「ルーシィ様。あなたはもう逃げられません。お仲間の為なのです。私たちに着いてきて頂けますね?」
ファントムロードのマスター。聖十大魔道の一人である男は、そんな馬鹿げたことを宣った。
アタシは、彼に拉致された。たまたま一人で買い出しに出ていたところを狙われ、変なチョビ髭に気絶させられた。
……あいつ、コイツの手下だったのね。
聖十大魔道の一人のくせに、その内側の薄汚さは相当ものであることは、話していてすぐにわかった。
家出したのを連れ戻すようにと、依頼されたらしい。でも、きっとこいつはアタシをお父さんに、タダで引き渡す訳がない。高額の依頼金だけで済ませるような人間じゃない。絶対に、何かするつもりだ。
アタシがハートフィリア財閥の娘だから……。
……ううん、今は自分のしがらみを恨んでる場合じゃない。
カグラやマスターなんかとは、比べ物にならない。なんでこんな人が聖十大魔道になんて選ばれたのか不思議でならないわ。
隙を見つけたアタシは、そんな男の股間を蹴りあげて逃げようとした。だがその企みも上手くはいかなかった。
窓から逃げ出すつもりが、全くの失敗。ここは上階だった。星霊を呼ぶための鍵が没収されている今、この高さから落ちれば命はない。
「こここ、この小娘がァッ……」
ヒョコヒョコと股間を押さえながらも、顔に脂汗を浮かべ、内股で近寄ってくるそのアゴ髭を蓄えた男。そんな姿に、生理的に悪寒が走る。
乙女の危機。貞操絶体絶命。こっちこないで!
「変態!変態!ちょっと来ないでよ!変態!」
「変態じゃねえ!
伸ばされた右手を避けようとしたその時──
アタシは何かに引かれるように、浮遊感に襲われた。
いや──窓から、落ちた。
◇◇◇
「全く。世話の焼ける仲間たちだ」
見渡した中に、異様なものが映った。
ギルドが足を生やし、まるで甲殻類のように迫ってくるという、なんともシュールな景色だ。
あれが、
なんとも珍妙な姿のまま歩くそれは、実に間抜けな見た目をしている。だが、その大きさは誰にとっても脅威であるはずだ。
街の住民は、慣れたように速やかに避難をしていく。
……なぜここまで素早く避難を終えることができるのか、と聞かれれば、フェアリーテイルのせいだ、と答える他あるまい。主にあの男、ギルダーツ・クライブ。
避難が的確で迅速なのは喜ばしいことなのだが、釈然としないのは仕方のないことだろう。
ふと思い出して監視用の
それを覗けば、そこにはフェアリーテイルのギルドが映り込んだ。
「こちらは大丈夫そうだな」
先程、
恐らく、今までは身の上の説明を渋っていた彼女も、今頃この事態の発端や経緯を説明していることだろう。
……それにしても、あの人を探して来たというのに、まさかマグノリアへ戻ってくることになるとはな。
だが、お陰で仲間を
なんというか、可笑しなものだ。運命の巡り合わせとでも言うべきか。
この件に関しては、あの人の放浪癖に感謝するべきか……。
それにしても、本当にあの人は、妖精に愛されているのか、憑かれているのかわからないな。
とにかく、今はあの馬鹿な行いをしているファントムを止めることが先だ。仲間を傷つける輩は許さない。
例え、それが誰であろうと。
そんな内に、ボロボロになったフェアリーテイルから気絶したルーシィ・ハートフィリアと、それを肩にかつぎ上げ、運ぶリーダスが出てきた。
二人は攻めてきているファントムとは別方向へ向かう。
詳細は知らないが恐らく、共に戦うと宣言した彼女を、そうさせないために気絶させて安全圏へ運ぶ算段だろう。
そして二人とは反対に、その後から出てきたミラジェーンやウォーレンたちはファントムの方へと走っていく。
ミラジェーンが魔法でルーシィに化けているようだが、どうにも魔法の構成が粗い。
「……ブランク、というのは恐ろしいものだ」
つい言葉を漏らす。
余り彼らと接する機会が少なかったせいか、ミラジェーンの衰退している姿というのが、嫌というほど伝わってくる。
彼らでは幽鬼の支配者に太刀打ちすることは出来ないだろう。少なくとも、ミラジェーンは人に力を見られるのを恐れる傾向にある。例えそれを度外視しても、正直勝てるかは怪しい。いや、マスタージョゼが出てくればほぼ無理だろう。
ナツやジェラール、カグラやマスターがいない今、こちらの戦況はとてつもなく厳しいことになる。
「……さて」
膝を曲げ、一度力を溜める。
そして溜めた力を解放すると同時に、足場にしていたレンガを踏み砕いて次々と建物の上を疾走した。
ミラジェーンたちを追いかける。
少し考えに耽ってしまったが、まだ間に合う筈だ。
走りながらも睨み付けた
すると、
あれはまさか!
