産シーマがウーハー効かせた音楽を爆音で流しながら現れた。
(Y33か)
交差点を曲がる瞬間、ドライバーのおっさんと茶髪に染めたババアが舌を絡めてキスをしている。
(きめぇ、余所見してんじゃねえよくそが)
と思っていたら、低車高のシーマはコーナリングに失敗して歩道に突っ込んできた。
「おいおい、ふざけんな!」
黒光りする16インチのアルミホイールが印象的だった。
(あ、ヤバい)
俺や他の通行人が次々と撥ね飛ばされるか引かれた。保険金、病院の通院、様々な事が脳裏を過った。俺のような将来大物に成る事が約束されたエリート人種が、底辺のDQNなおっさんの暴走で殺されるなんて社会の損失だ。
(ふざけやがって!)
取り付けが甘いのか、人体を跳ねた衝撃が強かったのか、エアロパーツが血に染まり吹き飛んでいた。
意外な事に、全身を襲う激痛がスーっと消えていく。
(ああ、俺は死ぬんだ)
何故か理解できた。そう思った瞬間、意識は消えた。
☆
目を開くと不思議な空間に居た。
「何だこれ。夢オチか?」
すると俺の呟きに答える者が現れた。
「違うぞ」
「ふぁっ?」
ヒトラーみたいにチョビヒゲを生やしたおっさんが現れた。
「私は神重徳だ」
ふん、それが神様の本名か。顔は東洋系だし、何か日本人みたいだな。
日本はイザナギとイザナミって神様が生んだ神州って言う位だし、天皇陛下も高千穂の山に降りてきた神様の子孫だしそう言う物か。
「貴様には生き返る機会を与える。ただし別の世界だ」
俺みたいなエリート人種なら転生も当然だな。
ま、生き返られるんだったらどこでも良いか。
「神様、それでどんな世界なんですか?」
そして告げられた衝撃的な言葉。
「恋姫†無双の世界だ」
恋姫†無双と言うと三國志演義ベースのエロゲーだ。18歳の俺が何で知ってるかって?
マブラヴと同じで一般向けの作品をやったし、アニメ化もされたからな。
「貴様には特別に能力を授けてやろう」
生粋の日本人である俺が中国に転生ってのは気にくわないが、特典付の神様転生は最高じゃないか。異世界で現代兵器や知識で無双、ナデポ、ニコポのハーレムとか最高だよな
「ハーレムで最強の武。これでお願いします!」
「英雄色を好む、か」
欲望全開だが神様は二つ返事でOKしてくれた。さすが神様は気前も良いな。
「貴様の希望は全て叶えてやろう。転生先は行ってからの楽しみだ」
「わかりました。ありがとうごさいます」
「では行ってこい」
別れの言葉を神様が告げると、俺の足下に穴が現れた。ベタベタですね。
この世界は、わりと何でもありなのだ──そう思った俺はその穴に吸い込まれて行った。
☆
俺、
うちの母さん、若い! 父親は誰なんだよ。蒸発したのか?
まあ、母さんが幾ら若いと言ってもリアルな母親に欲情するほど俺は鬼畜ではない。
母とか姉妹に欲情する変態はマジで死ねば良いと思う。
俺としての意識が目覚めた時、生理年齢は8歳。身長は120cmぐらいか。
顔は母さん譲りの美形で銀髪に紫のかかった瞳。マジで変な色してんな。
うちの母さんは、息子を男の娘に女装させて悦に入るキチ親とは違う。
(授乳の頃に自我が無かったのは良かったのか残念なのか)
この恋姫世界を生き残る為に早速修行を開始し、とりあえず体力をつけようとランニングと腕立て伏せを始めた。
現代日本なら小学三年生、成長途中は無理な筋トレをやったらマイナス効果らしいので程ほどにする。別に不動明王に近付く為に峰入りや十界修行をする積もりはない。
母さんの修行を見学していて気を感じ取れる様になった。
早速、物にしてやると意気込んだが全くわからん。
俺にはまだ出来ないらしい。畜生め!
