試験後、流琉と程普さんは見目麗しいと言う事で親衛隊所属になった。
同性愛者と噂される曹操様、いや曹孟徳様と呼ぶべきか。春蘭様や秋蘭様の陶酔は信仰に近い。恋姫のゲームを知っている俺からしたら、百合な関係なのは丸っとお見通しだが、流琉と程普さんも悪の道に引き摺り込まれると考えるとげんなりする。
曹孟徳様は宿り木としては確りしてるし、俺は春蘭様の陪臣なのでそのまま所属は変わっていない。曹孟徳様に拝謁する事も無かった。男には興味ありませんって感じか?
同性愛は自然の摂理に反して非生産的で、子孫を残す観点から見れば曹操様の後継者をどうするのかは今後の大きな課題だ。
ま、良いけど。
それから将軍に成る心得や知識、技能習得の集中教育を受けた。部下の名前を間違えない、男女の区別はしても差別はしない等と言った基本的な事から部隊で仕事を覚えながら教育を受けるので心休まる暇はない。候補生の間は給金は安い。
だから流琉にはたまに飯を奢って貰っている。親衛隊は給金が良いそうで、色々と材料が買えるから創作料理に凝ってるそうだ。
「烏龍、今日、晩御飯食べに来ない?」
「御馳走になります!」
世の中には臭いをおかずにするダクト飯や想像力だけで飯を食うチラシ飯、小麦粉を練ったチネリの様な物を食べている者が居る事を教えてやれば、流琉からどんな反応が返ってくるのだろう。
「流琉は良い奥さんに成るな」
「ありがとう」
ギャルゲーの主人公だったら相手は頬を染め照れる所だが、俺と流琉の間に甘い空気は流れない。普通に笑っていた。
春蘭様は受かって当然だとご褒美も何もなかった。何ってナニを期待していた訳じゃないぞ。
そして今日は今日で、跋扈する賊の討伐に出ている。
曹操様の治める街から山を越えた向こうの領主が阿呆なので、治安の低下から賊の温床と成っている。これは放置出来ないと言う事で、不正規の越境作戦と成った。
将軍候補生になった瞬間から俺は損得で物事を考えねば成らなくなった。給金をくれる雇い主に対しての責任だ。儒教や道徳で正しいか、正しくないかではない。
賊を倒すのも利に成るか成らないか。それだけだ。
賊の後をストーカーの様に追跡し、巣穴を見付けた俺達は夜襲を仕掛けた。
俺は見張りの後ろに回り暗器で脳髄をえぐった。手に感じる生暖かい血液でソーセージの作り方を思い出した。
(ソーセージをパンに挟んでホットドッグ作ったら儲かるかな?)
その後、残りの賊は寝込みを襲われて次々と捕縛又は刺殺された。
賊と言えば略奪したお宝を貯め込んで居る物で、押収した品々を見聞してると気になる物があった。
「太平要術?」
あ、これって黄巾の張角が手に入れて反乱起こしたってやつか。
確かゲームでは三人組が曹孟徳様の所から盗んで追いかけられていた様な記憶だ。
ま良いか、普通に証拠品の一つとして提出しておく事にした。
☆
夜勤明けで帰ると昼まで寝ていた次の日、腹が減ったので外食をする事にした。
町に出かけると何だか人だかりが出来ていた。何だあれ。
ああ、李典さんだ。
「全自動かご編み機で作ったかごやで。遠慮せんで見てって、買って行ってや」
全自動って良いながらレバーを手動で回してるじゃないか。
相変わらず変な物を作ってるな。
「お、
此方の視線に気付かれたので挨拶をした。
「ご無沙汰してます」
母さんと于禁さんは別の場所でかごを売ってるそうだ。顔だけでも出しておこうか。
いや、俺は乳離れの出来ないマザコンとは違う。ここは会わずに立ち去るべきだ。
