モンスターイミテーション   作:花火師

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ありがとうツツツツツツツツ!!(誤字にあらず)



自由たる者たち

「なぁ、自由って何なんだ?」

 

ん?なんぞ?

 

返ってきたのはそんな間の抜けた声だった。

焚き火を挟むように、向かい合って座っていた俺は、どうしてもわからずにそう問いをかけた。

 

わからない……。俺には自由っていうのが、どういうことなのかわからない。

エルザの言っていた、外に自由はないって。どういうことなんだ。外の自由は仮初めって、どういうことなんだ。

ここには、仮初めの自由しかないのか?あそこにあるのが自由なのか?

俺たちには全く関係のない楽園の塔を造るために、毎日汗水ながして働いて、何も得るものもなくただただ世界と隔離され続ける。それが自由?

……そして今の俺は、仮初め?そうなのか?全然わからない。

なんなんだ……!自由って、なんなんだ。

 

行き場のない苦悩と怒りが頭の中でごちゃごちゃになりながら、俺はもう一度、その問いを彼に投げ掛けた。

 

「自由って、何なんだ?」

 

彼はポカンとしながらも、焼き魚を頬張ると、一拍置いて魚を挿していた串でビシッと俺を指した。

 

「そりゃお前、簡単だろ。自由ってのはな、つまりフリーダムってことだ」

 

したり顔でそう言う彼に、俺の中で積もり積もった苛立ちが弾けた。

今、俺が欲しいのはそんなふざけた回答じゃない。俺が欲しいのは、自由の答えだ。自由とはなんなのか、自由になればどうなるのか。自由とは、自由とは。その答えだ。

 

「ふざけたことを言わないで下さい!!」

 

気がつけば、立ち上がり、怒鳴り声を上げていた。

だが、それでも自分の怒りを抑えきれない。

……わかっている。それが、ただの八つ当たりだっていうことは。でも、今はだめだ、抑えられない。

 

「お、おう。割りと真面目な感じなのね。すまんすまん」

 

驚いたようにキョトンとしながら、串を薪として火にくべた。

 

「自由って、何なんだよ」

 

「哲学か?俺はそういうの苦手なんだよなぁ」

 

火を見ながらそう溢す彼に、自分自身が馬鹿らしく思えてきた。

この人はこういうところで適当だ。ちゃらんぽらんだ。戦っている時とは比べ物にならないくらいに。本当に同一人物なのかすら疑わしくなる。

 

行き場のない怒りを抱えながら、塞ぎ込むように腰を下ろす。

また考えに耽ろうとすると彼は口を開いた。

 

「自由って、要するに何でもできるってことなんじゃねーの?」

 

「何でも、できる?……じゃあ俺は今自由じゃないのか?エルザも救えない俺は、何もできない。こうやってあなたに助けられないと何もできない俺は、自由じゃないのか?」

 

「なんでそうなんだよ」

 

ジトっとした目で俺を見る。そこには、明らかに呆れの表情が浮かんでいた。

 

「力のあるなしと、自由はまた別もんだろ。力があれば自由なわけじゃないし、自由なやつは力がある訳じゃない」

 

「……でも」

 

「そうだな、これは俺の考え方だけどな、端的に言っちまえば自由なんてものは最初っからねえの」

 

自由なんてものは、ない?

 

「それって……どういう」

 

「自由って要するに、なんでもできることって言ったよな?それってつまり逆に言っちまえば、なんでもできないと『自由』じゃないってことなんだろ?」

 

「……なんだよ、それ」

 

彼は魚を手に、そう焚き火を見つめる。

 

「けど、なんでもできることっては、何も出来ないってことが出来ないんじゃない?二律背反てやつだ。自由であれば自由であることに縛られる。つまるところ、『自由』なんて言葉事態が……」

 

二本目の魚を頬張りながら、彼は言う。

 

「矛盾ひてんらよ……。うん。これだけ臓器抜き忘れてる。にっが……うぇ」

 

そんな適当極まる態度などどうでもいいほどに、俺は彼の言葉に唖然とした。

 

「……自由はないって、そんなの言葉遊びの詭弁じゃないか」

 

「はっはっはー、お子様にぶった斬られちゃったぜ。まぁ俺もよくわかってねえしいいんだけど」

 

二口目で全てを咀嚼し、飲み込むと、笑顔で続ける。

 