「
毎日、少しずつ前進していたある日、母さんの友人の
(老いが怖いとかこの人達には関係無いのか)
不老不死の妙薬は、日常に転がっているのかもしれないと思った。
「
それに対して二人も返事を返す。
「凪ちゃん、欲しい服があるけどお金が足りないの貸して欲しいの」
「凪、うちも作りたい物があるんやけど金が足りへんねん。ちょっと貸してや」
いや、返事じゃねえな。金の無心じゃねえか。その神経がマジで分からん。
「まったくお前達と来たら相変わらずだな。無駄遣いを止めろとあれほど言っただろう」
だけど母さんは友人に会って嬉しそうな表情を浮かべている。それは良いけど、金を貸すなよ。
母さんと挨拶を交わすと李典さんが俺の方に顔を向ける。
「話は凪から聞いていとるよ。その年で頑張ってるそうやな」
硝石と硫黄と木炭で黒色火薬を作れるって『ロイヤルセブンティーン』で読んだ知識を伝えると、李典さんは喜んで花火か爆弾かよく分からない物を作り始めた。
于禁さんにはアンチエイジングをあれこれ伝えた。
「頑張ってる男の子は格好良いの!」
代わりにお二人にも鍛えて貰った3年目、母さんの激辛料理好きは治せなかった。
そんなこんなで俺もようやく気が使える様になった。
(ふっふっふっ、これで天下無双への第一歩だぜ)
そう思ったけど、これはきつい。気の使い方に慣れてなく気絶しかけた。
更に1年、自主トレと言う修行を続け、世紀の気功師ミッツ・太田の様に気を使いこなせる様になった。
気が使える様になると、他人の気も見える様になった。
一般の民や兵士に気を使える者は少ないが、著名な英傑ほど体に気を巡らせていた。
(こ、これは……若さを保つ秘訣はこれか!)
母さんや他の英傑が身に纏う気はアンチエイジングの効果が認められる。なんと言うチートだ。真実が漏れれば世の女性を敵に回すな。
「母さん、俺も12歳になったし外を見て回りたい。旅に出かけたいんだ」
イケメン顔で決めたが、母さんは頬を染めたりはしない。そりゃまあ親子だからな。
「
そう言うと母さんは俺に真名を与えてくれた。一種の元服だな。
「う、
鳥龍。
うちの母さん、センスねえな。何かサントリーのお茶みたいな名前だ。
☆
「
「ええ、まぁ」
俺の肩に腕を回して顔を近付けて来た女性は
何で俺が絡まれているのかと言うと、司隷がある西に向かい陳留の近くまで旅して来た俺は、川で水を浴びていた夏侯惇さんが無頼の輩に絡まれている所を助けたからだ。
水浴びは当然、裸だ。見た目、綺麗な夏侯惇さんを乱暴しようとしていたアホ連中は、ただ魅力的な身体を楽しむべく凌辱したかっただけだ。
見かけた以上、俺の前でそんな展開は許さない。俺の気弾と体術で屑どもを倒した。
「お前を
一般論から言っても厚遇過ぎる。
「俺はまだ12歳ですよ?」
夏侯惇さんがご馳走してくれると言うので付いていったが、お屋敷で勧誘を受けていた。
「姉者、
そう言って料理の追加を持ってきたのは夏侯惇さんの妹、
「華琳様の武官で気後れするなら私の部下に成るか?」
マジでこの人、人の話を聞いてないよ。どうしよう。
「どうだ?」
むにむにとした暖かい物を頬に感じる。
いつの間にか夏侯惇さんの豊かな胸に顔を埋められていた。劣情より何だか安心感がある。
あたたかく優しい気持ちを感じる。決して邪な気持ちではないぞ。
「……やります」
ああ、何だか流された気もするが、悪い人ではないし良いか。
「よし、私の真名は
「宜しくお願いします、春蘭様。私の真名は烏龍です」
こんなまだ子供な俺を選んでくれた春蘭様。真名も許された。俺も真名を返した。
「姉者が真名を許すなら、私も預けよう。私は
こうして俺は就職先と良い上司を手にいれた。
☆
光陰の矢の如しと言うが、春蘭様に仕えて2年、俺は14歳になった。ここは若手の多い明るい職場だ。
この2年間、春蘭様の代わりに事務仕事をやったり、合間に稽古をつけてもらったり充実した日々を過ごしてきた。神様が与えてくれたチートで俺の武は伸びる伸びる。
国民皆兵な社会なので、病人、手に職がある、富裕層、学者を除けば若くして戦場に出る事も珍しくはない。
現に俺も春蘭様のお陰で、何度か死にかけて体が強靭になった。
(神様、ありがとうございます!)
