悪魔のささやき   作:田辺

8 / 8
あらすじ

カルネ村近辺でドミニオンオーソリティを瞬殺された陽光聖典は絶望した。
ナザリックに捕られられた彼等を待っていたのはさらなる絶望だった。
死は幸せよ。カウンターアローで死んだあいつが一番の幸せもの。
死のう。そして生まれ変わってデスナイトになるんだ!


※拷問回ですが割りとやんわりとしてます。たぶん

誤字脱字あれば教えて下さい


悪魔と人間 ①

 

 陽光聖典がナザリックに捕縛されてから三日目

 

 

「やっ、やめっ! んぐぁあああ!!」

 

 男は悲鳴を上げた。

 ゴンッ、と鈍い音が一瞬鳴った後に、野太い叫び声が部屋いっぱいに響き渡った。男は歯を目一杯食いしばり、椅子に固定された体を必死に身動ぎさせながら、荒い息遣いを繰り返して痛みを逃がす努力をしていた。

 

 男の腕は木製の台座の上に固定され、右手の薬指の根本が潰れて赤黒く変色している。他の指もそれぞれありえない方向に曲がっており、砕かれた骨と潰れた肉が支えあって、歪な形を維持していた。無事な指はあと三本。中指が一本と、人差し指が左右の手に一本ずつ。指を潰される度に大声を出す男の様子をまじまじと、だが、どこか楽しげに観察する三人の悪魔たちが、男が座る椅子を囲むように立っていた。

 

「……大丈夫かね? 折角だ、リクエストはあるかな?」

 

 男の正面にいる悪魔がささやく。

 穏やかにゆっくりとに発せられた声は、まるで友人を気遣っているように見える。しかし、男たち(・・)の返り血で斑模様に染められた白いエプロンと手袋、そして、血塗れのハンマーが悪魔の行いを物語っていた。

 

「――デミウルゴス様、失礼致します」

 

 そう言うと、男の横にいた悪魔の一人が、男の指を糸で縛って止血した。

 

「ありがとうトーチャー。君たちを与えてくださったウルベルト様に感謝しなくては」

 

「――恐れいります」

 

 黒いマスクを被った悪魔――拷問の悪魔(トーチャー)はデミウルゴスに頭を下げた。

 彼等は拷問のエキスパートだ。GM(ゲームマスター)によって『そうあれ』と作られた彼等の腰のベルトには、様々な作業道具が垂れ下がっている。また、悪魔としては珍しく神官職を習得しているので、低位の治癒魔法と精神支援魔法をいくつか使用できる。対象が死なないように、狂って使い物にならないようにするために。

 

 広いこの部屋には、現在デミウルゴスと六人のトーチャー。そしてもう一人。

 対して、人間は全部で十人。一人目は四肢を切断されている。二人目は体に無数の裂傷が刻まれている。三人目は指を潰されている途中だ。人間一人につきトーチャーが二人付いている。四人目以降は部屋の隅に集まっていた。仲間たちが拷問を受ける姿を見せつけられている彼等だが逃げようとしない。生まれたばかりの子鹿のように、ただ震えて悪魔たちから距離を取り身を寄せあっていた。それは、悪魔を前にした人間のあるべき姿と言える。指を潰されている男は、これから潰される指と、もう潰された指を眺めながら、「うーうー」と唸っていた。男を見下ろすデミウルゴスは薄く笑みを浮かべ、自らの問いに答えなかった男の指に、ハンマーを振り下ろした。

 

「っいぎゃああぁぁああ!!」

 

 再び叫び声が上がる。

 不意をつかれ、男は先程よりも高い声を出す。椅子の上でビクンビクンと跳ねるように動く男を眺めるデミウルゴスは、満足そうにうんうんと頷く。

 

「いい声だ。……反応が返ってくるというのは、嬉しいこととは思わないかい?」

 

 デミウルゴスは男の周りをゆっくり歩きながら言葉を続ける。

 

「逆に反応が無いと不安になるものさ、私だってそうなのだよ。だから、つい、ね。――さて、三番君。後二本だが、今度は答えてもらえるのかな?」

 

 正面に戻ってきたデミウルゴスが、男――三番に問いかけた。

 三番と言われた男は、苦悶の表情を見せる。痛みに、悪魔に、仲間に、過去の自分に、これからの自分に――様々な恐怖で彩られた顔で、デミウルゴスを直視した。三番はわなわなと声を震わせる。

 

