楽綝伝   作:キューブケーキ

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蛇足ネクスト:対袁紹戦

『ヴヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』

 虎が吠えている。荀彧は虎の唸り声に驚き目を覚ました。

 寝汗を拭い見渡すそこは見慣れた自室の寝台で、虎がここに居るはずがない。だけど唸り声が聴こえた。

「ナアアアアアアアア」

 いつもの安眠妨害で、呂布の()()である動物達だ。

 連合軍が解散し、陳留に曹操軍は戻って来た。

 馬匹を管理する厩舎の傍らで呂布達は暮らしている。呂布は降将であるから簡単に自由にはさせられない。その為、目の届く範囲に置かれていた。

「呂布は好きにさせなさない」

 敬愛する主君はその様に言っていた。

 だが物には限度がある。

「ふざけんじゃないわよ! 毎日毎日、此方の身にも成りなさいよ────」

 もっと罵り声をあげそうに成るが自分は()()とは違う。それに自分の感情をぶつける事は主君の意に反する事だ。

 幾ら離れていても、あれらの数が多い。糞尿の生活臭はまだ耐えられる。戦場では水浴びを何日も出来ない経験をした。だがあれはいけない。

 盛って、喧嘩して、吠えて、泣いて、毎晩、鳴き声に悩まされる。

 何故、他の者は寝れるのかが理解出来ない。

 呂布を手札に加えられた事は行幸だろう。世界は刺激的で、未来は希望に溢れている。だけど現実はいつも予測を上回る。

 今日も寝不足なまま朝がやって来る。

 洗顔、着替え、食事を済ませると、司馬として与えられた仕事部屋で眠気を堪えて仕事に取りかかる。

 董卓は長安に都を移し、馬騰と同盟を結んだ。韓遂も傘下に加わり、北に勢力を確立した。長安はかつての秦の都、咸陽の跡に作られた。漢が再び中華を統一するには相応しい場所と思えた。

 ただ今年は雨が少なく、穀物の収穫量が危しいとの事だ。

(董卓は慈悲深いと聞く。飢饉になれば倉の米や大豆を民に放出する。その時こそ、董卓を討ち華琳様が天下に覇を唱える時……)

 司馬として裁軍及び整軍の仕事もある。軍事費の節約は当然だが、来るべき次の戦に備えねばならない。

 割りと本気で眠い。そう言う時に限って厄介事はやって来る。

「お早うございます、桂花ちゃん。ちょっと良いですか」

 長い金髪をふわりと揺らせて少女が顔を覗かせた。

「珍しい組み合わせね」

 程昱が趙統を伴ってやって入室して来た。

「趙統君」

(はい)

 程昱に促されて趙統は報告書を荀彧に提出する。

「何よ?」

 そう言いながら表紙をぺらりと捲った。

 幽州の政権を握る劉備一党が行っていた袁術に対する反乱を孫家が積極的に行った援助、その結末を綴った物で、読む内にだんだん荀彧の表情が真剣さを増していく。敵地に於ける後方攪乱としては適格な行動で成果をあげている。特に誘拐と脅迫は効果的だった。

 問題は最後に書かれた人物の処遇に関してだった。

 もしかすると、目の前の子供は自分を過労死させようとしてるのだろうか。そう思うのも無理は無かった。

 荀彧は読んでいた報告書を閉じると溜め息を吐いた。目の前の少年、趙統は程昱とお茶を飲みながら談笑していた。

「貴方ねぇ……袁術を保護していたのをどうして黙っていたのよ」

 趙統は平然と答える。

「曹操様にお仕えする前なので忘れていました」

 一瞬、罵声を浴びせかけたが同僚の目もあるので耐える。

 荀彧は筆頭軍師で相手が切れ者の武官とは言え、まだ子供だ。

 矯正し改善する事は大人の務め。馬鹿なら導いてやれば良い。

 整理軍計画の中に教導隊の建議があった。これを趙統に丸投げすれば本人の教育にも役立つ。

 ────桂花、良くやったわ。褒美に可愛がってあげるわ。

 そんな声が脳裏に浮かんだ。リアルな声が再現され、閨での睦事が想像出来た。

「荀文若様?」

 黙りこんだ荀彧に疑問を感じたのか、趙統は首を傾げた。しかし荀彧の表情を見てびくっと震えた。

「えへへ、華琳様」

 だらしない顔で妄想の世界に旅立っていた。

 

 ☆

 

 なんとなく過ごすだけで終わる日常で、幽州での事を忘れそうに成るが、これではいかんと俺は動いた。

 司馬である荀文若様の御部屋を訪れたのだ。

 司馬と言えば軍事を司る。かつて楚の司馬であった周殷(しゅういん)が項羽を裏切った時、楚軍は打撃を受けた。しかし荀文若様は最後の一人に成っても曹操様を裏切らないだろう。