チートな武の素質が無ければ、死んでいたかもしれない事が何度かあった。
例えば、春蘭様に仕えた次の日から俺は賊の討伐任務に従軍させられた。実力は初対面で春蘭様を助けた時に見せたからな。新兵がやるような任務はせずに、重要な任務ばっかりだった。
そして今日はなんと人拐いの任務だ。
今の世の中は宦官がのさばり、地方領主は半独立状態だ。賢い者は、漢が衰退しこれから戦乱の世の中がやって来るだろうと予測していた。それは何十年も続く物になる。
ほっといたら自分達も死ぬ。
英雄の卵、曹操様は戦災から免れる為に、治める町の地下に兵糧の米倉や武器庫、厩舎、書庫と言った施設を建設していた。その労働力は奴隷や罪人だ。
(地下の秘密基地って感じか? スケールでかいな)
人狩りの方法は長い歴史の中で、記録を録り研究された。対象にすべきは異民族と流民だ。自国民では統治に支障が出る。犯罪者と不満分子に限るべきだ。
曹操様は先人の記録から、拐って来るのは賊や流民の住所不定で居なくなっても構わない連中と決めた。戦争策略──戦略、戦術的観点からの選択だ。
「春蘭様、行きましょう」
率いる兵や兵糧、軍馬等出発の手配を終えた俺は春蘭様に声をかけた。
「よし。出陣だ」
今回、俺達は袁術の領内に向かう。南陽郡一帯を勢力圏に治める袁術は、まだ子供で支配力の及んでいない場所も多い。
「袁術の飼い犬である孫家の連中が巡回してるかも知れませんから気をつけて行きましょう」
春蘭様は呼吸音で笑った。
「華琳様の剣である私だぞ。袁術の犬ごときに後れは取らんさ」
春蘭様はそう言うけど、孫家は武闘派集団と聞いている。油断はできない。
今回は夏候姉妹の使用済み下着を兵に売ったりして稼いだ小遣いで、事前に袁術に仕える官吏から領内の不穏分子に関する情報を入手していた。正に需要と供給が世界を動かしてるって感じだな。
賊と言っても袁術の統治に不満を持つだけだ。だが俺達には有効利用出来る。
「私は正面より突く。烏龍は側面より叩け」
春蘭様の配下で、小部隊の指揮官として俺は討伐任務20回、人狩り任務11回とそれなりの経験をしていた。
「了解」
春蘭様は兵1,000の内、600を率いて集落に正面攻撃をかける。家屋は分散しており障害物と言えば田畑を囲う柵ぐらいだ。
(賊が出る情勢で危機意識はぬるすぎだな。見張りぐらい置いておけよ)
俺は400を率いて挟撃の合図を待った。
住民の数は200程で、戦力になる成人男性は1/3程。人狩りでは極力殺さずに捕らえる事が使命だ。
そうこうしているうちに火矢を放ち攻撃が始まった。
「
副長が報告して来た。
俺みたいなガキの指図に大人がすんなりと従うかって? 神様チートによる武の才能は一般ピープルを凌いで当然だ。皆を実力で黙らせたさ。
「行くぞ!」
変化に対応でき無い不満分子は堕落しているのと変わり無い。
俺好みの美少女を発見したが、今は仕事中なので劣情は抑える。俺達は賊では無いからな。
部下の兵に美少女を拐かさせ、俺は春蘭様が戦う中心部に向かった。
歩兵は脚力が求められる。俺には気による身体能力強化も備わっていた。
俺が中心部に着いた時、粗方の敵を排除して捕虜の移送に入っていた。
さすがは春蘭様、仕事も手早い。
「春蘭様」
声をかけると怪我をして無いか心配された。
「大丈夫ですよ」
とか言ってるとぐにゃりと何かを踏んだ。
(あ、赤ん坊踏んだ)
足下の死体を避け損ない足が汚れてしまった。
「貴様、よくも妻と子供を!」
父親だろうか、捕虜の男が叫んでいた。
「うるさい黙れ」
春蘭様が殺気を向けてくる生意気な男を蹴り倒した。ざまあ。
「貴様ら絶対殺す!」
「じゃ、殺られる前に殺らないと」
俺は剣で男の首を跳ねてやった。
「泣いても誰も助けてくれない。黙ってろと言われたろ」
悲鳴をあげる捕虜を何人か見せしめとして斬り捨て、黙らせた。
「でかしたぞ烏龍」
良い剣裁きだと春蘭様に誉められた。やったね!
