反董卓連合参加は決定事項だ。
関東諸侯は挙って参加している。参加しなければ董卓陣営についたと判断され、攻撃されるだろう。それに立身出世の機会でもあった。
本来なら出陣準備の手配をしなければいけない俺は、休暇の消化をしろと言われて実家に帰っていた。
「お前は働きすぎだ。休みを取れ、休みを!」
そう言ってくれた直属上司の春蘭様だが、俺が代行してる仕事の方が多い。不安だ。
「宜しいのでしょうか?」
「季衣と流琉にも休みをやった。お前も遊びに行って来い」
俺が休まないと春蘭様がさぼりすぎと周りから注意されるらしい。それは事実ですからね。
母さんと一緒には休みを取れなかった。
軍主力が出陣するとなれば、領内はがら空きになる。治安維持の観点からも、敵の第五列の後方攪乱を警戒し、警備隊も忙しいそうだ。
「代わりに掃除をしておくよ」
「頼む」
そう言って母さんは駄賃をくれた。
貞淑な母さんとは違い、俺にはリビドーがある。帰りにエロ本でも買って帰るとするか。
長い間、留守にしていた家の掃除してると、陳留では北郷の脱走が発生していた。手引きしたのは謎の大男。警備兵を何人も撲殺したらしい。
十中八九、アナゴさんだな。
更に加えると囚人が解き放たれ暴動を起こした。と言っても健康体は少ない。直ぐに鎮圧された。
問題は北郷の行方だ。
北郷の幽閉は曹操様もご存知だ。俺一人で天の御遣いを隠し通せる訳がない。
諸侯に天の御使いを名乗る逆賊北郷一刀の手配を出した。生死を問わずだ。
北郷の手配を終えるとそのまま都に向かって出陣した。
「おーほっほっ」
連合軍の集結地では高笑いが聞こえた。マジで声がでかいな。
諸侯の会議に参加するほど俺の役職は高くない。立ち並ぶ旗を見ていると、劉備以外は史実通りの参陣だ。
留守を待っていると先陣は孫策に決まった。
(これは劉備が居ないからか?)
まあ、孫策なら上手い事、やるだろうと思っていた。
だけど反董卓連合の戦いは早々に躓きを見せた。
「敵将孫策、この華雄が討ち取った!」
敵の歓声と味方のどよめき声が起こった。
何だこれは。汜水関で孫策が華雄に討ち取られるなんてあり得ない。
怒った孫家の部隊が首を取り戻そうと突出したが、袁術軍の援護を受けられずに壊滅した。
悲劇はそれだけでは無かった。張遼の率いる予備隊が逆襲で打って出た。蹴散らされた孫家の部隊。
その後方で高みの見物を決め込んでいた袁術軍を張遼が疾風迅雷と成って襲った。飛龍偃月刀とか言う戟が一振りされるだけで袁術の兵が薙ぎ倒されて行く。
砂塵を巻き上げて迫る騎馬の群れに袁術は悲鳴をあげた。
「うわあ、七乃、怖いのじゃ!」
「悪いな。その首、貰って行くで」
張遼はあっという間に袁術の親衛隊を壊走させて本陣に斬り込んだ。
「お嬢様!」
戟に切り飛ばされた首がはっきりと見えた。張勲の目の前で袁術が討ち取られた瞬間だ。絶叫を上げて袁術の首を拾おうとした張勲も張遼に切り伏せられた。
「無様ね」
「申し訳ありません、華琳様。董卓軍が籠城戦ではなく、野戦を挑んで来るとは予想外でした!」
曹操様に軍師の皆さんが謝罪していた。
袁術軍が崩壊し防戦一方となった連合軍だが、曹操軍は諦めていない。
「烏龍、華琳様だけは守るぞ」
「はい春蘭様」
俺も第一線で戦った。血沸き肉躍る、これこそ戦争だ。
前進か死か。後退は許さない、死ぬまで戦えと命じたが味方は圧されていた。
