モンスターイミテーション   作:花火師

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幽鬼の支配者編です。



金色の咆哮

金槌が鉄とぶつかり合うことで甲高い金属音が鳴り響く。

たたら炉からの灼熱を顔全面に受けながら、垂れる汗を拭うことすら忘れてひたすら腕を振り下ろす

 

そうやって一晩叩かれ続けた鉄は、刀として形をなし、熱く、熱く、その熱を刀身の芯に湛える。

 

打ち終えた刀を水へ浸すと、水が蒸気へと変わり、工房内の湿度をぐっとあげた。

浸けた刀に油を湿らせた布でくるみ、筒状の魔導具に射し込む。

 

分厚い手袋を嵌め、炉の蓋を閉める音が工房に響き、それが本日の作業終了の合図となった。

 

「ふぅ……」

 

俺は汗を拭って、その場でため息を吐くと、ここを仕切っている鍛人へと手をあげた。

 

彼は立ち上がると金槌をぶら下げたままに、俺の肩を叩いてお疲れ、と厳つい顔で笑う。堅気の人間には見えない顔つきだ。

 

「いやぁ、炎の魔導士がいると本当に助かるぜ」

 

絶対人を一人は(あや)めているんじゃないかと思わせるような風格を持っているが、これが中々にフレンドリーだったりする。

初対面の時におしっこチビりそうになったのはいい想い出だ。

 

たまにだが、俺はこうして、一日だけの依頼を受けて路銀を稼いだりしているのだ。

今回の依頼は炉の温度を一定に保つというもので、俺はひたすらレウスのブレスで温度を調整していただけだ。

 

残念ながら俺には刀鍛冶なんて才能はないのでな。だははは。

そんな才能はないし、教えてもらおうにもそんな一朝一夕で出来るわけもない。そんなポンポンできたらそれこそご都合主義だな、最も俺に似つかわしくない言葉だ。あー悲しい。

 

……そう、そういえばあれだ。

刀鍛冶といえば、俺はひとつ考えたことがあった。

ズバリ、モンスターの素材で武器が作れるのではないか、という天才的発想だ。

虫や古龍の素材で武器を作れれば、あの武器たちを作ることが可能ではなかろうか。

中二病心を燻られるあの太刀。そう、黒刀や天上天下天地無双刀、それに独龍剣やら覇剣エムカムトルム。あの大好きなかっこいい武器を!

 

……まぁ、この提案はボツになったが。

 

残念ながらそういった超胸熱な展開にはなりませんでした。

理由としては、まず武器を作るのには素材がいる。もちろん入手元は俺の体の部位だ。

ここまでくれば誰にでも想像がつくだろう。

 

自分の体を自分で解体できるわけがないだろ。

 

まさに真理だったと言わざるを得ない。

無理だよ。無理。いくら再生するからといって自分の体を引きちぎれと?抉れと?剥ぎ取れと?無茶をおっしゃい。

馬鹿じゃないの?出来るわけない。ないないあり得ない。怖すぎ。自分の体を剥ぎ取って武器にするとか、クレイジーにも程があるわ。

なんだか狩られるモンスターたちの気持ちが少しわかった気がする。

それにもし素材を手に入れたとしても、それを加工できる技術がこの世界にあるわけもなく、それこそ完成まで何十、何百年とかかるかわかったもんじゃない。

 

ということで、そういった思惑は頓挫してしまった。

だが、俺とて男の子。刀剣への興味が一度沸いてしまえばそれは収まることはなく、こうして報酬として刀を頂戴しにきた次第であるのであった、まる。

 

「ほれ、報酬の刀だ」

 

「いやっほおおおっ」

 

そんなもんでいいのか?と不思議そうに首を傾げるおっさんに、俺はハイテンションのままその場からスキップで立ち去った。

 

工房に入ったのは昨日の夜。丸一日籠っていたため、外はもう夜の帳が降り、月が顔を出していた。

工房とは大きく違い、少しひんやりした空気に気持ちよさを感じながら足を弾ませる。

 

「うーむ」

 