 だからこそ俺の報告書を有効利用してくれると考えた。

「うーわ」

 体をくねらす荀文若様は何だかイってる薬中みたいだった。

 だけど司馬に任じられているので仕事はきっちりと出来る人のはずだ。生きてるなら神様でも利用して勝利を掴む。それが軍師だ。

「気持ち悪い桂花ちゃんは放って置いて行きましょう」

 くいっと裾を引っ張られた。

「えーっと、はい、そうですね」

 報告は済ましたし、袁術の対応は賢い軍師様に委ねるとしよう。

 軽く雑談をしながら廊下を歩いた。

「肉を食べない菜食主義者は戦に弱い。肉を食べる事は健康だけではなく美容にも良いんですよ」

「ふぅん、そうなんですか? ……っと、御仕事頑張って下さい。それじゃ、続きはまた今度」

「はい」

 お互い別れ様とした時だった。建物がぐらぐらと揺れ始めた。

 悲鳴が辺りから聞こえた。

「おおう、地震ですね」

 程仲徳様は平然としていた。肝の据わった御方だ。

「趙統君は驚いてない様ですが」

「いえ、びっくりしました」

「怖かったら風に抱き着いても良かったんですよ?」

 お姉さんぶる程仲徳様のライムグリーンな瞳に悪戯っぽい色が浮かんでいた。

 だから俺も笑みを浮かべて返した。

「あはは、それなら閨の方が良いですね」

 俺も冗談で返してやったが、程仲徳様は中々、風流を理解する御方だ。

「おやおや、春蘭様だけではなく風も手込めにする積もりですか。末恐ろしいですね」

 艶っぽい流し目をした後、笑い声をあげて、お互いにこいつは出来るなと認め合った。

「風は風で良いですよ」

 これから友誼を深めましょうねと微笑まれた。

「はい風様、烏龍とお呼び下さい」

 真名交換は信頼の証だ。男女なら恋愛関係に発展してもおかしくないが、決まった人は既に居る。

 身分差を越えて友が出来た。俺の望む未来に、少しは友情があっても良いだろう。

 なお後日、風様と真名を呼びあっている所を春蘭様に見つかり一悶着あった。定番なイベント過ぎて危機回避出来ずに見落としていた。

 

 ☆

 

 最低の農民に武器を与えてそれなりに戦える様にする。普通の士卒を鍛えてそれなりに戦える様にする。基準を作り広めるのが教導の仕事だ。

 俺が教導隊を任された頃、漢は長安の朝廷の権威を認めない諸侯によって戦国乱世に逆行した。

 荊州の劉表は、袁紹と手を組み背後の安全を確保すると揚州の劉虞(りゅうぐ)を攻めた。

(俺の記憶では劉繇(りゅうよう)が牧だったと思うんだが)

 一方で袁紹は北の幽州を求めていた。曹操様の御父上である前太尉曹嵩を人質にして、庇護下にある幽州に攻め込んで来た。

「秋蘭は遅滞行動を取りつつ応援を待っている。妥当な判断ね」

 向こうには秋蘭様や趙雲(かあさん)が居る。袁紹軍の攻撃など容易く喰い破るだろう。

「袁紹に仕える軍師、田豊は無能ではありません。此方の備えを怠っては居ないでしょう」

 事実、曹操軍主力の動きを牽制する為に()州の袁紹軍は南下、東郡に侵攻開始した。

 東郡の守りは春蘭様と風様の組み合わせで、頑強に抵抗していた。

 孫子の言う廟算(びょうさん)は野外幕僚勤務の任務分析として重要なポイントを占めている。言葉遊びに思えるが、やるべき目標とその目的を関連して考えておく事は、たとえ戦術行動であっても戦略上重要と言える。

 と言う事で、演習名目で行動していた俺の教導隊は応援として東郡に送り込まれた。

「春蘭様、風様」

「烏龍君、良く来てくれましたね。今は一人でも味方が多いと助かります。早速ですが状況説明をしましょう。と言っても、敵は打撃力に欠けています。迂回、突破さえさせなければこの戦で負ける事はありません」

 現地部隊は持久戦を基本として、主抵抗線である(けん)城、(はん)東阿(とうあ)で遊撃と夜襲を行いながら防御に努めた。

 10万人。袁紹軍侵攻部隊の数だ。錬度は曹操軍や幽州兵に劣るが、軽視出来る数では無い。敵は数が多い分、渡河に手こずっていた。

「これで一部って言うんだから袁家の財力は底無しか」

 俺の率いる教導旅は3350人。焼け石に水っぽい。でも俺も仲間も諦めていない。

 東郡を守る曹操軍は1個師3.5万人、その内の1個旅6300人が(けん)城外周で穴を堀り続けていた。堀に当たる城濠の増築だ。

「ですから烏龍君には暴れて貰いますよ」

「お任せ下さい」

 俺の率いる教導隊は予備隊として各所の火消しに投入された。

 愛する家族や友、何かしらを守る為に皆は戦う。

 俺の場合は春蘭様と友である風様の為だろう。

「お前は後悔をしないのか」

 春蘭様はそう俺に訊ねて来た。

 夫婦なら家庭を守ってくれる伴侶を求める。一緒に暮らすのが嫌なら結婚などしない。

「後悔何てしませんよ。それ以上の幸せを頂きましたから」

 当然の様に風様に冷やかされた。

 納得させる理由があれば戦える。俺は風様に命じられ奇襲を繰り返した。

 俺達が仰ぐべき天はただ1つ、曹操様の天下だ。漢はその為の踏み台で、その途上で発生する犠牲者は必要な礎だ。未来の為に俺達は邪魔者を排除し、血を流してでも戦う。

「実戦に優る訓練は無い、か」

 俺は袁紹軍を対抗部隊に、友軍の教導を行う事にした。今居る環境と使える人的資源を有効利用する。説明を受けた春蘭様は好きにしろと言ってくれた。

 軍官校を設置し、小部隊の運用から指導を始めた。

 核兵器の存在しないこの時代、兵数がそのまま戦力と言えた。正統派の歩兵を揃えた袁紹軍の衝撃(Shock)力に対して、曹操軍は弩や弓で削りながら機動予備の騎兵による打撃(Strike)力で決着をつけるドクトリンを選んだ。