使えない部下はゴミだ。ウジ虫には生きてる価値も無い。
「将軍、俺、頑張ったんです……でも、駄目でした……」
生還した部下の報告で、中華最強の猛将、呂布が現れた事を知った。
虎牢関に詰めていると思ったが、この戦況で呂布と言う切り札が使われた。
「相手にとって不足無し、ってか」
ようこそ待っていたぞ。
人生を考えた場合、ここで死んでも後悔はしない。呂布と戦えるならラッキーだ。
勝利と言うのは敵を撃退したり、降伏させた結果を言うのではない。敵をいかに効率よく殺せたか過程が問われる。弱肉強食の自然界で殺す事は本来、自然な事だ。
だから俺は過程を楽しむ、戦争を楽しむ。ショボくれた人生はごめんだ。若者の特権だな。
前線に出ると呂布の姿が見えた。周囲に散らばる味方の屍の多さに驚いた。
文字通り屍山血河ってやつか。物も人も壊れた姿は美しいな。
ここは定番の気弾を射ってみるか。まともに当たればミンチだぜ。
呂布はサイドステップして軽々と避けた。
やっぱりか。初弾は避けられた。そのまま斬り込んだが斬撃を方天画戟で食い止められた。
神様転生のチート能力は素養であって、錬成しなければ伸びない。
(やべえ、しくじったか)
冷や汗が流れた。初めての経験だ。
最強の武人との戦いは抗いがたい快楽だ。殺すのを惜しむ相手は初めてだ。
分かった。これは最高の出逢いだ。俺が殺すべく運命の相手だ。
はっちゃけたら剣を握る手の皮が剥けた。
周りを見ると敵が包囲網を敷いている。曹操様は撤退を選ぶだろう。
残って嘆き苦しむ戦いを選ぶか、それとも取り敢えずここは退いておくべきか。
呂布と視線を合わせた。
「勝負は次の機会に」
だから仕方が無い。再戦を申し込んだ。
「では……後で?」
胸が詰まる。本心で答えた。
「必ず」
次は殺す。
☆
呂布に逃がして貰い借りを作った。次は倍にして返す。
戻ると仕事が待っていた。
「烏龍、後衛に就け!」
「はい、春蘭様」
俺は小者で人格者では無いが、春蘭様は拾って下さった。ならば恩は返す。
春蘭様が曹操様の天下を望む以上、力を貸すだけだ。
後衛は逃げる事を諦めて踏み留まる仕事だ。自分の生を諦めてこそ味方の未来が開ける。
(どうやるかな)
盾の間から射つ弓矢の効果は大きい。問題は敵騎兵の突出、その衝撃を阻止できるかだ。
後衛は撤退を急がなくて良い。遅滞行動が目的だからだ。
無理に守らなくて良い。時には、攻めて敵の注意を引く。
隘路を望む高台に俺は部隊を展開させた。都から追撃してくる敵を阻止するには絶好の場所だ。
付近の民や落伍した兵を徴用して数を補った。民は権力者の為に存在する。命令されたなら何度でも死なねばならない。
「高地に上がって陣地線を展開するのは、樹木も障害となって効果は大きいですぞ」
「そうだよね」
加えて隘路と言う地形は、正面幅を限定する。つまり敵の相互支援を分断し打撃を企図した配置になる。自分の指揮が完璧すぎて、我ながら怖い。
山に引きずり込めば此方の物だ。敵は戦果拡張の追撃をしているが、突進力を削ぐには好適の地形だ。隘路に入った敵は皆殺し確定だ。
賢者モード、いや仙人モードで敵の襲来を待った。
「祭殿、しっかりしてください!」
なんじゃらほい?
主戦闘地域の前縁を視察してると、負傷した落伍兵が此方に向かってきた。敵ではない。
(あれって黄蓋か?)