……というか、あれだな。ファンタジー世界だというのに刀剣やら武器を持たないなんて勿体無いことこの上なかったな。

魔法……て言っていいのかわからんが、『模倣』は十分に満喫したし、この能力には滅茶苦茶助けられたけど。

 

というか、魔物を狩る……もとい、モンスターハントをするのに素手で挑むとか馬鹿なの?なんなの俺。意味わからん。今更過ぎるけど。

この世界に来て、十年(くらいか?)たって気がついたけど、得物のひとつも持たずに竜と戦うとかほんとどうかしてるよ。

狩人ですら猟銃を持つんだぞ?剣奴は剣を、漁師は網を、ボクサーはグローブを、ゲーマーはコントローラーを。何にしろ得物を持つのは当たり前だ。

やることがやることだというのにも関わらず俺は全て素手で挑んできた。今になって思い返してみれば実に頭の可笑しな話だ。

 

だが、心機一転。今の俺はもう違う。

 

「今の俺は、剣士だ」

 

キリッ

 

やっべ、今の俺、超格好いいかも。

等と思いつつ、いい歳して刀をベルトに挿し、一人悦に浸る男がいるのであった。

というか、それが俺という男だった。

 

よし、折角だからこの刀に名前をつけよう。決して斬○刀を意識して思い付いたとかではないよ、決して。

 

ふーむ。

 

「斬○」

 

違う違う。そうじゃない。ダメだろ。

えーと……。

 

「ダーク○パルサー」

 

うーん。これも違う。というか刀なのに横文字って可笑しいだろ。違うだろ。

 

「えーと。じゃサイコロで決めよう」

 

我ながらどんな発想だ、と突っ込みたくなるが迷いに迷った挙げ句、そんな結論に落ち着いた。

 

小石を六面に削り、それぞれに数字を刻んで、それぞれに思い浮かんだ名前を割り振っていく。

 

完成したサイコロを早速振り、名前は早々に決定した。実に素晴らしい名前だ。

 

その名も──

 

 

「これから宜しくな!『しおから』!」

 

 

……うん。だって、ネタで考えた候補に当たっちゃったんだもの。

まぁ……まぁ、いいや。決まったものは仕方ない。そう、どうにか納得すると、気を取り直して道を歩み出す。

 

取り残されたカラスたちがカァカァと空を飛ぶ。

 

すっかり暗くなった街を出歩き、どこか屋台でもやってないかと広場なんかを見て回るが、案の定、どこも店仕舞いとなっているようだ。

 

空腹を感じながら、仕方なしに干物をかじろうとリュックに手を突っ込む。

だが、どう手をさ迷わせても、それらしき形にヒットすることはなく、ただただ空を掻くのみ。

 

「うげっ」

 

背中に夢中になっていた俺は、道端に落ちていた犬のアレに気がつかず見事に踏んでしまっていた。

 

「……マジか」

 

……い、いや、今はそんなことよりも大事なことが。

 

嫌な予感に渋々と従いリュックを開いて覗いてみれば、中にあるのは干物を通していたヒモのみであった。

 

なん……だと。

 

「……あるのはヒモの、み。なんつって」

 

ベチャ

 

カラスは俺の頭に生温かい糞を落とすと、そのままどこかへと飛び去った。

 

「いや、そこまで酷くねえだろ!?」

 

親父ギャグに対して酷評を下すカラスってなんだよ。

せめて目の前に落とすくらいでいいじゃん?なにも頭にジャストミートさせなくてもさ……。

上から下からと糞に挟まれたのなんて初めての経験だよクソッタレめ。

 

ウキウキ気分もすっかり鳴りを潜め、憂鬱な気分のままに道をトボトボ歩く。

広場の噴水で頭を適当に洗い、体質を変えて一気に乾かすと、またトボトボ歩き出す。靴の裏には変わらずの自己主張を欠かさない異物感。

 

「はぁ。今日はついてねーなー」

 

俺の泣き言に同調するように、腹の虫も泣き言を漏らした。

 

もうどこかのお宅に訪問して飯でもねだろうかな。

などと考えてから、それはダメだろうと否定し、街を出ようと考え始める。

もういっそ、街の外で野性動物狩った方が早いんじゃないかと考え始めた頃だった。

 

