モンスターイミテーション   作:花火師

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お久しぶりです。年を跨いでお待たせしたのですが、今回あまり進みませんすみません反省してません。
今年もよろしくお願いいたします。


戦意

『ガキの血を見て、黙ってる親なんざいねえんだよ……!』

 

──戦争だ。

 

普段は温厚な人物であるマスターマカロフの、そんな激怒の言葉が未だに脳内で反響している気がする。それだけ印象的だった。印象的で、必然的だった。

 

尤もだろう。その言葉は、ギルドの誰もが思ったそのままの言葉だった。

ギルドをボロボロにするという嫌がらせだけで終わることはなく、ちょっかいを出してきたファントムは、言うに事欠いて、レヴィたちにまでその魔の手を伸ばしたのだ。

 

傷だらけにされ、その腹部にファントムの紋章を焼き付けられ、街の大樹に晒すかのように吊り下げられた彼女たち三人、チーム『シャドー・ギア』。

その光景に怒りの声を上げた俺たちは、外聞を気にすることなどやめた。評議院も、他のギルドの目も、度外視することを決めた。

そして戦える者を集めてファントムへと、こうして特攻を仕掛けに来た。

 

 

……だが、普段ならば雄弁たる姿で構えている、あるべき筈の幽鬼の支配者(ファントムロード)のギルドはそこにはなかった。

 

あるのは、木材の欠片や瓦礫、ぺしゃんこになった鉄骨、穿たれた大穴。

まるで何か猛獣が暴れまわったかのような傷跡だけがありありと伺えた。

 

「……なんじゃ。これは」

 

怒髪天をついていたマスターでさえも、その光景には唖然としていた。

ついてきたギルドメンバーたちも、各々に困惑を顕にしている。

 

「……まだ火が燻っているところを見ると、昨晩何者かの襲撃があった。そう考えるべきでしょうか」

 

鋭い目付きで辺りを見回すカグラは、そう推察を言葉にした。

確かに、この現状を見るに、そう考えるのが妥当だろう。だが、いったい誰がこんな真似を?

 

「レヴィたちが襲撃されたことに気がついたのは今朝だ。夜のうちに誰かが気がついて襲撃したとしたら、その場合、なぜレヴィたちは放置されていたのか」

 

考察を口にしてみるも、真実が浮かんでくるとは思えない。

 

「そして、私たちフェアリーテイルの誰かがやったなら、なぜ名乗り上げないのか」

 

カグラがそう付け足す。

 

「……つまり、これをやったのはフェアリーテイルではなく、外部の人間。ということじゃな?」

 

怒りの行き場を失った、というべきだろう。声に怒りを隠しきれないマスターが、要点をまとめる。

 

「おいじっちゃん!!ファントムの野郎はどこにいやがんだよ!!俺はあいつらを直接ぶっ飛ばさねえよ気が収まんねえ!!」

 

「そうだぜじいさん!」

 

抗議の声を一番に上げたのは、案の定ナツだ。珍しくナツに同乗するようにグレイからもそんな批難が飛ぶ。

 

「ナツ、グレイ。それは私たちも一緒よ。あなたたちだけじゃない。わかりなさい」

 

宥めるカグラに、それでもナツは食らいつく。

 

「わかんねえよ!俺がぶっ飛ばすんだ!!そうじゃねえと気が済まねえ!!」

 

「……ナツ、わかりなさい」

 

「わかんねえ!!」

 

ナツは引き下がることなくカグラへとそう怒鳴る。

だが、カグラが冷えきった目でナツを睨めば、その尋常ならざる気迫に押されてナツも黙る。

 

「……わかりなさい。レヴィを痛め付けたんだ。当然私だって腹立たしい。出来ることなら両足をもいで、森の中で同じように木へ縛り付けて野性動物たちの晒し者にしてやりたいのよ」

 

そんな強烈な言葉と殺意に怯んだナツは、ようやく引き下がった。

後ろにいるグレイやエルフマン、他のメンバーたちはそんなカグラを見て震えている。

なんせここまで本気で怒っているカグラを見るのは久しぶりだ。正直、この矛先を向けられたら俺とて事を構えるのは遠慮するだろう、全力で。

マスターもマスターで恐ろしいが、カグラも負けず劣らずに恐ろしい。味方である俺たちにとっては、とても頼もしい限りだが。

 

「んでもよ、じいさん。これからどうするんだよ。戦力集めて総出で出てきたはいいけど、『敵がいませんでした』じゃ皆収まりが着かねえぜ?」

 

「んむぅ……」

 