「母さんと于禁さんにも宜しくお伝えください」
「そうか」
あっさり別れて適当に肉まんでも買って帰る事にした。
「おっちゃん、カレーまん2個と肉まん2個ちょうだい」
「まいど~」
肉まんを食べながら歩いていると女の子が牛に追われていた。
この時代、暴れ馬、暴れ牛、狂犬は珍しくない。交通事故で引かれる様な物だ。
逃げてる女の子は緑色のツインテールに黒いぶかぶかの上着を羽織った小柄な体型。
ん? あれって陳宮か。
牛って黒い服を追う性質は無かったと思うんだが。
「がくちーんきっく!」
ともかく気を纏って牛に飛び蹴りをかました。気の衝撃を生身で受けた牛は木っ端微塵になって肉片を通りにぶちまけた。うわ汚い。
血を浴びた陳宮に声をかけた。
「怪我は無いか」
「あ、う……」
あまりにも突然過ぎて言葉が出ない様だ。可哀想に。
「見た感じ怪我は無い様だけど、早く風呂に入った方が良いぞ。服も洗濯しないと染みになるしな」
俺がやり過ぎた責任だが、助けた事で差し引きすれば貸しの方が大きい位だ。
「じゃあな」
手を振って去る俺。格好良く決まったな。
これも将来への布石である。
「ちんきゅーきっく!」
かけ声と共に衝撃を背中に受けた俺は吹き飛ばされる。
誰がやったかなんて聞くまでもない。かけ声で名乗ってる後ろの少女、陳宮だ。
「何しやがる」
俺の睨みに臆する事無く陳宮は答える。
「何しやがるはねねの台詞です。お前のせいでねねの服が血塗れです!」
「ああ、その事か。助けた礼はいらんぞ。じゃ、俺は行くから」
あれか、助けて貰ったお礼を言いたいけど素直に言えない。ツンデレってやつか。
「ま、待て! ねねの話は終わってないのです!」
止めてくれるなお嬢ちゃん。
ちらりと彼女の身体を見る。成る程、ホットパンツとオーバーニーソックスの絶対領域は魅力的で将来有望だが、慎まし過ぎる胸元は憐れみを誘う。
誘われたなら寝たくない男は居ないだろうが、俺はガキに興味はないんだ。ほんと、マジで。
だけど恩人の名前を知りたいと言う気持ちは分かった。
「
名前を告げると今度こそ俺は去っていった。
官舎として与えられている部屋に戻ると流琉が遊びに来た。仲康殿も出かけていて暇らしい。
「どうかな?」
「うん、美味いよ」
参考にならない感想だが、流琉は俺の寝台の上でニコニコしている。
流琉の作って来たお菓子を摘まみながら考える。
俺はもう14歳、前の世界で言えば中学生で思春期真っ盛りだ。幾ら友達でも男の部屋にほいほいとやって来るのは危険だ。
俺はまだリビドーを抑えられるが、他の男なら血迷うかも知れない。友人として心配だ。
もう少し彼女には危機意識を持って貰いたい。
「賊が盗み出した?」
例の太平要術の書を盗まれたらしい。賊から回収して、提出してから半日も過ぎてないのに早すぎる。
(これが強制イベントってやつか)
曹操様は焼き捨てる積もりだったらしいが、賊はまんまと盗み出したらしい。侵入と脱出の手際が良すぎだ。
「うん、華琳様も春蘭様も捜索に出てるけど……」
俺は帰って来たばかりでそんな話は知らん。春蘭様も手勢だけで出かけたみたいだ。
ま、秋蘭様も付いて行ったなら大丈夫だろう。
「手持ち無沙汰なら、皆もお腹を空かせて帰って来るだろうし、肉まんでも作って待ってたらどうだ?」
「いつも料理しかしない訳じゃないよ」
苦笑する流琉。
「そいつは失敬」
流琉とまったりお茶を飲んで過ごした。
☆
夕方、曹操様達が帰って来た。賊の死体を三体……ってあれ、北郷は?