「……ワァオ」

 

左手に見えてきた巨大な建物の貫禄に驚かされた。

いや、普通の建物ならこれくらいの大きさのものも見たことはあるが、何より驚いたのはその出で立ちだ。

 

立派なその立ち姿には感動を覚えるようではあるが、それよりも印象的に目立つものが……。

何本もの巨大な鉄柱のようなものを四方から生やしていてる。

なんだろう、神秘的なものを感じるよ……。

 

なるほど……。

 

「これが現代アートというやつか」

 

確かに言われてみれば、その鉄柱の生やし方には匠のようなそれを感じるような気がしなくもない。

 

ふふっ、俺にも芸術のなんたるかが分かるようになってきたな。

 

しかしそんな自画自賛はそれとして、この建物のエンブレム、どこかで見たことがあるような気がする。はて、いったいなんだったか。

 

記憶を辿りながらもその場から歩き出す。

 

ふと、視線の先に三つの影が月光に照らし出されて姿を表した。

 

女の子が一人と、それを挟むように両脇に立った男二人だ。そんな自分たちがこちらへと歩いてきた。

 

犯罪の臭いがプンプンする。

 

彼らも俺を見つけたのか、なぜか怒りの形相でこちらへズンズンと大股で歩み寄ってきた。

 

この性犯罪者どもめ!少女一人をこんな夜中に男二人で連れ回して恥ずかしくないのか!夜遊びトゥナイトか!?ええ!?前世からやり直すがいいこの馬鹿たれどもがぁあ!

と、俺が叫び出すよりも先に、俺は、その青い髪の少女からビンタをお見舞いされた。

 

「……え?」

 

「あんたらって、ほんとに最低!これだけのことをしておいてまだちょっかい出そうって言うの!?」

 

……。

 

女の子に、ビンタされた。女の子にビンタされた。ビンタされた。ビンタ……されたよ。

俺、もうダメかもしれない。グスン。

 

「下がってろレビィ。こいつは俺たちが相手をするぜ」

 

「あぁ、レビィは後ろで見ていてくれ」

 

「ジェット。ドロイ」

 

後ろから出てきた男たちは、女の子と交代するように前へと出てきた。

……えーと?なにこれ?美人局てやつ?え?いやこれ美人局って言うのか?もうわけがわからないよ。

 

ハッ!まっさか!あれか!現代アートに魅せられて集まった輩か!この場所は俺たちの縄張りだとでも言うつもりかこやつら!

うっわ!最近の若者ってこええ!

我が物で何をふざけたことをこのやろう!

 

若者が若者顔で我が物顔ってか!

 

 

ベチャ

 

 

カァーカァー

 

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 

何事もなかったかのように爆弾を投下して去っていくカラスに、俺はじとっとした視線を送ることしかできなかった。

 

私もう、お嫁に行けない……。

 

なんでなの……。確かに親父ギャグ的なことは考えたけど口にすら出してなかった筈だよ?なに?心が読めるの?テレパシー的なあれでも使えるの?

 

この街のカラスって……厳しいのね。

今度引っ捕らえて食ってやる。つーかカラスはもうオネンネの時間でしょーが!カラスが鳴ったら帰りましょって知らねえのかよ!……あぁ!鳴くのお前らのさじ加減じゃねえかチクショウ!

 

行き場のない怒りが頭の中で渦巻き、チンピラ含め、なんとも言えない空気になった中、後ろの少女が一番に我に返った。

 

「ジェット!ドロイ!油断しちゃダメだよ!それもこっちを油断させる罠かもしれない!」

 

罠じゃねえよ。罠じゃないかもしれない、なんてなことねえよ。チンピラ相手にどれだけ用意周到なんだよ。カラスと意思疎通出来てもそんな真似しねえよ。つうか罠ならお前らの頭に落としてるよ。アホか。アホアーホ。バーカバーカ。もういいもんお家帰って二次元に慰めてもらいながらプリン食べて等身大抱き枕に抱きついてニヤケながらふて寝してやる。お前らのことなんてもう知らないんだからプイッ。