「んだから、とにかくそんなモン深く考えたって仕方ないっつの。自由に仮初めも本物もあるか。適当でいいんだよ。自由は楽しーぞ!つって笑ってりゃいいんだ」

 

「笑う……」

 

そんなもので、いったいどうなるっていうんだ。笑っていったい何が変わるっていうんだ。

そんなもの……。

 

「ははっ。うわー、納得いかなそうなツラ全開じゃん。しょっくー」

 

大したダメージも無さそうな顔で、彼は笑った。

 

「……まー、んーそうだな、じゃあもうひとつ考え方を提示してしんぜよう」

 

「考え方?」

 

「自由とは、自分のやりたいままに、自由気ままに、好きな人たちと好きなことをすることができる。縛られることなく、嬉し楽し恥ずかしくいるって意味。どうよ?」

 

「……そんなものなのかな。自由って」

 

そんなもんなんじゃねーのと彼は悩む素振りなどなく、あっけらかんと、責任感の一切を伴わない口振りで言った。

 

「ま、気楽に考えとけよ。自由ってのは、フリーダムってこと。意味なんて求めたところで無駄だ。んなら悩まずに、自由の提議なんて自分の思いたいままに思っておきゃあいい」

 

そんな矛盾だらけのよくわからない言葉を吐いて、あくび混じりに笑う。

 

「んじゃ、聞いてみよう。ジェラール少年。お前にとっての『自由』ってなんだ?」

 

串をまた火にくべると、俺の隣に座る。

胡座をかいて頬杖をつき、俺の顔を覗き込んだ。

 

「俺にとっての……自由」

 

「深く考えんでいいって。思ったことを言えばいいんだ。言うてみーよ」

 

俺の目を覗き込む彼の瞳には、俺が映っていた。

 

「俺の……自由は……っ」

 

彼の瞳に映っていた俺は……泣いていた。

耐えるように体を震わせながら、涙を流していた。

頬に触れて、本当に自分が泣いていることに、今になって気がつく。

頭の中で、たくさんの人たちの笑顔が浮かぶんだ。隣にいて欲しかった人たちの幸せそうな表情が。

 

「俺は、皆と、一緒にいたい……。皆とこうやって旅したりして、縛られないで、繋がれないで、笑ったり、泣いたり、喧嘩したりしたい。皆と……っ。皆と、色んなこと、やりたい!」

 

涙は止まらない。むしろ勢いを増す。

なんで泣いてるんだろう、俺は。

 

「……皆といたい!エルザと、シモンと、ミリアーナと、ウォーリーと、ショウとロム爺さんと。皆と、皆といたい!」

 

「そっか……」

 

頭に重みを感じる。俯いていたままから見上げてみれば彼が頭に手を乗せているのだ。

そのまま、乱暴な手つきで頭を撫でられる。

 

「お前にとっての『自由』は、大切な人と生きるってことか」

 

「う"ん"……!!」

 

ぐちゃぐちゃだ。

顔も、頭の中も、感情も。

 

「そんじゃあ自由に向けて頑張んねえとな。仲間と一緒に、自由になんねえとな」

 

屈託のない笑顔で、言う。

 

この人は、どうしてこう俺の感情を抉るのが上手いんだろう。計算高い人物でもないのに、人のことをよく見ている。

そんなことを頭のどこかで冷静に考えるも、激しいぐちゃぐちゃの感情にすぐ押し流された。

 

もう、はっきりとした言葉も出せない。それほどまでに、俺は声を張り上げて、泣いていた。

 

それを笑顔で撫で続けてくれる。

もし家族がいたら……。父親や、兄がいたら、こんな感じなんだろうか。

 

 

睡魔と共に月が現れ、入れ替わるように、太陽と共に涙は消えていった。

 

 

 

◇◇◇

 

「あ、アイスだ。なぁジェラールアイスだぜ。こんだけ暑いんだ、食おうぜ」

 

「そんなお金ありませんよ」

 

彼は屋台を指差して一人はしゃいでいる。

しかもその屋台のアイス、高すぎる。確かにここは暑い土地だけど余りにぼったくりが過ぎるというものだ。少なくとも前の街でなら三本は買えた値段だ。

 

「まだ干し肉が残ってます。我慢してください。残りの路銀と物品で船に乗れるよう交渉しなくちゃいけないんですから、無駄な出費はできません」

 