魏ルートとは違うらしい。
普段なら装具を解いて部隊の解散を命じてる所だが、春蘭様も秋蘭様も今回は慌ただしく指示を出していた。
「烏龍!」
春蘭様に呼ばれて駆けていく。
「はい、
「直ぐに出発の準備をしろ。賊がまた集まって来ている」
流民か何だか知らないが、隣の領主はダメダメ過ぎる。今度は俺の実家がある村を狙ってるらしい。
「本隊が到着するまで守り抜けはしない。だから親衛隊が先行して村に向かう。お前は秋蘭に従え」
俺の故郷と言う事を覚えていてくれた様だ。秋蘭様が親衛隊を率いて村に向かう。その案内が俺の役目だ。
春蘭様は曹操様の本隊に従軍し、俺は別行動となる。
「拝命しました」
指示は受けた。早速、準備を進めるか。
村の自警団はそんなに数も多くない。何と言っても身内が心配なので心が急いた。
まさか俺がゲームの登場キャラごときに家族愛を感じて本気になるとは。やっぱり長年、一緒に生活してると家族として刷り込まれるって事だな。
夜の山道を疾走する騎馬隊は、流石は曹操様の親衛隊と言わせるだけの技量を持っていた。
仲康殿と流琉は親衛隊と言っても新人なので、曹操様の警護に付いていた。
夜明けが近付く頃、遠目に村が見えてきた。
「秋蘭様!」
俺の視線の先では攻撃を受ける村の姿があった。
うちの村は外柵でぐるりと囲まれそれなりの防御力は持っていた。烏合の衆とは言っても敵の数は多い。母さん達の様な一騎当千の猛者が居ても、どこかが破られれば一気に被害は拡大する。
うだうだ考えるのはもういい。これから糞虫どもをぶち殺すだけだ。
喚声をあげて突っ込む俺達は賊の後背を突く形に成った。だが敵の数は多いので混戦に成ると勝ち目は無い。敵中突破で村人と合流し守り切るのが目的となる。
俺は気弾を射ちながら馬を走らせた。村の入り口に集まって居た敵は吹き飛んでいくか馬蹄の餌食に成った。
完全な奇襲の形で敵は混乱し、そうこうしてる内にゴールした。
「今だ!」
門が開いて中からどっと村人が打って出て来る。
賊は挟撃を受けるので一時的に撤退した。戻ってくるのは時間の問題だろう。
指揮所は村の集会場に開かれた。
「広場は負傷者の集合点にしよう」
「村人も守って貰ってるから家を提供しますよ」
屋根のある場所で休ませた方が良い。だから民家を仮眠場所に使う事を提案した。
「失礼します」
秋蘭様の指揮で防御の配置を行っていると、指揮所に自警団の代表として母さんがやって来た。俺の話を村人に聞いていたのだろう、駆け寄ってきた。
「烏龍!」
ぎゅっと抱き締められた。秋蘭様や周りの視線が生温い。
「母さん」
恥ずかしいし子離れしろよ。俺もいつまでも子供では無いんだから勘弁してくれ。
感動の再会を終えると、打ち合わせが行われた。
「敵が戻ってくるまで時間は少ない。やれる事をやるぞ」
襲来に備えて空堀を掘ったり、残土で土嚢を組んで外柵を補強したり、櫓を立てたり村の防御を強化した。
昼過ぎ、賊の連中も休養と再編成を終えて再びやって来た。ちょっとした堡塁に成ってる村の外柵を見て驚いてやがる。
「構え、放て」
まともな兜を被っている者は居ない。放たれる矢は頭部や顔面に突き刺さり、立ち止まったりしゃがみこんだ者は後続に倒され踏み潰されてしまう。
号令一下で阿鼻叫喚の地獄が作り出され爆笑してしまった。
「あっははは」
将軍だろうが将軍候補生だろうが部下の兵にとって俺は指揮官だ。指揮官の余裕ある態度は部下に安心感を与えるらしい。と言っても演技じゃないけどな。
敵に浴びせる矢尻には糞を塗りたくり、傷口が化膿する様にしてある。提案した時、「よく考え付いたな」と秋蘭様には呆れられた。
敵の戦力を下げるには殺すより負傷者を増やす方が良いと何かで読んだ記憶がある。殺せばそれまでだが、生かせば敵にとって足手まといに成るからだ。
「良いぞ、どんどん射て。矢弾なら幾らでもあるぞ」
村の加治屋が農具を矢尻に変えている。後から曹操様に見舞金を賜れる様に進言すると秋蘭様が約束されたので、材料は村にある物を何でも使っていた。
官軍の強みは権力と金だ。土民に毛が生えた程度の賊風情が官軍相手にしようなんて百年早いわ。
「行くぞ!」
俺は崩れた敵を叩くべく出撃する。ストレス発散をさせて貰うか。
気弾は消費が大きいから自分に纏って戦う方がコストパフォーマンスは良い。素手より剣や槍等の得物を使えば拳よりリーチも長くなる。気で強化した俺の斬撃は頚椎で止まる事無く、チョキチョキ敵の首を刈って行く。