 

なんてマシンガントークをかましてやりたいところだが……。

 

「……あのさ、頭洗って来ていい?」

 

俺の申し出に、三人組は顔を見合わせてアイコンタクトらしきもので会話をする。

それでわかり合えるのか、首を横に振ったり頷いたりと一人一人がアクションをしている。

で、結論が出たのか少女がキツい顔つきでまた睨みを効かせてきた。

 

「ふざけないで!その手にはかからないんだから!」

 

どの手だよ。

 

「そうやってまたあんたらは酷いことをするつもりでしょ!」

 

どうやってだよ。

酷いことをされたのは寧ろ俺の方だよ。労ってよ。ねぇ、労ってよ。いや、労らなくていいからせめて放っておいてよ。

そもそも頭洗いに行くのにどうやってお前らを嵌めるんだよ謎だよ。

 

なんなの?もうこの時代の若者には人情というものがないの?頭で鳥の糞をナイスキャッチしてしまった残念な男を余計惨めにさせてくるとか本当に鬼みたいなやつらだな。

 

ガツンと言ってやるべきか?

 

それでも俺はやってない!と。

あ、だめだこれ免罪から逃れられないやつだ。アカン。

 

本当に……今日はついてないようだ。

お腹もすいたし……。

 

これ以上こいつらに絡まれるのも嫌だし、頭を洗いたいし撤退しよう。

全く、俺のメンタルをガリガリと削りやがって。なんなんだよ。かき氷機の方がもっと削り方優しいよ。どれだけストレスかけさせたいんだよ。

 

「あー!あんなところにドラゴンがぁ!」

 

そう叫んで遠くの建物の上を指差すと、三人がピクリと体を強張らせて振り向いた。

気が逸れたと同時に迅竜を模倣、その場から急いで逃走した。

 

「全く、付き合ってられるかっての」

 

屋根を足場に街を駆け抜ける。

 

案外時間がかかったが、あっさりと街の郊外に辿り着く。

目についた湖の前で荷物を下ろす。

上着を乱暴に脱ぎ捨てて頭から湖に突っ込み、溜まった鬱憤を張らすかのうよに暴れまわる。

 

ばっしゃーん。水ばっしゃーん。

もうカラス嫌い。嫌いだあああ!

 

一通り暴れ終わり、大きい岩に腰を下ろして一息つく。あ、ついでに靴もちゃんと洗った。

今日は糞にまみれた一日だった。いや、一日じゃなくて正確には一時間も経たないうちに糞にまみれたんだけど。

 

ふぅ。それにしても……。

 

「なんて街だ。寄って集って人を侮辱しよってからに」

 

鳥に犬に女の子に。皆酷いっ!

街全体から、オメーの席ねーから!と言われた気分だ。

 

旅をしていながら地図を持たない主義というのがここに来て痛手になったな。

基本的には地図なんて持たずに、気の向くままに行きたい方へ行くのが俺なりの楽しみ方なんだが、ここまでまた来たくない街は初めてだ。

 

いくら温厚で名高いトージくんでも流石におこですわ。

 

 

落ち着きを取り戻してきたところで、俺は貰ってきた刀に目を落とす。それだけでニヤニヤと笑みが込み上げてきた。

そう、どんなに悪いことがあったとしても今の俺はこいつのお陰で全て許せる気がする。

 

あー!今すぐ『しおから』を振ってみたい!木をバッサバッサと切断してみたい!

 

「がしかし、まだ我慢まだ我慢」

 

それより先に獲物を探そう。腹を満たしたら早速『しおから』を振るぞおお!

ワクワクと抑えきれない感情が顔に浮かび上がる。

 

大丈夫大丈夫。『しおから』が足を生やして逃げ出す訳じゃないんだから。

そう落ち着かせて、俺はそこに荷物を置いて動物を狩りに駆け出した。

 

 

木々を飛び移る。

数分とかからずに草を食んでいる鹿もどきを発見した。

 

やったぜ!あいつは焼いて食うと凄く美味いやつだ!