見事なおっぱいが見える。
連れは汜水関で壊滅した孫家の生き残りらしい。
主と後継者を失った家は脆い。勝ち戦に乗る敵の攻撃は熾烈を極めた。よく抜け出せたと思う。
とりあえず収容して負傷者の治療をさせた。正直、手駒に成ってくれ無くても、ここで手を貸してくれれば十分だと思う。
「金ヶ崎の秀吉ってか」
「何の事ですか?」
そう訊ねて来たのは陳宮だ。
「ああ、ちょっと思い出していただけで、詮無き事です」
勝敗に天意は無い。だが勅命は絶対だ。
殺せ、殺せ、殺せ、と殺意をたぎらせ董卓軍の追っ手が迫ってくる。
董卓様を害する連合軍への憎悪か?
分からなくもない。敬愛する主君に従うのは誉れだ。彼らも正しい。
だけど邪魔するなら殺してやる。
黄蓋が目を覚ましたと言う事で顔を出したら、俺が指揮官と言う事に驚いていた。
見た目、子供だし当然の反応だな。
「わしは孫家に仕える黄蓋と申す。助けてくれた事の礼を言わせてくれ」
頭を下げようとする黄蓋さんを手で止める。孫家の宿将に頭を下げさせる何て畏れ多い。
「いえ、同じ連合軍。困った時はお互い様ですから」
正直、気を失ってる間に『黄蓋』を始末した方が良いかとも考えた。でも『黄蓋さん』なら利用価値が高そうなので助けただけだ。
俺の言葉に黄蓋さんは微かな笑みを浮かべる。
俺が知識として知っている『黄蓋』と目の前に居る『黄蓋さん』の印象は違った。
う〜ん、ここで勧誘したら来てくれないかな。
客将は勝手に決められないけど部下なら現地採用の権限がある。
本物の英雄は俺から見れば雲の上の様な存在だ。駄目元で黄蓋さんを勧誘したら、あっさりと乗ってくれた。胸の豊かな人は心も余裕がある。大人の女性は冷静な判断が出来る。そう言う事だろう。
「策殿の復讐に駆られた仲間を、わしは止められなかった。わしは宿将を自負していたが、いざと言う時に役目を果たせなかったんじゃ」
なんか言ってるけど、他人の愚痴を聞くのは鬱陶しいのでスルーする事にした。細かい個人的感情はどうでも良い。黄蓋さんが義理堅いのは分かっている。戦いを前に、使える駒が手に入った事を素直に喜んでおく。
そしていよいよ敵が現れた。黄巾賊と違いある程度殺せば敵の追撃は途絶える。
新手が来る前に引き揚げれば良い。簡単な任務だ。
数の多い敵と戦う場合、チマチマと切り殺すより範囲攻撃が有効だ。
はい、ここで気弾の使用だ。
「とりあえず死んどけ」
味方の弓兵が攻撃を行うのに混ざって、支障の出ない範囲で気弾を射ちまくった。四肢切断所か、バラバラに成りやがった。牛を思い出すな。
「ほう、気弾を使いこなすか」
黄蓋さんには見える様だ。さすがは年食ってるだけの事が──。
「何じゃ」
マジで考えが読めそうだから怖いわ。この人。
「どちらがより敵を倒すか勝負しませんか? 俺が負ければ酒を奢りますよ」
「面白い」
黄蓋さんは弓を受け取り矢をつがえた。
「先手必勝じゃ」
一度に三本の矢を放っている。それぞれ離れた場所に居る敵兵三人の頭に矢がめり込んだ。
どうだ、と言わんばかりに呼吸音で笑う黄蓋さん。
(どう言う原理だ?)
確かに凄いけど、矢が尽きるのは早そうだ。
敵の第一波を撃破するまで、途中から気の節約で弓に武器を換えたりしながら俺は暴れた。
「あっはっはっ」
俺が軽く気を纏うだけで、人が吹き飛ばされ飛び散る様は爆笑物だった。脆い、脆すぎる。それで俺を相手にしようなどと甘すぎるわ。肉塊が転がり血で辺りは泥濘と化した。
勿論、俺一人で突っ走る程の馬鹿ではない。味方と連携した攻撃だ。
黄蓋さんと勝負の結果は引き分け。まあ、良いか。
斥候を出した所、第二波が接近中だと言う。
友軍の撤退には最低、半日の時間を稼ぎたい。日が暮れるまで俺達はここで抵抗する予定だ。
(簡単には逃がしてくれないだろうな)
斥候は報告を続ける。
「それと張勲殿を収容しました」
あれ、死んだんじゃなかったのか?