面白過ぎて自然と口元が歪んでくる。
馬鹿みたいに突っ込むだけの敵は簡単に蹴散らされ楽勝過ぎる。
労働力として使い潰す以外に賊を捕らえ延命しても無駄だ。民の税を無駄使いする事は許されない。ここでは判決と刑の執行が速やかに行われる。
(安っぽい偽善は蜀を滅ぼしたし、弱者は存在が社会悪だな)
全員有罪なので、遠慮なくぶち殺して行く。気を纏った俺の打撃は相手を吹き飛ばす。文字通りミンチだ。
(ハンバーグ食いたい。帰ったら牛を潰して料理するか)
破裂した時に飛んで来た賊の腕を払う。
殺していちいち落ち込んでいる様な豆腐メンタルは軍に向いていない。FPSやゲームで鍛えられた俺には関係無い。この世界を楽しむだけだ。
俺は人が死にまくる戦争が好きなんだ。
敵の襲来を撃退し予備隊を率いて逆襲する事、22回。敵は諦める事無く攻め寄せて来ている。見てみろよ、村の周りは死屍累々、血と泥で泥濘と化している。畑にすれば栄養十分じゃないか。
賊にしては粘り強いと言うか、意地になってるのか力押しで勝てると思ってるだけの馬鹿か? これも強いリーダーの居ないボトムアップ型の組織ってやつか。
☆
「手間取らせやがって」
曹操様の本隊は深夜に到着した。計らずも再び賊を挟撃する形に成った。
身の程知らずの賊は殲滅されたが、闇に紛れて幾らかは取り逃がしたかも知れない。
捕らえた賊は、大穴を掘らせて賊の死体を運ばせた後で始末する予定だ。やっぱり生ゴミは放置すると腐って虫がわくし、臭いし片付けしないとな。
村では、曹操様の連れてきた工兵が仮設住宅を建て、輜重兵や人足が運んで来た食糧で炊き出しが行われている。
「母さん、怪我は大丈夫?」
逆襲に参加していた母さんは負傷して医師の手当てを受けていた。
孝行息子な俺は怪我させた相手を勿論、ぶち殺したさ。
「私は大丈夫だ。お前こそ大丈夫か」
「問題無し」
親子の語らいをしてると于禁さんがやって来た。
「凪ちゃん、曹操様がお会いしてくれるんだって。ご挨拶に行こうよ」
「そうだな」
腰を上げる母さん。成る程、ここで勧誘イベントか。
広場には春蘭様と秋蘭様を脇に控えさせた曹操様のお姿が見えた。
「自警団の楽進、于禁、李典ね。私が曹孟徳よ」
俺はテンプレなイベントを見ていても仕方が無いので、作業の見回りに行った。
後で聞かされた所、やっぱり勧誘されて居たそうだ。
俺より後で所属したのに三人とも将軍職に抜擢されるって、人事に問題があるとしか思えない。
陳留に戻ると俺は警備隊に捕縛された。
「何で?」
すると陳宮が現れた。
「天に唾する悪党、自分の胸に聞くと良いのです!」
悪党って何だ?
まさか陳宮の心を奪った悪党って事か。助けた俺を縛る=自分の物にしたい。つまりヤンデレか!
やべえ。
原作ゲームで呂布に対する執着振りからすると、厄介なやつに目を付けられた事に成る。
YESロリータNOタッチ。
選択を誤ると不味い。ここは穏便に諦めて貰わないと。
「すまない」
お前の気持ちは嬉しいが応えられない。
俺は出る所の出た大人な女性しか相手にしないんだ。
「おおう、素直に罪を認めるのですね」
心からの謝罪に陳宮は意外そうな表情を浮かべる。
「そうだな」
俺の罪は、神様に幼女にさえ惚れられるイケメンとして貰った事だろうか。
「陳宮殿、どうされますか?」
警備隊員は陳宮に処遇を問う。
「ねねは寛容なのでお前を許してやるのです。感謝するのですぞ」
何か横柄だが俺の事は諦めてくれるらしい。とりあえず頷いておいた。
警備隊が引き揚げると、この前に服を血塗れにした侘びだと飯に誘う事にした。色々と面倒になったのでこれで話は有耶無耶に流してやる。
「しょうがないから付き合ってあげますぞ」と照れ隠しがバレバレだった。
やっぱり俺はガキにはモテるらしい。
(神様、ハーレムスキルの方向性が求めていたのと違いますが……)
食事は俺の奢りだが、酒を飲もうとしていたので注意したらマジギレされた。
「ねねは子供では無いのですぞ!」
聞けば未成年どころか俺より年上だった。あれか、うちの母さんとかと同じ種類のタイプか。確認してないがもしかしたら流琉も俺よりかなり年上なのかもしれない。
合法ロリってやつか。ま、どうだろうと俺がガキに手を出さないのは変わらないけどな。
だから酔っ払った陳宮は宿に確りと送り届けたさ。
翌日から陳宮が俺の上司として就任して来た。俺は武官何だけど、何で文官の下に着くんだ?
