悪魔のささやき   作:田辺

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あらすじ

リザードマンを占領した、アインズ・ウール・ゴウン!
アインズとデミウルゴスの無茶振りによって、内務を任されるコキュートス
4巻まるまる一つ使って行われたア○ター的物語の行方は如何に!?


誤字脱字あれば教えて下さい


悪魔と蟲 ①

「……ムゥ」

 

 音の塊を無理やり声の形にしたようなものを、不気味に唸らせる者がいた。

 ライトブルーの異形の巨体が日差しを浴びて、より一層輝いている。彼が立つ少し先には、湖と森が延々と広がり、その一画に、小さな集落が、湿地の上に家を作り存在していた。

 

「感謝スル。デミウルゴス」

 

 森のなかで、丸く大きい暗闇が、彼の後ろに浮かんでいる。

 その吸い込まれそうな闇の前に、親子のような身長差がある二人の男女がいた。デミウルゴスと呼ばれたスーツを着た長身の男が、彼に語りかける。

 

「コキュートス。君の成功を祈っているよ。何かあれば<伝言(メッセージ)>を使ってくれたまえ」

 

「アア、ワカッタ。……シャルティア、暫クノ間、警備ハ任セルゾ」

 

少女のほう――シャルティアは色白の顔に微笑みを浮かべ、小さく頷き、それに答えた。彼が主人から任せられた仕事は、大役であることを考えると、シャルティアとしては羨ましい限りだろう。

 

「ええ。ええ。任せておくんなんし」

 

「……デハ、行クカ」

 

 ガチン! と、顎を大きく鳴らすコキュートス。

 冷気の息をゆっくりと吐き出し、彼は正面の集落を睨んだ。

 甲虫のような顔であるが故、表情は変わらないが、与えられた難行に挑む覚悟を決めたのだろう。待たせていた部下たちと共に、コキュートスは、村に向かって歩みだした。

 その大きな後姿を見て、シャルティアから勢い良く声が上がり、蟲の一行を呼び止める。

 

「あっ! コキュートス!」

 

「ン? ドウシタ?」 

 

 コキュートスは立ち止まり、振り向いてシャルティアを見た。

 そこには、先ほどまでの笑みは消え、不安の入り混じった顔でコキュートスに手を伸ばしている少女がいた。シャルティアは、強く目を閉じ、苦虫を噛み潰したような顔で尋ねる。

 

「わた……わらわに何か手伝えることは何かありんすかぇ?」

 

「……イヤ、特ニ無イナ」

 

「……そうでありんすか」

 

 ガックリと下を向き、肩を落とすシャルティア。

 つい最近、大失態を犯してから、挽回の機会をずっと伺っていたのであろう。「少しでも功績を上げて、至高の御方の役に立ちたい」その気持は、ナザリックの警備で同僚たちの成果を聞きながら、悶々と過ごしていたコキュートスには、痛いほどによく分かった。

 

「ソウダ! シャルティア。帰還ノ時――」

 

「やっ!やめ! わかったから、それは言わないで……」

 

 廓言葉も忘れ、言葉を遮ったシャルティア。

 慰めようと言う意図が伝わったのであろう。しかも、出てきた内容がシャルティアの予想通り過ぎたのか、老婆のようなシワを顔に作り、項垂れている。デミウルゴスは何も言わずに上を向き、空を見ていた。言葉の選択を失敗したコキュートスは、あまりの居た堪れなさに思わず謝罪する。

 

「ス……スマナイ」

 

「いつでも伝言(メッセージ)で呼んで欲しいでありんす……」

 

 シャルティアは、消え入りそうな小さな声で、そう言い残して、<転移門(ゲート)>を閉ざした。

 

 ――ムゥ!

 

 二人がナザリックに帰還し、湿地に残されたコキュートスは、シャルティアを上手く励ますことが出来なかった自分を恥じたが、直ぐに気持ちを切り替えなければならなかった。これから重要な任務に就くのだ。それを思考の隅に追いやる。

 こういう時はどうすればいいのか? 副料理長のバーで、今度デミウルゴスに聞いてみよう。と、考えることが、今のコキュートスに出来る、精一杯の思いやりだった。

 

 

 

 ――話は数刻前に遡る。

 

 アインズ・ウール・ゴウン率いるナザリックは、蜥蜴人(リザードマン)の集落に戦いを仕掛け、勝利した。

 アインズにとって、NPCの成長実験の延長上の結果でしか無かったが、デミウルゴスの進言を受け、殲滅から占領に命令が変更された。その結果、先立って戦闘を行った責任者である、コキュートスの直轄領として統治されることになった。

 

『恐怖政治を行わず、ナザリックへの忠誠心を植えつけろ』

 

 これが主人であるアインズからの指示である。

 その任務は、己を主人の意のままに、全てを切り裂く剣と見做していたコキュートスにとっても、ナザリックにとっても中々大きな事業と言える。恐らく、完璧に行うならばアルベド、またはデミウルゴス。この二人のどちらかに、本来は任せられるべきものだった。