帰る前の後片付けで、死体は適当に残っている家に集めて火を着けた。
「任務完了ですね。引き揚げましょう」
「そうだな。早く帰るぞ」
陳留に帰ると仕事が待っている。春蘭様の報告書は俺が書く事に成っていた。
仕方無いよね。
☆
労働力の確保から数日後、春蘭様に話があると言われた。あらたまって何だろう?
「お前を将軍選抜試験に推薦したからな」
「へ?」
将軍選抜試験とは曹操様の武官から文字通り選抜する試験で、合格後は将軍候補生として半年間の教育訓練を受けて、修了後に将軍として任官する。
「あの、まだ私は14歳ですが」
将軍とは武官の筆頭で数千、数万の兵を率いる役職だ。未成年のガキが座って良い椅子ではない。
「華琳様の覇道を支える将軍になるんだ。光栄に思い見事合格してみせろ」
相変わらず話が一方通行な上司だ。参ったね。
次の日、試験会場には多くの武官が集まっていた。俺みたい若年層は少ない。殆どが叩き上げのおっさん連中だ。
「あ、烏龍」
俺の真名を呼んだのは親衛隊に最近、採用された許仲康殿だ。春蘭様に可愛がられており面識があった。年も近いが俺と違い将軍に抜擢された逸材だ。
「仲康殿」
「むぅ」
真名を呼ばなくて仲康殿は不機嫌に成ったが、彼女は親衛隊で俺は陪臣、舎弟と子分の組の構成員位の差がある。許されているからと真名を呼んだら春蘭様にぼこられる。だから季衣と呼んでと言われてもスルーしていた。
「仲康殿がどうして此方に?」
仲康殿は勇敢で忠誠、規律を乱さない。将軍として模範的な人物だ。
「ボクも試験官だよ」
武術の腕前を量る相手らしい。俺はなるほどと納得し、挨拶を済ますと自分の番号が書かれた席に座った。
「諸君が将軍を目指すならこれだけは覚えていろ。兵士は駒だ。決して同情をするな」
試験官からカツを入れられた。昇進の試験は年に1回しか行われないから、落ちれば次は来年になってしまう。皆必死だ。
美少女キラーの曹操様は男を取り立てる事がほぼない。見た目が可愛いか美しい女性で無いと出世の道は遠ざかる。この時代、この世界は女尊男卑な風潮だから仕方が無いとも言える。
現に俺の席の隣に座るのは小柄な少女で、曹操様が好みそうな容姿をしていた。
「私は
「
ああ、あの典韋か。
頭の前に着けたリボンがでかいな。それと、へそ丸出しの薄着で下はスパッツか?
なんちゅうけしからん格好をしてるんだ。今晩のオカズをゲットだぜ!
典韋は仲康殿と同郷で友人だそうだ。俺が同年代で、仲康殿を知っていると答えると一気に打ち解けた。あれやこれや仲康殿との出来事を色々と教えてくれた。
「
「は、はぁ……」
そんな事を言われてもな。
「あ、ごめんなさい。私ばかり喋って」
典韋は気圧される俺に気付いたのか謝罪をして来た。
「いえ、試験の緊張を解すには良かったですよ」
周りを見てみろ。おっさん連中、ガチガチだ。
俺に促されて周囲を見た典韋は苦笑を浮かべる。
「私の事は
笑顔を浮かべる典韋。何でいきなり真名を預けて来るんだ、この子は。
真名って神聖じゃなかったかとか、この子の将来は大丈夫かとか考えてしまった。
(まあ、いっか)
「では私の事は烏龍と」
そうこうして居る内に、それぞれの試験官と試合が始まった。
あ、仲康殿だ。
バッタバッタと受験者をなぎ倒し、ちっこい体にあの怪力。マジですげえな。
「次、典韋」
「はい!」
俺より番号の若い流琉の番になった。名前を呼ばれて出ていくと仲康殿と対峙する。
「流琉だからって容赦はしないよ」
相手は仲康殿だ。
「流琉、頑張れ!」
俺が声援を送ると仲康殿に睨まれた。
「何で流琉は真名で呼ばれているんだよ!」
仲康殿が投げつける鉄球を流琉はヨーヨーで弾き防いだ。
轟音を立てて試験場の土砂を噴き上げる鉄球。なんちゅう威力だ。
あれって当たったらヤバイんじゃないの。かすっただけでも死ぬ。運が良くても一生寝たきりだ。おっかねえ。
仲康殿は真名で呼ばれる流琉に嫉妬をしていた。そんな事を言われても流琉には伝わらない。
「え?」
ほらきょとんとした顔をしている。
別に贔屓じゃないし。それに俺は小便臭いガキに興味はない。
どちらかと言うと夏候姉妹の様に出る所は出て居る方が良い。
もうちょい大きくなったら娼婦を買うんだ。いや、その前に恋人が出来るかもな。
「はあっ!」
今度は仲康殿を流琉のヨーヨーがぶっ飛ばした。流琉も中々やるね。
「やったなあ!」
あ〜、なんか仲康殿が勝手に切れて喧嘩腰になっている。
あんなデコ助野郎はぶっとばしてやれ!