「ねねがお前を更正させてやるのです」
何か張り切ってるし。昨日の酒でも残ってるのか?
反董卓連合の時には呂布の部下のはずだから、その内に抜けていくのかな。
☆
前回の賊討伐は大きなイベントに続くフラグだった。
たらたら過ごしていても、ルートは確定し時間が進んで行く。
蒼天がどうのこうのと言って、黄色い頭巾を頭に巻いた賊が一斉蜂起した。
(ああ、遂に始まったか。賊なんていつもの事だから忘れてた)
以前からちょろちょろ見かけていたが、遂には朝廷から討伐命令が諸侯に出されるまでに拡大した訳だ。
曹操様の支配地域は定期的な巡回で治安は維持されており、賊も一掃された。労働力として人狩りをする場合は非合法な越境作戦をしていたぐらいだ。
「南陽郡では
春蘭様が仕入れてきた情報を教えてくれた。
荊州もヤバイが、隣の
「
「どうなんだ、秋蘭?」
振られた秋蘭様が代わって答えて下さった。
「
そう言いながらも朝廷の命令で、荊州よりも遠い公孫賛が治める幽州啄郡の賊討伐応援に向かう事と成った。
「何でやねん……」
普通は近場の賊徒を掃除すると思うのだが、曹操様は近隣の勢力を弱体化させる事を優先したらしい。幽州では刺史郭勲と太守劉衛がぶっ殺されたと言うのも理由の一つだ。
(しょせん脇役のMOBキャラは歴史の表舞台に立つ事は無いな)
尖兵を命じられ俺は3,000の兵を指揮して本隊に先行する。軍師として陳宮が付けられた。
誰だよ、こいつを配属しようと言った馬鹿は。曹操様を独占したがってる荀文若様だろうか。他の優秀な軍師を排除して筆頭軍師の椅子を維持したいと言う気持ちは分かる。でも序列で考えると、軍曹の部下に曹長が配属された様な物だ。
「陳宮殿、宜しくお願いします」
一応、上役なので立てておく。
「ねねに任せるのです!」
ありがたいお言葉(笑)を頂けた。
黄巾賊は元々、旅芸人のファンの集いだ。俺もラブライブのファンだから分かる。可愛い女の子を妄想で視姦するのは楽しいからな。よくポスターにキスしたり舐めたのも良い思い出だ。
だが連中は人を殺め奪う賊徒に成り下がった。
だから同情はしない。
俺は右の頬を打たれたら左の頬を差し出す程の甘ちゃんではない。俺が痛い思いをするぐらいなら相手を殴り殺してやる。
幽州では公孫賛が連絡幹部として校尉(将校)を派遣してくれたので道には迷わなかった。
集結地で待っていた公孫賛の部隊と合流した。此方と同数規模の分遣隊で客将が指揮をしていると言う事だ。劉備か趙雲か?
通された天幕には桃色の髪をした巨乳娘が居た。正解は劉備か。
ほんわかした空気は良いね。
隣の学生服は北郷か。劉備配下の他の将は居ない。
「客将の劉備です。こちらは私達の御主人様で──」
隣の学生が口を開いた。
「俺は天の御遣いやってる北郷一刀、宜しくな」
見た目、年下だから舐めてんのか。俺は官軍の指揮官だぞ。
実際に初対面でタメ口きかれるとムカつくな。
それに御主人様と周りに言わせて普通に納得してるってあり得ないな。
「天の御遣い?」
主人公はやっぱり主人公で恵まれている。
「ああ、そうだ」
会話してるだけで殺したくなる相手も珍しい。イケメンとリア充は死ねと思うのは普通だよな?