担架に乗せられて重症の張勲が呻き声を漏らしながら連れて来られた。
(これは使えるか?)
袁術が死んだのはこの目で見た。張勲の復讐心を煽ってやれば味方として役立つかも知れない。
「でかした! 張勲殿は連合軍にとって大切な御方だ、直ぐに医師に見せろ」
俺は恩を売る事にした。傷心の相手を丸め込む事ぐらい出来なくては、脳筋の猪と呼ばれる春蘭様の将は務まらないし、手加減なんてぬるい事はやらない。
敵第二波は丘陵地帯に火矢を放ち、丘を前進目標に変えた。
罠と分かって隘路に突進するのは馬鹿でしかない。俺達の潜伏する丘を攻撃するのは当然だ。
植生する樹木や草木が延焼しているが、緑が濃いと効果も薄い。陣地の偽装材料としてだけではなく、防壁としての効果も高い。
日が暮れれば闇夜に紛れて俺達は撤退する。その事は敵も予測しているだろう。補足されずに逃げる罠も仕掛ける予定だ。李典さんが、あのけしからん胸をたぷんたぷんと揺らして造り上げた罠だ。効果は期待できる。
(地雷ね。あれって15世紀の発明じゃなかったのか? 本当、ぶっ飛んだ技術と文化レベルだな、この世界は)
散兵戦術の普及には装備が追い付いておらず、集団戦法が常識なこの時代。密集隊形で範囲攻撃の効果は高い。俺の気弾で数人を巻き添えにする。地雷の目に見える心理的効果は敵の足並みを乱す事だろう。
「くひひ」
笑い声を漏らした俺を呆れた顔で黄蓋さんは見ていた。
「あやつ、頭は大丈夫か?」
「いつもの事です。気にしては身が持ちませんぞ」
陳宮とのやり取りは聞こえている。微妙に何か馬鹿にされている気がした。だから注意する。
「そこ、うるさい」
そうこうしてる内に敵歩兵は丘を登り陣地に向けて突撃してきた。
「放てぇ!」
タイミングを測っていた黄蓋さんの号令で、うちの弓兵が突撃破砕の射撃を浴びせる。
見ろよ、針ネズミだ。ざまあ。笑いが止まらない。
敵の気迫は伝わってくるけど、陣地前で攻撃は頓挫した。
俺達、後衛の兵力は限られていた。敵は損害を気にせず攻撃を続けるべきだった。だけど敵の指揮官は、味方の損害に攻撃続行を躊躇した。
戦場で迷えば死ぬ。俺は予備隊を率いて逆襲に出た。
木々の隙間を駆け抜けて敵の先頭集団に斬り込む。
指揮官陣頭はこの時代の常だ。偉そうな相手を選んで首を刈り取って行く。
ボーア戦争やフレンチ・インディアン戦争、アメリカ独立戦争が将校の狙い撃ちは効果的だと教えてくれている。
「この楽綝が天誅を与えてやった。次に死にたいやつは誰だ?」
切り取った首を投げつけてやると敵に動揺が見えた。
決まったな。根性は砕けた。第二波も引き揚げて行った。
この次は夕暮れか。
「お疲れ様です」
戻ると陣地変換を命じた。此方の位置がばれたからな。
「罠を仕掛けて予備陣地に移動しよう」
俺達が移動した後に、主陣地から敵の悲鳴が聞こえた。
逃げたと思って、素直に喜んで進出したらしい。馬鹿だなあ。
☆
夜陰に紛れて撤退する前に、再度の逆襲を行った。
此方が退却すると思い込んでいた敵は完全に奇襲を受ける形に成った。
一部の歩哨を除いて全員が眠りこけていた。
気付いた時には、燃え盛る天幕や糧秣で辺りは火の海だ。殆どが焼け死ぬか煙に巻かれて一酸化炭素中毒で死んだだろう。他人の不幸は蜜の味と言うが、撤退する俺達には必要な処置だった。