「い、一体何が、何が望みなんだ……。俺をっ、どうするつもりなんだ! 拷問なら他の連中でもう済ませたんだろぉ!」

 

 なけなしの勇気を振り絞った声で三番は悪魔に食って掛かる。

 短い呼吸を繰り返し、三番は必死に訴えた。――突如激痛が走る

 

「ぐがぁああぁぁああ! あっ! あぁあっ!」

 

 右手の人差指が無くなった。伸ばしきったゴムが切れたような音がして、指ごと引きちぎられた。手にはぽっかりと指の骨があった場所に穴が開いている。鮮血が鼓動に合わせるてドクドクと流れ始めた。直ぐさまトーチャーによる止血が施された。デミウルゴスは指を台座の上に置くと、嬉しそうに男の質問に答えた。

 

「そうだね。君たち仲間の四十人は、尋問の過程で死んだ――と、ニューロニストから聞いているよ。だがね、君たちの仲間は死ぬことで、アンデッドの素体として、アインズ様の御手によって生まれ変わったことを幸運に思うべきだと思うね」

 

 三番の残った指がビクビクと痙攣していた。

 激痛に耐え、涙を流しながら彼は懇願する。

 

「だ、だったら……おでもごろじでぐれ」

 

 デミウルゴスは口が裂けんばかりの笑顔を作りながら、首を振った。

 

「トーチャー。一番を持ってきてくれ」

 

 一番の担当だった二人のトーチャーがお辞儀をした。

 一人が胴体に頭が生えた人間を持ち、もう一人が腕と足を集めてデミウルゴスの前に運んだ。一番はまだ生きている。生きて入るが、四肢が切断されてイモムシのようになっていた。体の切断面はロープで強く縛られているが、ポタリポタリと血のしずくが垂れている。トーチャーに神の供物のように高く持ち上げられた彼の体は、部屋にいる全員に注目される。異型になったかつての仲間の有様に、まだ無事な人間たちは恐怖と同情――そして安堵の表情を浮かべる。そして、デミウルゴスは頷く形で、命令を待つトーチャーに指示をだした。

 

「<軽傷治癒(ライトヒーリング)>」

 

 トーチャーが呪文を唱えると、手から緑光が淡く輝く。

 暖かな光が男の体に当たり、血を失って真っ青だった男の顔にゆっくりと生気が戻ってくる。するとどうだろう、緑光が霧のように腕と足の形を作り初めている。それと同時に、切断された切断された手足の色が、どこか薄くなり始めている。

 

「一番だけは昨日から何度か治癒しているんだが……これが今君たちにしていることさ。簡単に言うと治癒実験だよ。傷が塞がるのはわかるし、失った手足が新しく出来るのもわかる――が、外した手足が何故か消滅してしまう。もし消滅を防ぐ方法があるのなら見つけなければいけない。物資を無限に得る方法としてね。――軽傷治癒(ライトヒーリング)は弱い治癒魔法だから経過がよくわかる……。大治療(ヒール)だとこうはいかない。君たちの仲間を扱った話を聞いて驚いたものさ。アインズ様も早急に実験しろと仰った」

 

 デミウルゴスは笑顔で身を震わせた。

 恐怖ではない。その震えは歓喜にから来るものなのだろう。両手を大きく広げて、部屋にいる全員にアピールした。

 

「君たち人間という矮小な存在が、至高の御方の知恵の一部になることができる! これほど光栄な事はない。しかも、それが私の指揮下で行うことが出来るとは……素晴らしい!」

 

 パチパチパチと、手の空いていた悪魔たちが演説者に拍手を送る。それに合わせて、人間たちも引きつった顔で拍手を送った。目の前で拷問を受ける三人がいつ自分になるかわからない。少しでも好印象を与えることは重要なのだ。やや興奮気味のデミウルゴスは、少し下を向き、気恥ずかしそうに片手を上げて皆の拍手に答えた。

 

「――ありがとう。君たちの理解を得られて私も嬉しいよ」

 

「あっ、あの…………」

 

 隅にいた男の一人が、オドオドと口をきいた。

 デミウルゴスは片手の手のひらを男の方に向けて、どうぞと、発言を許可する。

 

「……三人もいれば……俺たちはいらないんじゃないですか」

 

「それは、仲間を残す代わりに解放して欲しい。といったところかな?」

 

「――なっ!? おま! おまえええ!」

 

 喋った男はコクリを頷いた。

 非常に身勝手な発言だったが、まだ拷問を受けていない者たちの総意と言えよう。隅にいた者全員がデミウルゴスの動きを注視した。まだ元気のある三番が罵声を浴びせるが、誰もそれを気に留めない。デミウルゴスは顎に片手を当てて考える。

