その後、曹孟徳様は天下を統一された──と上手くは行かなかった。
さらに東方では呂布の率いる軍勢が公孫賛を撃破。二枚看板を討ち取り袁紹を下した。董卓軍はその武威を多いに知らしめたんだ。呂布、マジで強ぇ。
一方、曹操様は陳留のある
「はぁ……でも税金が多いな」
給与明細を見て溜め息が出る。
曹操様の軍事行動を支えたのは所得税、復興特別所得税、消費税、固定資産税、相続税等の様々な税収の他に、捕らえた罪人や奴隷の生み出す金があった。
「おっちゃん、いつものスタミナ定食」
街中を少ない財布を握りしめて定食屋に行った。栄養を着けねば良い働きは出来んからだ。
「はい、かしこまりました」
確かに中華を二分する勢力と成ったが
そして危惧した通りに陳留が急襲された。軍は
「楽将軍、至急、登城せよとのご指示です!」
「え、まだ食い終わって無いのに。畜生、仕方無いな……。おっちゃん、勘定置いておくから」
「ありがとうございます」
陳留には親衛隊が駐屯していたが、相手は呂布だった。さらに官軍の兵力は此方を上回っていた。
俺も呂布と戦いたかったが、曹操様より民の避難を命令された。
「秋蘭の下に民を無事送り届けなさい」
「御意」
朝敵と成った曹操様に従う民がどうなるかは分かっている。これまで俺達が散々やって来たルーチンワークの繰り返しだ。
「腹減った……」
「烏龍ったら。じゃあ、帰って来たら何か作ってあげる」
食事の途中で呼び出されたので空腹だった。流琉の言葉を嬉しく思う。
「ああ、楽しみにしてるよ」
曹操様と兵は民を逃すために残られたのだ。曹昂様や流琉も居るし簡単には負けないだろう。気合いを入れた。
流琉の飯はこの世界でまともに美味い。将来、うちの料理人に雇いたいぐらいだ。
俺は約束を果たして貰う為にも、秋蘭様に民を引き渡すと帰りを急いだ。
「私も直ぐに兵を纏めて後を追う。華琳様を頼む」
秋蘭様も自ら先鋒を務めたい所存だろうが、徐州方面平定の仕事がある。適当な処置では背中を衝かれかねない。だから俺に頼んで来た。
「微力を尽くします」
俺が
そんな訳あるかと逃亡兵を宥めたり脅したりして俺の部隊に組み込んだ。手駒は幾らあっても困らないからな。
陳留に向かうと城門は破られ街は煙に覆われていた。敵主力は移動した様だ。一部の部隊が掃討を行っている様だった。
「官軍を名乗りながら賊にも劣らぬ蛮行、許せん。糞ったれ共をぶち殺せ」
俺の命令一下、反撃を開始した。
敵は寡兵、簡単に捻り潰し城内に入った。身ぐるみ剥がされた死体があちこちに転がっている。
「あらまぁ」
うちの母さんは此方に居なくて正解だったな。
血溜まりの中に流琉が倒れていた。残った敵を斬り殺しながら駆けつける。
「烏……龍……」
「よお流琉。随分とやられてるじゃないか」
髪は艶やかさが失せて血で赤黒く染まっていた。
「あはは……」
抱き起こしたが流琉は致命傷だった。息をするのも窮屈そうで、こいつ死ぬなと直感的に分かった。
「曹操様は無事か?」
傷も心配だがそれよりも主君の行方を知らねばならない。苦痛に表情を歪めながらも流琉は答えた。
「曹昂様が、影武者になって……敵を、引き付けたから……」
敵主力が居ないと言う事は落ち延びられたか。
「そうか。流琉も頑張ったな」
俺の言葉に流琉は微かな笑みを浮かべた。
「前から……思っていたんだけど……」
「何だ」
流琉の口元に耳を近付ける。ちょ、咳き込んで血を付けやがった。
「烏龍って……お茶……みたいな……真名だよ……ね」
「うぉい!」
何だそりゃと言おうとしたら流琉は口元に笑みを浮かべて息絶えていた。
(最後の言葉がそれかよ)