苦しむ敵兵を無感動な視線で眺めていた張勲殿に声をかけた。
「行きましょう」
今回は獲物もあった。敵の軍馬を鹵獲して撤退の足を稼いだ。
「この程度でお嬢様の敵討ちには成りません」
だろうね。でもこんな所でぐずぐずしていては逃げ遅れてしまう。
「そうですね。曹操様も、このまま黙っている御方ではありません。機会は必ず与えられます。次は倍返しをしてやりましょう」
張勲殿は大人しく馬首を返した。やれやれだ。
逆襲に参加したいと言い出したのも張勲殿で、焼き討ちを提案したのも彼女だ。復讐心も我が軍の役に立つ。利害が一致してる限りは協力してくれるだろう。
人の命は金に変えられる。劉備を見れば分かる。金が無ければ何も出来ない。人も付いてこない。
指揮官と違い末端は頭を使わなくて良い。ロボットの様な兵士が求められる。兵の戦果が指揮官の手柄となる。逆に兵が失敗した場合は兵の責任となる。
俺はまだその中間だ。当然、上に報告・連絡・相談は欠かせない。張勲殿と黄蓋さんが加わった事を本隊に伝令で知らせた。
事後報告に成るが、優れた人材の雇用は叱られはしないだろうと言う確信があった。
陳留に戻ると早速、曹操様に拝謁する事に成った。
「ひぁんっ!」
へ?
振り返ると陳宮が張勲殿に抱き締められていた。
「離すのです!」と何やらじたばたもがいている。
「ああっ、これでしばらくはねねさんとお別れなのですね。ねねさん成分を補給しておかないと」
臭いを嗅ぐな、臭いを。
陳宮から助けてと言う視線を向けられたので、張勲殿に声をかける。
「張勲殿、曹操様がお待ちですので」
「は~い」
あっさり離しやがった。
張勲殿が愛する主、袁術を失った事で心に傷を負った事は知っている。
そこで俺は代用品を与えた。背丈、年格好の近い陳宮だ。
結果は上手く行き、陳宮を与える事により張勲殿は表面上の安定を取り戻した。
「失礼します」
部屋に曹操様の他、主だった面子の集まる中で張勲殿と黄蓋さんを紹介した。頷く曹操様。
「
後は女同士の話し合いか。
「はい」
俺は一礼して退室する。後は残った者で交流すれば良い。
帰った俺には仕事が待っていた。
反董卓連合に参加した諸侯は朝敵とされた。董卓様が官軍で、その敵が賊軍。分かりやすい構図だ。
だけど曹操様は大人しく討たれる様な方では無い。天子様を傀儡とする董卓討たねばならんと号令をかけられ和平の道を断ち、失った兵の補充は荊州や揚州、周辺諸国の切り取りで行う事とした。
言ってる事は立派だけど、傀儡とは言え朝廷の命令に反旗を翻した。遂に動乱の時代に突入した訳だ。曹操様は民や諸侯を扇動し騒がせた内乱罪、殺人罪、詐欺罪から強姦罪、姦通罪、近親相姦罪、猥褻罪の性犯罪等あらゆる罪状を被せられて手配された。
まぁ、朝敵と言っても勝者が歴史を語り、正義が真実となる。勝てば良いのだ。
まず標的となったのは旧袁術領。黄蓋さんも味方に付いたので、旧孫家の家臣も積極的に雇用するそうだ。欧米の植民地統治に似たやり方だな。
現地には警備隊が先行して投入され役所や城を接収、治安維持に母さんも就いているそうだ。そして休む暇も無く俺も旧袁術領に向かわされた。
冷静に考えると、本隊を逃がす為に残った後衛をそのまま転戦させるってブラックな処遇だ。俺じゃなかったら辞めてるぞ。