「まずは柔軟運動だ」

 200名の騎兵を率いて夜襲を実施した。現地での指揮はランダムに選んだ生徒に任せ、俺は助言に徹した。

「袁紹はいかに浅ましい人物か自ら証明した。曹操様は歴史を作る。太平の世を築く為に犠牲は付き物だ。それで死んでも、夢は引き継がれ生き続ける。故にお前達は不滅である。これこそ誉れだ。命を惜しまず戦え!」

 適当に発破をかけてやった。途中で死ぬならそれまでの連中だ。

 そして相手も考える頭がある。たまには袁紹軍の逆襲を受ける事もあった。

 敵の騎兵が追い縋って来る。

「将軍、敵の追撃です! 振り切れません」

 ちまちま削るのは面倒だ。

「黙ってろ。泣き言は聞きたくない。戦を楽しませろ」

 血溜まりの中に味方の兵が倒れて行く。部下と共通の記憶を形成する暇も無かった。泥の棺桶であっても神の恵みだ。

 袁紹軍の中から女性武官が現れた。いい匂いがした。香か化粧品だろう。それを口にすると、後で春蘭様の耳に入ってややこしい事に成るから触れない。

「水色の髪をしたガキが居ると聞いていたがお前が趙統だな。姫と斗詩に誉めて貰えるな。お前の首、あたいが貰って行くぞ」

「首を取るだァ? やってみろ! お前の髪だって似たような色だろ。可愛い顔してるのに見た目で差別するんじゃねえよ」

 趙雲(かあさん)譲りの髪を馬鹿にした敵将は文醜だ。

「か、可愛いって、あたいには斗詩が居るから駄目だからな。子供に言われても嬉しくなんて」

 こらこら、俺をチラチラ見るんじゃねえよ。どんだけ混乱してるんだよ。

「うるせえ、てめえ処女か。そんな言葉に一々、反応してんじゃねえ」

 するとマジ切れしたらしい。でも俺は怯まない。

「死ね」

 唇を歪めて重い一撃を放って来たが、呂布に比べたら殺気もカスみたいな物だ。

 剣で攻撃を受け止めると俺は氣を込めて蹴りを入れてやった。

「あがあ!」

 何その叫び声。初めて聞いたわ。

 文醜は落馬して兵の波に埋もれた。猪突猛進は理性で抑えられないだろう。ならば敗北を脳で理解しろ。

 ゲホゲホと咳き込みながら兵に支えられている。内蔵にダメージを受けただろうが、俺は痛くない。関係無いね。

「ククク、命拾いしたな。ばいちー☆」

 タマを取って来いと言われてないので追撃は仕掛けない。俺は兵を纏めると離脱した。

 清んだ空気を感じる。颯爽と駆け抜ける俺は、我ながら格好良いと思う。場数が違うから当然の結果だ。

 

 ☆

 

 曹操様は家臣による自主的な活動を好まれる。穴だらけでも結果が出せるなら最適の選択だろう。

「孫子に『故知兵者、動而不迷、舉而不窮(兵を知る者は、動きて迷わず、挙げて窮せず)』とあります。もしも能力があるなら袁紹の下に我々は着いていました。そうでないのは袁紹が財力と勢いだけで勢力を拡げているからです。先はありませんね。ですから手段は選ばず勝てば良いのです」

 戦場に転機が訪れるのを待つのではなく、自ら行動する者こそ戦勢を獲得出来る。

 俺は林檎をもぎ取って見せてやった。

「成る程ですね。要するに汚名を被るのは家臣である風達と言う事ですか」

 防御戦闘は積極的な逆襲も含める。待ってるだけが戦闘では無い。

 前線部隊による独断の判断で袁紹軍に休戦を申し込んだ。この決定には俺の進言があった。

「突発性ではなく大局的な俯瞰による状況判断。本当に停戦する訳ではない。袁紹軍は運が悪いだけ。相手が我々だった事です。それに約束なんて、バレなければ破った事にはならないんですよ」