友が死んだ。その死体を眺めて、やっぱり生足が見えすぎじゃないかと漠然と考えた。
「おい、飯作ってくれるって約束はどうなったんだ。もしもーし」
腹が減りすぎたのか、何だかぞくぞくした。
──ごめんね。そんな言葉が聞こえた様な気がした。
敵に殺られるぐらいなら俺の手で殺したかった。背徳感で最高の快感を味わえたと思う。
背後から迫ってきた敵の斬撃を避けて剣を突き刺した。胸を刺された敵は血ヘドを吐く。剣に絡み付く筋肉の手応えを感じながら引き抜いた。傷口から血が溢れ出すのをぼんやりと眺める。
殺しは楽しいけど、今日はあまり楽しく無かった。
「楽将軍」
「全員殺せと言いたい所だけど、聞き出す事がある。何人か生かしておけ」
「は、はい!」
笑顔を見せたはずだが、あいつら何だか脅えていた。失礼な部下だ。
部下に任せ切りにするのも友を失ったショックだな。現実感が無い。悪夢を見てる気分だ。仇を取ると誓った。
城の中で自害している者も居た。顔を確認しようと遺体をひっくり返す。
(諦めるの早過ぎだろうが。自害するぐらいなら死ぬまで戦え)
根性の無い玉無し野郎で蹴ってやろうと思ったが、郭嘉殿だった。
郭嘉殿は軍師だ。チートに頼る俺と違い本物の努力家だ。彼女は曹操様を崇拝していた。
(郭嘉殿は自ら死ぬ事で曹操様の脱出を偽装してるのか?)
秋蘭様に伝令を送ると周辺を捜索した。ここは曹操様の隠れる場所が幾らでもある。
敵を殲滅した後は日が暮れるまで捜索をさせた。だが見つからない。
「焼きもぐら、焼きもぐらあるよ」
一部の商人は商売根性逞しく営業を再開していた。「
(その曹操様が見付からないんだ)
むしゃくしゃした気持ちでもスッキリさせるべく、娼婦でも買おうかと売春宿に向かった。
「お客様、ご要望はありますか。当店では、とびきりの
店の者に女の好みを訊かれた。
「最上の女を頼む」
「最上ですか」
何で念を押すのか考えた。俺が見た目ガキだから支払いの心配をしてるのか。
「ああ、金ならある。最上の女を頼むぞ」
財布の金を見せると納得したのか部屋に通された。
そして現れたのは髪を下ろした金髪の少女……って、曹操様じゃねえか。
「出迎えご苦労様、よく私がここに居ると分かったわね」
「あ、はい」
極力、表情を変えずに答えたが内心、ビックリした。
(なるほど、敵の目を眩ませる為か)
同性愛者な曹操様が売春宿に隠れているとはお釈迦様でも気がつくまい。
「民は無事に送り届けた様ね」
「はい。秋蘭様は兵を纏めて来られるとの事で、私が先鋒として戻って参りました」
なぜ今まで隠れていたか尋ねると、敵味方の区別を付ける為だとおっしゃった。
「関羽には謀られたわ」
拳を握り締める曹操様は吐き出す様に教えてくれた。陳留に敵の攻撃を手引きしたのは関羽だったらしい。寵愛を受けながら恩知らずだ。次に会ったら殺してやる。
「よく御無事でした」
曹操様も武を嗜まれるが、関羽の武はそれを凌ぐ。パッと見た所で曹操様に怪我は無い。
「流琉のお陰よ」
親衛隊が協力して関羽を退けたと言う。数は力だね。軍神関羽は尻尾を巻いて逃げたか。
(流琉か……)
曹昂様が囮に成ったのは当然ご存知だ。だが流琉が死んだ事は知り様がない。
「その流琉ですが」
俺は流琉の死を伝えた。
「そう……流琉までが……」
無表情に成った曹操様が、火山の噴火前見たいでなんだか怖い。
「購いはさせるわ」
血は血で購う。当然だ。それしか納得できないからだ。
☆
流琉の死に仲の良かった仲康殿は激怒した。
「どうして流琉を助けてくれなかったんだよ! 烏龍の馬鹿ぁ!」
いらっとする言葉だ。
(俺が流琉を……好き好んで友を殺したとでも言うのか?)