意義を述べたグレイの言葉もわかる。確かに、敵がいなくなったからと、それで彼らが素直に頷くとは思えない。

 

「皆、不服だろうけど、この瓦礫の中に何か残ってないか探してくれ。何も見つからないことにはマスターも俺たちも手の出しようがない。頼む」

 

その場しのぎであろうと、とにかく今は彼らを納得させるなにかが必要だ。

納得させることはできなくても、理解して落ち着くまでの時間さえ稼げればいい。

 

多少なりとも悶着はあったが、どうにか促して、その場にいる全員で瓦礫の山を手分けする。

だがこれといって、昨晩何があったのかを語るものは何ひとつ出てこない。あるのはひたすら破壊の爪痕のみ。

 

いったいどんな恨みを勝ったらここまで悲惨な現状にされるのか、と少し恐ろしくなった。

 

そうして暫く捜索を続けるが、いっこうに何も見つからない。

そろそろ頃合いだろうと感じ始めたその頃だった。

 

「おーい!こっちに何かあるぞ!」

 

マカオがそう声を上げた。

偶然近くにいた俺はその場にかけよると、マカオが見つけたその異物を確認できた。

 

「なぁ、ジェラール。こいついったい何だと思うよ」

 

「これは……」

 

 

大きな白い塊だった。

その塊は瓦礫に埋もっていたらしい。上に重なっているものを更にどかしていくと、その上半分がようやく姿を現した。

 

「まるで……繭だ」

 

そう不可解なものに怖じ気づいたようなマカオは、判断を俺へと仰ぐように視線を向ける。

その塊は大人が数十人が入れる程の大きさで、白い糸のようなものでグルグルと巻かれて出来たような物体だった。

 

「マスターたちを呼ぼう。危険なものだったら不味い」

 

「お、おう!呼んでくるぜ」

 

「あぁ、頼む」

 

マカオによって呼び集められたのは、マスター、カグラ、ナツ、グレイ。そんな騒ぎの中心となるものたちだ。……正確にはナツとグレイはただならぬ雰囲気を嗅ぎ付けてきたのだが。

無駄なところで鋭い。

 

「繭……かのぉ?」

 

「マスターもそう思いますか?」

 

「……しかし、この中には魔力が詰まっとるようじゃな。しかし爆弾というには些か火薬として味気がない」

 

「同意です」

 

最後にそう意見を述べたカグラは、ナツとグレイへ向く。

 

「二人とも、一応他の皆にここから離れるように言ってきてくれないかしら。爆発して巻き添え、なんて結果になったら笑えないわ」

 

カグラからの頼みとあって、二人とも喧嘩をすることなく渋々と呼び掛けに向かった。

ちなみに俺がこれを言った場合は、確実に二人が喧嘩する流れになる。二人に指示を下すのはカグラで正に正解と言えよう。

 

皆が離れたのを確認すると、マスターは指先に魔力を灯した。

繭へと近づき、そっとなぞるように繭の表面を撫でると、そこに切れ目が入った。

切れ目が入った途端、繭はするすると溶けるように消えていき、中にあるものを開示させた。

 

「なっ!?」

 

「これは」

 

俺とカグラは驚くことを隠せなかったが、マスターは何となく、わかっていたかのようで静かにそれらを見つめていた。

 

 

 

「……うぐぅ。ぃ……やだ。くる、なぁっ。……金色が……金色が、く……る」

 

「……ぁあっ。……やめて、くれ。ぁぃっ……。金……きぃ……ん」

 

「ば、けものっ。……人の形の……獅子……ぁぁぁっ」

 

 

魘されながらも気を絶ったものたち。

ボロボロになったファントムロードのメンバーが詰め込まれていた。

そして、その一番上には見覚えがある人物が倒れていた。

 

 

──大空のアリア

 

ファントムロードにて、エレメントフォーと呼ばれるメンバーの一人だ。

エレメントフォー。(すなわ)ち、フェアリーテイルでいうところのS級のことである。

 

早々に呑み込めるような状況ではない。

ファントムロードが……、そのトップの一人を含め、たった一晩で壊滅しているのだ。

 

「中から感じた魔力は彼らだったのか。こんなにも弱々しい魔力になるなんて……。それにこの繭……まるで瓦礫から守るような包み方だ。どういうことだ?この誰かが魔法で守ってたということか?だが気絶したものが魔法を使えるわけが……」

 

「大方、この惨状はその犯人が作ったんだろうのぉ。慈悲だか何だか知らねえが、こやつらの命までは獲らんかったんじゃろう。……にしても、ワシらの獲物を取るとはのぉ」

 