「魔導収束砲……ジュピターかッ!」
マスタージョゼ。どうやら本気のようだ。ルーシィに化けているのを見破ったとは言え、本当にそこまでやるとは。
本気で、フェアリーテイルを潰そうとしてるようだな。
ふざけた男だ。私欲で人を痛め付け、私怨で周りを巻き込み、傷つける。
許せることではない。
だが、聖十に勝てるか?
……わからない。だが、勝てなくとも、これはやらなければならないことだ。フェアリーテイルに喧嘩をふっかけた愚か者に、天誅を下すために。
仲間を傷つける愚か者に、鉄拳を下すために。
◇◇◇
ルーシィは全てを話してくれた。
ハートフィリア財閥の令嬢であること。
家出をしてきたこと。
ルーシィのお父さんの依頼でファントムが動いていること。
そのせいで皆に危害が加えられたということ。
ルーシィは泣きながら謝っていた。でも、それは違う。ルーシィは私たちの仲間。だからルーシィのせいでもなんでもない。悪いのはファントムなんだから。
皆が戦うなら自分も戦うと言ってくれた。けど、ファントムのターゲットであり、鍵を持っていなかったルーシィにそんな危険なことをさせるわけにはいかない。
今頃安全な場所へと行ってくれてる筈だ。だから、大丈夫。
目の前で巨大な砲身から放たれようとしている魔力の塊を見て、そんな明後日な考え事をしていた。
……守らなきゃ。
皆は、私が守らなきゃ。
この思いは、使命感ではない。義務感でもない。
家族だから。大事な人たちだから。私が守らなくちゃ。そうじゃなきゃ、私の力は何のために宿ったの?
これは、恐れられるための力じゃない。大切なものを守るための力だ。
だから、その為になら、私は悪魔にでも何にでもなろう。
覚悟を決めて皆の前に立つ。
「ミラ!何をしている!早く避難しよう!」
そう案じてくれる仲間たちを背に、私は笑みを溢した。
「大丈夫。私が、守るから」
皆に、この力をあまり見せたくはなかった。
でも、そんな馬鹿げた我が儘をここまできて通すつもりはない。怖がられても、嫌われても、距離を取られても。私は、そんなことよりも誰かが居なくなることの方が何十倍も怖い。
だから……。
魔力の収束が終わったらしい。砲身の中で強力な光が点っている。
危機を感じ、接収を行おうとしたその時だった。
──目の前に、フルアーマーの剣士が空から落ちてきた。
大地にズガッと音を立て、その衝撃で地面には蜘蛛巣状の亀裂が入り込む。
その腰には左右二本づつ大振りな剣を携え、その姿はさながら歴戦の戦士のそれだ。
「ミラ。その必要はない。ここは任せるといい」
くぐもった低い声が聞こえた。
その声に、自然と安堵に包まれる。
「来て、くれたのね……」
来てくれた。彼は、私たちを助けに来てくれた。
私たちフェアリーテイルの一員。
S級の一人であり、ギルダーツ、カグラ、ラクサスに並ぶフェアリーテイル最強候補の実力者。
──ミストガン。
『消し飛べェッ!クズ共があああああああああああああああああああああああ!!』
マスタージョゼの不細工な声が辺りに響き渡り、一層輝きを増した砲身から魔力の塊が放たれた。
それは圧倒的破壊力を持ったままに海面を削り、その殺傷能力を示しながら襲いかかってくる。
ミストガンは一本の武骨な剣を引き抜くと、それを正面に構えた。
「甘い。そんな単純なエネルギーで、私に勝てると思うな」
その言葉と共に、迫るジュピターへ向けて、武骨な剣を振り抜いた。
ジュピターの巨大な魔力は、その剣一本の振り抜きで──
──切り裂かれた。
両断された。
その両断された魔力は、かき消されたように宙で霧散する。
その光景に、まるで空気が凍ったかのような静寂が訪れた。
だがその静寂は、またすぐに破り去られた。
ミストガンがもたらしたのはそれだけでなく、ジュピターを放った砲身その物までもが、縦に二つに分断されてギルドから崩れ落ちた。
水面に叩きつけられたそれらは派手に水飛沫を巻き上げる。
その事実に、先程まで騒ぎ立てていたジョゼだけでなく、この場の一同は言葉を失ったようだ。沈黙のみが流れる。
全く。本当に、滅茶苦茶だ。
剣一本……その一振りで魔導兵器を捻り潰すだなんて。
こんな時、自分の非力さに嫌気が差す。今はそんなことで落ち込んでいる時ではないのに…… 。
「ミストガン!ごめんなさい。頼ってばかりになってしまうけど、戦える皆が今いないの!お願い、一緒に時間を稼いで!」