 未来には期待と希望がある。死体を積み重ねた当然の結果だ。俺の言葉に風様は笑い声をあげた。

「はっははは、あっはははは。春蘭様、貴女はとんでもない人を夫に選びましたね」

 涙を拭う風様に春蘭様はニヤリと笑みを返された。

「当然だ。私の伴侶だぞ。こいつは伊達では無い」

 理解者が居ると言うのは嬉しい事だ。同じ場所で笑える事は幸せだ。

 家も仕事も家族も与えて貰った。恩を忘れない。

 そんな訳で停戦の約定を俺達は無かった事にする。皆殺しにすれば証人も証拠も残らないしな。

 時は来た。太平を築く正義の為、俺達は動き出す。

「地面に落ちた鳥は死ぬだけだ。今こそ殺してやる。弓兵、放て! さぁ征くぞ」

 パンドラの箱を開けるのは簡単だ。

 曹操軍は修羅と成り引き揚げる袁紹軍を後方から襲った。頭のネジが外れた訳ではない。こいつらは敵だ。なら殺せる時に殺して置くべきだからな。奈落の底に落としてやる。

「どうして攻撃して来るんだ! 正気か!?」

 敵の悲鳴が聴こえる。完璧にSAN値は下がっただろう。直ぐに屍の仲間入りをして踏み砕かれそこらの肉片に変わる。亡骸何て残らない。血で泥濘化した戦場で埋もれて行く。

 実戦経験の少ない者には嘔吐感をもよおす光景だろう。

「こんな、地獄を見るのは初めてです」

 部下から気落ちした言葉を聞かされたが、俺にとってこの惨状は見慣れた物だ。だから素っ気なく答えた。

「俺は何度も見た。まだ序の口だ」

 この程度の殺しでモチベーション下げてる豆腐メンタルで戦争は出来ない。

 何度繰り返しても、敵を殺す事に後悔を微塵も感じないな。太祖劉邦やアメリカの第7代大統領と同じ事をしただけだ。こぼれ落ちる命は塵以下だ。だから気にせずスルーだ。

「見つけたぞ」

 文醜と刃を再び交わした。氣を纏わずとも簡単にいなせた。

「うわああっ、強い! でもあたいは負けない!もっと姫や斗詩と生きて……」

「はい、どーん!」

 俺はそんな言葉を最後まで聞かず、氣を纏った拳で胸当て事ぶち抜いてやった。

 致命的と言う次元では無い。メリル・ストリープのコメディ映画みたいに綺麗な穴が開いている。文醜は不老不死ではないので勿論、死んだ。まぁ、天罰覿面(てきめん)って感じか。

「ああ、ああっ……死にたくない!」

 阿鼻叫喚、敵兵は命乞いをするが攻撃は止めない。

「逃がしはせんぞ」

 敵の隊列に氣弾を乱射した。正に血祭りだ。

 邪魔物は消せば良い。殺さなければ殺される。滅茶苦茶でも大義名分だ。必要な犠牲、生存の為の殺人ってやつだ。例外があってはならない。

「ひぃぃ、助けてくれぇぇ! どうして、どうして!?」

「抑止力ってのはな、使ってみないと効果が分からないだろう? って事で仕えた主が悪かった。運が無かったんだよ。諦めな」

 俺達、戦いを生業とする者は初めて人を殺した時、特別に成った。異常では無く特別だ。

 普通の民と違う。

 役者と同じで役割を演じるだけ。官吏として、将や士卒として殺人者に成り切る。殺人者に成るなりに責任はある。前向きに殺して行こう! 光に満ちた約束の日がやって来る日まで。それが大多数にとって良い事、幸福の実現なのだから。

 ここに()州侵攻を企図する敵を壊滅させ、決着はついた。

 迂回した友軍が退路を遮断している。残敵の掃討も時間の問題だ。きっと素晴らしい一日に成るだろう。

 

 ☆

 

 ──華麗な華も、いつかは手折られてしまう。

「いけませんわ、劉琦様」

 寝台を軋ませて袁紹の上に劉琦はのしかかっていた。指が臀部をまさぐっている。

「同志袁紹よ、身も心も私に捧げるのだ。これは総括なのだ。厭らしい事では無い。良いね」

 劉琦は袁紹を見た。彼には魔眼があった。

 袁紹の両足に二つ、背中に一つ、胸に二つ、首に一つ。────快楽を与える点が確かに見えた。

 首にくちづけをすると、袁紹は喘ぎ声を漏らした。

「劉琦様、私も相手してよ~」

 突如、桃色の髪をした少女が現れ劉琦の背中に抱き付いた。腹や大腿部の露出が激しい。それ以上に袁紹は目の前の女に見覚えがあった。

「ふふふ、天和(てんほう)よ。これは我々が達成する偉大な目標の前の、崇高な真理を刻む行いなのだよ」

「そんな……貴女は!」

 劉琦は頷いた。

「ふはは、彼女こそ黄巾党の祖、張角なのだよ。ま、今は快楽を共に楽しもうではないか」

 逆賊の登場に唖然とする袁紹を気にせず劉琦は行為を続け、脚の間に腰を叩きつけた。

「いけませんわ! ああっ、ふひぃ……!」

 人は快楽を信仰している。そこに幸福がある。疑問の余地は無かった。

「ぶははははは──」

「──将軍、伝令が参りました」

「おう」

 俺は読んでいた小説、『劉琦様は肉欲スキー』を閉じると報告を受ける。

 東郡の戦いは後退する袁紹軍を追撃し、黄河に追い落とし壊滅させた。河は血に染まった。そして死体に埋め尽くされた。吸血種なら喜んで河に飛び込むんじゃないだろうか?