糞虫どもをぶち殺して憂さ晴らしをするか。
その前に、部下にカンパの金を渡してやった。後衛戦闘を経験した俺の部隊は休ませたかった。上司として人心掌握の一つだ。
「楽しんで来い」
「有難うございます将軍」
売春宿でハッスルする部下達を見送って俺は新しい任地に向かう。
春蘭様が下さったのはやりがいのある仕事だ。旧袁術領を治める各地の有力者を曹操様は処罰されなかった。むしろ優遇する融和政策を取られた。
(汚職まみれの馬鹿でも使いこなすのが曹操様か)
現地人の暫定政権に協力させ、間接的に支配するイラクの占領と同じだな。
公式・非公式のルートで接触し懐柔を図ったが、中には強欲な馬鹿が居た。調子に乗ってもっと搾り取れると勘違いをする輩だ。
俺はそう言った馬鹿の掃除を命ぜられた。
「
早速、寿春の警備隊を訪ねた。
「久しぶりだな」
「はい、母さんもお変わり無い様で」
傷だらけだが均整の取れた肢体で鍛え上げられている。さすがは母さんだ。
いつも母さんとつるんでるお二人が居なかったので訊いてみた。
「于禁さんや李典さんは?」
「沙和と真桜も、各地の匪賊退治や官匪の捕縛に飛び回っている」
問題の抵抗勢力の根拠地は旧袁術領に広く分散していた。そりゃ大変だ。
「なるほど」
周辺諸侯に目を向ければ陶謙、馬騰は病で倒れ、劉繇、劉表、劉焉は急死している。各地は後継者争いやなんやかんやと混乱の渦中にあり、曹操様の邪魔を出来る者は居なかった。
(となると、自発的な反乱か? いや、こうも都合良く有力諸侯がくたばるなんてあり得ない)
流石に俺一人では手が足りないので、無理を言って警備隊から人手を少し借りた。
俺に必要なのは背中を任せられる部下だ。
残りの兵は道路補修の名目で公路修復部隊を編成し、旧袁術軍の兵士を集めた。
「私は
部下は平等に扱う。だけど俺を年下だと舐めて、足並みを乱す奴はいらない。
訓練に悠長な時間をかけてはいられない。5人で伍、10人で什、25人で两、100人で卒として最低限の部隊行動が取れるように、警備隊からの応援を助教として再訓練した。元が袁術軍の兵士だ。幾ら蜂蜜領主の部下でもそれぐらいの基礎は出来て当然だ。
再訓練に1週間。完璧とはいかないが、部隊を実戦投入した。相手は私兵を集めた地方の役人だ。
「さあ、殺して来い」
敵に向けて前進する我が兵。投降兵は幾ら死んでも良い。後方からとりあえず様子見だ。
(この反乱、絵図を書いたのは賈駆か)
賊軍は官軍から援助を受けていた。董卓軍の参戦が本命だろうけど、向こうも再編成や統治で忙しい。おいそれとここまではやって来ない。
蜂起のタイミングが悪い。連携も考えずに穴だらけの反乱だ。
頭悪すぎだろ。
志の無い者の末路はどれも同じだ。
「降伏します。命ばかりはお助けを」
「お断りだ」
武器を持って抵抗した者は皆殺しにした。ひざまずき命乞いをする者も容赦はしない。この瞬間が楽しい。仁義なんて糞食らえだ。
燃える敵の拠点だった街で加担した住民を捕らえる。無駄に殺しはしない人的資源は有効活用しないとな。この前、北郷が逃げた時に働き手を失ったし、こう言う時に集めて置くべきだ。
賈駆の狙いは、反董卓連合の諸侯が自領で手一杯に成り動けなくする事だろうか?