そう、それも彼らを『捕縛』という形で加減をしつつ制圧したのだ。並大抵ではない。

 

「いったい、どこのギルドに攻められたんだ?蛇姫(ラミア)……いや、四つ首(クワトロ)という線も……ダメだ。ファントムは昔から悪い噂ばかりで、復讐したがるギルドや団体が多い。候補がありすぎて検討もつかないな」

 

「じゃが、少なくともエレメントフォーの一人を仕留める程の手練れじゃ。恐らくワシらと同等か、それ以上がいると考えるべきじゃな」

 

ともかく。とマスターは彼らを見下ろしたままに俺たちに指示を下す。

 

「ぶん殴る予定だった奴等がこれじゃあ話にならん。こん中にジョゼがいねえってことは逃げたんだろうの。ジョゼだけでも探す必要はあるが、まずは引き上げるとしよう」

 

マスターの判断は妥当だろう。

やり返す相手がすでにやられていたとなってはどうしようもない。

いったん引くというのも、仕方ないとしか言いようがない。

ファントムロードが襲われた原因の追求は、襲撃者からもジョゼからも放置されたままの彼らを治療してから聞き出すことになるだろう。

 

だがマスターは、ファントムロードのギルドマスターであるジョゼだけを易々と見逃すつもりはないようだ。見つけて叩きのめしてやる、という気迫を言葉のはしはしから滲ませている。

 

とにかく、いったん帰るとしよう。

 

 

──そして俺たちは、ギルドの裏手から、ひっそりと延びている引きずったような足跡に気がつくことはできなかった。

 

 

◇◇◇

 

 

「なんなんだアレはぁっ!!」

 

マスタージョゼが長いテーブルを蹴りあげれば、それは天井へ強く衝突する。バキッと豪快に砕け、テーブルだったものが床に残骸を残した。

 

ワナワナと声を震わせながらも、マスタージョゼは我慢ならぬと柱を殴り付ける。

 

「ふざけるなよマカロフゥッ!!ルーシィ・ハートフィリアだけでなくあんな化け物まで飼い慣らすだとぉ!!」

 

何度も何度も、殴り付けた柱が歪み、理不尽な暴力によってひしゃげていく。

 

「なぜあいつばかり運に恵まれるっ!ふざけるな!ふざけるなふざけるなァ!!」

 

八つ当たりのように辺りを破壊するマスタージョゼ。

暫くそうやって暴れていたが、ルーシィ・ハートフィリアが目を覚ましたとの報告が入り、咳払いをするとそこで一旦落ち着く。

 

いつもの似非紳士のように佇まいを正すと、そのハートフィリアの元へと向かった。

 

……今の俺としちゃあどうでもいいが、よくルーシィ・ハートフィリアを捕まえてこれたもんだ。

まぁ、あの化け物が離れていたのなら可能かもしれない。マカロフの元から捕らえたのは運の良さか、否か。

 

 

先程まで荒ぶり怒っていたマスターとは対極的に、俺は冷たい床に座り込んで、頭を壁へ預けながら落ち着いた感情のままに天井を見上げる。

 

 

──化け物

 

確かに、マスターの言葉は的を射ている。

いや、文字通りといった方がいいかもしれない。言葉通りと言ってもいい。

 

打ちのめされたのだ。ファントムロードは。

たかがギルドの一部がやられたに過ぎない。……なんて、そんな愚かな考えで収まる範疇ではないことをすでに俺たちは知っている。身を持って。経験として。

 

たった一晩で……。いや、時間的に言ってしまえば、『一晩』ではない。恐らく、一時間(・・・)にも満たない、といったところだろう。

たった一人の人間に、まるで埃を散らすかのように俺たちは負けた。

エレメントフォーの一人。大空のアリアは、見事といえるような一撃で沈められた。

やつの得意とする空域の魔法などなんの意味もなさず、まるで紙切れよのうに破り去られ、意図も容易く鎮圧された。あの化け物の宣言通り、ゲンコツで。

 

……いや、あんな馬鹿げた威力の拳をゲンコツだなんて、それこそふざけている。あんなものはゲンコツでもなんでもない。小規模な隕石だ。でなければ、その出だしの一撃目でギルドが木っ端微塵に倒壊することなどあり得ない。

もし奴がそれを本気でゲンコツだというのなら……それはとんでもないことだ。

ゲンコツではなく、更に上の打撃だと言える攻撃ができるのなら……その威力たるや、考えただけでも恐ろしい。

 