なんやかんや、運は悪くないのかもしれない。

逃げられては叶わない。

 

「ライオンはうさぎを狩るのにも全力を尽くすものよっ!」

 

サクッと手にいれた肉を、その場で逆さ吊りにして血を抜く。

疼く心を抑えきれずに山菜を集める。旅の中でその種類も覚えて、今じゃ笑いこけて死にかけることも力が抜けて死にかけることもなくなった。俺は進歩しているようだ。素晴らしい。

なんて考えながらも、楽しみに動きのひとつひとつが軽やかに派手になる。我ながら子供のようだ。

……いや、男なんて皆心の底では少年を捨てきれないものだ。

なんて小難しいことはどうでもいいんだよ!それじゃ、とっとと戻って飯食って、名一杯刀の練習をするとしよう!

 

心を弾ませながら、俺は歩き出した。

 

 

 

 

 

──絶望に向けて。

 

 

 

◇◇◇

 

 

「こりゃあ悪くねえな」

 

思わず口に入れた途端に、そんな感嘆の言葉が溢れた。

だが事実、こいつは中々に美味い。実に美味い。こんだけ美味いもんを食ったのはいつ以来だったろうか。

 

昂っていた感情は徐々に鳴りを潜める。代わりに浮かぶのはそんな喜びの感情だった。

 

ここ最近、どうにも食ってきたものは粗悪品のような粗末なものばかりだった。それを思うと、これは正に一級品と言えるかもしれない。

 

思わず笑いがはみ出た。

 

「おい、早く行こうぜ」

 

「るっせぇ。そう急かすんじゃねえ。今は気分がいいんだからよ」

 

これ以上なにか文句があるなら叩き潰してやろうと思いもしたが、今は気分がいい。少しなら許してやろう。上機嫌な俺に感謝するんだな。

 

咀嚼しながら岩に腰掛け、先程達成してきた目的のことをふと思い返す。

その件についたって滞りなく、流れよく終えることが出来た。舞い上がってる喧しい下っ端に、今はそれを差し引いても(普段ならぶっ飛ばしているが)、今の俺にゃあマイナスにはならない。

 

もうちっとゆっくりしてえって気持ちもあるが、あんまりチンタラしてる訳にもいかねえしな。

 

 

「……お、おい。あんた……。なに、してんだよ……」

 

腰を持ち上げたところだった。

 

森の中から一人の男が姿を表した。

雑魚どもが喧しいせいで気がつかなかったが、どうやら近くに一般人がいたらしい。

 

一般人の相手だなんてつまんねーことは無視して、とっととギルドへ帰るか。

 

「……あんた、なんで俺の刀を……かっ、かじってるんだ……?」

 

恐怖に震えたような声で、顔を真っ青にした男は、俺の手に握られた刀を指差している。

その手にも、声にも、恐怖に絡まれた震えは隠せていない。

 

「ギヒッ」

 

思わず笑いがはみ出た。

 

「俺様ァな、鉄の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)だからなぁ。そぉか、こいつはお前の刀だったか」

 

既に半分ほど食べてしまった刀を、見せつけるようにぷらぷらと振って見せる。

刀のことなんてどうでもいいくせに、そこに突っかかるなんざ可笑しな野郎だ。

 

今は、刀のことなんかより、自分の命の大事さに震える時だろうによォ。

まぁ、刀に意識を移して怯えを誤魔化そうとしてんなら理解は出来るが。

なんせ、こちとらこの国一の最強ギルドだ。ビビんのも当然てもんよ。

 

「……なんで」

 

その場に膝をついた男は、真っ青なままに呆けた顔でこちらを見ている。

 

「おお!こいついい獣の肉持ってんぜ!」

 

「あぁ?んなもんどうでもいいだろうが」

 

下っ端の一人が、その男の引きずってきた獲物をに喜びの声をあげ、未だに茫然としている男から無理矢理奪い取る。

 

「ガジルさんにはわからないでしょうけど、この肉美味いんすよ」

 

「ッハ。知らねえな。んなもんいいからとっとと行くぞ」

 

男の目の前で、途中だった刀を全て噛み砕き、胃の中へと流し込んだ。

 

