コキュートスはリザードマンたちと話し合い、資材提供の申請書を作成した
作成した書類を提出するために、ナザリックに一時帰還したコキュートスは
デミウルゴスのアドバイスを受け、アルベドに直接申請書を渡すことにする
初めて出す申請書につく点数は如何に
誤字脱字あればおしえてください。
「0点よ。コキュートス」
極めて冷淡な言葉がコキュートスに突き刺さった。
女はそう言うと、彼から渡された申請書を目の前の机に放り投げた。机の上で散らばる紙を目の前にして、驚きのあまり、イスに座ったまま硬直していたコキュートスの意識が戻る。
「ナッ! ドウイウコトダ!?」
勢い良く立ち上がり、コキュートスは声を荒げた。
ガチンと、下顎が強い音を立てて、部屋に鳴り響く。それもそのはず、この申請書は
―ーそれが0点
現在コキュートスは、ナザリック地下大墳墓の、とある一室にいた。
そこの部屋は、かつて主人であるアインズと洗脳されたシャルティアの戦いを、アルベドとデミウルゴスと自分の3人で見た部屋だった。今日は皮肉にも、その時と同じ顔ぶれが揃っている。
コキュートスが部屋に入った時、二人の悪魔が机を挟んで談笑していた。
敬愛する主人の素晴らしさを語り合っていたそうだ。間が悪かった。と、先に六階層の畑を視察して、時間を改めようとしたところ、デミウルゴスに呼び止められたのだった。
「ふむ……。0点、ですか。私も拝見させてもらいますよ」
「タ、タノム……」
とりあえず座りたまえ。と、催促され、コキュートスは座り直した。
散らばった紙を集め、片手を顎に当てながら、申請書を確認していくデミウルゴス。コキュートスは
しばらくすると、デミウルゴスが「なるほど」と、ポツリと呟いた。
その言葉を聞いて、コキュートスの心臓が大きく跳ね上がる。
「さて、アルベド。私が説明してもかまいませんか?」
「いいけど……貴方の説明も採点させてもらうわよ?」
「これは恐ろしい……。誠心誠意、務めさせて頂きます」
どこかおどけた様子で答えたデミウルゴスが、説明を始める。
アルベドからの説明を封じたのは、彼なりの優しさなのだろうと、コキュートスは友からアドバイスを貰えることに、僅かに安堵した。
「では、コキュートス。幾つか聞きたいのだが、準備はいいかね?」
「ウ、ウム。大丈夫ダ」
極めて困惑した状況のコキュートスに、回復の時間を与えながら、デミウルゴスはゆっくりと質問を始めた。
「まず、君が最優先としている、
「ソウダ、彼ラトノ話シ合イデソウ決マッタ、支援ヲ受ケナガラ解決策ヲ考エル予定ダ」
「……なるほど。食料生産は
「ソレハ、ワカッテイル。ヒトツ生産ニ、金貨一枚ダッタナ」
「そうだね。では、その支援期間はいつまでかな?」
「ン? 彼ラガ自給自足デキルマデダ」
「その資金はどうするのかな?」
「モチロン――」
何を言っているんだ。もちろんナザリックからだろう。そう言いかけたコキュートスは、言葉をつまらせた。なにか決定的なミスを犯したような気がしたのだ。その様子を見て、対面にいたデミウルゴスが、軽く頷いた。
「……気がついたようだね」
「シカシ! アインズ様ハ『足りないものは出す』ト!」
「私も覚えているとも。だが、君に許されたのは、あくまでも意見をまとめ、申請することであって、ナザリックの物を……使用する是非を決めるのは――アインズ様。そうは思わないかね」
「…………」
絶句するコキュートス。
つまり越権行為を行なったのだと、デミウルゴスは説明した。
ナザリックの全ての在庫は、アルベドが管理しており、使用に関して、最終的な決定権はアインズにある。だが、コキュートスはそれを飛ばして、
「まあ、そういうことさ。君に悪意が無いのはわかっているとも」
「……スマナカッタ。本当ニ申シ訳ナイ」
「わかってくれればいいさ。君が決定した――それ自体は、アインズ様がお喜びになることさ」
「ソ、ソウダロウカ……」
「そうだとも。あの時もそうだったろう?」
背中の氷柱が、対面から見えるほどにうなだれたコキュートスを、「
「それで終わりだというのなら……0点ね」
カチャリと、紅茶のカップを置いた音が聞こえた。
二人――デミウルゴスに向けられた声に、コキュートスはゴクリと喉を鳴らす。0点と言われたデミウルゴスは、軽く息を吐き出しながら、考える素振りを見せた。
「……なるほど……それはつまり、私が取り上げた問題が全く見当違いだと?」
「あら、それは100点よ」
沈黙が訪れる。
部屋の温度が急激に落ちた気がした。
何故か喧嘩腰のアルベドの発言に、デミウルゴスの目が鋭くなる。互いに居合いの瞬間を狙うような、異様な空気が出来上がっていた。コキュートスが心配そうに二人を眺めている。