ミストガンの前に出てそうお願いをする。だが、ミストガンは首を横に振る。必要ないとでも言うかのように。
何を考えているのかと戸惑う私を他所に、ミストガンは親指で後ろを指した。
それに吊られるように顔を向ける。
その後方では、ギルドと負けず劣らずに、巨大な姿と化したマスターマカロフが鬼の形相で立っていた。
その肩の上には出払っていたメンバーを皆乗せている。
そんな彼らの姿を見て、つい力が抜けた私は地面に座り込んでしまった。
皆が助かるという安堵なのか。自分が力を見せなくなったことへの安堵なのか。それは、今はっきりさせることは出来なかった。
◇◇◇
「なんだよあれかっけえええええええええええええ!!うおおおおおおおお!!変身したあああああああああああ!!」
なんか街の方にガシャンガシャン動くシェンガオレン的な何かがいるなぁ、と思って近づいてみた。
そこそこ近づいてよくよく見てみると、なんか建物が足を生やして歩いてた。ダッサイな、あれ。そう思っていた時期が私にもありました。
なんということでしょう。それはあっという間に人型ロボットに変型してしまった!!
もうロボットとか超男のロマンですわ。変型とか超男のロマンですわ。デカイとか超男のロマンですわ。
そこまでロボット系に興味はなかったけども!なんかよくわからんけども!凄い!凄い!かっこいい!
フフッ。男って、単純ね。かっけえええええええええええええ!!
そんでしかもそのロボット、フェアリーテイルのマスターらしきおっちゃんと取っ組み合っている。
これはまるで
しかもその場合、変型してる方がヒーロー的なあれだからまずいんじゃない?巨大化してるフェアリーテイルのマスター負けちゃわない?流れ的に。
最終的に剣とか銃とか変型させてきてそれを射たれて爆破して終わったりしちゃわない?大丈夫?
そう思っていた時期が私にもありました!!
遠目からはよくわからなかったので、火竜の眼を模倣して離れたその場から観察する。
フェアリーテイルのマスターは取っ組み合っているというより、ロボットが何かを宙に書こうとしてるのを抑えてる感じだった。
だが、そんな形で固まったそれらを登ってロボットへ侵入していく影が見えた。
「あれっ!?あいつミストガンじゃん!」
そのごっつく暑苦しいフルアーマーは紛れもなくミストガンだった。数年前の姿となんら変わっていない。……あ、いや、ちょっと背伸びた?
それに続くように強そうな魔導士たちが突入していく。
まさかミストガンがこの街に来てるとはなぁ。確かに、旅の仲間初号機であるあの子にフェアリーテイルを勧めたのは俺だけど……。
しっかし、放浪癖のある(俺も少しそのきらいはあるが)あの子とまさかばったり鉢会うことになるとは。
やだ、これって運命かしら。トゥンクトゥンク。
けど大丈夫……だろうな。あの子強いし。少なくとも負けるなんてことにはならないだろう。
登っていく彼らの中にはなにやら見覚えのある子供たちが何人かいた。
おお桜色の髪の少年だ!見たことある!なっつかし!はぇー、スッカリ大きくなっちゃってまぁ。顔立ちも少し大人っぽくなってキリッとしちゃってもう!イケメンになっちゃってやだもう!
……なんかババ臭いな。
少年は炎をそこいらに撒き散らしながらもロボットの中へと突入していった。
うん、なんやかんやで、やっぱあのマスターの下にいれば強くなれるってのは間違ってかなったな。
俺の見立てに、間違いはなかったキリッ。
「ん?……おおっ!!」
その少年を追うように走っていた魔導士たちの中にも、更に見覚えのある姿が二人。
片や青い髪に特徴的な刺青の青年。片や髪の長い白服の剣士。
あれは……ジェラールと……もしかしてカグラちゃんか!?
はぁー。あの二人もすっかりでっかくなりやがって。
なんだよあの美少女。全くカグラちゃんたら美人さんになりおって。
それにジェラールまで、あーんなイケメンになりやがって一発殴り飛ばしてやるべきか。許すまじ。
にしても、子供の成長ってのは早いもんだね。皆おっきくなっちゃって。ピンクの子然り、ミストガン然り、カグラ然りジェラール然り。うん。そしてマスターのおっちゃん然り。皆、こんなおっきくなって。お兄さん嬉しくて泣いちゃう!!感激っ!感動っ!雨あられえっ!