あぁ、やっぱうめえや。

ゲップをひとつ。

 

「残念だったな、一般人。弱いもんは搾取される。それが世の中の摂理だ。お前は弱かっただけ、諦めなぁ」

 

肉を手にはしゃぐ雑魚は、ぎゃあぎゃあと騒ぎながら先を歩いていく。

 

「ギヒッ。しかしながら今の俺様は気分がいいからよ。貰うもん貰っただけで勘弁してやる。命を奪われねぇだけ、ありがたく思うんだな」

 

男から背を向けると、ギルドへ向かって歩き出す。

妖精の尻尾(フェアリーテイル)と並ぶと言われるフィオーレ(いち)のギルド。幽鬼の支配者(ファントムロード)へ。

 

その背中に、敗者の視線を心地よく受けながら。

 

 

 

 

 

「っけ。あれを食ったあとだと、どうもまっぢいな」

 

ギルドで出された鉄の塊を口に運びながらも、俺はそう文句を垂らさずにはいられなかった。

 

よかった機嫌も収まる……どころか、若干マイナス幅に突入している。

 

ひとつ、失敗を犯した。

それはズバリ、あの猟師らしき男からあの刀をどこで手に入れたのか聞きそびれたことだ。

あれだけの業物を作った職人をギルドで抱えればいい武器は増えるし、俺の胃袋もみたされて一石二鳥だった。

 

「なぁガジル。妖精のケツのやつらをヤったんだってなぁ」

 

今からでも戻ってあの男を捕まえに行くべきかと悩み始めた時、下っ端の一人が甲高い声で俺に突っかかった。

 

「やるじゃねえか。ヒヒッ、後で俺も少しケツを叩いてこようかと思うんだけどよ、そんときゃ手伝ってくぶらぁっ!」

 

「うるせぇよ、雑魚」

 

目の前まで来てわめきたてる下っ端。とてつもなく耳障りな声を出すそいつを殴り飛ばすと、すでに意識もなく聞こえていないであろうその下っ端に吐き捨てるように言う。

 

「飯食ってんだよ見てわかんねぇのか?ぎゃあぎゃあ騒ぐな。ぶっ殺すぞ」

 

それはそいつにだけに向けた言葉ではない。

この場にいる全員に言っている。

 

どいつもこいつも大した実力もねえくせして、一丁前に俺様に話しかけるんじゃねえよ。

 

気が立っているのには自覚がある。だがまだ俺を怒らせようってんなら手加減はしねえ。

滲み出る雰囲気でそう脅しかければ、その場にいる殆んどのメンバーは目をそらし引き下がる。

 

「それとてめぇら、勘違いしてねえか?」

 

一度散りかけた視線を集めるように、俺はこの場にいる全員にそう問いかけた。

 

「俺たちは何だ?幽鬼の支配者(ファントムロード)だ。妖精の尻尾(妖精のケツ)追いかけて何になる」

 

ギヒッ、と抑えきれない笑みを見せれば男たちは息を呑む。

 

「ケツに火は点けた。後は飛んで火に入るハエを叩き潰すだけだ。俺たちは幽鬼だ!!ハエがなんだ!?俺たちは支配者だ!!ゴミを潰すのに手間かけんな!!俺たちはフィオーレ一のギルドだ!!マスターはいずれ大陸を支配する!!もう一度聞くぞ。てめえらは何だ!?」

 

訪れた刹那の沈黙は、誰かの叫びによって掻き消える。それを筆頭に、ざわめき出す。

竜に焦がれるように俺を見上げる雑魚共に、もう一度、問いかける。

 

 

「てめえらは、何だ!?」

 

 

「「「幽鬼の支配者(ファントムロード)だ!!!」」」

 

 

ギヒッ

 

 

ギルドが震えた。

 

俺たちは……。俺様たちこそが、最強(ファントムロード)だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、ここがファントムロード、であってるみたいだな。よかったよかった」

 

 

全員が喉が張り裂けんばかりに叫んでいたそのギルドの中で、そんな日常会話レベルの小さな声が、異常なまでに響いた。

 