「是非、聞かせて貰いたいですね。重大な見落としを」
「ええ、いいわ。それは――」
「ソレハ?」
「――モニュメントよ!」
「は?」
「エ?」
グッと握りこぶしを作って、ガッツポーズをするアルベド。
宇宙人の手紙を見たような顔をしている二人を余所に、彼女は力強く説明を開始した。
「モニュメント! 勝利したのだから、まず作るべきはモニュメント――アインズ様の天を突くような巨大な像よ! それがあれば
――正気ヲ疑ウノハコッチノ台詞ダ。
という素振りを、コキュートスは硬直したまま見事に表現したが、彼女には伝わらなかった。アルベドは出荷直後の豚を見るような目で、二人を見ている。
「アルベド……ソレハ――」
「それは素晴らしい!」
――エッ
ソレハ本当ニ最優先ナノカ? というセリフを、コキュートスはギリギリで飲み込んだ。
もちろん、コキュートスとて、主人の像が出来ること自体は大賛成だ。しかし、少なくとも現状を回復して、落ち着いてからでもいいのではないか? おまけに巨大すぎる。完成する頃には、
アルベドという泥沼にハマったデミウルゴスは、自分に非を感じているせいか、「失念していた」「申し訳ない」を繰り返し、反論することが出来ないでいた。
(不味イ。コレハ不味イ。マズハ、デミウルゴスヲ助ケナケレバ……)
コキュートスは友を助けるため、味方を得るため、アルベドに立ち向かう。
「アルベド……ソノ……像ハ決マッテイルノカ?」
「デミウルゴス。像があれば全ての存在がアインズ様を見ることが出来るわ。善政……え?」
「巨大以外ニ、ドノヨウナ像ニスルツモリナノダ? ト言ッタ」
「それは――もちろん、アインズ様が私を抱きかかえる像よ?」
「いや、それは無理でしょうね」
「なんでよ!?」
こいつ今考えたろ。という一瞬の隙を突いて、デミウルゴスは、叱咤の滝壺から脱出した。
墓穴を掘るとアルベドは極端に弱い。デミウルゴスはコキュートスを見て頷く。コキュートスも頷いてそれに答える。漢たちの熱い友情がそこにあった。二人はアルベドに切り込んでいく。
「像を作るのは概ね賛成ですが、当然、アインズ様一人の像にしましょう」
「ちょっ!私は王妃になる存在よ! 秘書官――」
「ソレガイイ。ソレニ、サイズモ不味イノデハ?」
「アインズ様は全てを見下ろすのよ! アインズ様より高い場所にいるなんて、断罪して然――」
「私もつい興奮してしまいましたが、隠蔽性がなさ過ぎます。残念ですが、等身大が妥当ですね」
「ちょっとあなたたち! 結託するなんて卑怯よ!」
像を作る。
それ以外がどんどん削り取られていく。アルベドは、カップに残った紅茶を一気に飲み干した。
コキュートスは、もはや避けられない像の作成を、やむを得ないと受け入れ、大体まともになったことを見計らい、デミウルゴスに質問する。
「デミウルゴス……食料支援ニツイテハ、問題ナイダロウカ?」
「問題ないとも。無論、決めるのはアインズ様だが、安心していいだろうね」
「……あなた何しにこの部屋に来たのよ」
この場では自分の希望が通らなくなったと悟ったアルベドは、急におとなしくなり、溜息をついた。妙な流れになったが、これで
「さて、だいぶ脱線してしまいましたが……他は何かあるかね?」
改めて書類を見るデミウルゴス。「……脱線じゃないわよ」と、ブツブツ呟くアルベド。
書類には、食料支援の他に、住居用の木材――アウラが作成中の仮拠点で余った資材の提供や、周辺にいるモンスターのレベルに合わせた警備兵を要請する案、戦士階級の
「……イヤ、特ニ思イツカナイナ」
腕を組み、考えるコキュートスを尻目に、アルベドが髪をかきあげ、口を開く。
「……いいかしら? アインズ様が、そろそろエ・ランテルからお帰りになる頃だわ」
「ムウ! モウソノヨウナ時間カ」
終了を催促するアルベド。
そのどこか急いている様子に、デミウルゴスが懐疑の目を向ける。この女が主人絡みのことをこれほどあっさり引き下がるわけがない――そう思った瞬間、デミウルゴスは声高らかに宣言した。
「……神殿を作りましょう!」
「は?」
「エ?」
「神殿です。偉大なるアインズ様の像を安置するための」
二人は驚愕した。
折角まとまりかけていたのに、ここで新案の御登場だ。流石のコキュートスも苦言を呈する。もうこれ以上、復興に差し障りのある案件はゴメンだった。しかし、デミウルゴスの強行姿勢は変わらない。
「イヤ、シカシダナ、人材ト時間ヲ他ノ案件ニ……」
「そうよ! 神殿なんて、どれだけコストがかかると思っているの!」
天をつくような巨大な像はいいのだろうか?