 コキュートスは、デミウルゴスに助言を求める。蜥蜴人(リザードマン)の村では、アインズが蘇生実験をしているだろうと思いながら。

 

「デミウルゴス。恥ヲ承知デ頼ミガアル」

 

「わかっているさ。友よ。しかしだ、私が出来ることは飽くまでも助言であるということは、忘れないでおくれよ?」

 

 デミウルゴスはアインズの命令で、先に帰還した守護者や兵たちと違い、コキュートスのために残っていた。

 

「……自ラノ判断デ決断シナケレバナラナイ……トイウコトカ?」

 

「そういうことさ。私が君のシモベであれば、部下ということで、仕事を任せてくれても良かったんだがね」

 

 悪魔の軽いジョークに、コキュートスは下顎をカチカチと鳴らし、軽く笑う。

 大役を任された重責が、少しだけ軽くなった気がした。

 

「……ナルホド。デハ改メテ、友トシテ、意見ヲ聞キタイ。」

 

「ああ、まずはだね――」

 

 

 

 ――サテ、ドウナルカナ

 

 コキュートスは不敵に笑った。

 甘く見ているわけではないが、気が高ぶっている。予想できない様々なことが自分を待っていると思うだけで、まるで、強者に挑むような高揚感を得て、心が躍る思いだった。

 

 村についたコキュートスとシモベ達は、平伏する大勢の蜥蜴人(リザードマン)たちに出迎えられた。

 先頭にいる、真っ白な肌をした蜥蜴人(リザードマン)、クルシュ・ルールーが代表して、一歩前に出てコキュートスに挨拶をする。

 

「偉大にして至高なる死の王――アインズ・ウール・ゴウン様が治めておられる、ナザリック地下大墳墓、第五階層守護者、コキュートス様。蜥蜴人(リザードマン)代表、クルシュ・ルールーで御座います」

 

 頭を下げたまま抑揚の無い声で、クルシュは言葉を続ける。

 

「この地は偉大なる王、そして御身の土地で御座います。我々蜥蜴人(リザードマン)の忠誠をお受取りください。なんなりとご命令を……」

 

 シンと静まり返る

 大勢の蜥蜴人(リザードマン)がいるというのに、声一つ聞こえない。

 相手の言葉を待つ蜥蜴人(リザードマン)を余所に、コキュートスは眼前の蜥蜴人(リザードマン)たちを見回す。

 怯えて震える者や、力なく絶望している者たちは多いが、その中に敵意も若干名あることを、コキュートスはスキルで感知した。

 

(マズハ様子見カ……フフ。ドウ切リ込メバ効果的ダロウナ)

 

 互いに様子を伺い、出方を見ていた。

 コキュートスは考える。多くの蜥蜴人(リザードマン)は「逆らえば即座に殺される」という、敵うはずのない絶対強者を前に従おうとしているだけだ。そんなことは重々承知している。ここからどうするか――目の前の蜥蜴人(リザードマン)を見て、これが自分に任された使命の重さなのだと、改めて理解した。

 

「御苦労デアル、クルシュ・ルールー。皆、面ヲ上ゲヨ」

 

「ハッ!」

 

 一斉に蜥蜴人(リザードマン)たちの顔が上がる。

 多くの蜥蜴人(リザードマン)がコキュートスを視界に収めた。先程よりも強い感情をコキュートスは感じる。しかし、目の前にいる赤い瞳の蜥蜴人(リザードマン)。彼女が何を考えているかは読み取れない。

 

「ウム。私ガ、ナザリック地下大墳墓、第五階層守護者、コキュートスダ。出迎エ御苦労」

 

 手にしているハルバートが勢い良く地面を叩く。

 ドン!と、大きな音が鳴り、冷気が広がった。ビクリと身を震わせる蜥蜴人(リザードマン)の姿を確認し、言葉を続ける。

 

「デハマズ代表トシテ、内務ニ詳シイ者ヲ集メヨ。今後ノタメ、状況ヲ確認シタイ」

 

「ハハッ!」

 

 

 

 ――まずは情報収集さ

 

 コキュートスは友の言葉を思い出す。

 デミウルゴスが言うには、現状を把握するために様々な情報を収集することが第一で、そこから必要な物――足りない物を考える。足りないものに優先順位を付け、アルベドに申請すれば、ナザリックから援助を得れるだろう。と、アドバイスを受けていた。

 

(重要ナノハ最優先ヲ間違エヌコト――ダッタナ。本当ニ世話ニナル。私ガ、デミウルゴスニ恩ヲ返セル日ハ来ルノダロウカ。イヤ、今ハ邪念デシカナイナ)

 