ギルドの中はその異様な雰囲気によってか、水を打ったように、静まり返った。

 

 

「えーと……どいつだったかな」

 

 

 

声の主が視線を這わせる。

その言葉ひとつひとつが紡がれる度に、俺の中で本能が叫ぶ。

 

それにこいつ、いつの間に入って来やがった……。

 

その黒髪の男。

つい一時間ほど前まで森で無様にも膝をついていた男。

一般人だったはずの男。

 

 

そいつは、俺を見つけた。

 

 

その顔に浮かぶ笑顔に、おぞましい何かを感じる。さっき出会ったときのような、人畜無害そうな雰囲気などそこにはもうない。

先程までの昂ったものはどこへやら、谷のドン底へ叩き込まれたような錯覚に陥る。

 

ゆっくりと、俺へ口を開いた。

 

「よくも、俺の相棒をやってくれたな?」

 

 

「相棒……だと?」

 

 

まさかあの刀のことではあるまい。

こいつは見るからに剣士とは程遠い。どっからどう見てもそれとは異なる。足運びも呼吸法も。

それに、高々刀一本で幽鬼の支配者(ファントムロード)へ攻め込んでくるなんざ、それこそありえない。馬鹿馬鹿しい。どんな異常者だ。

 

となると残される事項から考えるに……。

 

 

「てめぇ、妖精のケツどもの一派だったってか」

 

 

俺の問いかけに、男は答えない。

 

ただ、その顔に笑顔を携えるのみ。

 

一歩を、踏み出した。それと同時に俺までもが、どうしてか一歩下がっていた。

自分が圧されていることなど普段なら許せずに激昂するだろうが、今は本能が叫ぶそれに従う。

今は純粋に、プライドに本能が勝ったのだ。

 

 

抗いようのない謎の圧迫感に押し潰される中、男の声が静かに響いた。

 

 

──一言。

 

 

「は?」

 

耳を疑った。

 

 

 

「だから、一言、謝ってくれれば許してやる」

 

そう言いながらも俯いている。

 

……なんだそりゃあ。

仲間がやられたってのに謝りゃあ許すだぁ?

 

怯えていた自分が途端に馬鹿らしくなり、押されていたプライドが一気にメーターを振り切った。

なんて馬鹿らしい。なぜ俺は、俺様たちはこんなふざけた男に一歩を引いたんだ。ふざけるな。

 

感情が煮えたぎり、急速に、急激に、マグマのように温度を上げていく。

 

 

「一言、謝ってくれ」

 

 

再度そう告げる男に、俺の中で何かが音をたてて破裂した。

 

「ふざけたこと抜かしてんじゃねえぞクソがァ!!雑魚は雑魚らしく、羽をもがれて地面を這いつくばってりゃあいいんだよ!!ゴミごときが、空にいる俺様を見上げてるんじゃねえェ!!」

 

 

全身の筋肉が一挙に収縮され、解放される瞬間を待ちわびる。

腕には魔力が迸り、その形を凶器へと変貌させる。

 

殺してやる。ここまで俺様を侮辱したやつは初めてだ。肉片にしてやるよ。

 

「ぶっ殺して──ッ!?」

 

 

飛び出そうとした俺は、その場に脚が縫い付けられたかのように動けなくなった。

 

 

 

 

 

──そっかぁ

 

 

背中に冷たいもの、なんてレベルではない。まるで全身に、頭から氷水をぶっかけられたような錯覚。

 

目の前の男は上げた顔を歪め、ただ笑うだけ。

 

 

ただ、その漆黒の髪が、徐々に色を変えていくのが伺えた。

 

 

それは、徐々に──

 

 

 

──明るく

 

 

──鮮やかに

 

 

──鮮烈に

 

 

──乱暴な、金色に

 

 

 

誰もが凍る中、まるで獅子のような男は一人、紅く染まった瞳で、冷たく、凶悪に笑った。

 

 

 

 

「じゃあ、全員、ゲンコツだ」

 

 

 

 

──金色の獅子が、雄叫びを上げた。

 

 




無駄にカリスマのあるガジルさんでした。

ガジル、しおからに 黙祷!
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