 でも一般人である俺らとしては、病原菌の発生を考えたら少々、やり過ぎたかなと反省してる。

 そんな感じで白馬、延津まで前進した俺達は停止命令を受けた。

「このまま南皮まで攻めて行ける勢いだけどな」

 交代部隊が来ると補充と再編成を兼ねた休養が与えられた。だから俺はポケトマネーから奢ってやって宴会を楽しませてやった。

「これから天下の行く末を決める大事な戦が始まる。皆、体を休め力を合わせて袁紹を倒そう!」

 真実は主観に基づく物だ。なら記憶はどうか。

 記憶とは脳が電気信号で行う『新規』『上書き保存』『名前を付けて保存』の一連の動作を言う。

 陳宮いわく楽綝(前の俺)への想いが深い者は覚えているらしい。

 呂布は勝負の約束、陳宮は培われた上司としての信頼。

 納得が行った──だが、恨みはどうなんだと思う。

 劉備や関羽、北郷には恨まれている自信がある。それは魂に刻まれる深い物だろう。

(下手に記憶が蘇ると不味い)

 無用な接触は避けて、余計な記憶を起こさない。それには心を開かず近寄らない事だ。

 冀州侵攻に先立ち、休暇を貰った。幽州が攻められてるのに悠長なと思われるが、連戦は疲弊する。兵にも休養が必要だとの判断だ。

 休めるのも確りと人手が補充されるからだ。

 英雄に成りたい、名誉が欲しい。そんな風に承認願望の強い者は使いやすい。

 曹操様の版図を拡げる為に、将来、有望そうな人材を広く登用している。領内では各地に私塾を作り、子供を育て鍛え上げ初めていた。10年、20年後には忠実な家臣が出来る。

 休みが終われば、曹操様が袁紹と雌雄を決する戦いが始まる。新しい第一歩を踏み出すか、破局か。楽しめそうだ。

 

 ☆

 

 山道から外れた藪の中に悲鳴が聴こえる。

「止めてください!」

 少女の一撃が男を弾き飛ばした。

「痛ぇじゃないか。殺されたいのか?」

 食材の調達に来ていた少女──典韋と許褚は武装した男達に囲まれていた。陳留目指して南下していた袁紹軍の支隊だ。

 奪い尽くし、殺し尽くせ。カエル、カメ、スッポン、ネッシーだろうと何でも食べれる物は奪う。田豊の指示で浸透突発した支隊は後方攪乱を行っていた。

 その過程での村落襲撃、そして女子供を凌辱し、財と命を奪う。曹操は後方警備に兵を割かねばならず効果的だ。

「うぐっ!」

 呻き声に周囲の者が視線を向けた。

 頭を砕かれた兵を子供が引き摺っていた。少女達と年齢層も変わらない少年だ。

「うわああああ、何だこのガキ!?」

 構わず殺せ、と言う声があがった。

 少年──趙統は溜め息混じりに呟いた。

「うーん、どいつもリアクションは喚くだけ。ワンパターンだな」

 死人に口無し、当然、返事は返ってこない。

「格好着けるんじゃねえよ。仲良く死ぬんだな」

 趙統の雰囲気に怯みながらも戦う意思を見せた。

「俺みたいな良い男は中々、死なねえんだよ」

 子供に似合わない不適な表情で煽るように告げられた言葉に唖然としながらも、兵士達は襲いかかった。

 短く息を吐くと趙統は全身に氣を巡らせて疾走した。50メートル5秒もかかっていない。つまり周囲の兵士を倒すには十分な時間と早さだ。趙統は抜刀すると魚を捌く様に斬り倒して行った。その姿はまるで獣だ。

「ええっ!」

 一方的な殺戮を目にして典韋は意識が遠く成りかけた。

 どうして、そんな簡単に殺せるのか。どうして、そんなに戦えるのか。疑問が沸き出すのは助けられた安心と余裕からだが気付いていない。

 少女達は運が良かった。運命は多少変わらないが、手を汚す機会が減ったのだから。

「怪我は無いですか?」

 殺しなど無かった様な笑顔で趙統は二人に声をかけた。

「あ、はい。有難うございます」

 典韋は慌てて礼を言い、許褚と共に自己紹介をした。

 

 ☆

 

 休暇を貰った俺は、部下に振る舞う酒や春蘭様と楽しむつまみの調達に出かけた。

「フフフーン」

 陳留まで戻る途中、用を足しに茂みに入った。

「おお?」

 まさか流琉や許緒に出会うとは思っていなかった。感慨深い。

 氣で強化した俺はダッシュして皆殺しにした。そうしないと話が進まないからだ。

 拳と剣で戦ったが、揚げたてのカレーパンなら即死効果さえあっただろう。

 この時代で実現不可能な出来事を可能とする者は仙人と呼ばれる。仙術と導術は違う神秘の力だが、過去において仙人の大部分が導士だった。現在において氣だけが伝承し残されている。勿体ねえ。俺も空を飛んだりしたい。

 ま、そんなこんなで助けた信頼から流琉に再び真名を預けられた。

「ボクも季衣で良いよ」

 許緒からもそう言われた。今回は俺の方が身分は上だから遠慮無く預かった。

「分かりました、お二人の真名を預かります。俺の真名は烏龍。よろしくな、流琉、季衣」

 春蘭様と再会する前ならハーレム要員として確保していたか?