納得出来ない怒りを仲康殿は俺にぶつける事にしたのは分かる。でもそれとこれは別だ。
馬鹿なガキは直接的暴力で、殴りかかって来やがった。
(短絡的過ぎるんだよ)
俺は他人の八つ当たりに付き合う気はない。
「落ち着いて下さい」
攻撃を回避すると得物を弾き、仲康殿の顔面を殴り飛ばした。これはガキに対する躾だ。
「このぉ!」
再び向かって来ようとする仲康殿。口で言っても理解しないなら、体に教えるしかない。
ボディブロウをえぐるように打ち込んだ。
「はぁ……はぁ……」
倒れた所、蹴りを入れてやった。しばらくは立てないはずだ。咳き込んでいる。
「まだやるんですか?」
何度も立とうとする仲康殿に俺は呆れを感じた。だからガキは嫌いだ。
頭を掴んで視線を合わせる。
「仲間割れをしてどうするのですか。我々は嵌められたのです!」
俺達は嵌められた。
反乱で地方に兵力を分散させられ、元を断つために外征を余儀無くされた。
本拠地が手薄に成った瞬間、まさかの急襲を受けた。全てが敵の策だった。
「本当に殺すべきは敵に情報を流した関羽です」
目を丸くする仲康殿。
「それ、本当?」
失血で頭に登った血が少しは減って、聞く余裕が生まれた様だ。俺は頷く。
「筆頭軍師である荀文若様の言葉なら信じますか? それとも曹操様に直接、お聞きに成られますか」
幾ら、敵が情報収集に優れていると言っても限度がある。内部の手引きが大きかった。
最悪な瞬間での裏切りだった。
「奇襲を簡単に許すほど我が軍は甘くありません。その事はご存知でしょう?」
自分達はミスをしない。だったら原因は外部にしかない。
「分かった。流琉の信じた烏龍を信じるよ」
それと謝罪を受けた。俺は大人だからな、倍返ししたし許してやるよ。
「早く医務室に行って下さい」
それだけ告げるとその場を離れた。
いきなり喧嘩を売られたんだ。肩なんか貸さないし連れてってやる義理は無い。
「華琳様が亡くなったと言う噂は、敵味方の区別を付ける役にたったわ」
荀文若様はおっしゃった。
「日和見の連中も、旗色が悪くなったと判断して反乱に加わった。これは不穏分子を一掃する好機よ」
各地の反乱勢力が活発に動き出していた。炙り出しの手間が省けたと言える。
「稟ちゃんも華琳様のお役にたてて、鼻血を流して喜んでいると思いますよ」
人形を頭に乗せた見た目少女の程昱がそう言うと、荀文若様も「そうね」と微笑みを浮かべられた。
「行くぞ、烏龍。華琳様の敵は私達が始末するんだ!」
「はい、春蘭様」
俺は喜んで各地を転戦した。流琉の料理が二度と食べられない怒りを力に変えて、叛徒の連中をぶっ殺す。
仲間を失った傷も癒えぬ内に、曹操様は反攻を命じられた。
まずは涼州に潜む馬超に接触した。一族を皆殺しにされた馬超は董卓様を恨んでいた。
復讐の機会を狙っていた馬超にとって曹操様の接触は、渡りに船だった。曹操様からの援助で兵と金、物資を手に入れた馬超は長安を襲撃し、血縁者を皆殺しにした後で地下に潜った。
「馬超は良くやってくれたわ。生活には十分に配慮してあげなさい」
報告を受けた曹操様は、蕾が華を咲かせた様に笑みを浮かべて機嫌良く喉で笑った。
「祝杯をあげよう」
知らせを聞いたその日は、俺も嬉しくて陳宮と仲康殿を誘って飲みに行った。
「流琉の仇はきっと取るんだ!」
「そうですね」
俺は言葉少なく応じた。
馬超の行為で董卓様の御心を傷付ける事には成功しただろう。賈駆は血眼になって馬超を探した。
その過程で、不平不満を言う者は尽く殺害され、幾つかの街や村が滅ぼされた。
これは董卓領内での経済活動を萎縮させる事にもなる。
(粛清が始まった)
これで董卓様は悪名が広がり、不満分子狩りを行う事で悪循環する。
自分の手を汚さず復讐を遂げた曹操様がえげつない。
けど、これは戦争だから仕方が無いね。
☆
領内での反乱勢力の掃討後、古参兵と入れ替わりで新兵が部隊に配属されて来た。古参兵は治安維持に張り付けて置くそうだ。
大規模な入れ替わりが終わると洛陽攻略が発動された。
(初めが何進大将軍による宦官粛清、二度目が反董卓連合の戦、三度目の正直で今度こそ勝てるか?)