ぽっと出の学生にハーレム形成される未来を考えたらここで始末すべきだと思えた。
我が軍師様を窺うと、胡散臭い者を見る表情を浮かべている。
よし、やっちまうか。
「天を騙り天子様に反逆する朝敵だ。捕らえろ!」
俺の言葉で部下は動く。公孫賛の兵は唖然として止めようともしない。
俺達は朝廷からの命令で派遣された官軍だから、当然と言えば当然だ。
関羽や張飛が居たらややこしい事に成っていただろう。今は他の場所の討伐に向かってるらしい。
「放せよ、俺が何をしたって言うんだ!」
暴れる北郷を蹴り倒し頭を踏みつけた。
真っ青に成った劉備は、うちの兵に囲まれ涙を浮かべて震えているだけだ。
「黙れ国賊、天を騙り民を惑わす謀叛人め」
本能のまま、欲望のまま好きな様に生きて、好きなだけ美女とSEXして来た野郎だ。死ね。死んで全国の男子にお詫びしろ。
そう思って剣を振り降ろそうとした瞬間、槍に防がれた。
「何を邪魔してくれてるんだ」
白い服装に青みのかかった髪、趙雲だ。
さっきまで居なかったよな。何処から現れた?
襟元から覗く胸──ではなくて、芯の強い女性は俺好みだ。
「そう言う貴殿こそ、どう言う積もりですかな」
そのまま無礼討ちにしても良いが説明をしてやった。
「漢の民なら我等の仰ぐ天は一つだと理解して欲しいな。私は朝廷より賊討伐を命ぜられた曹操様が将、天を騙る大罪人を処刑するだけだ」
趙雲は戸惑いの色を浮かべた。俺の言ってる事は間違いではないからだ。
「分かったら邪魔をするな」
今度こそ北郷の首を切り落としてやろうと思った。
誰も助けてくれない。その事実にようやく気付いたのか、北郷は叫ぼうと口を開いた。
「お待ち下さい!」
趙雲がまた口を挟んできた。美人の相手は嫌いではないが、今は空気を読めよ。
「まだ何かあるのか」
北郷達は公孫賛が招いた客将。勝手に処刑しては公孫賛の顔を潰し後々、問題に成るのではないか。処刑は公孫賛の城に戻ってからでも出来ると言い出した。
公孫賛が俺の決定を拒否すれば反逆者に荷担した事に成る。朝廷の耳に入れば、幽州は攻め滅ぼされるだろう。
「で、言いたい事はそれで全部か?」
趙雲は緊張した表情を浮かべている。虐めるのはこれくらいにしておくか。
「良いだろう。だがわざと逃がせば貴殿だけの責任ではない。公孫賛様にも責任を取って貰う事に成るぞ」
天を騙ると言う事は、それだけで国家転覆を謀る大罪だ。劉備と北郷が引き立てられて行く。趙雲は複雑な表情で見送った。だけどこいつは絶対、助けようとするのが目に見えている。さて、どうするかな。
「
陳宮の軍師脳では、俺の判断は悪くなかったらしい。
「劉備に預けられていた公孫賛の兵は趙雲に指揮を任せようと思います」
公孫賛の同意は無くても、官軍の指揮官として劉備から指揮権の剥奪は出来る。客将と言っても漢に従う義務があるからだ。
「漢に対する反逆行為、指揮権剥奪に正当な理由です。趙雲に任せるのも妥当ですな」
問題は関羽と張飛だが、戻って来てから兵と離して捕らえれば良いか。
北郷を担いだ時点で、劉備の一味は同罪だ。
はわわとあわわ軍師はまだ配下に加わっていないらしい。お陰でお二人さんは命拾いしたな。
「味方が当てに出来なく成ったから計画を見直さないと」
「そうですな」
事後の行動を陳宮と相談していると、偵察に送っていた斥候班が戻ってきた。ベテランの什長の報告によると、黄巾賊の拠点を発見したそうだ。
「連中、贅沢にも連弩まで装備してましたよ」
劉備ファミリーの始末は後回しだ。賊を忘れては本末転倒だからな。
「出発準備、各級指揮官は集合」
斥候の情報によると弓と連弩に支援された歩兵基幹の敵、おおよそ1万が陣地占領中だ。官軍は並列配置で前進、これを撃滅する。
趙雲に率いられた公孫賛の兵は第一線となり敵を攻撃する。元々、俺達は応援だしな、主役は譲るよ。
行動命令を受けた趙雲は、自分の立場を分かっているのか唯々諾々と任務に挑んだ。
「趙雲と劉備では釣り合いませんぞ。あれ程の将が自分の立場を危険に晒してまで助けようとする理由が、ねねには分かりません」