 村でお礼に食事を御馳走したいと言われたが、俺には仕事がある。袁紹軍が一部とは言え、後方に進出していた事が問題だ。

「警備隊に通報しないといけないしな」

「そっか……」

 残念そうな二人に再会を約束して別れると街に向かった。

「今度、飯を奢ってくれ」

「うん!」

 手を振って見送ってくれるあいつらを見て思い出す。再会をしても武官として勧誘なんてしないって誓いだ。子供が戦う必要など無い。子供は未来を作り、従うべき国家に奉仕する事が勤め。それだけだ。

 警備隊に報告した俺は街をぶらぶらしていた。

「烏龍殿、こちらでしたか」

「ねね、どうした?」

 陳宮は後方警備の統括を行っていた。呂布も陳宮と共に警備隊や補充兵の調練を担当していた。降将としては厚遇だ。

 それと前の俺を知る者で真名を預け合っている。

「華琳様より討伐命令が出ました。片付けてから休みの続きだそうです」

 休み中だったのに溜め息が出る。俺も成り上がりだが呂布よりは信頼されている。曹操様は兎も角、周りの者にしてみたら呂布を動かすのは不安が残るのだろう。

「仕方ないか。斥候は出したか? 戻って来たら行くぞ。動かせる兵を集めておけよ」

 結局、休みの期間一杯で残敵の討伐に費やされた。休日出勤の手当ては出るのかな?

 

 ☆

 

 鋭気を養い黄河を越えた曹操軍は魏郡、青河郡を制し、鉅鹿(きょろく)郡に攻め込んだ。諸侯は曹操様と袁紹のどちらが勝っても良いように様子見だ。

「麗羽を捕らえた者は、銭10万の褒美を与えましょう。兵であっても将軍に取り立てるわ」

 曹操様の言葉に兵は奮い立ち勇戦した。ま、将軍に成れると言っても教育期間は必要だな。

 袁紹の士卒はまだ多いが、投降して来る兵も多い。

(全てを受け入れるのか?)

 曹操様が民と兵を補う為に青州黄巾賊を受け入れて抱え込んだ事を考えれば、袁紹軍の受け入れもあり得る。

 だけど適度に間引かなければ急激な人口増加で領内に食糧危機が訪れるだろう。

 だから浄化してやらねばならん。食屍鬼(グール)を量産出来る訳でも無いから使えん。さくっと殺して埋めるか焼くだけだ。

「天下の為に働くなら雑草を刈り取る事を恐れてはいけません。一時的な悪名が広まろうと、何れ天下の誰もが成された事の意味と結果を御認めに成るでしょう」

 風様は曹操様にそう進言され、曹操様は受け入れられた。ゆえに結論は一つ、積極的な戦果拡大だ。俺達は「(シャア)!」と雄叫びあげながら袁紹軍に当たった。

 鉅鹿は秦の時代に戦場と成っている。

 始皇帝の死後、秦は早々に崩壊した。秦が趙の反乱討伐に当たっていた時、楚軍も動き出した。

 秦軍の消耗を狙う大将軍宋義(そうぎ)の策に対して項羽は「ちんたらしてんじゃねえよ、ボケ」と、宋義の首を討ち楚軍を戦闘加入させ勝利を収めた。

「項羽は三日分の兵糧だけで秦軍に勝ったらしいけど、脱走兵は出なかったのかしら」

 風様はそうですね、と同意しながら答えた。

「士気は下がり脱走もあったでしょう。背水の陣の語源としては韓信より相応しいと思いますが、あえて困難な戦いを選んだとしても愚策としか思えません。関中を目指していた割に、兵站の維持と言う面から考えれば愚かですね」

 中々、辛辣な評価だ。

 俺達は楚軍と違い船を焼いたりはしない。

 曹操様の親衛隊に目を向ける。身に纏う甲冑は黒一色で『曹孟徳は我らと共にあり』と言葉が刻まれている。一般的な士卒と違い近衛は質の良い装備だ。揃えるのは中々、金がかかる。

 一方、俺は冑が重いから皮に布で補強した帽子を被っていた。冑を被るより毛根と頭皮に優しいと思う。

「趙統、貴方は鉅鹿を一日で落とせるかしら?」

 曹操様は俺に視線を向けて振って来た。それなりに使えると思われているらしい。

「城内の敵兵は後退して来た敗残兵を収容し膨れ上がっています。屠城(皆殺し)を一日で終わらせるのは無理です。自主的に投降してくれるなら別ですが。残念ながら、今は何も思いつかないので無理です」

 俺の剣は親衛隊の持ってる様な業物ではない。値打ちはなくて、たんに頑丈なだけだ。それでも殺しには使える。

「とりあえずは、敵の死体を積み上げて、串刺しにして並べて士気を下げてやる位でしょうか」

「よろしい。では始めなさい」

 人は人の醜悪な部分を否定したがるが、曹操様は有効利用する。

 曹操軍は実力主義であり、都合の悪い物を始末するなら俺が一番手慣れている。

 