黄河南岸の官渡に送られた俺は、そこで趙雲と合流した。
「お久し振りです」
反董卓連合の戦では公孫賛の将として正式に参加していた。その後、袁紹に破れ主君を失い仇討ちを狙っていたが、呂布率いる鎮東軍によって袁紹が征討され機会を失った。
「董卓殿は結果として白蓮様の仇を討ってくれた形に成りますが、朝廷で専横を振るい民を苦しめております。漢を救うには曹操殿にお仕えするのが一番だと考えました」
実際、董卓様の対抗馬は中原の覇者と成りつつある曹操様しか居ない。残った方を選んだと思われても仕方が無い。
「そうか」
まあ今更、どうでも良い。本隊の進出援護の為、対岸を防衛する董卓軍の掃討を俺達は命じられていた。趙雲の腕は信頼出来るが戦う理由に興味は無かった。
「
「お任せを」
趙雲は不敵な笑みを浮かべた。
戦が終わり董卓様が排除されても曹操様が取って代わるだけだと気付かない訳もない。
(裏切ったらその時は殺すから問題無いか)
兵を乗せた船は対岸を目指すが、次々と座礁した様に浸水し沈んで行く。混乱が発生した。
「成る程な」
俺からは良く見えた。
黄河北岸には、上陸の障害物が構築されていた。水面ぎりぎりの高さに直接された杭が船底を傷付けていた。
(敵の防御は想像以上に硬いって事か)
投げ出された兵士に、敵は弩や弓で攻撃を浴びせてくる。怨嗟の声をあげて倒れていく我が兵士達。死体が沈んだり、浮かんだり、流されたりしてる。
この汚い水も下流では生活用水に変わる。変な病気が流行らないか病原菌が怖い。
俺は趙雲の部隊の後に弓兵を展開させた。弓と言っても大砲や銃とは違う。一般の兵が射ても対岸まで効果のある援護は難しい。だから趙雲の支援では無い。
「趙雲が後退したら矢を浴びせてやれ」
潜在的不穏分子は存在が精神的にも宜しくない。いつか邪魔になるなら、機会があれば殺しておく。良い女だが仕方が無い。
俺の部下は命じられたら民でも味方でも殺す。躊躇をしない連中だ。そう俺が鍛えた。
董卓軍からの攻撃が激しくなる中で趙雲は果敢に前進した。神速とは行かないが、敵が倍近い事を考えると旺盛な士気と敢闘精神を見せていると言えた。
「へぇ、下がらないのか」
橋頭堡さえ確保すれば拡げて行くだけだ。攻撃は停滞すると思っていたが、趙雲の働きは予想以上だった。成果を出してる以上は見殺しにも出来ない。俺は増援を送り込む。
戦場で生き残る為に必要なのは勇気と努力では無い。猜疑心と臆病さだ。勇気のある者は名を上げて早死にする。分相応が一番だ。
こんな楽しい戦がずっと続けば良いが、終わりが近い。
「将軍、捕虜はいかがなさいますか」
「武器を与え先頭に立てろ。我らの盾に成って貰う」
投降した敵兵を前に、俺達は進撃する。投降兵が生かされた場合は忠誠を示す必要があるからだ。
頑強に抵抗した河岸と違い、途中で遭遇する敵の抵抗は散発的な物だった。
「行け」
罠かも知れないので、そこに投降兵を突っ込ませる。
「少し、酷くはありませんか?」
趙雲は相変わらずのあまちゃんだった。
「戦場で死ぬ程度の者は、そういう運命なんだよ。カスはしょせんカスだ」
何かしら言い返したかったのだろうが、俺相手に反論しても一蹴される事を思い出したのか趙雲は口を閉じた。そうだ黙ってろ。黙ってたら見た目は良いからな。
戦とは利益追求手段でしかない。ゲームやスポーツとは違う。
人が一人で出来る事は山ほどある。戦では殺した数だけ、良い形に成って自分に見返りが戻って来る。下だけ見て頑張れば気持ちの良い仕事が出来る。無理を通せば何でも出来るのだ。
行き先の街では、城的Bossを抱き込んで此方に協力させた。イラク戦争と同じだ。地元住民を味方に付ければ色々と便利だからな。捕らえた捕虜や罪人の子女から見目麗しい者を選んで貢女として与えたりした。贈り物は有効だね。