 

「……ふむ。考えておこう(・・・・・・)

 

 人間たちから「おぉ!」と歓声が静かに上がった。

 先程まで怒声を飛ばしていた三番が急に静かになり、デミウルゴスをジッと見る。三番は目玉が飛び出るのではと思えるほど目を見開いていた。

 

「――さてと、経過が見れるのはいいが、時間がかかることだし、もう潰してしまうよ?」

 

 トントンと、ハンマーで最後の指を軽く叩くデミウルゴス。

 三番はブツブツと何かを呟きながら項垂れている。もう何も反応を示さなかった。そんな様子を愛おしげにデミウルゴスは見下ろす。そして、ハンマーを振り下ろした。

 

――――ドンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり傷が大きいと、回復が終わるまで大変ねん」

 

 それは、椅子の上でグニョリと肥大した体をくねらせた。

 ボンデージが体に食い込み、太った――というよりも不細工に膨れ上がった体を締め付け、ボンレスハムのようになっていた。水かきの付いた長い指と爪でティーカップを持ち上げて、暖かい紅茶を一口飲んだ。と言っても、口から触手のような管が伸びて、紅茶を吸い上げただけだ。その者の視線の先では、少し遠くでトーチャーたちが人間に治癒魔法をかけていた。その隣で、MP切れを起こした者たちは休憩に入っている。

 

「――あらん! この紅茶とっても美味しいわ。ソリュシャン、あなた上手なのねん」

 

「ありがとう御座います。ニューロニスト様」

 

 ソリュシャンと呼ばれたメイド服の美しい女性が頭を下げた。

 それに合わせて、金髪の巻き毛がサラリと垂れる。膨れた水死体の上にタコを被ったおぞましい姿のニューロニスト(ブレインイーター)との対比で、唯でさえ天上の美を持つソリュシャンがより美しく見えた。実際、紅茶を運ぶために入室した際、血生臭いこの部屋で、惨劇の順番待ちをしていた人間たちの顔色が変わったのだ。

 

「――そういえば、風の噂で聞いたんだけど。ナーベラルが外に出るって聞いたわん」

 

「はい、その通りで御座います。アインズ様と共に人間の街に出発する予定です」

 

「あぁん! ……うらやましいわ。私も何かあの御方のお役にたちたいのよねん」

 

 ソリュシャンは表情を変えずに会話を続けた。

 ニューロにストは長い爪の一つで、テーブルの上をコリコリと軽く掻くながら円を描く。乙女のような可愛げを出しているつもりなのだろうが、誰が見ても肉塊が醜く変形しているようにしか見えない。

 

「やあ、ニューロニスト。今日は来てくれてありがとう」

 

 カツカツと革靴で床を叩きながら、デミウルゴスがテーブルに向かって歩いて来る。

 

「あら、デミウルゴス様ん。私がお願いしたんですもの。お礼なんて恐縮だわん」

 

 立って挨拶しようとしたニューロにストを、デミウルゴスは片手を上げて止めさせた。血塗れの白衣をコート掛けにかけたあと「失礼するよ」と言って、デミウルゴスはソリュシャンが引いた椅子に座る。ニューロニストと対面する形で座ったデミウルゴスの前に、淹れたての紅茶が用意された。

 

「どうだね、ニューロニスト。楽しんでもらえたかな?」

 

「ええ、素敵なショーでしたわん。でもデミウルゴス様って、酷い御方なのねん」

 

「ほう、というと?」

 

「――んふ。わかってらっしゃるくせに。約束を守るつもりなんてないのでしょう?」

 

 悪魔は、くっくっくと、含み笑いでそれに答えた。

 

「疑り深い者を相手にするのもいいが……やはり素直なほうがいいと思わないかい?」

 

「そうねん。人間素直が一番よん。その通りだと思いますわん」

 

 悪魔と水死体は互いに笑いあった。

 テーブルにはクッキーなどの茶菓子も用意されているが、一切手が付けられない。二人は、遠くからチラチラとこちらの様子を伺う人間たちを見ながら紅茶を飲んでいた。ニューロニストはヒラヒラと手を振ってそれに応じる。それほどまでに二人は気分が良かったのだろう。

 

「――さて、この報告書を見てくれ。是非君の意見を聞きたい。どう思う?」

 

「拝見しますわん。お役に立てるといいのだけど……」

 