 ☆

 

 曹操との戦を始めた袁紹は圧倒的な勝利を確信していた。しかし幽州の平定は遅々として進まず、(えん)州では己の腹臣である文醜を討たれ、10万の兵を失うと言う痛手を被った。

 反撃に出た曹操軍は黄河を越えて()州に攻め込んで来ており、この機会に幽州との回廊を繋いでしまう考えだった。

 敗報に揺れる袁紹陣営から更なる離反者が出ようとしていた。重臣の一人である荀諶(じゅんゆう)が辞職願を出して来たのである。

「荀諶さん、何故私の元を去ると仰るのかしら?」

 悲しげな主君の瞳を見て荀諶は、罪悪感から心が揺れるのを感じた。荀諶は袁紹の明るさを好ましく思っていた。

 世間で袁紹は無能な様に扱われているが、指導者は優秀である必要が無い。劉邦の様に仕える者が支えれば良いだけだからだ。

 今、荀諶が袁紹に詰問される場所は袁紹の親しい身内と呼べる者達しか居ない。内輪で話をしようと言う袁紹の心遣いだった。

 荀諶はちらりと同僚達に目を向ける。田豊、顔良、その他の袁家を支える忠義を持った者達。皆、袁紹の為に命を賭して働く事に躊躇いを持たないだろう。

「麗羽様は御友人である曹操様を攻められました。御二人が真名を交換した間柄である事は存じ上げております。それは並々ならぬ苦渋の決断だったと思います。しかし私は血を分けた姉妹を踏みつける事は出来ません。私が麗羽様のお力に成れない理由は、家族が曹操様に仕えていると言う問題があるからでございます」

 情に厚い袁紹は文醜を失った時、錯乱状態に陥った。だからこそ家族を敵に回す荀諶の苦悩が理解出来た。

「分かりました。貴女が不忠から去るのでは無いと言う事を」

 袁紹が了承した事に空気は弛緩した。そこへ田豊が口を挟んだ。

「お待ち下さい! ここで荀諶を許す事は容易い。ですが、みすみす敵に利する事は出来ません。麗羽様、この者の首を見せしめとし跳ねましょう」

真直(まぁち)さん、貴女、なんて言う事を!」

 顔良は簡単に同僚を殺そうと言う田豊に怒りの声をあげた。

「麗羽様は天下統一に乗り出しました。その為に甘えは許されません」

 田豊は鋭い視線で顔良を睨み付け黙らせたが、その言葉は袁紹を含めた全員に言い聞かせていた。

「田豊殿の仰る通りです」

 荀諶は、田豊を流石は筆頭軍師だと感嘆した。情に流されず冷静な判断をした。憎まれ役をやる忠臣であると。

 王としてあろうとするならば感傷等はいらない。王の道は孤独で、完璧を求められる。

 民の支持率は下がろうとも、政を意識する事で止まる。強い王への忠誠心が離反を下げ渋ると考えられた。真実とは後から付いてくる物なのだから守るべきは王の威信だ。

 

 ☆

 

 名族の気品は金を払えば買える。官位は皇帝自ら売っていたからだ。

 曹操様は袁紹を初めから対等な相手とは見ていなかった。あくまでも利用する対象だ。

「斉はしょせん滅んだ国、過去の残照だ。我が覇業の前に崩れ去るが良い!」

 曹操様の号令で攻城が始まった。前日までに敵の死体を山と積み上げてやったので士気はがた落ちだろう。

 第一梯団の第一波は、関羽が李典さんの工兵を援護して前進した。母親の友人と言う関係が無くなった今だと、魅力的な体つきに目を奪われそうになる。

 第二波には曹仁様と張飛が続いている。幼児体型を見て俺の煩悩は退散する。

 戦後を考えるなら曹操様は子飼いの将に功績をあげさせる方が良い。だが区別をしなかった。幽州を外様扱いせず秋蘭様に任せているのもそう言った理由だろう。

「助けが欲しければいつでも呼べ」と春蘭様は仰っていた。とは言っても俺の率いる教導旅は囲の一翼を担っており、直接、攻撃に関わる予定はない。

(あるとしたら、袁紹軍の応援が来た場合の対処だな)

 俺は暇潰しに周辺から、袁紹を褒め称える類いの書簡や絵画を集めて焚書させた。

「おぅふ。こいつは資源の無駄遣いだな」

「曹操ごとき俗物に従う愚かな逆賊め。成り上がり者と本物の名族は違う。漢の忠臣、袁本初様を讃えよ。我らが死しても袁家に栄光あれ!」

 自分達が死ぬ未来は否定しないらしい。

「わ、私は曹操殿に恭順致します!」

「私もです!」

 袁紹を褒め称えた口で曹操様に降ろうとする糞虫も生き埋めにしてやった。既存の特権階級はある程度、間引いた方が今後の統治で富も分配しやすいからだ。

「欠陥人間を称賛する糞が。長文うぜぇんだよ」

 迷える魂に救いを与え導いてやる。死ねば皆、仏と言う。死後の世界で罪は許されるのだ。だから現世で裁き懺悔させてやろう。

 ついでに怪しい占いの本も燃やして、預言者紛いの流言を流す連中は殺した。第二、第三の天の御遣いを出すわけにはいかんからな。

 この世界で生活する中で、俺は色々な書と触れる機会があった。

 始皇帝が統一国家を作る前の戦国、 魏の信陵君は宰相にまで登り詰めたが、秦の謀略によって王から罷免され4年間、酒と女に溺れアル中で死んだ。そう言う故事を読んでみて、目立つのは考え物だと思った。

 それなりに成果を上げるが韓信みたいな最後は御免だ。マジでありえなくなーい?