とりあえずイケメンになったジェラールに一発かましてやるか。このイケメンが!と。特に意味のない鉄拳を食らわせてやろうがはははははは。
「……あ、いや、待てよ?」
一歩踏み出したところで俺は留まった。
あいつらと接触するとまずいんじゃないか?
いや、ジェラールとミストガンはまだいい。話のわかる子たちだったし。まずいのは主にカグラちゃんだ。
だって、カグラちゃんはあの一ヶ月、ずぅっと俺にまとわりついて二十四時間体勢で弟子入りを要求してくるような子だったんだぞ?……まぁ何年も前の話であるのは理解してるが。
……なんだか、接触するととても面倒くさい事態になりそうな気がする。
……うーむ。ジェラールやミストガンとか、あとフェアリーテイルの顔見知りたちには軽く挨拶しておきたかったが……はてさてどうしたものか。
「まぁ、とりあえずはあの苦しそうにロボット抑えてるおっちゃん助けるかぁ」
ご馳走を頂いた恩も未だ返しきれてなかったしな。飯の恩は忘れない。絶対忘れない。例え俺が暗黒面に堕ちてアナキンうんたら的なことになろうとも、忘れない。
どちらにせよ、助けない、なんて選択を取るつもりはなかったし。
確かにカグラちゃんは面倒そうだが……。うむ、全力で遭遇しないように心掛けよう。
カグラやジェラールやミストガンだけでなく、おっちゃん以外のフェアリーテイルのメンバーとの接触も避けよう。
メンバーたちに挨拶はしたいが、それが原因でカグラちゃんたち(特にカグラちゃん)に追いかけられたりするのは嫌だ。
そんなことを考えていた俺の脳髄に、ひとつの落雷が落ちた(もちろん比喩であり実際にそんな即死しそうなことになったりはしn(ry
そう、閃いたのだ。
「……逃げるだと?避けるだと?今のカグラちゃん程の美少女になら追いかけてもらうのはむしろご褒美というか、むしろ俺が追いかけたいというか……。そうだよな!なんで俺はあんな美少女から逃げようとしてたんだ!!待っててねカグラちゃん今行くよぉっ!……あ、マスターのおっちゃんその後に助けるね!待っててね!」
飛び出そうとしたその瞬間、人型ロボットの腹部付近が吹き飛ぶと同時にフルボッコにされたチョビ髭の魔導士がどこかへ飛んでいった。
さながらアンパンマンに殴られたバイキンマンのような飛び方である。いや、物理的に可笑しいだろ。ギャグ漫画かよ。もしくは俺かよ。
破壊された瓦礫の中に見えたのは、冷たい表情で飛んでいくそれを一瞥していたカグラちゃんだった。
「……うん。やっぱやめとこう」
だって怖いもん!よく考えたら昔は一緒に寝たりしてたし、もし成長したカグラちゃんが俺に対して敵意(というより反抗期的なあれ)を持ってたらどうする。あの冷たい目が今度は俺に向けられて、なおかつバイバイキーンと叫ぶはめになるんだぞ。
それはお断りいたします。
それに、あの目付きはきっと、女王様タイプ的な何かだ。そんな気がする。
とにかく何だかとてもまずい気がするので遠慮しておきましょう。俺が悲惨な姿にされるのは困ります。
しかし、もうそんな歳になったのかぁ(意味深
誰でも成長してしまうものなんだよね(意味深
カグラちゃん、本当に、大きくなって(意味深
お兄さんは嬉しいやら悲しいやら複雑(遠い目
大丈夫!カグラちゃんの成長は確かに見届けたよ!立派な女王様になってね!あとで匿名でギルドにSMグッズを送っておくよ!だから今回は接触しない!涙を飲んでね!
……涙を飲んでね!!(大事なので二回言いました
「残念ながら俺には、M属性はないんだ。ごめんよ皆」
誰に言ってんだよ。
そんな声が聞こえてきそうな今日この頃であった。
下手にカグラちゃんに見つからないように、様子を伺う。
カグラちゃんが奥へと再び姿を消したのを確認して立ち上がる。
別に手伝うっつっても、態々顔を合わせる必要もないしな。
カグラちゃんたちとはまた、いつか会える機会を儲けよう。いつか。……きっとくるいつかに。
さぁ!いざ助太刀するぜよおっ!
いいかみんな!転生直後は21だった!(唐突
( ゚д゚)
(| y |)バァン!!
そして数話前のトージは23だが…
23 ( ゚д゚) 8
\/| y |\/
8年後の今、こんな年齢になってしまう!
( ゚д゚) 31
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