趙雲は俺を軽蔑した眼差しで見ていた。気の強い女は嫌いだから、こいつもいつか処分してやる。
☆
「糞」
だがすんなりとは進ませてはくれなかった。敵は待っていた。
幾ら何でも夜間の水上戦を想定していなかった。
董卓軍の迎撃を受け俺の船は大破した。他の船に移乗する暇さえ無かった。
「最悪だな」
残りの部隊は趙雲が指揮してるだろうから気にはしない。だけど陸には関羽の部隊が待ち受けていた。土煙をあげて近付いて来る騎馬の中にやつは居た。
「待っていたぞ。その首、貰い受ける」
「あっそう」
機動予備の戦力を迅速に展開させたのか、元から予測されていたのかそれは分からない。とりあえず、調子に乗ってる関羽がムカついたのでぶっ殺す事にした。
「いやぁ!」
俺は斬り込んだ。馬に罪は無いが、脚をぶった切って騎手を倒して行く。
「卑怯な」
馬鹿か、これは戦だぞ。雑魚風情が勝った積もりで油断したからこの様だ。笑止千万。
「でぃ」
蹴りを腹に受けた敵が吹き飛んで行く。関羽までの道を開いたら、一気に首を狙う。
「はぁっ」
関羽は青龍偃月刀で俺の斬撃を受け止めるが、そのまま力押ししてやる。
綺麗な肌に刃が血筋を入れた。美味そうな血だ。
「いやああぁぁぁぁぁっ!」
髪を掴み引きちぎる。激痛に悲鳴をあげる関羽に髪を投げ付けてやった。
皮膚と肉片が付いている。地味な攻撃技だが効果は高い。
「やぁっ」
倒れて背中を見せた所、剣を降り下ろそうとした。しかし邪魔をされた。
「そこまでだ、動くな」
「あ?」
振り向くと陳宮が敵に拘束されていた。何やってんだよ。
「形勢逆転だな。武器を捨てろ」
見捨てて関羽を殺そうと思ったが、陳宮の瞳を見て溜め息を吐いた。あいつは俺がどんな選択をしても受け止める覚悟をしていた。信頼されると答えたくなるのが人情だ。
「最悪だ……」
武器を捨て捕らえられた俺は、洛陽に送られる事に成った。幸いにして捕虜に成った部下は少ない。
董卓様の配下と言っても末端には糞も混ざっている。俺達の待遇は悪かった。持ち物は奪われたし裸足で歩かされる。時おり、見張りの兵士から汚水や残飯をぶっかけられたり槍で小突かれたりした。
「董卓は高潔な人物だと聞いていたのですが、関羽は部下の抑えもせず軍規は緩い様ですな」
冷静に分析する陳宮だが疲労の色を隠せない。
(こいつら連れてさっさと抜け出すか)
そう考えていると尋問を受けた。戦場でやった残虐行為がどうのと関羽から責められた。
「青州では罪も無い女子供の虐殺をしたな」
青州と言うと黄巾賊の掃討作戦を行った記憶がある。
黄巾賊が待ち受ける中、前進した。俺の部隊は頑強な抵抗を受け苦戦を強いられた。結局、半数が死んだんだ。
「貴様は捕虜3万を生き埋めにして処刑した。そうだな?」
「は? そんな勿体無い事をするわけが無いだろう。殺すなら楽しんで殺すぞ」
周りの者も確かにと納得してくれた。俺の捕虜に対する扱いは軍規に従った物だ。
「ふざけるな!」
関羽はちゃぶ台をひっくり返しそうな表情だ。
「落ち着けよ。生理不順か、性欲でも溜まってるのか? お前の器量で股を開けば幾らでも稼げると思うぞ」
俺はちゃぶ台ではなくチェス盤をひっくり返してやる。
「くっ……、次だ! 貴様らは揚州に度々、侵略をしていた」
そりゃ何回か越境作戦は行ったな。と言うか、どうやって調べたんだこいつ。
縄で縛られるのは屈辱的だ。SMは俺の趣味で無い。俺は責められるより責める方だ。
そして俺の前には激昂する関羽の揺れるおっぱい。器はともかくおっぱいはデカい。
(けしからん。実にけしからんおっぱいだ)
関羽の胸を睨みつけて、あの乳をもぎ取ってやると誓った。
「民を苦しめる外道め。御主人様が、貴様らの所業を全部教えてくれたぞ」
(おっぱい、おっぱい、おっぱい)
ん、御主人様って言ったか?