 俺は死ぬまで使われるのは御免だ。転んでもただでは起きない。

 そうだ、俺を燃えさせるのは妻だけだ。酒で人生破滅するのは本当、糞だな。

 ま、今は良い感じだし良いか。

 対峙が長引くと攻める側にも隙が出来る。

 包囲の外から快速の騎兵と身軽な軽歩兵による打撃部隊が現れた。例えるなら俺達はアレシア包囲戦(ポケット)のローマ軍、敵は蛮賊と言った所か。

 稜線の向こうの森から突如として現れたみたいだが、俺らの警戒が甘かったって事だろう。

 旗を見て部下が報告して来た。

「あれは顔良将軍ですな」

「文醜の影に隠れて目立たなかったけど、中々やるじゃないか」

 不意を突かれた。袁紹軍の逆襲が包囲の一角を崩した。お陰で俺の出番がやって来た。

 俺は発破の声をかけた。

「殺せ、殺せ。楽しい宴だ」

 騎乗した敵が突っ込んでくる。うーん、俺の兵隊は押されてるな。

 俺に気付いたのか、顔良は此方に向かって来る。

「趙統、貴方は血に飢えた獣です。そして、文ちゃんの仇───だから殺してやる!」

 想いと言うのは口に出さないと伝わらない。だけど一人語りで、結論ありきの話し方は一方通行で話が見えて来ない。

「わざわざ話しかてくれたのは嬉しいけど、仇って何ですか。誰の事を言ってるんですか? 覚えがあり過ぎて何のことやら──」

「黙れ、黙れ、黙れ、黙れぇ! お前ら全員、殺してやる。絶対、殺してやる!」

 おぅふ、口調が変わってやがる。俺を血に飢えた獣って言ってたけどさ、どうなのよ。あの態度……。

「趙統の首をあげた者は、金20万両を授ける事を約束します!」

「ウオォォォォ!」

 目の色を変えた雑兵が雄叫びを上げて、ハヤテの如く駆けて襲いかかって来る。槍を一斉に突き出して来るが、却って密集する事でお互いの動きを阻害してる。阿呆だ。だから剣の一振りで何人も倒される。

「将軍、御退き下さい」

「大丈夫だ。逆に手間が省けて良い。お前ら適当に戦ってろ」

「諾!」

 まぁ、敵は撃滅する。邪魔に成るなら殺す。

 顔良は将軍職。それなりに頭は賢い指揮官らしいが、俺からしたらまだまだ未熟だ。真面目過ぎるとも言えた。その攻撃は一本調子で剣筋が簡単に読めた。

「それで袁家の二枚看板だと。笑わせてくれる。笨蛋(のろま)、あの世で文醜が待ってるぞ!」

 俺の兵は気を利かせて顔良に向けて矢を放ち、横から槍で突いた。ナイスなアシストだ。

「ああっ!」

 脇腹を突かれ、胸に矢を受けた顔良は俺の斬撃を受け止めれなかった。切り裂かれた胸は白っぽい脂肪や桃色をした筋肉の断層が見えた。その瞬間、将軍の印綬が懐からポロリと転がり落ちる。

(女の子は砂糖とスパイスと素敵な何かでできてるって言うけど、ただの肉だな)

「将軍が討たれた!」

 顔良が倒れると敵は武器を捨て膝を屈した。

 乾坤一擲の逆襲かどうかは知らないが、救援が敗れた事で鉅鹿(きょろく)の士気は完全に地に落ちた。開城して降って来た。

 この後はお掃除のルーチンワークだ。参加する事に意義があると言う事で、全員強制参加の屠殺だ。

(俺にソウルジェムがあったら真っ黒だろうなぁ)

 曹操様からはお褒めの言葉を賜った。結果として鉅鹿を落とせたからよしとするか。

 袁紹は徹底抗戦を叫びながらも、新天地で再起を図る為だろうか僅かな供回りを連れて東の海に逃げた。

「袁紹を許されてはどうでしょうか」

 袁紹の命に従い抵抗を続ける残党の掃討に苦戦していると、文若様はそう進言成された。

「麗羽を生かす事は出来ないわ。田横(でんおう)とは違う。麗羽に自害をする度胸は無い。それに許したにもかかわらず殺せば私が狭量だと世間に広める事に成る」

 袁紹は朝鮮半島か日本列島に向かったと考えられる。そもそも行方の分からん相手を許す事も出来なかった。

 覇権をかけて勝つか負けるかの生存競争で、Love&Peaceなんて温い事を言ってられるか。

 正義は特撮ヒーロー物と少年マンガの中にしか存在しない。不本意であっても、これが為政者のやり方だ。

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