陳宮に俺も同意見だった。
趙雲はここで武勲をあげて劉備、北郷の助命を願い出るか、あるいは戦闘のどさくさ紛れで二人を逃がす可能性があった。
(そっちが助ける積もりでも、俺は助ける積もりが無い)
劉備達を助ける目的の為に賊を倒すと言う目標。大いに間違っている。
公孫賛の客将なら、幽州の民を守る為だろう。それか客将としての給金を貰う為だ。
趙雲を惑わすぐらいだ。やっぱり始末するしかない。
戦に紛れて気弾で北郷と劉備を始末しようと決意した。気弾なら足はつかないからな。
(確実に殺すなら頭を潰して置くか)
取り逃がしたら洒落にならないからな。これも天子様の為、曹操様の天下統一の為、俺のハーレムの為だ。悪く思うな。
☆
指揮所を前進させた高地から賊の宿営地が見えた。
柵に空堀、連弩を四方に配置してちょっとした砦だ。
拉致されて来た女性が犯され、男は殴られたり、新人が殺しの度胸を付ける試し切りで殺されている。賊の卑しさ全開だ。
(人って悪に染まるとあそこまで醜く成るのかねぇ。怖い怖い)
だから趙雲に任せてる。
趙雲は何やらふっ切れた様だ。配下の部隊に攻撃命令を出し、弓兵が矢の雨を降らせた。
(うわ、拐われて来た人も巻き添え喰らってやがる。無茶苦茶やるな。二人を助ける方が大切なのか)
悪人は自業自得だが、被害者の民まで巻き添えにする攻撃は邪道だ。民を守る事も仕事の内なのに忘れている。
敵が右往左往して混乱している間に趙雲は兵を前進させた。
さぁお手並み拝見だ。
交互躍進しながら前進する味方の中に指揮をする趙雲の白い服装が遠目にも映えて目立つ。矢が止むと敵が集まって来た。なんか敵に向かって叫びながら趙雲は突っ込んでいる。
刺して切るだけの動作だがすげえ。敵が槍の一振りで吹き飛ばされている。周りの賊が巻き込まれて倒れる様はドミノだな。
(歴史に名の残る英雄は伊達ではないか)
自分の信じる正義の為に戦う。それは気持ちの良い事だ。
俺も気を全開にして暴れるとスッキリするので、趙雲が闘いを好むのも理解出来た。
俺が手を出すまでも無かった。
趙雲は白い服を真っ赤に染めて戦ってくれた。
お陰で賊の大半を捕らえる事が出来た。
「死体は燃やせ。捕虜に鞭を打て」
部下に指示を出していると趙雲が戻って来た。
「趙雲、今回の武勲に免じ、反逆者を庇い逆らった貴様の罪は許される」
捕らえた賊徒は城下に続く街道に磔にした。良いね、ワクワクする光景だ。
それぞれの十字架を担いで連行される賊徒の後に、縛られた劉備と北郷も続いていた。
戦に紛れて殺す積もりだったけど、俺の居た所まで敵はやって来れなかった。ま、良いか。
「何故、桃香様が縛られている!」
城に戻ると黒髪の少女が武器を向けて来た。自己紹介を受けるまでもなく分かった。
だがな関羽さん。一本木な性格は好ましいが、視野狭窄は足下をすくわれるぞ。
「誰に向かって縄を打っているのか分かってるのか、此方は中山靖王劉勝様の末裔だぞ」
攻め口を変える変化球にしては甘いな。
関羽に向けられる周りの視線が厳しくなった。あーあー、関羽も分をわきまえない糞か。
嘘か本当か知らないけど皇族の子孫を名乗るやつなんて幾らでも居る。それが見抜けないとは阿呆だな。
「止せ、愛紗!」
関羽を止める趙雲を前に、あれが劉備の義妹だと部下から説明された。俺は知ってたよ。
そろそろ切れそうなので、関羽をぶん殴ろうかと思った。
「下がるのです、客将ごときが官軍の将に無礼ですぞ。虎の威を借りる狐が調子に乗るなです」
ほら、うちの軍師殿がきれちゃった。立場的に上の人にいきなり噛みつくのはいけないなぁ。俺は謙虚だからそんな事はしないが。
「世の中には逆らってはいけない物がある。お前は義姉妹の情に流されているが、姉妹揃って問題意識が無さすぎなのです!」
リスクを負う覚悟がないなら旗を揚げるべきではない。だけどこいつらはまだ甘い事を言っている。
天子様に敵対すれば滅ぼされる。猿でも分かる事なのに、なんかがっかりした。
武人として理想を追い使命に燃えている熱い人だが、現実を見ていない。