「それは北郷一刀の事か」
当然と言う様に頷く関羽。
性欲と自己顕示欲で動いた男。それが北郷に対する俺の評価だが、関羽は心酔している。
「天子様も御主人様を御認めに成っている」
今の天子様は北郷を公認していると言う。自分の地位を脅かす相手を認める何て馬鹿なの?
漢民族は異民族に対して寛容では無い。蛮賊として扱って来ていた。そこに現れたのが自称、天の御使いだ。
(どんな手を使いやがったんだ?)
一つ分かる事は、今の天子様も女だと言う事だ。どいつもこいつも股の弛い売女か。
「特に、御主人様に無礼を働いたお前は打ち首にしてくれるわ」
都に行けば俺は処刑されるらしい。嬉しそうな関羽だが、今夜にもずらかるとしよう。
尋問が終わり解放された夜半、土砂降りの様な雨が降って来た。好都合だ。
「寒いし冷たいし最悪だ」
そう言うと見張りの兵士が小突いて来る。
「黙ってろ!」
捕虜は外で家畜以下の扱いだ。肺炎にでも成って死ねと言う事だろうか。
雨天欠航と言う言葉があるけど、俺の場合は雨天決行だ。
「威勢が良いな。でも調子に乗るなよ」
「何だと!」
身に寸鉄を帯びていなくても俺には母さんに習った気がある。
「そぉい!」
縄を切断し見張りを殺した。武器を奪うと部下を解放する。
「やっちまえ」
土砂降りの様な豪雨が降る中、俺達は動き出した。眠りこけた敵兵を始末して行く。
神様が俺を選んで転生させてくれた瞬間から、この世界の主人公は俺だ。
俺を中心に世界は回っている。関羽や北郷は言ってみれば、俺の目標を邪魔するMOBキャラだ。
世界を楽しむ為にも面倒臭いボス戦のイベントは早々に済まして、仲間とまったりしたいだけだ。だから北郷はぶっ殺すし、手下の関羽も殺す。
俺は関羽の天幕に忍び込んだ。
寝台で横に成った関羽が見える。
(糞ビッチ、死ね)
動物的本能か、ぱっと起きた関羽は俺の姿を確認すると頬を染めて大声を出そうとした。
「何を……!」
俺は関羽の胸に奪った剣を突き刺した。豆腐とは違う。肉の感触だ。
剣を引き抜くと関羽の胸元が血に染まっていく。勿体無いが仕方無い。
唖然とした表情のまま関羽は息絶えた。念の為に首を切り取ったら、部下が敵を制圧完了したと報告に来た。
「とっととずらかるぞ」
奪えるだけ奪うと俺は黄河を目指した。雨が俺達の痕跡を消してくれる。
味方との合流は簡単だ。
水上戦闘で突破が出来なくても牽制は出来る。敵の水運を封鎖していた。
「御無事でしたか」
多少の損害を受けたが趙雲達も無事だった。しかし、だからと言って俺の救出をやらなかった事は許しがたい。
「ぎゃぼっ!?」
俺のデコピンを食らって趙雲は吹き飛ばされた。
「早く助けに来いよ。無能が」
気絶してる趙雲を軽く蹴ると、俺は汚れを落とすべく水浴びをした。その後は腹一杯飯を食って睡眠を取った。
起きたら曹操様の元に関羽の首を早馬で送った。
「生かしたまま捕らえたかったのに、殺してしまったのね」
寵愛を裏切った相手だ。鼻や唇、耳を削ぎ落とし目をえぐり出しても曹操様は飽き足りなかった。蹴鞠の道具代わりに遊ぶと燃やしたそうだ。火葬にしただけ、野晒しよりもまだましだろう。
関羽は制裁した。これこそ天誅だ。
次は朝廷と北郷だ。
最高の世界を作ろうとする曹操様に、心無い中傷を行い地位から引きずり下ろそうとした董卓陣営は朝廷に強い影響力を持つ。議論は尽くされていないが北郷を迎い入れたのも、賈駆の働きかけがあったと言う事だった。
(本当に悪いのは賈駆みたいな自分の周りしか考えない輩じゃないか)
董卓様は身の周りの幸せを考える。そして曹操様は漢全体の民を考えられる。
どちらが君主として相応しいかは問う間でもない。
董卓様には悪いが退場して貰おう。
機会があれば北郷がやったみたいに、俺の専属メイドとして確保するのも選択肢としてありだな。「御主人様」とお茶を入れてくれる美少女。悪くは無い。
そうと決まればどうやって董卓様を救出するかだが、問題は北郷の存在だ。
糞ビッチが群がる北郷のセックスアピールは危険だ。董卓様も糞ビッチの仲間入りしていたら殺してしまうかもしれない。
北郷には、幼女や熟女を問わず売女に変えるフェロモンでも出ているのだろうか?