ぶーぶーと後ろでブーイングをしているいい大人を無視して歩みを進める。

本当に、この人はいったいどうやって一人で旅を続けてきたのだろう。路銀はあまりに少なく、お金の使い道に一ミリも計画性が見られない。行き当たりばったりが過ぎる。

お金を稼ぐにしても、今のところ途中襲ってきた盗賊を返り討ちにして剥ぎ取った金品を売ってるだけ。

先日は商人の依頼で、荷運びの守備と共に移動するという手筈だったが、魔物を倒すのと同時に荷台を大破させるし。お陰で余計にお金を取られることとなった。報酬なしどころか、むしろマイナスになるというファインプレーを見せた。

 

「おほっ、ジェラールジェラーるん。見ろよエロ本売ってんぜ。興味ない?ねぇねぇ少年よ、興味ない?」

 

……ため息しかでない。あと誰がジェラーるんだ。

 

あの時、俺が憧憬を抱いたのはいったい誰に対してだったのかわからなくなってきた。

 

「このムッツリめ。まぁいいや。ほれ、アイス。お前も食え」

 

「ありがとうございま……ん?」

 

差し出されたアイスに反射的にお礼を返した俺だったが、なぜそんなものを持っているのか疑問に思った。と同時に、彼の手に収まっていた財布に納得が言った。

 

……なるほど。使ったなこの(お馬鹿)

 

「何やってるんですか!お金がないって言ってるでしょう!?なんで買っちゃったんですか!」

 

「なんだいらないのか」

 

「あっ」

 

じゃあいいや、と俺に差し出していたアイスを立て続けに自分で食べてしまった。

こ、このっ……。だめだ、落ち着け俺。ここで怒ってはダメだ。

そう。そうだ、彼とて一人旅を続けてきた身。きっと海を渡る方法が何かしらある筈だ。もしかしたら隠しているだけでまだお金があるのかもしれない。もしくは人脈だ。知り合いに航海士がいるとか……。

 

「おー、海だ海だ。あれが港か。で、どこ行けば妖精の尻尾(フェアリーテイル)に着くの?いやぁ、地図持たない主義なんで方角とかわかんねーし、土地勘もねーし、詳しい知り合いもいねーし、案内人どころか宿とる金もねーし、困ったな」

 

「…………」

 

……じゃあ俺たちはどこに向かって歩いてると思ってたんだ。この人、いったいどうやって今まで生きてきたのさ。

と言うか、なんでこの人は困ったようにまるで見えない能天気な顔で「困った」と、そう公言できるんだ。その言葉の意味を本当に理解しているのだろうか。

 

だめだ、もうこれ以上この人には頼っていられない。自分でどうにかしなければ。

そうだ、そもそもこれは俺の問題だ。何から何まで彼に頼っている俺が間違っていた。

俺は彼の言うことに文句を唱えられる立場じゃない。あれは彼のお金だし、用心棒のようなことをしてくれているのも彼、そして何より助けてくれたのも彼だ。むしろ、俺が着いてきてもらうよう手を尽くすべきじゃないか。

 

……彼がどうやって生きてきたのか不思議だけども。とりあえず今は置いておこう。

とにかく、お金がないと。

 

……もしくは皿洗いや駒使いとして、船乗りたちに雇ってもらうのもありかもしれない。

彼は魔法が使えるから用心棒として。海の上と言えど船乗りを襲う魔物なんてごまんといる。

それに俺だって奴隷だったし、力仕事ならいくらだってできる。

この条件で掛け合ってみてはどうだろうか。

 

「なに悩んでんだ?」

 

「なにって……だって、お金がないんですよ?貨物船にでも雇ってもらうしかないじゃないですか。僕は荷物運びや雑用として、あなたは用心棒として……」

 

「いんや、その必要はないぞ」

 

「え?」

 

彼の瞳孔は縦長に、その目は朱色に染まっていた。いつか見た、竜の瞳。

 

その恐ろしくも美しい瞳に、一瞬気をとられるもすぐに意識を切り替える。だが、それでも彼の言葉の意味を理解できなかった。

その目は海の向こうに何かを見ているが、同じようにそちらを見ても水平線があるだけ。

 

「お前、乗り物酔いとかしやすい?」

 

「……いえ、ないと思いますけど。いったい、どうい」

 

「しっかり掴まっとけよ」

 

 

 

──て、あれ?地面が凄く遠くに……。

 

 

「うわぁあぁぁあああああああああああああああああっっ!!」

 

 