あの場にいたマスタージョゼが思念体であったことを喜ぶべきか憂うべきか。

マスターであればあの男と渡り合うことはきっと出来ただろう。だが、実体があったとした場合、マスターとて無傷ではすまないはず。

……そう考えると、なんとも言えない結果に収まったもんだ。

 

そして俺。

 

あいつを怒らせた直接的な人物である俺は、アリアがやられた後に、散々ぶちのめされた。

 

正直、どうやってやられたのかは正確には覚えていない。

あの化け物の迫力に圧され、いつの間にか殴られた俺は、意識を保つのに精一杯だったことは覚えてる。

 

あの時は本当に、生きた心地がしなかった。

自分の死期を悟らざろう得ない程だった。

 

今思い返しても、あの男に対して怒りが沸くことはない。……そして逆にあんなにも無様に負けた自分に対しての怒りが沸くこともない。

 

違う。むしろ俺は安堵してやがる。

あの化け物から逃げられたことに対して、心の底から安心してやがる。

あんな化け物から逃げ仰せたことを、誇ることさえ出来るほど。

 

もう俺は、あんな男の前に二度と立ちたくはない。

敵対するなんて馬鹿らしい。勝てるわけがない。

 

──そう、俺は、こんなことを思ってしまう程に。あの男に、完璧な敗北(・・)を叩きつけられた。

 

植え付けられたと言ってもいい。

 

あんな男のいるギルドとことを構えるのは、全力でごめん被りたいところだが……。

 

それ故に、ルーシィ・ハートフィリアを上手くマカロフから捕らえた俺たちは、運が良かったのか悪かったのか。

 

普通なら悪い、と考えるべきかもしれない。事実、数時間前の俺ならそう考えていた。……だが、俺にはプライドがある。

 

確かに俺は負けた。そして逃げた。……いや、逃がされた(・・・・・)

 

それでも諦めるのは話が違う。別腹だ。

 

あぁ、俺は負けたさ。完膚なきまでに。完全に敗北したさ。

ことを構えるのもごめんだ。だが、やはり俺は、どこまで行っても滅竜魔導士(ドラゴン)らしい。

闘争本能とやらが、やっぱり自分の体の奥底でうずいてやがる。

 

勝てるわけがない。勝てるわけがないんだ。だが、戦いたい。

……俺は、あの男と渡り合えるほどの力を得たい。力が欲しい。

 

なんなんだ?わからない。

どうしちまったんだよ、俺。

 

「なんなんだろうなぁ。訳わかんねえ。わかんねえが……ギヒッ、楽しくなってきやがった」

 

今まで、どいつもこいつも相手にならない奴らを上から見下ろしてきたからか?

 

……あぁ、そうかも知れねえ。まさか滅竜魔導士(ドラゴン)である俺が、見上げたくなる相手がいようだなんてなァ。

 

いいぜ、足掻いてやるよ。今度は(てめえ)の全力で、あの化け物に泥をつけてやる。

 

そう考えると……。

 

「ハートフィリアを拐ってきたのは、案外願ったり叶ったりだぜ」

 

舞台を準備してくれた訳だ。ありがてえ。

 

あぁ。なんだか異様にワクワクしてきやがった。こんなに楽しい気分なのは久しぶりだ。

まさか俺様が負けて、そんでもって尚、挑みたい相手ができるだなんてなぁ。

 

もう体が震える原因は、あの男への恐怖でも、畏怖でもない。

 

 

──武者震いってやつだ。

 

 

一人、深く考え込んでた為か、ジョゼが出ていってから随分時間がたっていたらしい。

近づいてきた荒々しい足音がジョゼのものであると気がついた。それとほぼ同時、部屋の扉が壊れかねない程の勢いで開けられた。

そこには、震えるジョゼが魔力を纏わせて殺気立っていた。

 

……が、なぜか顔を青くし、凄い量の脂汗を流しながらも股間を押さえている。

 

「も……。もうおおおおおおお我慢ならねぇ!!マカロフの野郎をあの街ごと消し飛ばしてやるッ!!」

 

何があったのか知らないが、完全にキレているジョゼは、その場から数メートルまでを自身の纏う魔力で歪ませた。

 

そして声に魔力を乗せてギルド全体へ、大きく響かせた。

 

その言葉は、戦の火蓋を切った。

 

 

「ファントムMkII(マークツー)。起動だァ!!消し飛ばしてやるよ!!妖精の尻尾(妖精のケツ)どもおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」

 

 

ギヒヒッ!

 

 

舞台は、整ったらしい

 

 

 




次回 番外編『がじる成長にっき』

「竜の王に、俺はなるゼ!!」

お楽しみに!!


あ、いや、やりませんよ?
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