(北郷は俺が必ず殺す)
女殺しが奴の特技なら、俺はこの拳と培った武で未来を切り開く。
都を前に最終調整として指揮官、幕僚会議が開かれた。俺も会議に参加すべく出頭した。
「関羽の首を取ったのはご苦労だったわね」
「当然の事をしたまでです」
俺達の戦功を買って下さった荀文若様は、戦争終結に向けた切り札としての役割を与えてくれた。
都に突入する先鋒だ。
「力こそ正義、華琳様の築かれる新世界の為よ」
「同感です」
勢力を急速に拡大させた董卓軍は、兵力こそ多いが部隊の錬度は低い。誤魔化す為に形だけでも厚みを持たせ様と重装騎兵を用意していた。金に物を言わせて馬や装備を集めたらしい。
(呂布や張遼が率いているならともかくとして、そこらの凡将が率いる十把一絡げでは戦力も半減だな)
山地の走破は困難を伴う。切り立った崖や岩場まだしも、屋根状に飛び出て居る場合は行軍に適さない。行軍は登山とは違うからだ。道無き道を切り開くのも限界がある。
通常の山道や沢を通過する。
山間部で馬は使えない。馬は平原で役にたつ。そう思っているなら間違いだ。山で馬は重宝する。輜重兵にも重宝されていた。他にも牛や豚の姿も見受けられた。
(肉食いてえな)
動物を見ていると空腹を覚えた。
「将軍!」
稜線陣地を張った丘陵地帯から敵部隊が向かってきた。一見すれば、勢いは高所から下る敵にあった。沢を移動していた俺達を狙っての動きだ。
しかし俺は部隊を林に入れて敵の衝撃力を反らした。立ち並ぶ樹木は敵の衝撃力を殺ぐには十分だった。
林の前で敵は集団を崩し追うべきか、判断しかねて右往左往する。そこに後続部隊からの一撃が入れられた。
矢弾と言う鉄量が天を覆い、敵の騎兵を封じた。味方の援護は完璧だ。
混乱する敵に逆襲をかけて粉砕した。攻守の逆転で敵は倒れて逝く。勝ち戦は気持ちも高揚して来る。
「やれば出来るじゃないか。どんどん殺せ」
俺は部下を鼓舞した。血に酔いそうだ。殺すか殺されるかだ。
傍らで槍を振るう趙雲も腕を振るえて満足した表情を浮かべている。このバトルジャンキーめ。
敵集団を撃破すると都は目前だが今度は敵の番だ。
都を守る城壁から敵の弓兵が猛烈な射撃を浴びせてくる。盾に当たった矢は回収してそのまま使わせて貰う。資源は有効にってな。
流石に大都市だけあって複数の城門が存在する。
防御は分散しているが頑強な抵抗を見せている。城壁に梯子をかけて登るのと、門を破壊して突入するのではどちらが早いのだろうかと真剣に考える。
流石に坑道を掘ってる時間は無い。
「敵の指揮官は誰だ?」
「黄の旗から黄忠殿では無いかと思われます」
趙雲に台詞を奪われた陳宮が不貞腐れていた。
何にしても黄忠は弓の名手。普通に面倒臭い相手に当たった。
人数が増えれば部隊の錬度が落ちて使い辛いが、優れた将の指揮では強敵となる。
あれだ。狼に率いられた羊って奴だ。
ババアをいかに倒すか。悩み所だ。