空を飛んでいた。

気がつけば、俺は彼に抱えられて大空を飛んでいた。

あまりに唐突な出来事。急速に上昇するその圧力に、胃の中の干し肉が昇ってくる。

 

どうにか堪えながら目を強く瞑るも、すぐにそれは収まった。

なんとか吐瀉せずに済んだ俺は、恐る恐る瞼を開く。

 

「……うわぁ」

 

目の前に広がるのは海。どこまでも続くかのような広大な世界。

夕日に照らされ、オレンジに染まった空とそれを映し出す膨大な水。あまりの光景に、言葉がでなかった。

 

「ジェラール、噛むから喋るなよ」

 

放心を遮るようにかけられた言葉を耳に入れるのとほとんど同時だった。

急激に降下しながらも海を進んでいく。

 

あまりの速度に息が詰まる。更に風圧で目の前が見えない。

 

そんな俺の状態にようやく気がついたのか、彼が何かを唱えると、途端にそれが消えた。

まるで見えない風の壁に護られているような、台風の目の中にでもいるかのような、不思議な感覚だった。いったい、彼はいくつの魔法を扱えるのだろうか……。

 

少し落ち着き、ようやく頭に十分な酸素が回ってきた気がする。きちんとした思考ができるようになってきた。

……まさか方角すら知らないのにこのまま魔法で海を渡るつもりだろうか。

あまりにも無茶だ。そんなもの、魔力が持つはずがない。ロブ爺さんから教えてもらったことだけど、そんな無茶苦茶な魔力量を持ってる人間なんているはずがない。

疑問と一抹の不安に駆られる中、彼の向かう先に視線を送れば、そこにひとつの点が見えた。

それは徐々に近づき、その姿を把握した時、俺の額にひとつの汗が浮かび、風に舞った。

 

着地。

それはそれは派手に、甲板をぶち破りそうな勢いでだ。

 

「なんだ!なにが起きやがった!」

 

「誰か落ちて来やがったぞ!」

 

「なんだあいつら!正規ギルドの連中か!」

 

船の住人たちが何事だと騒ぎ立てる。

その船の旗は青いドクロ。

蛇の絡まった骸骨をはためかせた布切れが、着地の余波に(なび)く。

 

「ふぅ、疲れた。さてと、安心したろ?ジェラール。足、ゲットだ」

 

その竜の瞳も相俟って、まるで悪魔のように彼は呟いた。

 

「この海を支配する闇ギルドに喧嘩をうるたぁいい度胸じゃねえか」

 

「どうやってここまで飛んできたのか知らねえが覚悟しな、そのガキ共々サメの餌にしてやるよ」

 

そう喚く海賊のような男たち。

 

「血の匂い、潮より強く香ってくるもんだからわかりやすかったぜ、足ども。安心しろ、優しくしてやるよ」

 

目的地に着くまではな、と。

 

悪鬼めいた笑顔と、膨大に荒れ狂う魔力と風の奔流。それらを見て彼らが血の気の引いた真っ青な顔になり、あまりの威圧感に生まれたての子鹿のような姿になるのはその数秒後だった。

 

チンピラたちを顎で使いながら高笑いするその姿に呆れればいいのだろうか。尊敬すればいいのだろうか。

 

『自由ってのは、つまりフリーダムってことだ』

 

頭のなかでそんな馬鹿みたいな言葉がリフレインした。

……なんというか、本当に、自由な人だ。

 

涙声で舵をきる彼らを心底憐れに思いながらも、船は進んでいく。ハルジオン。妖精の尻尾(フェアリーテイル)へと。

 

 




m9(°∀° )ハイッ!ヨーホー!(舵を手に
(((;゜∀゜)よ、よー…ほー」」」
( ^ω^)あれれぇ?元気…ないね?(翼バサァ
((( ;∀;)ヨォォオオオオホォォオオオオォォオオオオ!!!!」」」
( ゜∀ ゜)σいいよー!そーれっ!ヨーホー!」
((( ;△;)ヨォォオオオオォォオオオオホォォォオオオオオオオオ!」」」
(  ^q^)うはは!嗚咽混じりヤメナサーイ。コレ強要チガーウヨー(なぜか海外被れ)ほれ、もいっちょヨーホー!」
((( ;Д;)ヨゥぅぅ…オホホォォォォオオォオオオオオオォォオオオオ!!!!!」」」



ジェ「なんだろう、これ」

読者「なんだろう、これ」

作者「なんだろう、これ」
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