「何だ、あの者達の戦いは」
周りも試験のレベルではないと驚いていた。
スケールのでかい子供の喧嘩って感じで打撃音が凄まじい。
「双方、そこまで!」
どこで折り合いを付けるのかと思っていると、秋蘭様が止めに入った。
やっぱりやりすぎだな。春蘭様だとこんな物だと言うが、地面にボコボコ穴が開いたりするのは普通の試合ではないから。
仲康殿はしょんぼりしながら秋蘭様にどこかに連れて行かれた。説教でもされるのだろう。ざまあ。
「次、
「はい」
そして待っていたのは金髪を片方に寄せたクルクルヘアー。
「さあ、勝負っす!」
俺の相手は、風邪をひけば服を脱げば良いとか言い出すマジキチの曹仁様だった。
☆
楽勝でした。
「──以上、99名の者、一次試験合格となる」
受験者の大半は受かって当然。武人として推薦を受けた実力者ばかりだ。
仲康殿や流琉の技量が例外過ぎるだけだ。
試験官が俺達に次の指示を出す。
「私は荀文若、曹操様の軍師よ。これからあんた達の頭がどれぐらい使えるか試させて貰うわ」
二次試験と言われて全員が固まる。軍師や文官連中と違って武官は脳筋が多い。
将軍になるなら書類仕事もあるし最低限の教養が必要だった。
俺は元々エリート人種だ。神様のお陰で学問もどんどん吸収した。人間Wikipediaと呼んでくれて良いレベルだ。
と言っても、必要な時に必要な知識を引き出せるかと言うと別だけどな。
ICBMとか航空機、原爆の開発が出来ればこの世界なんて一発で滅ぼせるが、そんな技術と知識はさすがに無い。だから銃火器を普及させて無双は出来ない。
荀文若様の説明は続いた。
「安心して。あんたら武官に政は期待して無いわ。二次試験は演習場で部隊を動かす試験よ」
その言葉に、実戦や部隊で小部隊の指揮を執った経験者は緊張を弛めた。
「私、部隊の指揮なんてした事は無いのに」
流琉がぼやいていたので頭を撫でて慰める。
「何とかなるよ」
「そうかなあ」
演習場に指定された場所で、荀文若様の用意していたのは臨時徴兵された領民。そして対抗部隊は
戦で五分五分なんて滅多に無い。戦力差をどうにかしろと言う出題か?
今回は旗を取り合う形式で部隊を動かす能力が試される。負けても見込みがあれば合格だと言う事でひと安心だ。
「今年の新人はどうかしら」
うふふ、と楽しそうに笑う曹純様は曹仁様の妹御だそうだが、発育は妹の方が宜しい。
流琉が曹純様と自分の胸を見比べていた。ガキが何を色気付いて居るんだ。
俺達が指揮する臨時編成の部隊を見てたら、やっぱり権力者ってのは無茶が許されるんだなと実感した。一応、日当の手当ては貰ってるらしい。そりゃまあ、当然だな。
99人全員の試験は時間もかかりすぎる。そこで3人1組の33隊に別れ、午前、午後の入れ代わりで攻撃、防御を行うと言う事だった。あ、個人戦とは違うんだ。
俺と流琉は
「典韋です。よろしくお願いします」
「私は
俺達に比べて程普さんは出来る人と言う空気と余裕を見せていた。
「程普よ。頼りにしてるわよ」
指揮官は部下を過小評価も過大評価もしない。ただの駒だ。
先ずは攻撃のターンだが、どう進めるか相談をした。
「虎豹騎はその名の通り騎馬が主体ですが、随伴歩兵を伴っています」
俺は春蘭様の下で、虎豹騎と共同する事もあった。その経験から知ってる事を二人に伝えた。
「お姉さん、難しい事は嫌い」
長い髪を手櫛で手入れしながら程普さんはぼやく。
「駄目ですよ、ちゃんと相談しないと」
もしかしたら程普さんも春蘭様と同じ様な脳筋なのか?