 デミウルゴスの真面目な雰囲気を感じ取ったのか、ニューロニストはグニャリと体勢を変えた。太い足を組んで、髪をかきあげるように、飛び出た目玉のあたりを片手でスッと払った。デミウルゴスは微笑を崩さずに実験報告書を渡す。ニューロニストは頭の触手の先を指先でくるくる巻きつけるようにイジりながら、渡された書類を読む。実験報告書――現段階で判明したことを箇条書した、報告書と呼ぶにはまだ未完成のそれを、ニューロニストは真剣な眼差しで黙って読んでいた。いつになく熱心な様子を眺めながら、デミウルゴスは静かに待った。

 

 ニューロニストはつい数日前に失態を犯した。今回はそれを払拭するために実験に参加したいと、デミウルゴスに申し出てここにいる。ニューロニストから頼まれた時、失態という言葉に思わず眉を顰めたデミウルゴスだったが、内容を聞いて快く彼女――自称だが、彼女の拷問官としての多角的な意見を取り入れるために受け入れた。その失態とは、貴重な情報源である現地人の捕虜を拷問で殺してしまったこと――いや、正確には『質問をしたら死んでしまった』だ。主人であるアインズとの立ち会いのもと、捕虜を拘束した状態で、名前、職業、住んでいる場所、これらを聞き出した時、相手が突如死亡したのだ。しかもそれが陽光聖典の隊長という、一番情報を持っている可能性が高い人物だったことが不味かった。アインズは、目の前で平伏し断罪を求めるニューロニストとトーチャーたちに対して、非はないと許し、残りの隊員で慎重な尋問を行った。そして、あらかた情報を引き出したと判断されたあと、余った隊員を実験用としてデミウルゴスに預けた――という話だ。 

 

「……デミウルゴス様ん」

 

「ん? 何かあったかな?」

 

「とても面白い実験結果だと思いますわん。特にこの、『治癒魔法は軽度の傷、または魔法をかけている場所から順に治っていく』というのと、『完治するが傷が残る場合がある』というのが興味深いと思いますわん」

 

「その点は今後の実験課題として考えているよ。しかし、隊員たちだと君の時のように何かがきっかけで死ぬ可能性を拭えないから、全く魔法付加のかかっていない実験体が欲しいところさ」

 

「……あの時のことを思い出すだけで今でも震えますわん。<恐怖(フォアー)>の魔法でもこれほどの恐怖は感じないと思いますわん」

 

 小さく身震いするニューロニストに、デミウルゴスは頷きながら同情の眼差しを向けた。

 

「君の気持ちは本当によく分かる。私が同じ立場だったら……そう思うだけで恐ろしいよ」

 

「そうなのよねぇん。せめてニグンちゃん以外の子から始めていれば……あぁん、ダメだわ。後悔しても始まらないのにねん」

 

 ニューロにストは暖かい紅茶を飲み干して、大きくため息をついた。ソリュシャンにおかわりを頼んで注いでもらう。彼等の死亡理由に判明していることは、<支配(ドミネイト)>や<魅了(チャーム)>のような魔法的拘束状態で、三回の質問に答えると即死する。恐らく物理的拘束は含まれていない。わかっていることはこれだけである。

 

「それで、切断部位は消えてしまうわけだが、特定部位を残す方法は何か考えられないかな」

 

「んん、質問の答えとは少し外れますけど、治癒すると消えるなら、消える前に何かした場合はどうなるのかしら?」

 

「ん? わからないな、どういうことかな?」

 

 疑問の表情を浮かべるデミウルゴスに、ニューロニストは説明する。

 

「なんて言えばいいのかしら。消える物が何かに作用した場合、その作用を受けた側はどうなるのかしら? 例えば体から油を取って燃料にして燃やした場合、治癒したら、その火で熱した水や肉は元に戻るのかしら?」

 

 デミウルゴスは椅子の背もたれ思い切りもたれかかった。

 

「――なるほど、ふむ、面白い。作用そのものは残るだろうが、いや、しかし……」

 

 ニューロニストは、自分の意見を反芻して理解するように頷きながら説明を続ける。

 

「そう、そうねん。例えばデミウルゴス様が巻物(スクロール)用の動物を発見されたとして、魔法を込めた完成品は分離するのかしら?」

 

「君の言いたいことはよく分かった。とても面白い意見だ。原料に使って状態が変質した場合か」

 