「桃香様はご自身が信じる道を選んでください」等と盲目的に従って来た結果がこの様だ。
この時代だ。誰も傷つけずに立身出世出来る者など居ない。
俺は楽しめるタイプだから心は傷まないけど、そう言うのは一部だけだ。
「つまり貴様は漢の帝、天子様を裏切って天の御遣いに従うのだね?」
北郷を認めると言う事は、漢と言う社会の一員がトップの天子様を否定する事だ。そして見て見ぬふりをしている。
無知は罪だ。それ以上に、知っていながら悪に荷担する方が罪は重い。
俺は正義で、北郷は病原菌と同じで存在自体が悪なんだ。存在するだけで周りを破滅させる。羊を襲う狼を野に放てない。
「天の名は力だ。放置すれば増長し、いずれは漢を滅ぼす。そうなっては遅い」
漢の平和を守る為には、少々強引でも群雄を減らしておく事が必要だ。そうしないと曹操様の障害に成る。ま、後付けの理由だけどな。
「お願いします! どうか桃香様と御主人様を助けて下さい!」
これが軍神関羽だと? 客将でも将だ。感情を交えずに考えろよ。
(やっぱり北郷に惚れているのか)
本当に助けたければ形振り構わず何でもする。賄賂だって有効だ。しかし潔癖症で頭が硬い関羽にその選択肢は無い。
俺は関羽の耳元で囁いた。
「この男は一人に満足しない。他の女も手を出すぞ。なぜその男のためにそこまでやる?」
俺は真実を告げている。
初恋は実らないと言うが、北郷は相手をしてくれる。だから突っ走っても良いのだが、俺はトゲを刺してやった。
関羽は言われた言葉を反復して思い出していた。
後で聞けば、ある時、北郷とチュッチュと口付けをしていたら、義勇兵の仲間達は抜けると言ってきたそうだ。
「無駄口叩いてるんじゃねーよとか言っておきながら、自分は所構わず女とイチャイチャしやがって。もうあんたとは組めない。我々だけでやらせて貰う」
「チューしてただけで、エッチやってたわけじゃないから良いだろう。そもそもコイツら俺の女だし」
「開き直って図々しいんだよ!」
その時は聞き逃していたのだ。『コイツら』と言っていた。自分だけでは無かったのだと。
「そんな……御主人様が……」
どんな女でも男の心は読めない。男の心は硬い岩みたいな物だと言う。
自分の肌を優しげに撫でた指には愛があったと信じたい。自分だけを好きで居てくれる相手が欲しかったのだ。
「断言してやる。絆なんてねぇ! お前らは、体を
関羽の表情が曇る。恋愛に関しては独占欲の塊な関羽だ。嫉妬から疑惑が沸き出して、真実を導き出すと自壊する。
「嘘だ、嘘だ、嘘だっ!」
そのまま立ち直る気配を見せなかった。
いかん、口元がにやけてくる。北郷や劉備を疑わせるのは楽しいな。ヤリチンの北郷なら手を出していて当然だった。
劉備は尋問に対して素直に受け答えをした。何故、客将となったのかと訊くと「だって皆の笑顔を見たいじゃないですか」と答えた。それなら客将ではなく公孫賛に仕官して正式に仕えても良かったが、そうはしなかった。劉備の言葉はしょせん自己満足の感情論だ。
「官吏として漢に仕える義務と責務の覚悟がないなら、理想など抱かず諦めろ」
言い返そうとする関羽を趙雲が止める。
「止めろ愛紗、もう終わったんだ」
ここは仲良しごっこの場所ではない。大人の世界だ。危険な関係は長続きしない。
公孫賛も追認し俺の決定事項は覆らなかった。
翌日、劉備と北郷は処刑したと発表した。指揮官は命令するだけだから楽で良いね。
北郷は泣いて怒鳴って叫んで命乞いをしていた。生きてれば邪魔だけど、天の御遣いを殺して何かあると面倒だ。陳留に連行し、鉄仮面を被せて地下の牢獄に幽閉した。調子に乗ると痛い目に遇うってやつだな。劉備は北郷のやり口に習い侍女として囲うとする事にした。さすがに性的な奉仕はさせてないよ。
関羽と張飛も連座で始末したかったが、曹操様に我が軍の将として登用された。一応は処刑した事に成っているので恨みを買った。親しい人を奪った俺の同僚になるのは嫌だろうな。
すでに原作ゲームや三國志から逸脱してるが、俺は曹操様の天下取りに力を貸すだけだ。
春蘭様に毎日、曹操様の素晴らしさを聴かされて、少々、洗脳されたかもな。