 頭を振って、浮かんだ余計な考えを消し去る。

 コキュートスは祭司や族長たちが使う部屋に案内された。暫くすると、クルシュ以下数名が部屋に入って来る。その中にはコキュートスと剣を交え――死亡したザリュースが、蘇生したばかりの体にムチを打って、仲間に支えられながら席につく。そして蜥蜴人(リザードマン)全員が平伏したことを確認したコキュートスは、支配者として相応しい、堂々とした振る舞いを見せる。

 

「面ヲ上ゲヨ」

 

 部屋にいる蜥蜴人(リザードマン)全員の頭が静かに上がる。

 この面々が、これから先長い付き合いになる者達なのだろうと、コキュートスは思った。

 

「世辞ハ無用。クルシュヨ。現在ノ蜥蜴人(リザードマン)ノ状況ヲ簡潔ニ答エヨ」

 

「ハッ。現在、我々は……周辺5部族が全て集まっており、総数は900頭ほどでございます」

 

 ――お前たちがそもそもの原因だ。クルシュは言葉を心の底へしまいこむ。

 1380頭いた蜥蜴人(リザードマン)のうち、先の戦争で500頭近く死んでいるという事実は、クルシュの心を大いに蝕んだ。例えそれが、結果として、ザリュースの『口減らし』という思惑通りだったとしても、決して気持ちのいいものではなかった。さらにコキュートスは、クルシュ達に様々な質問を投げかけていく。

 

「周辺地理――」「食料――」「敵対する者は――」「繁殖のペースは――」

 

 …………

 

「ナルホド……。大凡ノ現状ハ理解シタ」

 

 部屋の奥に鎮座する蟲の王は、満足そうに大きく頷く。

 現在の蜥蜴人(リザードマン)は、元々300頭も居なかった鋭き尻尾(レイザー・テイル)の村に、5部族が集結しているため、食糧不足が最優先事項であり、次点で、住居が全く足りていないこと。この2つが、当面の大きい問題だった。戦力が低下した状態で、元いた村に戻れというのも酷であろう。それに、既に彼らはアインズの庇護下にある者達、決して粗末に扱っていい存在ではない。だが、どちらもナザリックの力を持ってすれば、いとも容易く解決してしまう内容であることは、コキュートスを安堵させた。

 

(当面問題ハ無イ。シカシ、統治トハ依存スルコトデハナイ――ダッタカ。彼ラガ、ナザリックカラ自立デキル環境ヲ作ルコトガ、私ノ最終目標ナノダロウカ? イヤ、忠誠心ヲ植エ付ケルナラバ――)

 

「……ートス様。お願いしたい義がございます」

 

 コキュートスが思案に捕らわれているところに、ザリュースが発言する。

 頷く動作でザリュースの発言を許した。

 

「先の大戦で御身と戦った、シャースーリュー・シャシャ、並びにゼンベル・ググー、それに……」

 

 ザリュースは決死の思いで死んだ部族長達の蘇生を懇願した。

 兄だから、友人だから――部屋の中には、ザリュースを嫌悪の目で見るものがいたが、間違いなく優秀な部族長達である。復活を望むものは多い。むしろ、ザリュースだけが復活した――そのことが、内部分裂の原因になるのではないかと、コキュートスは懸念していた。しかし、現在、ナザリックは様々な実験を行っており、その実験の一つに、転移世界の技術習得に向け、戦闘訓練も予定している。それに使うことを考えて、ザリュースの発言が無くとも、コキュートス自らアインズに進言するつもりだった。

 

「ザリューシュ・シャシャ。先ノ戦イハ見事デアッタ。ソレニ免ジテ、アインズ様ニ、私カラ進言ダケハシテミヨウ」

 

「ッ!? 本当でございますか! あ、ありがとう御座います!」

 

「……ウム。他ニ何カアルモノハイルカ?」

 

 部屋には、驚いている者達が多い。

 特に無い様子を見て、コキュートスは会議を打ち切るために立ち上がった。

 

「デハ、私ハ上ガッタ案件ヲナザリックニ持ッテイク。重要案件……食料ハ直グ輸送サレル故、皆ニ安心スルヨウ伝エヨ」

 

「ハッ!」

 

 

 つつがなく終了した会議。

 村の監視――警備として、既にナザリック・オールドガーダーが200体ほど周辺に配置されていた。念のため、己のシモベを指揮官に据えて、コキュートスはスクロールを一枚取り出し、伝言(メッセージ)を使う。

 そして、「イ、急ギナノダ……」と、往復+1回分を謝り、ナザリックに帰還した。

 




オリ設定
リザードマンの死亡数が500近くいるという話。

前回の反省からプロットと箇条書きのストーリーが存在します。
お陰で文章が長くなってしまうという謎展開。
『批判募集タグ』を付けました。思う存分詰ってください。狂い悶ます。

コキュの内務のお話は見たこと無い……と思うのですが
建国系のお話は大好物なのでご存知でしたら、是非ご一報ください
オバロも建国系? 10巻以降で内務のお話が出てから言ってください。

②で終わります

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