自分の事を棚に上げて、相手を非難するアルベドに、コキュートスは戦慄した。デミウルゴスの案には驚いたが、彼は常に冷静沈着の優れた存在だ。そのデミウルゴスが強行するほどの理由があるはずだ。と、コキュートスは考える。
「悪いことは言わない。申請案に加えるべきだ。
ギリリと歯ぎしりをするアルベド。
デミウルゴスは気がついたのだ。アルベドが主人に申請書を渡す際に、「コキュートスから巨大像の申請があった」と偽造し、何がなんでも自分の案を通そうというつもりなのだろう。それは、越権行為を軽く通り越し、ただひたすら狂っていた。コキュートスの主人からの評価も著しく落ちる。とは言え、流石のアルベドも、申請書を丸々加筆修正するほど狂ってはいない――――はず。だからこその神殿作成。像の全長に限界点を設ける事ができる。――彼女が、巨大像に下駄を履かせようとしなければ。
「決めるのは……コキュートスよ」
女から出たとは思えないような、呪いの声が聞こえた。いや、女だからこそ出せた声なのかもしれない。アルベドは自分の眉をビクビクと痙攣させながら、阿修羅像の如き真顔でコキュートスに選択を迫る。狂気のオーラを放つアルベドに対して、コキュートスは白い冷気の息を深く吐き出し、心を落ち着かせようとする。
「なに、申請さ。どうするかはアインズ様がお決めになる」
そう言ってくれるデミウルゴスの言葉で、気持ちが少し和らぐコキュートス。だがもしかしたら、それはアルベドへの煽り言葉だったのかもしれない。そして、コキュートスは考えぬいた末、一つの決断を申請書に記す。
神殿作成――と。
こうして、無事、ほぼ全ての案の許可が下り、
定期的に輸送される十分な食料。大量の木材で次々と建てられる家々。巡回する強力なアンデッド兵。
コキュートスは会議を熱心に行い、持ち前の武人気質をさらけ出していった。その竹を割ったような性格は、
そして、集落から少し離れた場所では、スーツ姿の悪魔が、櫓の上で設計図を広げ、神殿の建設を陣頭指揮している。その周辺で、マーレの魔法で生み出された石材を綺麗にカットする悪魔たちや、巨大な石材を次々と運ぶストーンゴーレム達がいる。まるで、角砂糖を運ぶアリのような行列が出来上がっていた。その神殿は、完成後に式典が催され、アインズも出席する。そこでデミウルゴス会心の力作であろう、アインズ・ウール・ゴウンの神々しい等身大の像が安置されることとなっている。きっと式典では像が光り輝くだろう。
遠くで次々と積み上げられていく石材を眺めながら、コキュートスがポツリと呟いた。
「……負ケラレヌナ」
「コキュートス様、如何なされました?」
「
「ハッ! 畏まりました」
コキュートスは、自分の後ろに続く
支店長が調子に乗って見切り発車したら、
「会社の金はいつからお前の金になった?」と、総務課から割りと本気のお怒りを貰ったという話を元にしたものです。
いつの間にかお気に入りが100を超えていて驚愕しました。
非常にニッチな作品ですが、楽しんで頂けたのなら幸いです。
あと新刊発売ヤッター
※10巻の内容からマーレに石作成の魔法を元に神殿を作ってもらいました。