 やはり牧場は必須か。部屋の天井を目を細めて眺めながら、デミウルゴスはそう呟く。自分の顎に手を当てながら深く考える素振りを見せた。現在の実験結果では、治癒側を、例えば一番の男を埋めた状態で治癒魔法を使用すると、地中で手足が生えるという結果がでている。治癒される場所に障害があっても、強制的に治って切断部分は消えるのだ。つまり、ニューロニストの言うとおり、消える側にも実験を施す必要が出たわけだ。

 

 デミウルゴスが主人から命じられた様々な任務の一つに、巻物(スクロール)の素材探しがあった。ナザリックに素材は豊富にあるとしても、いつかは尽きる。そのためにも永続的に供給できる環境を作るために、魔法というほぼ無限のエネルギーを使って、低コストで供給できる可能性があるこの実験の結果は重要である。ニューロニストはグニッと組んでいた足を組み替えて、思案に囚われていたデミウルゴスを呼んだ。

 

「何をお考えですの?」

 

「そうだね……とりあえず君の言う通り、油を採取するところから始めようかと思うよ。彼等は筋肉質だから取るのは大変そうだ」

 

 デミウルゴスは嬉しそうに笑顔を浮かべる。玩具を与えられた子供のように。

 

「ねぇん、デミウルゴス様。こういうのはどうかしら? 彼等のお肉を食べさせてみるなんて如何ん」

 

 ニューロにストの提案に、デミウルゴスは感嘆の声を上げ破顔した。

 

「――素晴らしい。それなら純粋に切断部位がどうなるか分かるわけだね」

 

「ええ、そうですわん。お肉が栄養になるし、体重の変化もわかるし、それに……消えないなら出ても来ると思いますわん」

 

 汚らしくてごめんなさいと、ニューロニストは謝った。それにデミウルゴスは片手を振って鷹揚に答える。二人は人間たちのほうを見た。その場所では、既にMPの回復を終えたトーチャーたちが、床の掃除や椅子のベルトを締め直して、準備万端とデミウルゴスを待っていた。

 

「――さてと」

 

 デミウルゴスは椅子から立ち上がった。

 それに合わせて、ソリュシャンが新しい白衣と手袋を持ってきて、デミウルゴスに着せ始めた。そんなデミウルゴスを羨ましそうにニューロニストは見つめていた。その視線に気がついたデミウルゴスが、彼女を労った。

 

「すまない、いや、ありがとうニューロニスト。やはり一人でやると凝り固まっていけないね」

 

「いいえ、とんでもないことですわん。デミウルゴス様のお仕事に意見を出させてもらうだけで光栄ですもの」

 

 二人会話している間に、ソリュシャンは手早く白衣をデミウルゴスに着せ終えた。デミウルゴスは真っ白な白衣を満足気に眺めながら、人間たちのもとへ歩を進めようとしたところで立ち止まり、振り返った。

 

「そう言えば、ソリュシャン。君は人間を食べるんだったかな?」

 

 突然話を振られたにも関わらず、ソリュシャンは驚いた様子も見せずに、軽く一礼してデミウルゴスの質問に答える。

 

「はい。ですが、私はスライムでございますので、飲食自体は不要でございます」

 

「ニューロニスト。君は?」

 

「私もご協力したいのですけど……脳みそを吸ったら恐らく死んでしまいますわん」

 

「ふむ、私もナザリックの物以外を口にするのは少々……ね」

 

「デミウルゴス様。でしたらエントマが適任かと思われます」

 

「――ああ、エントマか。丁度いい。では、手が空いていたら呼んでくれるかな?」

 

「はい、畏まりました」

 

 二人に対して一礼すると、ソリュシャンは退室した。

 ソリュシャンが閉めたドアを眺めながら、ニューロニストがデミウルゴスに問いかける。

 

「エントマに食べさせますの? てっきり人間たちだけで食べさせると思ってましたわん」

 

「人間たちは魔法を使った質問ができないからね。保険だよ」

 

 デミウルゴスは肩をすくめて、困ったような心情を吐露した。

 しかし、そのデミウルゴスの顔は先程から笑顔で満ち溢れている。

 

「――さて、エントマが来る前に、二、三本は切り落としておこうか」

 

 

 




むちむちぷりりんさんが無茶なことを言うからお蔵入りしていた話に手を付けた。
そしたらなぜか前後編に……何故……。7,500文字だけでよかったのに。拷問って表現難しいですね

オリ設定
①ニューロニストがデミ、ソリュと一緒であること
②ニグンの拷問にアインズが立ち会っていること(漫画版はニューロ1人?)
③彼等に対する実験方法

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。