まあ扇動されて簡単に乗ったこいつらはあほだが、捨て駒で可愛そうだとも言える。
殺す覚悟を持ち生き残った兵には二日間の休養を与えた。ゆっくり休んだら次に行く。
繰り返せば精兵に育つ。
油断をすると此方が足下を掬われる。
「敵だ、敵襲だ!」
敵の弁衣隊が夜襲をしかけてきた。士気を下げるには寝込みを襲うのが最適。それは俺自身がやって来た事で良く分かっている。やるじゃないか。こうでないと戦は面白くない。
敵の首魁は元袁術の部下で楊弘だ。俺はよく知らないが、世間に知られていると言う事はそれなりの人物なのだろう。
新兵は、ここで臆病者か、烏合の衆で終わるかが試される。
(勝てると思ってるから敵も出て来たんだろうな)
天幕に降り注ぐ矢弾は此方に混乱を与えている。
西洋の甲冑と違い後漢時代の甲冑は槍で突き刺せ剣で斬れるほど柔い。それでも着ていたら少しは違ったが、寝ている天幕の中では脱いでいて当然だ。結構、死傷者が出ている。
実に面白い。
どんな声で泣いてくれるのか楊弘を殺す時が楽しみだ。
この日は俺達が負けた。
☆
翌朝、追加の兵を募る為に寿春に戻ると陳留から呼集がかけられた。
上の命令は絶対だ。母さんに部隊を引き継ぐと、俺は馬を乗り継いで帰還を急いだ。
国策の決定は情勢の変化に合わすから、会議は頻繁に行われていた。
「状況を報告しなさい」
最近採用された軍師の郭嘉殿が答える。
「領内での反乱は増えています。現状から考えて討伐には二ヶ月かかるでしょう」
でも勝つのは決まっている。俺は生まれながらに神様に祝福されている。それゆえ最後に曹操様が勝つ事も決まっている。
「賊には生きて故郷の土は踏ませないわ。奴等に与えるのは敗北だけよ」
春蘭様は命令さえあれば今すぐにでも飛び出して行きそうだ。
旧勢力に反乱を影から援助するのは董卓軍。まあ、これなら自軍を消耗しないからな。だが甘い。うちの曹操様はやられたらやり返す御方だ。
殺しは楽しく、殺しは優雅に。一度始めたら最後まで止まらない。
こう言う仕事だ。武人の誇りはいらないよな。
正義で飯が食える。これ以上に幸せな事は無い。
「後背の憂いを断つべきかと」
荀文若様の言葉に曹操様は頷いた。
「そうね」
曹操様の決断は早い。
「春蘭は交州、秋蘭は徐州を落としなさい。朗報を期待してるわ」
反乱を支援する勢力は分かっている。根から断つ為に、先ずは身の回りお掃除をしましょうと言う事だ。
曹操様の全般指導が決まり命が下された。解散しそれぞれの部署に向かっていく。
俺も春蘭様の後に続こうとした。
「烏龍」
「はい春蘭様」
春蘭様は振り返ると俺に声をかけた。いつもの様に出兵の手配か?
「私と秋蘭が出てる間、お前は華琳様のお側を守れ」
親衛隊も残っているが、子飼いの部下を残して置きたいと言う事だろうか。
「かしこまりました」
敬愛する上官の指示だ。生涯とはいかないが相応の仕事は果たす。
左手で右手を包む抱拳礼で答えると、春蘭様は軽く肩を叩いて退室する。犬でも恩を忘れない様に俺も忠を尽くす。春蘭様の望む事に答えるのが俺の生き方だ。
陳留に居る間は、おおむね定時に帰れる。積んでるエロ本の消化でもしようか。一応、劉備が俺付きの従者だけど、そっちのお世話は要求しない。自発的に身体を提げてくる様に心を解きほぐし、依存させて落とすのが面白いからな。
「痛っ」
流琉に腕を捻られ、陳宮に脛を蹴られた。
理由を聞くと二人は「何となく」「蹴らないといけない気がしたのです」って答えたが、何だそりゃ。訳わかんねえぞ。