流琉に注意されてる様子を見て不安になった。
駄目元で訊いてみたが、俺達の前の受験者がどんな試合をしてるか見学はさせて貰えなかった。
その間、ただ待って時間を潰すほど間抜けではない。
臨時編成の部隊は100名。兵役経験者を中心に組み直し、程普さん主導で基本教練と戦闘訓練を行った。
「右向け前へぇ、進め!」「足をぉ、替え!」「縦隊、右へぇ、進め!」矢継ぎ早に号令を出す程普さんを見学していた流琉が質問して来た。
「整列とか行進って必要なの?」
流琉の質問は当然だ。限られた時間で訓練を行うなら戦闘訓練に集中すべきだと思うかもしれない。
「指示に従う。それは軍の基礎だからな」
「そうなんだ」
基本教練ってやつは軍に入った新兵が最初に叩き込まれる物だ。素人ならなおさら基礎は大切だね。
程普さんが休憩を命じて戻ってきた。
「烏龍から見てどうかな、いけそう?」
俺が実戦経験者と言う事で程普さんは訊いて来た。
「まぁ、何とか成ると思いますよ」
俺より程普さんの方が経験してそうだけど、その辺りの話題を振るとはぐらかされた。
名誉と礼節を弁えた紳士な俺は、女性の触れてはいけない過去を問い質す事はしなかった。
☆
ボワワーンと銅鑼の音が鳴って試験開始を知らせる。
衝撃力の大きい騎馬の攻撃に対して俺達は、方陣を組み程普さんを先頭に前進した。例え重装騎兵であっても槍襖の方陣に突っ込めば被害も大きい。
「来たぞ!」
砂埃を巻き上げて虎豹騎は向かってくる。さすがは精鋭、動きも早い。
「射撃用意!」
俺の号令で弓兵が矢をつがえる。
「狙え、放て!」
突撃を破砕すべく矢の雨が放たれた。50人未満の弓兵だが矢継ぎ早に放たれる矢弾は敵の足並みを崩す効果があった。
敵の中でも曹純様の美容は目を引き寄せる。曹家の血筋が持つ金髪は輝いて見えた。
口元は楽しげに笑みが浮かんでいる。
(鎧袖一触の積もりだろうが、そう上手くは行くか)
急速に接近する両軍。槍襖が騎馬の衝撃を受け止めた。
流琉に目配せをすると頷いた。
「じゃあ、行ってきます!」
流琉と程普さんが敵に斬り込んで行く。狙うは旗手だ。普通の兵士には無理だが、二人の武なら何とか出来る。
本来、武将をこう言う使い方は許されないが、肉を切らせて骨を断つと言う苦肉の策だった。
☆
試験が終わり並んで座り込む俺達は埃まみれだ。
「はぁ」
盛大な溜め息を吐く程普さん。
「行けると思ったんだけどな~」
流琉と程普さんは敵の旗に迫ったけど、虎豹騎は粘った。
更には新手の部隊が投入され俺達は包囲殲滅の判定を受けた。これが実戦ならなぶり殺しで最高のショーだが、試験なんで死体の山は出来ない。
「あそこまで兵力に差があったら仕方無いですよ」
程普さんを慰めては居るけど負けたのは俺も悔しい。俺達は試験を受けに来たので、命がけの戦をしに来た訳ではないと納得させる。
「それに、合格はしたのですから良しとしましょう!」
人の出世は人脈で概ね決まる。次が才能だ。
コネはあった。試験で腕前も見せた。
あとは、誰でも利用してのしあがる根性だが、虎豹騎を相手にしては頑張ったと思う。
この世界に名を轟かす最初の一歩としては悪くない門出だと思う。
※曹仁、曹純、程普:恋姫†英雄譚より